栃木SCのことをより考えるブログ

主に栃木SCの試合分析(レビュー)をします。

【前進】J2 第3節 栃木SC vs 東京ヴェルディ(△1-1)

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スターティングメンバー

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栃木SC [4-4-2] 20位

 再開初戦となった前節山形戦は0-1で敗戦。点差以上にやられた感が強く攻守に課題の残る試合となったが、今週のトレーニングでどれだけ修正できたか。今節の矢野の相方はハードワークが持ち味の榊。両SHは育成組織出身の2人がホームデビューを飾った。

 

東京ヴェルディ [3-4-2-1] 19位

 前節は町田との東京クラシックにドロー。相手の4倍以上のパス数と圧倒的なボール支配率を記録したものの、得点は後半ATに上げたPKによるものだけだった。藤本、山下は今季初先発。大久保、レアンドロら実績十分のFWはメンバー外となった。

 

 

前半

前向きでボールを持つための工夫

 リーグ戦の再編日程発表時は会場が未定になっていたこのカード。栃木県グリーンスタジアムのピッチコンディションの悪さが原因とのことだったが、蓋を開けてみれば普段の夏場よりは多少良い印象を受けた。これからの過密日程に耐えられればいいけれど。。

 

 試合は大方の予想どおり、ボールを保持するヴェルディに対してプレッシングを仕掛ける栃木という構図で進んでいく。

 ヴェルディはベースの陣形こそ[3-4-2-1]だったが、ボールを保持すると両WBがサイドの高い位置に張り、シャドーが栃木のSHとSBの間にポジションを移動する。栃木はSHがプレッシングのスイッチを入れるため前節同様ボランチ脇にスペースができることが多く、ヴェルディはこのスペースに流れるシャドーの動きを起点にしようとしていた。

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 ヴェルディはシャドーがボールを受けられれば栃木の前線4枚を置き去りにして前を向くことができる。また、シャドーの動きで栃木のボランチ(下図では㉕佐藤祥)を外側に釣り出すことができれば、中央への縦のパスコースが開通しスペースに顔を出す端戸を活用できる。つまり、ヴェルディはシャドー自身がボールを貰っても貰わなくても前進できる仕組みを用意しており、その背景には栃木のプレッシングによるズレを利用しようというものだった。

 左CBの平から端戸へ縦パスを通し、端戸の落としを受けた佐藤優平が再び縦パスを入れて前進していった前半28分のシーンは、この狙いが十分に現れた場面だった。

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 システムのミスマッチによりどうしても選手の配置を動かされてしまう栃木。ボールサイドだけはせめてフリーにさせまいと、サイドに流れるシャドーにはボランチのスライドとSHのプレスバックで対応し、下りて受ける端戸にはCBが列を上げて対応した。また、矢野と榊の2トップはボールサイドのボランチを監視する意識が特に高かった。

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 栃木のプレッシングの強度はそれなりに高く見えたが、ヴェルディの技術レベルと判断スピードもハイレベルだった。ワンタッチツータッチで栃木の寄せをかわしつつ、ボランチ佐藤優平や最終ラインの平らは対角に位置する山下へ高精度のロングフィードを供給。積極的に仕掛ける山下と瀬川の攻防はこの試合何度も見られた形であり、藤本とのコンビネーションからあわやPK獲得という場面もあった。

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 ここまで見るとヴェルディのボール回しに翻弄される栃木という印象が強いが、ゴール前に侵入される回数がそれほど多くなかった分、栃木は敵陣でのプレッシングや自分たちの攻撃に割けるパワーが十分あるように見えた。

 栃木が攻撃時にテーマに掲げていたのは「逆サイドを見る」という点だろう。高い位置からのプレッシングやポストプレーで起点を作れた時に逆サイドのSHやSBに展開する場面が多かった。特に左サイドから右サイドへのサイドチェンジは顕著であり、ポストを叩いた榊のFK直前の被ファールは左サイドからボールを受けた明本の仕掛けによるものだし、最終ラインから駆け上がってきた溝渕がクロスやカットインからシュートを狙う場面もよく見られた。左で作って右で仕掛けるという形はシンプルだが前進する手段としては最も効果的な形だったと言えるだろう。

 

 ボールを握る時間では圧倒的な差がついたが、どちらが主導権を握ったとも言えない展開で前半終了。0-0のスコアレスで折り返し。

 

 

後半

数的差異を感じさせなかった理由

 試合は後半立ち上がりに大きく動く。栃木が前からのプレッシングでヴェルディのエラーを誘うと、ボールを回収した明本がドリブル突破からシュート。GKが触れて軌道の変わったボールに対して手でブロックした高橋は決定機阻止により一発退場。チームとしてリーグ戦初得点となるPKを榊が決め、栃木は40分を残して大きなアドバンテージを得ることに成功した。

 

 思わぬアクシデントに陥ったヴェルディは藤本に変えて左SBが本職の福村を投入。システムを[3-5-1]に変更して立て直しを図る。

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 11人対10人になってもヴェルディがボールを動かすという試合の構図自体は変わらなかったが、心理的にも優位に立っている栃木は前からのプレッシングをより強めていく。特に2トップはそれまでヴェルディの2ボランチへのケアを担当していたが、退場後は1アンカーをケアするようになり負担が減少。矢野はよりCBやGKにプレッシャーをかけるようになり、それに応じて周りの選手たちもギアを一段階上げたように見えた。

 

 それでもヴェルディの後ろからのビルドアップが安定していたのは途中出場でIHに入った森田の貢献が大きかったからだろう。最終ラインがボールを持つと同時に森田は栃木の左SHと左SBの間のスペースに移動。栃木のボランチを引きずり出しつつ中央にスペースを作る動き自体は、前半にシャドーが行っていたものと全く同じ仕組みだった。また、森田と佐藤優平は頻繁にポジションチェンジを行い、栃木のマークを混乱させようとの狙いも見られた。

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 ヴェルディは後ろからのビルドアップの方法と人数のかけ方が前半と変わらなかったため、数的不利を感じさせない戦い方ができたと言えるだろう。ただそうすると当然前線の人数は足りなくなってくる。前線中央では端戸が孤立し、前半は藤本との良い関係性を見せていた山下は独力での突破を強いられた。それでも山下の仕掛けをきっかけに同点弾を上げていることから、チームとしての最優先事項は山下に勝負させることだったのかもしれないし、それしか手段がなかったのかもしれない。

 

 75分を過ぎると、運動量の落ちない栃木が攻勢に回る時間が増えていく。前からのプレッシングで敵陣で何度もボールを奪って攻めるものの、ゴール前での決定力を欠き追加点を上げられない。この時間になってもなおカットインからのシュートを見せる明本や矢野のハードワークは素晴らしかったが、もう少し交代出場した選手たちが攻撃にインパクトを与えてほしかった。

 

 最終盤はゴール前での攻防が多くなったが追加点は生まれず、1-1で試合終了。両チーム勝ち点1ずつを分け合い、今季初勝利は次節以降に持ち越しとなった。

 

 

最後に

 開幕からの連敗を2で止めた栃木。前節の課題となっていた守備時のコンパクトさやスペースへのスライドは改善しており、攻撃もロングボール一辺倒ではなく、サイドチェンジを交えたものとなっていた。数的優位の状況での戦い方をはじめ、全てが上手くいったとは言えないかもしれないが、確実に一歩ずつ前進していっている点はとてもポジティブな要素である。

 次節はジェフユナイテッド千葉とのアウェイゲーム。試合会場となるフクアリは昨季最終節に劇的な逆転残留を決めたスタジアムである。観客動員の制限が解除されるとはいえ、Jリーグの示したガイドラインに沿った新しい観戦スタイルに会場は独特な雰囲気となるだろう。直接声を届けることはできないが、選手たちはきっと初勝利を上げるべく昨季同様強い気持ちで戦ってくれるはずだ。

 

 

試合結果

栃木SC 1-1 東京ヴェルディ

得点 49’榊(栃木)、57’佐藤優平(東京V)

主審 山岡 良介

観客 0人(リモートマッチ)

会場 栃木県グリーンスタジアム

 

 

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