栃木SCのことをより考えるブログ

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【際立つ決定力不足】J2 第22節 栃木SC vs レノファ山口FC

スターティングメンバー

栃木SC [3-4-2-1] 20位

 ホームに首位町田を迎えた前節は1-1のドロー。良い入りをした前半に宮崎の今季初ゴールで先制したものの、後半ギアを上げた町田に追い付かれる悔しいゲームとなった。

 前節からのスタメンの変更はなし。引き続き1トップには宮崎が入り、根本はベンチスタート。そのほか岡崎と大森がベンチに復帰し、小堀が久々にメンバーから外れた。

 

レノファ山口FC [4-3-3] 19位

 下位に低迷するチームの起爆剤として、かつて千葉を指揮したフアン エスナイデル監督を招聘した山口。初陣こそ退場者を出し甲府に4失点で敗れたが、前節は仙台に2-0で勝利した。1ポイント差の直接対決で今季初の連勝を狙う。

 こちらも前節からスタメンの変更はなし。ベンチには前節得点を挙げた大卒ルーキーの野寄や、栃木との前回対戦で同点弾を決めている梅木が入った。

 

 

プレスの成否が生命線

 エスナイデル監督といえば千葉でのハイプレスハイラインが印象深いが、就任後の2試合を見る限り山口でもそのスタイルを継続しているようである。前節は足元での繋ぎを多用する仙台に対してプレスの槍を突きつけて2得点で快勝。この日もその勢いのまま攻撃的な姿勢をアウェイ栃木の地でも見せてきた。

 山口のハイプレスで特徴的だったのは、最前線の大槻とともにプレッシングの一列目を構成していたのがIHだったこと。それもIHのうち一人が大槻と並んで2トップを形成するのではなく、栃木の3バックに合わせるように両IHが出てきたことである。

 [4-3-3]でプレスをかけるときは、前述したIHのうち一人をFWと並べて2トップにしつつ、WGがそこに加勢するのがメジャー。次点で3トップが形を保って相手最終ラインに寄せることが多い。中盤2枚を押し出す山口の形はそのどちらでもなく、これだけ前がかりに寄せてくるのは正直初めて見る形だった。中盤を削ってでも前に人数をかける辺りは確かに攻撃的プレスだった。

 このとき栃木のWBに寄せるのはWGの役割。流れのなかで栃木がWBを上げてサイドを押し込んだときは、この対応関係のままWGが最終ラインに加わることも多く、どこまでもマンツーマンといった感じだった。

 

 そんな強気な姿勢の山口に対して栃木も基本的には同じスタンスを見せる。ミスマッチを埋めるために長い距離を走るのが山口がIHならば、栃木はWBの役割。4枚回しの山口に対して1トップ2シャドーでは追い切れない栃木は後ろからWBが大きくスライドすることで枚数を合わせていく。

 とりわけ右の福森は走り出すタイミングが良く、対面の沼田へ圧力をかけることができていた。ただ、その一方で背後を取られる回数も少なからずあった。福森が前に出た瞬間にヘナンが背後へ浮き球を供給し、田中と福島がマッチアップするシーンは序盤によく見られた攻防だった。

 背後への抜け出しを受けながらも前半栃木が良かったのは、怯まずに前へプレスをかけ続けていたことだ。チーム全体でボールホルダーにプレッシャーをかけ、背後を取られても素早く守備のポジションを取り直し、山口の攻撃を遅らせる。回収すれば宮崎や矢野のポストプレーや背後への抜け出しから前への意識を高めていった。

 そうしたなかで前半最大の決定機は21分に訪れる。吉田がプレスをかけて山口のSH吉岡からボールを奪うと、素早くCB-SB間に抜け出した山田へ縦パスを供給。山田は流れを止めずに左足で折り返すと、宮崎がボールを丁寧に落とし、最後はゴール前で西谷が右足を振り抜いた。守備から攻撃への移行がスムーズで、相手を完全に崩したチャンスだっただけに、ここで先手を取れれば理想的であった。

 

 良い入りを見せた栃木だったが、潮目が変わったのは25分を過ぎた辺りから。栃木のプレスに慣れてきた山口がアンカーを経由してボールを左右に振り分けるようになると、栃木は序盤のように引っ掛けるシーンを作れなくなっていく。山口の繋ぎを同サイドに限定できないためWBやボランチの潰しも効きにくくなり、徐々にプレスが後追いになっていった。

 それに加えて、この時間帯から山口が増やしてきたのが2列目の流動的なポジションチェンジである。WGとIHが立ち位置を入れ替えたり、右SBの前がボランチ化することで矢島をフリーマンにするなど、ポジションに拘らない攻撃に手を焼いた。特に福島・福森のサイドは苦戦。西谷が背後の対応に追われるためアンカーの神垣へ寄せられず、これも山口の保持を自由にした一因だった。

 最後の局面では人数をかけて守り決定機を作らせなかったものの、時間の経過とともに攻守に尻すぼみになっていった栃木。左右に揺さぶられた上で自陣深くに押し込まれるため、いざ攻撃に出ても精度を伴わせることができなかった。試合はどちらもゴールを奪えず、スコアレスでハーフタイムを迎えた。

 

 

的確な采配と決め手を欠いた攻撃陣

 後半に入って先に手を打ったのは栃木。前半の途中から後手を踏んだアンカー神垣への対応を改善すべく、前線を1トップ2シャドーから2トップ1トップ下に変更。神垣に対して山田をはっきりと当てることで山口の中盤での舵取りを制限し、それに加えてWBも積極的に前に出て相手SBから縦のコースを奪うことで、プレスの強度を高めていく。

 このハーフタイムの修正策は概ねハマったと言えるだろう。マッチアップがはっきりしたことで相手を捕まえやすくなり、最終ラインの選手がハーフラインを飛び越えて寄せていくなど、山口に負けず劣らずの攻撃的守備を行えるようになった。その分WBは体力面でのタフさをより求められるようになったが、シャドーとの受け渡しがなくなった分、ある意味割り切ってプレスをかけることができていた。

 すかさず山口も選手交代で高橋と池上を投入。中盤にゲームメイクを得意とする池上を入れることで栃木のプレスの沈静化を図るのが狙いだっただろう。立ち位置の妙やダイレクトを交える工夫を見せてきたが、全体的には栃木のプレス強度の方が上回った印象だった。

 

 攻撃に転じれば、前半同様に回収したボールを素早く2トップに当てる直線的な攻撃で前進していく。彼らのポストプレーを起点としてサイドに広げることで、特に右CBの福島が攻撃に顔を出す回数が増えていった。

 ペースを握ったなか攻撃精度を高めるべく栃木は高萩と根本を投入。根本は宮崎と2トップを形成。高萩は栃木加入後初めてまとまった時間ボランチとして出場することに。彼らを途中起用した効果はすぐに見て取ることができた。

 高萩が入ってから大きく変わったのが攻撃に切り替わった局面でのボールの握り方である。それまでは早めに前線に長いボールをつけて勢いで押し切ろうという傾向があったが、高萩が入ったことで攻撃に抑揚が生まれた。味方のパス出しを身振り手振りで指示するほか、自身がボールを持てば一つ前に持ち運んだり、一拍入れてから味方に預けることで攻撃にアクセントを加えていく。マイボールを大事にできたことで、後半特に負荷の高まった守備の時間を減らすこともできた。

 ここから栃木の攻撃はグッと山口の懐に入っていくように。66分には、ロングボールに宮崎が競り合い、そのこぼれ球に抜け出した根本がペナルティエリアに持ち込んでシュート。75分には、福森のクロス→高萩の楔のパス→福森のクロス→山田のクロスといったように左右から猛攻を仕掛けていく。このほかにもサイドと中央を使い分けながら押し込む機会を量産していった。

 しかし、懸命に守る山口の守備を破ることができない。栃木にとって悔やまれるが山口の守備ブロックをほとんど崩した上でなお決め切ることができなかった点である。CBの松本とヘナンが最後の局面まで身体を張り、栃木は惜しいシーンを何度も阻まれた。山口との身長差もあったはずだが、セットプレーによる制空権も握ることができなかった。

 最終盤にも根本がGKとの1vs1を迎えたものの、ゴールネットを揺らすことはできず。上記した66分のシーンと同じようなビッグチャンスだったが、またしても好機を生かせなかった。後半は終始栃木が試合を支配したが、決め手を欠きスコアレスで幕を閉じた。

 

 

最後に

 ハーフタイムに施した修正策や選手交代を交えてのパワーアップは、これまで栃木が抱えていた課題を払拭するような力強さがあった。前からのプレッシャーを甦らせ、マイボールに精度をもたらすことができたことは今後のヒントになるだろう。試合運びという点では今季最も主導権を握る時間を多く作ることができた。

 それだけに際立ったのが決定力不足である。あれだけゴール前でチャンスシーンを作ったにも関わらず得点が取れないのは正直厳しい。流れを引き寄せた監督の采配やクリーンシートで応えた守備陣が報われることはなかった。この事実は重く受け止めなければならない。

 ここからは金沢、いわきと順位の近い相手との対戦が続く。この2試合は今後を大きく左右するといっても過言ではないだろう。この試合のように内容が良いだけでは意味がない。未だ勝利のないアウェイゲームだが、どうにか明るい材料を次のホームゲームに持ち帰ってきてほしい。

 

 

試合結果・ハイライト

栃木SC 0-0 レノファ山口FC

得点 なし

主審 佐藤誠

観客 4678人

会場 カンセキスタジアムとちぎ