栃木SCのことをより考えるブログ

主に栃木SCの試合分析(レビュー)をします。

【3ポイントを得るに及ばない痛み分け】J2 第30節 栃木SC vs 徳島ヴォルティス

スターティングメンバー

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栃木SC [3-5-2] 19位

 前節は群馬との北関東ダービーに敗れた栃木。後半早々に先制点を許すと、その後は攻守に精彩を欠き、手痛い敗戦を喫した。勝ち点2差で迎える下位直接対決は仕切り直しを図る大一番となる。

 前節からのスタメンの変更は2人。累積による出場停止から復帰した西谷が中盤に入り、前線にはイスマイラが加入後初先発となった。即戦力として期待がかかるレアンドロペレイラはベンチスタートとなった。

 

徳島ヴォルティス [4-2-3-1] 21位

 前節は2点のリードを終盤に追い付かれるショッキングなドローを喫した徳島。栃木との前回対戦に勝利して以降9試合勝ちがなく、ついに降格圏入り。アウェイとはいえ勝ち点3が必須の状況である。

 前節からのスタメンの変更は1人。前節得点を挙げた棚橋がメンバーを外れて柿谷がトップ下に入った。浜下は2試合連続のスタメン入り。西谷和希は出場停止を除く全試合で先発となっている。

 

 

守備の修正が良い攻撃を生む

 前節群馬戦は相手のボランチを消すことに重きを置いた結果、全体的に重心が低くなってしまった栃木。武器であるハイプレスは鳴りを潜め、ここ最近の良い流れを自ら断つような試合になってしまった。その反省を踏まえて、この日の栃木は立ち上がりからハイプレスをかけていく。西谷優希は欠場した前節の鬱憤を晴らすように前への強いベクトルで存在感を示していた。

 しかし、そんな栃木の強い圧力に対して徳島は早いうちに対処法を見出す。栃木の2トップ脇をプレスの出口にすることで、栃木の3MFの横スライドとWBの縦スライドが届かないエリアでボールを落ち着かせる。右サイドは内側に入るSBエウシーニョ、左サイドはSB安部やボランチの白井が下りてボールに触れることが多かった。

 彼らの立ち位置で栃木のプレスを外しつつ、左右に揺さぶることで陣形を間延びさせると、早々の10分に徳島が試合を動かす。最終ラインに下りた白井を起点に安部が高い位置を取ると、内側に入った西谷和希がフリーに。栃木は西谷優希が遅れてプレスに出たことで佐藤祥との距離が広がり、その間を使われてしまった。柿谷の立ち位置により福島も迎撃できず、平松も一瞬の隙を突かれてしまった。

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 出鼻をくじかれた栃木はその後も守備のテンポを上げることができない。プレスがハマらないと見るや、立ち上がりに比べて山田が引いたことで左サイドから攻められる機会は減ったものの、その分右サイドからじっくり攻められるように。栃木の[5-3-2]は数字どおりのブロックというよりは[5-4-1]から右シャドーを削った要素が強く、西谷優希の周辺のスペースから前進される機会が増えていく。

 それでも守備ラインを下げたことで失点シーンのような致命的なスペース献上は減少。大外から仕掛ける西谷和希には手を焼きながらも全体的に守備が安定すると、今度は回収したボールの組み立てが求められる展開に。この日は佐藤祥を最終ラインに下ろす4枚回しでビルドアップを行うことが多かった。

 佐藤祥のこの移動はここ最近ではなかった形。徳島戦仕様かは分からないが、決まって大森-平松間に下りていたことからあらかじめ用意していたものだろう。

 目的はおそらく相手から捕まることへの回避。1アンカーは2ボランチに比べてプレスの標的にされやすく、スムーズなターンや散らしができないと能動的に務めるのは難しい。佐藤祥がそれを不得手にしているのは明らかで、一列下げることで前向きの視野を確保しやすくする狙いだっただろう。その分中盤では西谷優希がバランスを取る。同時に大森が幅を取ることで福森と山田が中盤で自由を得るような仕組みになっていた。

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 ただ、現状それが上手くいく場面は少なく、相手のブロックの回りを繋いで、最終的に苦し紛れに長いボールを蹴らされる場面が多かった。26分に黒﨑の苦しいサイドチェンジから福森が持ち出して中央突破するシーンがあったが、これも狙った形というよりは偶発的に良い方に転んだシーン。膠着した展開からの保持は上手くいってなかっただけに、裏抜け一発による根本の同点弾は値千金だった。

 

 飲水タイムを経てから栃木は守備を修正。山田を左IHからトップ下に移し、[3-4-1-2]の形に変更する。

 狙いはそれまではっきりしなかった徳島のSBに対するプレスの修正である。[3-4-1-2]にすることでサイドの守備者をWBに限定し、彼らを徳島のSBに当てていく。山田は2トップの後ろで相手のボランチを監視し、その後ろの西谷佐藤とともに中央を閉じる役割だった。

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 WBが前へのベクトルを発揮しやすくなったことで、チーム全体のプレス強度はアップ。テコ入れが奏功した栃木はここから尻上がりにペースを上げていく。

 この修正によって大きかったのは中盤が存在感を示せるようになったことだ。中央の厚みが増したことで無理に差し込んできたボールを引っかけられるようになったほか、セカンドボール回収率も上昇。サイドに開いてのクロスもスムーズになり、それまでビルドアップで手こずっていた中央での起点づくりもすんなり行えるようになっていった。

 敵陣でのボール回収が軌道に乗り、徳島が重心を下げると栃木が一方的に押し込む展開に。これだけ押し込むことができれば、3-1ビルドアップにおける佐藤祥も狙い撃ちされにくい。佐藤祥の縦パス→イスマイラのポスト→西谷優希のシュートに繋がった41分のシーンは、保持で押し込む展開で見せた理想的な攻撃だった。

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二つの絶好の局面を逃す

 後半に入っても栃木ペースは継続。前半の飲水タイム以降にペースを掴んだ[3-4-1-2]から守備時は根本をサイドに回す[3-4-2-1]に変更し、サイドから圧力を強めていく。後半早々に失点を喫した前節の反省を踏まえるように、自陣に入らせまいとする強気の守備を見せることができていた。

 こうした積極的な守備を下支えしていたのが最終ライン。高い位置に進出するWBの背後のスペースに流れて起点を作ろうとする徳島2トップに対してその場に留まらずに大きくスライドして寄せていく。前線に連動した時には敵陣まで潰しにいくなど、重心を押し上げてコンパクトを保てたことがプレスを機能させることができた要因だろう。

 後半立ち上がりに演出したチャンスは相当な回数だった。回収したボールを2トップに送ることで素早く前線に起点を作り、中盤の選手はなだれ込むように前線に顔を出していく。チーム全体のベクトルが前を向き、多くの場面でクロス、シュートまでやり切ることができていた。

 この時間帯の最大のハイライトは59分に見せたイスマイラのチャンスメイクである。自陣での守備からカウンターを発動すると、左サイドに運んだイスマイラが相手DF2枚に囲まれながら絶妙な間合いで突破。そのままゴールライン沿いを運び中央へラストパスを送ったが、根本のシュートはポストのわずか左に外れていった。

 徳島も白井を最終ラインに落として栃木の前線守備をボカしたり、前傾姿勢をひっくり返して西谷和希がサイドから仕掛けるなど反撃を見せるが、回数は限定的。浜下に変わって坪井が入ってからはサイドでの起点が一つ増えたが、トータルで見れば攻守の強度で大きく上回る栃木がいつ逆転弾にたどり着くかという流れではあった。

 しかし、その流れも佐藤祥の退場によって一変してしまう。佐藤祥のファール自体はやむを得ない。局面が入れ替わるところで出足よく飛び込めるのは彼の武器であり、最終ライン手前のフィルターとして求められているところ。そこまでの絶好の流れを決めきれないツケが大きな代償として現れてしまった。

 ここからは一人多い徳島が押し込む展開。はじめは[5-2-2]で構えて中央の厚みを維持した栃木だが、WBに対して徳島がSHとSBで数的優位を作ってくるとサイドからの攻撃を止めることができない。たまらず根本が下りて[5-3-1]になれば、今度は中央で時間を与えることとなるため左右の揺さぶりを止められず、やはりサイドからの攻撃を抑えることができない。ここで徳島はルイズミケサダを投入し、サイドの攻撃力を高めていく。

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 しかし、次の得点を奪ったのは栃木だった。サイドにポジションを取る小堀に長いボールを送ることでマイボールのスローインを得ると、狭いエリアでのワンサイドアタックで吉田がCKを獲得。ここでチーム全体が重心を上げると、西谷優希のミドルシュートから再び得たCKから最後は大島が合わせてみせた。一人少ない展開でのベストな試合運びだった。

 ただ、試合はこれでは終わらなかった。根本的には解決していないサイドの守備の問題を突きつけられると、ルイズミケサダのクロスから与えたCKで被弾。得点は渡らしいゴラッソだった。

 試合は最終盤に大きく動いたものの、2-2の痛み分けで終了。栃木にとっては後半序盤に押し込んだ時間帯に得点を奪えなかったこと、逆転弾から逃げ切り体制を図った矢先にまたも終盤の失点を許したこと、この二つが大きく響くこととなった。

 

 

最後に

 勝ち切れずに引き分けの多い両チームの現状を如実に表した試合だったと言えるだろう。栃木は後半の項に書いたとおり自分たちが優勢な局面を二度ものにすることができず。徳島は栃木のプレスによる大味な展開を制御し切れず、ようやく得た数的優位の状況下も一度は逆転を許した。意地を見せての勝ち点1というよりは、ともに勝ち点3に及ばない力不足さを露呈した勝ち点1という印象である。

 そのなかで栃木にとって収穫といえるのはイスマイラをスタートから計算できるようになったことだ。プレスのスイッチ役や背後を消す寄せ方には改善の余地はあるが、それを補って余りある攻撃面での貢献度を見せた。先発から83分間プレーできたことは、レアンドロペレイラの起用法を考える上でも大きな意味を持つはずだ。

 

 

試合結果・ハイライト

栃木SC 2-2 徳島ヴォルティス

得点 10分 森海渡(徳島)

   18分 根本凌(栃木)

   89分 大島康樹(栃木)

   90+1分 渡大生(徳島)

主審 福島孝一郎

観客 5865人

会場 カンセキスタジアムとちぎ