栃木SCのことをより考えるブログ

主に栃木SCの試合分析(レビュー)をします。

【最後の局面は選手の仕事】J2 第20節 栃木SC vs 徳島ヴォルティス

スターティングメンバー

栃木SC [3-4-2-1] 16位

 公式戦アウェイ3連戦の最終戦を迎える栃木。リーグ戦前節は藤枝と対戦し、後半アディショナルタイムに追い付かれる悔しいドローとなった。一方水曜日に戦った天皇杯では秋田に2-1で勝利。この勢いを持続させ、リーグ戦アウェイ初勝利といきたいところだ。

 スタメンの変更は2人。出場停止の岡崎に代わってCB中央には平松が入った。地元凱旋となる平松は第14節秋田戦以来の先発。左CBには大谷に代わって大森が入り、ベンチには天皇杯でプロデビューの高嶋が名を連ねた。

 

徳島ヴォルティス [3-5-2] 18位

 2年間率いたポヤトス監督がチームを離れ、今季からラバイン監督が指揮をとっている徳島。開幕から11試合勝ちなしと序盤戦は苦しんだが、ここ最近は着実に勝ち点を積み上げている印象である。

 前節岡山戦からスタメンの変更は1人。前々節まで全試合に先発していた西谷和希が出場停止から復帰し、浜下に代わって左WBに入った。両親と兄・優希が見守る中、試合前には西谷和希のJ2通算250試合出場を祝うセレモニーが行われた。

 

 

徳島の打ち手にさらされる栃木

 両チームともミッドウィークには天皇杯を消化。栃木はアウェイ連戦の2戦目、徳島は120分の試合を戦ったが、ともにサブ組中心で試合に臨んだことから、この日出場する選手のコンディションにはほとんど影響はなかっただろうか。ボールを握る徳島とそこに襲いかかる栃木の構図で試合は進んでいった。

 序盤のペースを握ったのは栃木。最前線の根本がアンカーの白井を徹底マークすることで徳島の保持を外回りにさせると、限定したサイドでプレスを連動させていく。3枚で構成する徳島の中盤に対してはボランチだけでなく後ろから福島や大森が加勢することで、中盤の数的不利を解消することができていた。

 この日の栃木のプレスで興味深かったのが、シャドーが時折外切りのプレスを行っていたこと。守備の原則としてまず優先すべきは中盤へのコースを切ることだが、ボランチが相手中盤を捕まえている時はその例外。どちらかといえば小堀の入った右サイドでよく見られ、相手の保持を栃木の左サイドに誘導し、福森や大森のプレスからショートカウンターを発動する場面が何度かあった。

 前線が明確にサイドを限定できると後ろの選手も寄せるタイミングを図りやすい。低い位置でサポートに入るIHの玄理吾や杉本に対しても、近場の選手がしっかりプレスをかけることで簡単には前を向かせず。非保持を主体的に戦うことができたため、序盤は主導権を握ることができた。

 

 ボールを支配しても思うように前進できない徳島は、15分を過ぎた辺りから保持に工夫を加えていく。まず試したのが左CB安部からリターンを受けた石尾が右CB森昴大を飛ばしてWB西野にボールを届けること。パス回しを各駅停車にするのではなく一つ飛ばすことで、WB西野に対する寄せをワンテンポ遅らせようというものだったが、これは打開策にならず。

 次に見せたのが左CB安部のSB化。安部をサイドに出すことで西谷をより高い位置に配置するものだったが、これが栃木の守備バランスを崩すきっかけとなった。

 栃木にとって痛かったのが、WBの森が西谷を気にして低い位置にピン留めされてしまったことだ。森にとって確かに対面の相手は西谷になるのだが、相手が4枚回しをしている状況ではもう一つ前に寄せたいのが正直なところ。小堀も安部をケアするためには重心を下げざるを得ず、根本との距離が遠くなったことで、今度はその間に顔を出すアンカーの白井を捕まえられという状況に。この辺りから徳島の保持を制限できなくなっていった。

 また、同時に徳島が増やしていったのが栃木のWB裏へのロングボール。何度か中盤を噛ませてからリリースするため、栃木としてはなかなか制限することができない。長いボールでひっくり返されるようになったことで、小堀の外切りプレスから追い込んでいった先の左サイドも取りどころとして機能しなくなっていった。中盤へのコース切りを強く意識していた分、CB石尾をフリーにした影響も大きかった。

 徳島の保持の工夫によって徐々に押し込まれていった栃木だったが、失点自体は流れとはあまり関係ないものだった。左サイドでのビルドアップを引っ掛けられると、ショートカウンターを発動され、最後は森海渡のミドルシュート。展開を考えれば失点も有り得る劣勢さではあったが、自分たちの簡単なミスから献上したもったいない失点だった。

 

 失点後も徳島の背後を狙う長いボールに手を焼く栃木。平松がサイドに釣り出されたり、森が西谷との1vs1を強いられることでサイドから押し込まれていく。

 回収したボールを一つ二つ繋げれば、逆にサイドを突くこともできる状況ではあったが、細かなミスが頻発してしまう。左サイドから運び、右サイドで仕留める、もしくは右サイドにボールを届けてクロスを供給するというのが栃木の攻撃の大枠だが、前進の初手で左サイドに固執してしまい、上手く抑え込まれてしまった。もう少し臨機応変にサイドを使い分けられれば良かったが、前述のとおり右サイドは重心を押し下げられてしまい機能せず。何とかしようと左サイドが奮起するもやり切れないといった様相で、0-1でハーフタイムを迎えた。

 

 

守備で作った土台を攻撃に生かせず

 前半の展開を踏まえてプレッシングのギアを入れ直した後半。徳島の保持をサイドに追い込み、奪ったボールをカウンターに繋げることで前向きのベクトルを強めていく。失っても素早く切り替えてボールホルダーに寄せていくことで、苦し紛れに徳島にボールを捨てさせる場面も多かった。

 チームとして前がかりの状況を作り出せるようになったことで、後ろの選手も余裕をもってボールを握れるように。徳島の2トップに対して3バックで数的優位を作りつつ、IHも寄せてくれば、神戸が顔を出すことでボールをピックアップしてから逆サイドに広げていく。

 ここ最近神戸に出場機会が増えているのは、こうした最終ラインからの引き出し方やそこからのサイド展開が現状最もスムーズにできるからだろう。佐藤祥や西谷優希もそうした役割をこなすことはできるが、神戸の方がよりタッチ数少なく効果的な関わり方ができる印象である。後半はよりボールに多く触れるようになったことから福島、大森の攻撃参加も増え、押し込む展開を作ることに地味ながら貢献していた。

 ハーフラインを越えるのにそれほど苦労しなくなった一方で、やはり気になったのが最後の30メートルの攻撃精度。印象的だったのは56分のシーン。連動したプレッシングで相手の縦パスを平松が回収すると、そのボールを福島が根本へ縦パス供給。チームとして相手の懐に入り込むスイッチとしたいパスだったが、根本のトラップが乱れてしまい、そこで一連の流れが途切れてしまった。すかさず根本に檄を入れる監督の声が中継でもよく聞き取れた。

 70分のプレーも同様。左サイドの福森が上手く対面の相手を抜き去ると、徳島がハイプレスに出ていたことからカウンターのようなシチュエーションに。ゴール前は徳島のDF3枚に対して、根本・矢野・森が同数で構えていたが、福森のクロスがニアで引っかかってしまった。

 大小のミスを含めてチャンスを不意にしたシーンはこれだけに留まらず。ペナルティエリアに入る一つ前のエラーで攻撃をやり切れないため、シュートはおろかセットプレーも回数を重ねることができなかった。ボール保持に長ける徳島に対して、かえってボールを持たされる格好となってしまった。

 最終盤には後ろを4枚にし、宮崎、根本、矢野を前線に並べるパワープレーを敢行。高萩がトップ下に入って両SBを押し上げる役割を担ったが、徳島の粘りのディフェンスを前に決定機を作ることはできず。前半に喫した1失点が最後まで重くのしかかった栃木はリーグ戦3試合ぶりの黒星。同勝ち点対決を制した徳島に追い抜かれ、順位を19位まで下げることとなった。

 

 

最後に

 後半徳島がそこまでギアを上げてこなかった印象もあるが、ここ数試合のなかでは最も攻撃回数を作ることができたように思う。前進するための人の割き方や立ち位置は整理されており、主体的にボールを握ることができていた。保持に長けた徳島からボールを取り上げることができた点は明るい材料である。

 一方で、それだけに敵陣に入ってからの精度の低さが目立ったのもまた事実。技術的なミスや判断ミスなど細部の粗があまりにも多く、攻撃をやり切る場面が少なかった。

 ビルドアップやハーフラインを越えるための手筈を整えるのが監督の仕事だとすれば、最後の局面で精度を発揮するのは選手の仕事である。いくら監督が手段を示したからといっても、実際のピッチ上ではそれなりの即興性に耐えうる個々の精度が間違いなく必要だ。バックラインやFWの枚数だったり採用する戦術を問題視する前に、ここの精度が低調なままでは、この先待ち受けているのは苦しい残留争いだろう。

 

 

試合結果・ハイライト

栃木SC 0-1 徳島ヴォルティス

得点 26分 森海渡(徳島)

主審 窪田陽輔

観客 4201人

会場 鳴門・大塚スポーツパーク ポカリスエットスタジアム