栃木SCのことをより考えるブログ

主に栃木SCの試合分析(レビュー)をします。

【前を向ける敗戦】J2 第16節 栃木SC vs ベガルタ仙台

スターティングメンバー

栃木SC 3-4-2-1 19位

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 前節徳島戦の敗戦を受けて監督交代に踏み切った栃木。後任を任された小林伸二新監督は守備の立て直しと若手の育成に定評のある指揮官であり、J2をよく知る歴戦の猛者のもと再出発を図ることとなった。前節からのスタメンの変更は3人。GK丹野とFW宮崎は3試合ぶり、ボランチの朴は今季初先発となった。ベンチの福島は第2節山形戦以来のメンバー入りとなる。

 

ベガルタ仙台 4-4-2 3位

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 前節は群馬に2-1で勝利し、3連勝中と好調をキープする仙台。森山佳郎監督のもと攻守において非常に組織的でアグレッシブなチームを構築しており、就任1年目から自動昇格圏を睨む好位置に付けている。前節からのスタメンの変更はなし。2試合連続で監督交代を行ったチームとの対戦というイレギュラーな状況だが、栃木戦は過去無敗という好相性を生かしたいところ。

 

 

マッチレビュー

コンセプトは前へ

 小林監督の初陣となった栃木は4バックではなく3バックを採用。小林監督といえばどのチームでも4バックを採用するイメージが強いが、就任して日が浅く、また選手が3バックに慣れていることを考えれば、守備の立て直しを最優先に3バックを選んだことは理にかなっていると言えるだろう。中盤から前をスタンダードな形に変更して初戦に臨んだ。

 監督交代直後は得てして戦術面を整備するよりも所信表明的にコンセプトを押し出すことが多い。その意味でシステムや選手選考はこれまでと大きく変わらなかったが、攻守において早くも小林イズムが感じられる部分を随所に見ることができた。

 コンセプトをひと言で表せば「前へ」。攻撃では相手の背後をまず狙い、守備ではハイプレスを敢行する。とりわけ守備はこれまでの極端なマンツーマン守備からゾーン要素を強めることで、ゾーンの中で相手を捕まえてから全体が連動していくよう再構築。危険なゾーンをまず埋めることで、これまでのように簡単に真ん中を割られるシーンは明らかに減っていた。

 「前へ」の意識が奏功したのは開始早々の9分だった。ラファエルのロングボールに矢野が競り合うと、こぼれ球に反応した南野が左足を一閃。ゴール左隅に突き刺し、幸先よく先制することに成功した。

 このシーンで見逃せないのが競り合った矢野とともに背後へのアクションを行った宮崎。長身選手2人が同時に背後を狙ったことで仙台の最終ラインを押し下げると、広がった中盤とのギャップで南野が前を向き左足を振る時間ができた。続く10分にもポスト受けした矢野を追い越すように南野が朴からスルーパスを引き出すなど、前への意識は徹底されていた。

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 しかし、リードは長く続かなかった。CKの混戦から朴がペナルティエリア内で相手を蹴ってしまいPKを献上。中島のPKを丹野が一度は凌いだものの、跳ね返りを中島に押し込まれてしまった。

 この失点を皮切りにペースが一気に仙台に傾くことになるのだが、失点後のプレーを見る限り、自分たちからペースを失ってしまった印象が強い。 とりわけ失点直後から攻撃をやり切れなかったり、敵陣で精度を欠いたプレーが目立つようになり、その度に帰陣を要する展開が連続したことから徐々に重心を上げられなくなっていった印象だった。

 例えば、18分には敵陣で右サイドを取ったもののクロスを上げることが出来ず、最終ラインに戻すとプレスを受けた藤谷が苦し紛れにロングボールを入れている。21分にはカウンター局面で宮崎がコントロールを誤りボールロスト。23分には石田のクロスが相手に当たりカウンターを招いた。こうしたプレーが続いたことでチーム全体がトーンダウンし、前へのベクトルを示せなくなっていった。

 

 WBが最終ラインに吸収され5バック化してしまえば、仙台の攻撃に対して受け身になってしまう。仙台は右と左で選手の配置が非対称になることが多く、特に右サイドはSBの高田が内側を駆け上がったり、トップの郷家が奥田の脇でボールを引き出したりと変化が顕著だった。一方左サイドは相良を孤立させることで仕掛けに対する栃木のカバーリングを薄くする狙いだった。

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 郷家を中盤に加えたことでボール保持を強める仙台に対して、中盤で数的不利に陥る栃木は奪いどころをなかなか定めることができない。5バック化したことで攻撃に転じた際も前線で矢野が孤立してしまい、序盤のように前への勢いを示すことができず。両サイドが強気にプレスをかけようとしたり、中盤で朴が根気よくスライドして何とか押し返そうとしたが、やはり奪ってからの攻撃精度が低く、仙台に押し込まれる時間が長くなってしまった。

 それでもGK丹野のビッグセーブも発動し、それ以上の失点は許さず。1-1のタイスコアでハーフタイムを迎えた。

 

■守備を修正して主導権を握ったが

 後半栃木は守備の立ち位置を修正。前線3枚を内寄りに立たせて最終ライン→中盤へのパスコースを消し、前半課題となった中盤の数的不利に策を施していく。サイドはWBが専任することになったため前半以上にプレス強度がアップ。ほぼほぼ3-4-3の構えから相手のSHを背中に置いてスタートする立ち位置になっていた。

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 ハーフタイムの修正は概ね上手くいっていたと言えるだろう。ボールホルダーに時間を与えないプレスからミスを誘発することで、敵陣でのプレータイムは明らかに増加。奪ったボールを矢野がポスト受けして味方の上がりを促したり、朴が左右に散らすことでチーム全体の重心を押し上げることができていた。

 狙いどおりに主導権を握ることができた栃木だったが、次の得点が生まれたのはアウェイチームだった。59分、左からのCKに合わせたのは中島。ゾーン守備の泣きどころであるニアで合わされ、またしてもセットプレーから失点を喫してしまった。小林体制となりマンツーからの移行期であることも簡単に失点を喫してしまった一因になっていたように思う。

 仙台にとっては非常に大きな得点だったと言えるだろう。自陣でのビルドアップは栃木のプレスに遭い、数的優位を生かしたい中央は1トップ2シャドーに蓋をされる。前半ほどボールを握れないなかで、一つのセットプレーから得点に辿りつくあたりは、まさに質が高く、好調なチームといった印象だった。

 

 スコアが動いたあとも栃木が重心を上げて攻撃し、仙台がサイドからの速攻を狙う構図は継続。途中投入の小堀は前線で高さと強さを発揮するだけでなく、中盤で縦パスを引き出して味方にさばいたりと宮崎とは異なる良さを見せていく。警告をもらった藤谷に代えて福島、ミスのあった朴に代えて神戸を投入する交代策も非常に早い打ち手だったように思う。一方仙台も早い時間に両SH入れ替えることで一貫してサイド攻撃を徹底させるイメージだった。

 時間の経過とともに前がかりに拍車がかかる栃木だが、後ろからのビルドアップは比較的安定していた。3バックとダブルボランチによる繋ぎは仙台のプレスをいなすことが出来ていたし、WBが高い位置を取れたことで前線3枚が非常に近い距離感でプレー出来ていた。ゴール前に相手を押し込むことができれば混戦からイスマイラの身体の強さも生かしやすい。終盤強引に放った2本のシュートは惜しくも枠を捉えることができなかったが、ゴールまであと一歩だった。

 試合はこのまま1-2で終了。アウェイゲームを競り勝った仙台は4連勝を達成。栃木は6連敗となり、小林監督の初陣を飾ることはできなかった。

 

 

選手寸評

GK 27 丹野 研太
PK以外にもビッグセーブが何度もあった。

DF 2 平松 航
左右CBをサイド対応に押し出すように、自身もスライドを徹底した。

DF 17 藤谷 匠
大森を前に押し出したことで左サイドでオナイウとマッチアップしたが、機動力を生かして上手く抑え込んだ。

DF 33 ラファエル
後半は前がかりにプレスをかけた結果、数的不利でカウンターを受ける場面も少なくなかったが、寄せ過ぎず離れ過ぎずの絶妙な距離感で上手く対応した。

MF 6 大森 渚生
後半は立ち位置を修正したことで高い位置で攻守に絡める場面が増えた。

MF 7 石田 凌太郎
クロスやFKの精度が低く、相手に流れを渡す一因に。後半は二度ペナルティエリア内で足を振ったが精度を欠いた。

MF 15 奥田 晃也
左右への散らしやロングボール主体の攻撃など大味な展開で進むなかでアクセントを加えられた場面は少なかった。

MF 41 朴 勇志
立ち上がりにPKを与えたが、その後は立て直して球際での強さやサイドへの展開力を発揮した。

FW 29 矢野 貴章
前線で孤立する時間が長かったが、足元へのパスを要求して石田に展開したり、自らファールを受けたりと起点作りに奮闘した。今季最長の77分のプレータイム。

FW 32 宮崎 鴻
矢野とともに背後への動き出しで最終ラインを下げさせる役割を担った。32分にはCKの流れからファーで合わせたがGK林に阻まれた。

FW 42 南野 遥海
矢野が競った落としを豪快に振り抜いた。これでチームトップの5得点。20歳最初の試合に自ら花を添えた。

FW 38 小堀 空
シャドーに求められるプレーを運動量豊富に発揮した。

MF 24 神戸 康輔
久しぶりのベンチスタートとなったが、後方からのボールの引き出しや左右への散らしはボランチ陣で最も安定しているように思う。

DF 23 福島 隼斗
第2節以来の復帰戦となったが、個の守備対応が求められる場面でも無難に対応した。3バックを軸にするとなると福島の復帰は大きい。

FW 9 イスマイラ
手足のリーチを生かしたキープ力で強引にシュートに持ち込んだ。

MF 10 森 俊貴
左サイドで起用した際はカットインが基本軸になるため、森の外側を駆け上がる選手を用意できないと効果が半減。

 

 

最後に

 思っていたよりもやれていたというのが率直な感想である。4日間という短いトレーニングのなかで小林監督が新たに植え付けようしているコンセプトの片鱗を感じ取ることができたし、これまでチーム内にあった停滞感を打破しようという気持ちが選手のアグレッシブさに表れていた。6連敗という事実は受け止める必要はあるが、反撃ののろしを上げるには相応しい内容だったと言えるだろう。

 一週間のトレーニングを経て、これから4バックを構築していくのか、それとも3バックを深めていくのか。このどちらを採用するにしても間違いなく大事なのは「前へ」の姿勢である。このコンセプトをいち早く浸透させるのも、また選手の能力以上の効果を引き出させるのも、原動力になるのは勝利に違いない。

 4チーム降格制の2021シーズン、降格圏内の19位で迎えた第27節アウェイ愛媛戦でチームは12試合ぶりに勝利し、そこから残留を手繰り寄せることに成功した。当時とは時期が異なるが、ここで次節アウェイ愛媛戦を迎える状況は当時と重なると思っている。どんな形でもいい。一歩前進することができたと言える結果に期待したい。

 

 

試合結果・ハイライト

2024.5.19 17:00K.O.
栃木SC 1-2 ベガルタ仙台
得点   9分 南野 遥海(栃木)
   16分 中島 元彦(仙台)
   59分 中島 元彦(仙台)
主審 井上 知大
観客 7034人
会場 カンセキスタジアムとちぎ