栃木SCのことをより考えるブログ

主に栃木SCの試合分析(レビュー)をします。

【前半戦を終えての現在地】J2 第19節 栃木SC vs ザスパ群馬

スターティングメンバー

栃木SC 3-4-2-1 19位

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 前節熊本戦は宮崎の得点で先制したものの、後半の3失点で逆転負け。積極的なハイプレスと厚みのあるサイド攻撃で主導権を握ったが、際の部分で相手に上回られた試合だった。前節からのスタメンの変更は大森→石田の1枚のみ。脳震盪の疑いのあった平松は無事先発入り。ベンチの川名は今季2度目のメンバー入りとなった。

 

ザスパ群馬 3-1-4-2 20位

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 ここまで1勝5分12敗の勝ち点8で最下位に沈む群馬。前節山形戦は終始劣勢を強いられたなか、後半獲得したPKを決められず、痛恨のドローを喫した。武藤新監督が就任してからも勝利がなく、現状11試合白星から遠ざかっている。前節からのスタメンの変更は2人。風間と中塩はともに1ヵ月半ぶりの先発となった。

 

 

マッチレビュー

■ボール支配をそのまま主導権に繋げたが

 前半戦最後のゲームは降格圏に沈む両チームによる北関東ダービー。栃木にとっては小林体制になってからの初勝利を目指すと同時に、昨季ダブルを喫した相手へのリベンジをかけた一戦となった。

 試合は立ち上がりから栃木がボールを握り、群馬のブロック崩しに挑み続けるという構図で進んでいく。群馬のシステムは両WBを最終ラインに下げた5-3-2が基本形。ミドルゾーンに構えて中央を固めることに重きを置いていたため、栃木としてはボールを握る難易度はそれほど高くなかった。

 よってマイボールにしてからの攻撃は地上戦でのビルドアップがメインに。どちらかといえば左サイドからの方が上手く前進できていたといえるだろう。より多く見られたのが右IH和田の背中を取るパターン。群馬は左の天笠に比べて右の和田の方がプレス意識が高く、ラファエルへ寄せた背後に石田が潜ったり、奥田が顔を出すことで敵陣への入口にすることが多かった。

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 その後は前線に当てながら右サイドへ展開していく。群馬は中盤3枚のため和田を剥がされると、残りの2枚が一気にボールサイドにスライドする。ポスト受けする宮崎や南野へのマークは厳しかったが、少ないタッチで落とすことで神戸や福島がフリーになれるため、森へ広げる形は繰り返し作ることができていた。

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 スムーズにボールを運べる栃木は決定機を量産。上記の流れから16分には森のクロスを受けた大島がシュートを放ち、こぼれ球に反応した宮崎が押し込むも相手GKと交錯。24分にはスピーディーにピッチを横断し、森のグラウンダーのクロスは南野の手前でクリアされた。

 一方、和田の背中を取ってから右サイドに広げずに左サイドでやり切ったのが20分と28分のシーン。奥田と石田が出し手となってボールを運ぶと、20分には狭いスペースを持ち出した大島が左足でシュート。28分には左に流れた宮崎を起点に最後は神戸がミドルシュートを放った。ボール支配をそのまま主導権に繋げることができた序盤の試合運びだった。

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 左右のIHのプレスの違いによって左サイドからクロスを量産された群馬だったが、ある意味このサイドから押し込まれるのは想定済みだっただろう。むしろ背後のスペースを狙いにしていた印象だった。天笠の控えめなプレスもその一環。自陣でボールを回収してからは菊地や高澤を走らせてシンプルに左奥を取っていく。ボールを握ったときも同様で、ハイプレスをひっくり返す際は決まって中塩から同サイドへの長いボールだった。

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 栃木目線でいえば、13分に高澤に抜け出されたシーンは肝を冷やしたが、それ以外は危なげなく試合を進めることができたといえるだろう。敵陣でボールを失ってからの切り替えは素早く、3バックに対しては同数プレスを敢行。ボールを蹴らせれば2トップに対して3バックで数の利を活かして対応する。

 しかし、30分を過ぎたあたりから試合の潮目が変わり始める。これまでは中盤からのプレスは右の和田のみであったが、この時間帯から左の天笠も参戦。両サイドから前向きの守備がハマりだしたことで、栃木はこれまでのように前進できなくなっていった。

 攻撃をやり切れないでいると、前半の終了間際にPKを献上。自陣でボールを奪われた南野、高澤の突破を許した神戸・福島、ペナルティエリア内で堪らずスライディングをしてしまった平松。セーフティーに試合を締めなければいけない時間帯に集中を欠いたプレーを連続してしまい、ビハインドを背負ってハーフタイムを迎えた。

 

■10人でも11人でも大枠は変わらない

 後半早々、栃木は同点に追い付くことに成功。ファーストプレーからエリア内で石田がファールを受けると、これで得たPKを大島が落ち着いて右隅に流し込んだ。前半のミスによる失点を開始2分で帳消しにする理想的な立ち上がりだった。

 試合が大きく動いたのはその10分後である。石田との小競り合いから群馬の川上が一発退場に。栃木としては思いがけない形から数的優位を得ることとなった。

 これ以降は栃木がボールを握り、群馬のブロック攻略を狙うという構図がより浮き彫りになっていく。後半の栃木は攻撃時により中央を使おうとする意識が高く、後ろの3-2によるビルドアップから直接楔のパスを打ち込んだり、そこから少ないタッチでのパス交換だったりと、まずは中央からという攻め筋だった。

 こうした傾向は退場前から見られたものではあったが、数的優位を得てからはかえって手詰まりを起こす要因になっていたように思う。

 中央を崩すのは言うまでもなく難易度が高い。よって左右CBも押し上げて敵陣に人数をかけていくのだが、ボールを失うリスクからか足元への要求が多くなり、全体的に背後への動き出しが減ってしまった。レーンを超える斜めのパスや手前の選手が跨いで奥の選手につけるといった連携も少ない。各駅停車のパスが多くなり、苦しいボール保持といった印象だった。

 

 1人少なくなった群馬はFWを削った5-3-1でブロックを形成。栃木にとっては相手の人数が減ったとはいえ、11人の時点ですでに相手FWに対する最終ラインの数的優位は確保していたため、保持に関してはそれほど状況が変わったとは言えなかった。強いていえば福島が攻撃参加しやすくなったくらい。結局のところ5-3ブロックを崩さなくてはならない状況は退場前と同じだった。

 よって10人でもこれまで同様に守れる群馬にさらに籠城を固められると、栃木はそこを割っていくことができない。右サイドに川名を投入してからはサイドに起点を作ることはできていたが、決定機と呼べるシーンまでは作れず。川名もどうしてもブロックを舐めるような横への仕掛けが多く、いざにエリア内にボールを入れても、中と呼吸が合っていないような印象だった。

 終盤矢野を投入してからは背後への動き出しが復活したが、時すでに遅し。ともに投入直後の大森と小堀がクロスからヘディングする場面を演出したが、枠を捉えることが出来なかった。

 試合はこのまま1-1で終了。互いにPKによる1得点に留まり、前半戦の最終戦を白星で飾ることはできず。ともに降格圏でシーズンを折り返すこととなった。

 

 

選手寸評

GK 27 丹野 研太
一発背後を狙う相手に対して果敢に飛び出して対応した。

DF 2 平松 航
PK献上となるスライディングはタイミングが早計だったか。それ以外は無難に対応していただけに悔やまれるプレーになってしまった。

DF 23 福島 隼斗
前節同様に最終ラインから攻撃参加を繰り返した。失点に繋がるPKシーンでは高澤の突破を簡単に許してしまった。

DF 33 ラファエル
群馬の頼みの綱である前線目掛けたロングボールとクロスをことごとく弾き返した。

MF 7 石田 凌太郎
相手のプレスに対して内側に持ち運ぶなど、逆足サイドで起用されているメリットを大いに発揮した。ダービーらしく気迫溢れるプレーの連続だった。

MF 10 森 俊貴
前線に連なってWBからIHへプレスの対象を切り替えるなど、状況を応じて柔軟にプレスをかけた。

MF 15 奥田 晃也
最終ラインをサポートして福島を押し出したり、相手の中盤の隙間でボールを引き出すことで、潤滑油としてチームをハンドリングした。

MF 24 神戸 康輔
バイタルエリアではシュートを第一の選択肢にするなど、左右に散らすだけではなく、相手の目線を引きつけるようなプレーがほしい。

FW 19 大島 康樹
宮崎の周りでプレーすることでゴール前の混戦から何度か決定機に絡んだ。プレッシャーのかかるPKを落ち着いて右隅に流し込んだ。

FW 32 宮崎 鴻
ハイボールへの競り合いや足元でのポスト受け、背後への動き出しで積極的にボールを引き出した。石田が内側に切り込むことが影響してか、左に流れてしまう場面が多かった。

FW 42 南野 遥海

チーム最多の4本のシュートを記録したが、相手のマークが厳しく枠内に飛ばすことが出来なかった。ここ最近と比べるとやや低調だった。

DF 17 藤谷 匠
川名を前に押し出すために投入されたが、攻撃ではミスが多く、守備では佐川の対応に後手を踏んだ。

FW 18 川名 連介
守備をそれほど気にしなくてよい展開だったため、再三ドリブルから仕掛ける場面を作った。

FW 29 矢野 貴章
裏への動き出しを繰り返すことで、停滞していた前線を生き返らせた。

DF 6 大森 渚生
投入されてわずか1分後に絶妙なクロスをゴール前の小堀に送った。

FW 38 小堀 空
大森のアーリークロスにタイミングよく合わせたが、ヘディングはわずか右へ逸れていった。

 

 

最後に

 相手が退場してから約40分間を数的優位で過ごしたが、勝ち点2を取りこぼしたといえるほど圧倒したとは言えない内容だった。10人になってからもそれまでと同様に攻めあぐねる場面がほとんどで、カウンターから危険なシーンも作られた。明確なアドバンテージを生かせるほどの力は持ち合わせていないという現実を突き付けられた試合だった。

 一方、後ろでのボール保持とそこからの前進がある程度形になってきた点はポジティブといえる。相手の状況を見ながら敵陣への入口を見つけ出すことができていたし、何よりボールを受けることへの抵抗感が薄れつつある点は印象的だった。ゴール前のクオリティはもちろん上げなければならないが、安定してゴール前まで運ぶ繋ぎの整備は順調と言えるだろう。

 ミッドウィークの天皇杯では藤枝に敗れ、戦いの場は早くもリーグ戦に限られた。今週末から始まる後半戦ではこれまでの鬱憤を晴らすような巻き返しに期待したい。

 

 

試合結果・ハイライト

2024.6.8 19:00K.O.
栃木SC 1-1 ザスパ群馬
得点 45+2分 高澤 優也(群馬)
   47分 大島 康樹(栃木)
主審 ザシャ シュテーゲマン
観客 6047人
会場 カンセキスタジアムとちぎ