栃木SCのことをより考えるブログ

主に栃木SCの試合分析(レビュー)をします。

【試合を分けた要素】J2 第30節 栃木SC vs 藤枝MYFC

スターティングメンバー

栃木SC 3-4-2-1 18位

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 前節長崎戦は後半アディショナルタイムに南野の得点で追い付き、1-1で引き分けた栃木。選手交代によって主導権を握った後半は相手を圧倒し、敵地で勝ち点1を積むことに成功した。

 前節からのスタメンの変更は2人。左WBには大森に代わって森、前線には奥田に代わって南野が入った。南野は6試合ぶりの先発。ここまで1試合を除く全ての試合で先発していた奥田はベンチスタートとなった。

 

藤枝MYFC 3-4-2-1 10位

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 前節熊本戦は主力2人を出場停止で欠いたものの、久富の2得点に絡む活躍で勝利した藤枝。ここ数試合は勝ち負けが交互しており、プレーオフ圏内に入るためにも連勝が欲しい状況である。

 前節からのスタメンの変更は2人。ともに出場停止明けの梶川と大曽根が先発復帰となった。前回対戦でFKを決めた西矢健人は夏に鳥栖へ移籍。代わって中盤には鳥取から加入した世瀬が4試合連続でスタメンとなっている。

 

 

マッチレビュー

■藤枝の可変に翻弄

 天皇杯も含めれば今季3回目の対戦となるこのカード。リーグ戦では0-1、天皇杯では0-2で敗れている栃木にとっては同カード3連敗は避けたいところ。17位熊本は今週末試合がなく、プレッシャーをかける意味でも重要な試合となった。

 試合は立ち上がりから藤枝がボールを握り、栃木が迎え撃つ展開で進んでいく。栃木が直近で対戦してきた相手と比べて藤枝はボール保持に長けるチームであり、可変しながら前進するポゼッションは巧みだった。ただ、藤枝がそれを強みにしていることを踏まえても、栃木は保持をあまりに自由にさせ過ぎたように思う。

 藤枝の保持は最終ラインが右肩上がりになる変則的な3バック。右CB久富が右SBの位置にズレて、右WBのモヨは最前線で幅を取る。最終ラインは2枚のCBを軸に適宜GKやボランチの片方、もしくはシャドーの梶川が下りることで、栃木のプレスに対して常に数的優位を維持していた。

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 右肩上がりのシステムでは逆サイドのWBは最終ラインに留まり、バランスを取りながら前に出ていくことが多いのだが、藤枝の左WB大曽根は高い位置を取るのが基本路線。最終ラインで枚数を調整してボールを持てるため、モヨと大曽根の両WBは常に最前線に張り出すような形になっていた。

 よって、栃木の両WBは常に押し下げられる格好に。4枚回しに対してはSBの位置に入る選手にWBがアプローチに行かなければ十分にプレッシャーを与えられない。栃木のWBがベタ引きになることはなかったが、長い距離のスライドを要したことでなかなか制限をかけることが出来なかった。

 とりわけ手を焼いたのが藤枝の左SBの位置に入る選手への対応。上記のとおり基本的には梶川が下りることが多かったが、対面の坂がアプローチするには距離が遠く、福島は大曽根がいるためワンテンポ遅れる。決め打ちで福島が寄せることも可能だったが、梶川を前線に残したままボランチを落とす形もあり、その見極めで後手を踏んだ印象だった。

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 こうした藤枝の可変に対して栃木はプレスがことごとくハマらず、自陣に引かされる場面が頻発。ボールを回収してもすぐさまカウンタープレスを浴びせられ、後ろからの繋ぎ出しは安定しなかった。こういう場面で頼りにしたい宮崎も相手CB2枚に挟まれている状態であり、ひたすら藤枝のターンが続くといった構図だった。

 

 

■ボールを握れず、守備ターン継続

 それでも立ち上がりは藤枝のミスもあり、何度か敵陣に攻め入ることはできていた。

 2分にはセカンドボール争いを制した森が中央を持ち運び、南野にスルーパス。ボールを受けた南野は左足に持ち替える際に倒されたようにも見えたが、ノーファールの判定。3分には前からのプレスでGKのパスミスを玄が収めると、右ポケットに動き出した南野への浮き球はわずかに合わず。14分には再びGKのパスを大島がカットすると、ゴール前フリーの宮崎のシュートは枠上に外れていった。

 ボールを握る時間は少なかったとはいえ、集中した守備から一定のチャンスを作れていただけに、まずまずの立ち上がりだったと言えるだろう。藤枝も敵陣に入ってからのブロック崩しには苦戦しており、ここで先手を取れればスコアで試合を掌握した熊本戦の再来も有り得ると思われた。しかし、これ以降前半は目立ったチャンスを作れず、試合にアジャストしてきた藤枝に徐々にペースを握られるようになっていった。

 栃木はなかなか自分たちの保持の時間を作ることができなかった。ボールを握れないから相手を押し下げられず、相手を押し下げられないからボールを握ることができない。藤枝の守備への切り替えやアプローチの鋭さをまともに受けてしまい、逃げ道を作れずにサイドに追い込まれ、苦し紛れに蹴り出す場面が多かった。

 長いボールを蹴ることになっても宮崎が収められれば一気に陣地回復できたが、それも回数は限定的。高い位置で制限をかけて自分たちのターンを継続する藤枝を押し返すことができず、特にモヨに対してラファエルが釣り出されると、サイドの1vs1で後手を踏み、高さ不足になったペナルティエリアでは弾き返しが甘くなった。

 42分にはモヨのクロスに合わせた矢村の決定的なヘディングは枠左へ。ラファエルが釣り出されたことで平松は立ち位置がニア寄りになり、坂との間がガラ空きになっていた。CB1枚が釣り出された際の残り2枚の対応はこの試合に限らず、たびたびヒヤリとする場面を作られている。なんとか無失点で凌いでスコアレスでハーフタイムを迎えた。

 

 

■交代選手がきっかけを作る

 後半も前半同様に藤枝がボールを握り、栃木は押し下げられる構図に。相手FWに対してCB2枚の対応が重なったり、押し込まれた際のクリアが不十分になって波状攻撃を許すなど、前半よりもGK丹野の仕事が増えた立ち上がりとなった。

 しかし、55分に山本を投入してからは流れは徐々に栃木へ傾いていく。後半栃木はWBを押し上げて3-2-5気味に回すようにしたことで、藤枝のWBを押し下げることに成功。藤枝は撤退すると5-3-2でブロックを組むため、ようやくCBで時間を作れるようになり、相手の2トップ脇や3MF脇を起点にボールを前に進められるようになった。

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 後ろでボールを持てるようになるとボランチも縦関係になり、玄の攻撃参加も増加。左サイドに顔を出しながら山本や森と繋がってライン間を主戦場としつつ、後方では青島が最終ラインをサポートする。中盤が1枚になったことで左右CBの持ち運ぶスペースもでき、前半苦戦した横への揺さぶりもスムーズにできるようになった。

 64分には玄の攻撃参加によって空いたスペースに宮崎が抜け出すと、左足で放ったシュートはわずか右へ。66分には坂からのロングボールを宮崎が落とし、こぼれ球に反応した山本のシュートは枠上へ。67分には福島のクロスに山本が頭で合わせた。山本の投入をきっかけにして終盤に向けて良い流れを生み出すことができていた。

 しかし、交代策が功を奏したのはホームチームの方だった。77分、直前に千葉に変わって投入されていた朝倉が栃木のボランチ脇でボールを引き出すと、ラファエルに寄せられる前にラファエルが空けたスペースにスルーパス。これに矢村が抜け出すと、平松の寄せを巧みに剥がし、左足シュートがゴール左隅に吸い込まれた。

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 このシーン、FWの千葉に変わってより中盤色の強い朝倉が入ったことによって、下りてプレーする朝倉に対してラファエルの対応が遅れていた。もちろん最後は平松が個の対応で後手を踏んだことが最大のエラーだが、組織と個の両面で相手に上回られたといえる失点となった。

 失点後に栃木は3枚替えを施して同点を目指すが、目立った決定機を作ることはできず。前線を入れ替えた藤枝の前からのプレスに苦しみ、思うようにパワープレー攻勢を仕掛けることがてきず、77分の得点が決勝点となり、0-1で試合は終了を迎えた。

 

 

選手寸評

GK 27 丹野 研太
後半中央を破られたシーンはビッグセーブで凌いだが、失点シーンはノーチャンスだった。

DF 2 平松 航
失点シーンではカバーがいない状況で入れ替わられてしまった。左右CBがサイドに釣り出された際のクロス対応でポジショニングがニアに寄り過ぎる点は気になる。

DF 13 坂 圭祐
前半は藤枝の流動的な左サイドに対して苦しい時間を過ごしたが、後半はマイボール時の立ち位置を工夫することで出し手として機能した。

DF 33 ラファエル
モヨとのロングボール攻防によく対応していた。横に揺さぶる前に一発で差し込もうという傾向が強く、それが引っかかってしまう。

MF 10 森 俊貴
藤枝の可変によって右CB久富まで長い距離を上下動することになり、後半半ばに足をつって交代した。

MF 16 玄 理吾
前半は藤枝の人を捕まえてくる守備に苦戦し、ボールを握って前を向く時間を作れなかった。後半はより高い位置でプレーできるようになり、狭い局面でクオリティの高さを見せた。

MF 22 青島 太一
玄とは違ったテンポでシンプルにボールをさばき、最終ラインと近い距離感でプレーした。サイドにつける長いボールの精度も安定していた。

MF 23 福島 隼斗
対面のWBを気にして梶川へのプレスが遅れた。守備に走らされる状況を踏まえても、クロスやラストパスの精度をもう一つ引き上げたい。

FW 19 大島 康樹
守備の時間が長く、スペースにボールを引き出す場面が少なかった。

FW 32 宮崎 鴻
相手のミスで14分に決定機が訪れたが、シュートを枠に収めることができなかった。押し込まれた局面では宮崎のポストプレーが頼りになった。

FW 42 南野 遥海
背後への動き出しやマイナスのポジショニングでチャンスを作ったが、時間の経過とともに運動量が減少した。ただ、前を向ければ惜しいミドルシュートを何本か放った。

FW 45 山本 桜大
途中出場から積極的なプレスや動き出しで流れを引き寄せた。この日はどちらかと言えばライン間でプレーすることが多かった。

MF 6 大森 渚生
後半ATにはふわりとしたクロスを福島に合わせた。2得点に絡んだ熊本戦以降、なかなか攻撃でインパクトを残せていない。

FW 9 イスマイラ
背後へのランニングと長いボールの受け手として前線で起点を作った。

DF 5 大谷 尚輝
3バックの中央に入り、途中出場でも安定感あるプレーを見せた。

MF 24 神戸 康輔
最終ラインの手前でこぼれ球に目を光らせ、前線にボールを供給した。

 

 

最後に

 藤枝のポゼッションに対して前からの守備が効かなかったことは試合の構図に大きく影響したと思うが、個人的にそれが試合を分ける要素になったとは思わない。

 強引に前への圧力を強めたところで、藤枝はプレスを剥がしていく繋ぎがよくトレーニングされているチームであり、いずれにしても栃木は自陣に引かされるゲームになっただろう。アウェイ山形戦のようにプレスが空転し続けるならば、ミドルに構える判断は支持できる。結果的に許したゴールは1つのみという部分も守備は決して悪くなかったことを示すデータだろう。

 目を向けなければならないのは攻撃面。特に自分たちに流れが傾いた時間帯に得点に繋げられないにしても相手を脅かすプレーが少なかった点である。ゴール前での少ないタッチ数でのパス交換やコンビネーション、GKを慌てさせる枠内シュートはこの試合どれだけ見られただろうか。攻めあぐねた藤枝は終盤に矢村がクオリティを発揮した。ここは個々人のプレー精度や判断のクオリティが高まることを期待するしかないが、残り少ないリーグ戦でどれだけ上積みできるかは正直なところ不安が募る状況である。

 

 

試合結果・ハイライト

2024.9.7 19:00K.O.
栃木SC 0-1 藤枝MYFC
得点 77分 矢村 健(藤枝)
主審 山下 良美
観客 3783人
会場 藤枝総合運動公園サッカー場