栃木SCのことをより考えるブログ

主に栃木SCの試合分析(レビュー)をします。

【辛うじて次に繋ぐ】J2 第33節 栃木SC vs いわきFC

スターティングメンバー

栃木SC 3-4-2-1 18位

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 前節は鹿児島をホームに迎え、土壇場で逆転勝利を収めた栃木。これまで負傷や出場機会に恵まれなかった選手が結果を残し、最終盤での巻き返しに向けて機運が高まる会心の勝利となった。

 前節からのスタメンの変更は4人。大谷・ラファエル・玄・奥田に代わって、平松・高嶋・佐藤・大森が入った。佐藤祥は第2節以来、高嶋は今季初スタメン。前節負傷した山本はベンチを外れ、石田がメンバー入りを果たした。

 

 

いわきFC 3-1-4-2 7位

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 前節はアウェイで徳島に勝利し、プレーオフ圏内との勝ち点差を0としたいわき。今節はプレーオフを争うチーム同士の対戦カードが多く、ここで連勝を飾り、最終盤に向けて弾みをつけたいところだろう。

 前節からのスタメンの変更は加瀬→杉山のみ。最前線の谷村は得点ランク2位の17得点、古巣対戦となる有馬は8得点を記録。夏の移籍で主力CBが退団してからは大森理生が最終ラインの中央を務めることが多くなっている。

 

 

マッチレビュー

■セットプレーで試合をコントロール

 前節鹿児島戦からの流れを受けて、この日は佐藤祥と高嶋をスタートから起用した栃木。立ち上がりから長いボールの蹴り合いとなったが、久々に先発を飾った彼らのパフォーマンスにより、前半は栃木が概ね試合を優勢に進めることに成功する。

 開始から存在感を示したのは佐藤祥。中盤でのルーズボールに対して身体を投げ出して積極的にアプローチをかけていく。立ち上がりは特にセカンドボールの勝率が主導権に繋がっていたと言えるだろう。青島もバランスを取りながらボールの行方に目を光らせることで、序盤は敵陣で長い時間をプレーすることができていた。

 ボールを握れば前線の動き出しをシンプルに活用するか、それが難しければ右サイドへ大きく展開。攻撃が停滞した前節前半の反省を踏まえて優先順位をしっかり整理してきた印象だった。全体の配置は右肩上がりにセット。佐藤祥や高嶋からの対角フィードを森が高い位置で受けるシーンは前半よく見られた。

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 中盤にテクニカルな選手を並べるのではなく、よりハードワークを売りにする佐藤祥と青島を起用したのはそのためだろう。ロングボールやロングパスによる大きな展開を増やし、高い位置でのセカンドボール争いに注力することでセットプレーを量産していく。前半はCKやロングスローから次々とゴールに迫ることができていた。

 前半だけでCKは6本、ロングスローは4本。栃木としてはこのうちどれか一つでも決め切りたかった。いわきはCKとロングスローでそれぞれゾーンとマンツーを使い分けていたが、特にCKは栃木の選手の方が先に触れる場面が多く、守備対応に問題を抱えていたのは明らかだった。

 セットプレーを量産するなかで最もゴールに迫ったのは30分。右CKからニアで宮崎が逸らすと、ファーで構えていたのは福島。ニアフリックからのファーは得点期待値の高い鉄板のデザインだったが、福島のヘディングは惜しくもサイドネットに外れた。

 これに至るCK獲得もそうだったが、栃木は劣勢になりかけた展開でセットプレーを奪うことでたびたび押し返す流れを生み出す試合運びは巧みだったように思う。一つ一つのセットプレーに時間をかけて自分たちのペースに持ち込み、相手に傾きかけた流れを切っていく。森やサイドに流れた宮崎が縦に仕掛けて個人の力でセットプレーを獲得できていたため、ペースを引き戻す難易度はそれほど高くなかった。

 

 

■ミスマッチとフィジカルのダブルコンボ

 一方いわきは「引き付けてからの背後」が基本路線。守備時は3-4-2-1(5-4-1)で栃木とシステムを噛み合わせ、攻撃時は3-1-4-2に変化することでズレを作り、栃木が食い付いた背後を狙っていく。

 10分には、福島が左IH山口に寄せたことでできた背後のスペースに谷村が流れると、ロングパスの落としを山口が引き取って一気に前進。栃木は福島がミスマッチを埋めるべく前に出ていたため、結果的にバックラインのうち福島と平松が置き去りにされる格好となってしまった

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 21分には、後ろでボールを動かして栃木のプレスを十分に引き付けると、大森理生が杉山に向けて正確なフィードを供給。これが通り、自陣では3vs3の同数に。有馬のランニングによって杉山→谷村の花道が開通したが、杉山が自らシュートに持ち込んだことでピンチを免れることができた。

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 このシーンでは、いわきの2トップに対して3バックがピン留めされ、大森が西川にアプローチしたタイミングで高嶋との広がった間を突かれてしまった。杉山と西川は頻繁に立ち位置を入れ替えていたことも大森のアプローチに影響を与えていただろう。高嶋も左サイドの状況を見て、有馬の対応を平松に任せてしまってもよいシーンだった。

 前に前に捕まえていきたい栃木に対して、いわきはミスマッチを活用しつつ、いざアバウトにボールを入れた際もフィジカルに優れた2トップが簡単には押し負けない力強さがあった。背後の取り方と2トップの強さ、そしてそこに前向きに関わっていく中盤勢。いわきの攻撃はシンプルなものではあったが、栃木の前向きの矢印を根元から折るような圧力のあるものだった。

 それでも前半はシュートに至る場面をそれほど作らせず。セットプレーを量産してゴール前でボールに触れる栃木と比べて、いわきは合わせるところまではできず。セカンドボール回収も含めてやや栃木ペースで進んだ前半だった。

 

 

■いわきの徹底に押し込まれるも

 前半とは一転して後半開始から主導権を握ったのはホームのいわき。栃木の最終ラインの背後に長いボールを入れていき、弾き返されても間髪入れずに再び背後へ放り込んでいく。

 いわきは徹底して栃木の右サイドの背後を狙っていた。谷村が平松と福島の間から背後を取りに行き、セカンドボール争いには山下、山口らが前向きで関わっていく。前半右肩上がりで高い位置を取っていた栃木の右サイドを押し下げるべく、このサイドへの大きな展開を徹底していく構えだった。

 栃木にとってはホーム水戸戦の後半と同じような状況だった。いわきの強烈な前向きの圧力をまともに受けてしまい、自陣でマイボールにしても1つ2つ繋ぐことができず。苦し紛れに蹴り出した長いボールには宮崎がポストプレーで奮闘したが、前半のようにセカンドボールを収めることはできなかった。

 セカンドボール争いに関して、やはり後ろで時間を作れずに重心を押し上げられなかったことは大きく影響していただろう。再三背後を狙われるため最終ラインは深くなり、それに伴って最終ラインをヘルプするボランチも低い位置にセットせざるを得ない。この状況で前線に長いボールを入れても宮崎の周りに味方はおらず、セカンドボールを収めるいわきの中盤はほぼほぼセンターラインほどの高さ。ここから再び蹴り返してくるため、自ずと深い位置で守備を強いられる状況だった。

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 栃木は63分に大島に代えて小堀を投入。南野を左サイドに移して小堀を右サイドに投入したことからも、長いボールを入れてこのサイドから押し返したいという狙いだっただろう。青島や佐藤祥が3列目からゴール前まで絡んでいったシーンは小堀や宮崎が空中戦に競り勝ちセカンドボールを繋いだところから生まれたチャンスだった。

 ただ、小堀の投入によってやや盛り返すことに成功したが、依然として主導権を握っていたのはいわきだった。後ろで時間を作れないため劣勢が続く栃木は78分に平松に代えて藤谷を投入し、後ろのキャラクターを変えるも状況は変わらず。背後への抜け出しから再び谷村に決定機を作られるなど、試合がオープンに傾いていくなかでゴールの匂いが漂っていたのはホームチームだった。

 しかし、85分の3枚替えによって栃木は前半ぶりに流れを自分たちのもとに引き戻すことができた。矢野が背後へのランニングで高い位置でのスローインを獲得し、石田や高嶋がロングスローを供給。最終盤には南野のCKから藤谷がニアで合わせかけたり、ロングスローのこぼれ球を小堀が至近距離で頭で合わせたりと、押し込む時間帯を作ることができた。

 しかし、最後までゴールネットを揺らすことはできず、互いにノーゴールで試合終了。残留には勝ち続けるしかない栃木にとっては厳しいドロー決着となった。

 

 

選手寸評

GK 27 丹野 研太
61分には谷村のシュートを間一髪でセーブし、81分には同じく谷村のトラップミスに素早く反応。集中したパフォーマンスでゴールに鍵をかけた。

DF 2 平松 航
右サイドのスライドで福島との呼吸が合わず、谷村に何度も背後を取られた。ただ、最後の場面で身体を張り、メンタル面でも闘っている様子が映像から見ることができた。

DF 23 福島 隼斗
背後に走り出す谷村への対応で後手を踏んだ。30分のセットプレーからのヘディングは枠に収めたかった。

DF 40 高嶋 修也
今季初先発で苦しみながらもクリーンシートに貢献。武器のロングスローはスタンド席が近い会場とあり、十分に助走が取れなかった。

MF 4 佐藤 祥
セカンドボール争いに身体を投げ出し、苦しい時間帯も味方を鼓舞して試合を引き締めた。タフな試合をフルタイムでやり切り、コンディションは問題ないことを窺わせるハイパフォーマンスだった。

MF 6 大森 渚生
右サイドとバランスを取るように低い位置で配球に注力した。背後のスペースを狙われて後ろに重くなったが、戻りながらの対応はクリーンだった。

MF 10 森 俊貴
高い位置でボールを受けた際は自ら縦に仕掛けることでセットプレー獲得に繋げた。後半は森のサイドを攻め込まれ、重心を押し上げられなかった。

MF 22 青島 太一
予測と出足の速さでセカンドボール争いに多く関わった。佐藤祥とバランスを取りつつ、攻撃参加する場面もあった。

FW 19 大島 康樹
前線からの守備でハードワークしたが、相手にもう一歩寄せ切る強度が足りなかった。攻撃面でも仕事をさせてもらえなかった。

FW 32 宮崎 鴻
相手に挟み込まれながらもロングボールに先に触れることで、味方の押し上げを促した。特に後半の苦しい時間帯は宮崎のポストプレーが頼みの綱となった。

FW 42 南野 遥海
相手CBの執拗なマークに潰され、攻撃面で良さを出せなかった。CKの精度は高く、多くの場面で味方が先に触れていた。

FW 38 小堀 空
長いボールに対して宮崎とともにツインタワーを形成。後半ATのヘディングは身体が伸びきってしまい、叩きつけられなかった。

DF 17 藤谷 匠
奪ったボールを近くに預けたり、縦パスに対して積極的に迎撃したりと、自らのプレーで流れを変えようという気概が見えた。

MF 7 石田 凌太郎
ロングスローやクロスから終盤の盛り返しに貢献した。自ら奪ったCKの際にスタンドを煽り、サポーターの熱量をさらに引き上げた。

MF 16 玄 理吾
ボールタッチはわずかだったものの、ロングスロー攻勢のバランサーとしてカウンターに備えた。

FW 29 矢野 貴章
サイドに流れて長いボールを引き出し、終盤のロングスロー攻勢に繋げた。

 

 

最後に

 先に試合を行った17位大分が勝利したことを踏まえれば、ドロー決着は痛恨の結果と言えるだろう。これで勝ち点差は6に広がり、得失点差も含めると大分を捲るには3試合が必要な状況となった。もちろん大分が全て敗れ、栃木が全て勝利して、である。

 状況は非常に厳しいものとなったが、それでも、アウェイ戦で最低限の結果を持ち帰ることができた点はポジティブに捉えたい。完全復活したキャプテンを中心にタフな試合を互角に展開し、耐えるべき時間は耐えて、交代策によってもう一度押し返す流れを作ることができた。鹿児島戦の勝利で生み出した逆転残留に向けての機運を絶やさずに、引き続き前を向ける状況を維持できたのは数少ない収穫といえる。

 間違いなく状況は厳しく、カウントダウンが刻一刻と迫っているのも事実。ただ、数字上の可能性がある限り、最後まで選手・スタッフを信じ、奇跡を掴むことを願うばかりである。

 

 

試合結果・ハイライト

2024.9.29 15:30K.O.
栃木SC 0-0 いわきFC
得点 なし
主審 福島 孝一郎
観客 5056人
会場 ハワイアンズスタジアムいわき