栃木SCのことをより考えるブログ

主に栃木SCの試合分析(レビュー)をします。

【盛り返したがまだ足りない】J2 第29節 栃木SC vs V・ファーレン長崎

スターティングメンバー

栃木SC 3-4-2-1 18位

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 前節甲府戦は自分たちのミスで失点を重ね、1-2で敗れた栃木。秋田戦も含むホーム連戦を1分1敗で終え、勝ち点を上積みすることができなかった。残留圏内との勝ち点差も広がり、アウェイとはいえ勝利が必要な状況である。

 前節からのスタメンの変更は2人。神戸に代わってボランチには玄理吾、森に代わって左WBには大森が入った。玄は加入後初先発。丹野、奥田にとっては古巣対戦となる。

 

V・ファーレン長崎 4-1-2-3 3位

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 中断明けから未だ勝利のない長崎。前節山口戦は立ち上がりにマテウスの得点で先制したが、後半早々に逆転を許し1-2で敗れた。自動昇格を争う清水、横浜FCとの勝ち点差が広がり、こちらも正念場である。

 前節からのスタメンの変更は3人。ここまで14ゴールのエジガル、10ゴールのフアンマが不在となったトップには中村が入り、IHの安部とともに今季初先発。増山が左WGから右SBに移り、そこには澤田が入った。

 

 

マッチレビュー

■長崎のポゼッションに翻弄

 台風の影響も心配されたが、無事開催されたこのカード。ともに目標やノルマを達成するにはこれ以上の足踏みは許されず、内容よりも結果にこだわりたい一戦となった。

 立ち上がりの主導権を握ったのはホームの長崎。2CBとアンカーの秋野を軸に数的優位になる中盤や低い位置のSBで時間を作りながら栃木のプレスをいなしていく。

 栃木としては長崎の4-3-3に対して宮崎がアンカー、シャドーがCBを牽制するように構えていたことから、基本的には前から捕まえていきたいスタンスだっただろう。ただ、マテウスが存在感を放つ右サイドは大島がやや低めの立ち位置を取ることが多く、実際は左肩上がりになることが多かった。

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 このとき前線は奥田が右CB、宮崎が左CBを見ることになるが、チームとして中盤の数的不利を消すことに重きを置いていたこともあり、奥田は中を閉じて外側に誘導することを優先。よって、長崎の右SB増山には大森が長い距離をスライドすることになり、ここで生じたズレからポスト直撃のシュートを招いたのが10分のシーンだった。

 このシーン、右SB増山が大森のプレスをかわして中盤の安部にパスを通しているが、これに合わせて迎撃に出た平松は安部を潰せていない。安部から増山へのリターンを許すと、そこから芋づる式に逆サイドの澤田へと繋がれてしまった。

 全体が一つずつ前にプレスをかけている状況では、最終ラインに枚数を揃えているとはいっても、逆サイドの大外まではカバーすることができない。それを踏まえれば平松のところでファール覚悟でも食い止めるべき状況であった。ポスト直撃で辛うじて命拾いしたシーンだった。

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 これに限らず、栃木は長崎の保持に対してなかなか守備がハマらなかった。トップの中村が中盤に下りてきたり、マテウスがフィジカルの高さと足元の巧さを発揮することで局面を打開されてしまい、高い位置でボールを奪うことができなかった。

 自陣にボールを運ばれると今度はサイドから流動的な攻撃を仕掛けられる。アンカーの秋野も適切な位置で後方のサポートに入るため、サイドに閉じ込めることもできず。自ずとマイボールにする位置が低くなり、前半はカウンターを発動することもできなかった。

 

 

■停滞するボール保持

 立ち上がりにピンチを迎えた栃木だったが、展開が落ち着いた15分以降はボールを持てるように。長崎は前線からそれほどプレスをかけずに4-4-2で構えるため、3バックでボールを握る難易度は高くなかった。

 最終ラインの手前では青島がアンカー気味に立ち、玄と奥田がそれぞれ相手のボランチ脇にポジションを取る。3バックから見て玄や奥田は相手のマークに付かれておらず、最終ラインから彼らにつけるor収縮したSHの外側でフリーになるWBにつける形のどちらかからボールを前に進めることはできていた。

 しかし、WBに入ってからの展開では両サイドの出来に大きく差があった。WBに入ってからは相手のSBの背後にシャドーが動き出す形が4-4-2崩しのセオリー。右サイドは大島が頻繁に走り込んでボールを引き出したり、大島が開けたスペースに宮崎が顔を出したりと、サイドを取ってからの次のステップを繰り出していく。

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 その一方で、左サイドは奥田と大森の連携がしっくり合わなかった。大森に入ってからも背後に抜け出す奥田との繋がりは希薄で、奥田自身もサイドでボールを握っても自ら剥がすキャラクターではないので、どうしても左サイドは停滞感を拭えなかった。

 飲水タイム後はしばらく長崎の保持のターンが続いたが、ようやくボールを取り返して栃木が保持を開始した34分、長崎にカウンターから先制点を許してしまう。

 きっかけは栃木のテンポの上がらない後方での保持だった。長崎の4-4-2ブロックに対してラファエルがボールを持たされると、無理に差し込んだ縦パスが弾かれ、ルーズボールを収められず、ボールは秋野のもとへ。秋野が左サイドに流れるマルコスにボールを送ると、これを収めたマルコスが栃木が帰陣する前にクロスを上げ、ファーでフリーになった中村がボレーで合わせた。

 失点以降も栃木がボールを握る時間は続いたが、守備のリズムを掴んできた長崎が早めにWBの縦を切るようにしてきたことで栃木はペースアップできないシーンが増加。SBの背後を取ってもクロスが途中で遮られてしまい、エリア内で宮崎が勝負するシーンを作れなかった。

 前半のシュートはわずか1本。まさにボールを持たされた45分間だった。

 

 

■試合を変えたインパクター

 後半も栃木がボールを握る展開でスタート。敵陣での大森→奥田の繋ぎから左サイドを突破したり、玄がミドルシュートを放つなど前半の課題へのテコ入れが窺える立ち上がりだった。

 長崎は直近の試合で後半の入りに失点を重ねたことから非常にセーフティーな入り。前線へのロングボールを多用し、マテウスのフィジカルや中村の背後への抜け出しから起点を作っていく。

 よって、栃木がボールを取り返して保持に移行するシーンは多かったが、長崎も立ち上がりはSHの守備意識が特に高く、次第にサイドで詰まるシーンが増加。良い流れでWBにつけてもスピードアップできず、敵陣でのカウンタープレスもマテウスのフィジカルやターンで剥がされるシーンが目立つようになっていく。

 栃木にとってこの不穏な流れを変えたのが63分の3枚替えだった。まずは坂に代わって最終ラインに入った大谷のところでマテウスへの長いボールを塞き止めることができたのが大きかった。背後のスペースをしっかり埋め、大谷自身で奪えないにしても味方の戻りとともに囲い込んで奪取する。これで長崎の後半の攻め手を大幅に抑えることができた。

 南野も自陣から相手の中盤守備を振り切って前に持ち出す力強さを発揮するなど大島とはまた違った攻撃性を見せていた。

 そして試合に特大のインパクトをもたらしたのが左シャドーに入った山本である。基本的に与えられていた役割は奥田と同様で、相手のギャップで受けることとワイドに入ったときに背後を取ることだったが、その動きに非常にキレがあり、回数も頻繁で、受けてからのプレーも正確だった。ラファエルや大森ら出し手もボールをつけやすく、ここから左サイドの攻撃の歯車が噛み合い出した。

 左WBに森を投入してからはその流れが加速。右利きの森はボールを受けた際に相手と正対することになるが、これで対面の相手の動きを止めることができたため、山本の動き出しを活用できたほか、自身も縦に仕掛けることができた。森が入った70分以降は、チームとして武器とする右サイド以上に左サイドが機能していた。

 長崎は栃木の左サイドに対応すべく右SBを増山から青木に変え、ボールを逃がした先のカウンター要員として左WGに松澤を投入するが、依然として流れは栃木ペース。栃木が左サイドからの積極的なアタックで再三チャンスを作っていく。右サイドからの攻撃では山本がストライカーのポジションに入ることで最後の局面でゴールまであと一歩というシーンを作り出していった。

 こうして栃木ペースで試合が進むなか、スコアが動いたのは後半ATだった。相手の隙を突いて左のポケットを取った玄がクロスを上げると、ファーで宮崎が落とし、中央に詰めていたのは南野。土壇場で栃木が同点に追い付くことに成功した。

 このシーンでは山本がサイドに開いてボールを引き出し、そこにラファエルが近寄っているが、これで長崎の最終ライン2枚を引き寄せることができた。長崎はこの直前に最終ラインを5枚に変えて逃げ切り体制にシフトしていたが、主に山本をケアする右CB白井がサイドに釣り出されことで中央CB照山との間にスペースが生じていた。ここを玄が見逃さなかった。

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 試合は1-1で終了。奇しくも前回対戦と同じ展開となり、上位相手のアウェイゲームで貴重な勝ち点1を持ち帰ることに成功した。

 

 

選手寸評

GK 27 丹野 研太
カウンターから背後に抜け出された決定的なシーンを果敢な飛び出しで防いだ。

DF 2 平松 航
ワイドに振り分けるロングフィードで攻撃の起点になった。前半は相手を潰し切れずピンチを招いたが、後半は改善した。

DF 13 坂 圭祐
失点シーンを含めて何度か坂のサイドを突破された。後半は長いボールに後手を踏み、63分に交代となった。

DF 33 ラファエル
ボールを持ち運んでも相手を引き付けられず、スペースがない中で無理に縦パスを入れてロストするシーンが何度かあった。

MF 6 大森 渚生
長崎のサイドの寄せが速く、大外で受けても前へのコースを切られてしまった。もう少し奥田と繋がって左サイドを攻略したかった。

MF 16 玄 理吾
中盤の底と攻撃参加のタスクを青島と分担しながら攻撃を組み立てた。後半ATにはポケット侵入から貴重な同点弾を演出した。

MF 22 青島 太一
玄とともに頻繁にボールを触って攻撃を組み立てた。左寄りの起用でいつもとは異なるユニットのためか攻撃参加の回数は少なかった。

MF 23 福島 隼斗
大島や間に顔を出す宮崎と繋がりながら攻撃を組み立てた。大森同様、縦を切られてしまいペースダウンするシーンが目立った。

FW 15 奥田 晃也
中盤の背中でボールを引き出し、サイドに渡れば左奥を取るランニングを繰り返した。ただ、アクセントをつける奥田らしいプレーは依然見られない。

FW 19 大島 康樹
積極的な背後へのランニングで右奥を取り続けたが、内側に入ってシュートに持ち込むシーンまでは作れなかった。

FW 32 宮崎 鴻
空中戦でも足元へのパスでもフィジカルの強さを発揮し、的確に味方へ繋いだ。同点シーンでは冷静に頭で落とし、アシストを記録した。

DF 5 大谷 尚輝
14試合ぶりに出場。坂が手を焼いたマテウスにしっかり対応した。終了間際のセットプレーからのシュートはわずかに左に外れた。

FW 42 南野 遥海
先発落ちの悔しさを晴らすように身体ごとボールを押し込んだ。13試合ぶり、チームトップの6ゴール目。ここから量産といきたい。

FW 45 山本 桜大
積極的な背後への動き出しとボールを受けた際の仕掛けで、膠着した試合の流れを一変させた。得点シーンの玄へのパスも正確だった。

MF 10 森 俊貴
大外からの仕掛けやクロスから攻撃をやり切ることで、山本とともに左サイドの攻撃を活性化させた。

MF 24 神戸 康輔
セカンドボール回収やサイド展開など少ない時間でやれる事はやった。

 

 

最後に

 終わってみればシュート数は長崎の9本に対して栃木は11本。ボール支配率でもパス数でも上回り、ゴール期待値では逆転もあり得るスタッツを記録するなど、シュート1本に終わった前半とは見違えるような内容で後半を圧倒することができた。

 課題は自陣からのビルドアップ。程度が異なるにせよ、前節甲府戦もビルドアップのエラーから相手に先制点を与えてしまっている。後方でボールを握る狙いはロジカルで明確だが、それを体現するプレーや判断のクオリティーはまだまだもの足りない。主導権を握る時間を多く作れているだけに惜しい失点を喫している状況は非常にもったいない。

 逆にこういったエラーを最小限に留め、カウンターを発動されたとしてもファールで切るような老獪さを試合のなかできっちりと示すことが出来れば、勝ち点3の可能性はグッと高まるだろう。繋ぐサッカーのベースができつつある栃木にとって次に大事なのはこうした細部を詰めることである。残り9試合、残留圏を手繰り寄せるためにも最もこだわりたいポイントとなる。

 

 

試合結果・ハイライト

2024.8.31 19:00K.O.
栃木SC 1-1 V・ファーレン長崎
得点 34分 中村 慶太(長崎)
   90+3分 南野 遥海(栃木)
主審 石丸 秀平
観客 11061人
会場 トランスコスモススタジアム長崎