スターティングメンバー
栃木SC 3-4-2-1 18位
前節秋田戦は0-0でドロー。前半はボールを握り試合を支配したが、後半は一転して秋田の圧力に押し込まれた。辛うじて得た勝ち点1を生かすためにも、連戦となるホームゲームでさらなる積み上げに期待したいところ。
前節からのスタメンの変更はなし。藤谷・川名・小堀がメンバーを外れ、ベンチには大谷・南野・イスマイラが入った。イスマイラは4試合ぶり、大谷は小林体制になってから初めてのメンバー入りとなる。
ヴァンフォーレ甲府 3-4-2-1 14位
前節清水戦は0-3で敗れたものの、ヘッドコーチから昇格した大塚真司監督のもと復調の兆しを見せている甲府。ミッドウィークには鹿島との天皇杯を消化しており、中3日での連戦となる。
清水戦でアダイウトン、鹿島戦でマクーラが退場となり今節は出場停止。代わって前線には飯島が入り、ベンチには天皇杯で結果を残した三沢、宮崎らが入った。ヘナトアウグストは天皇杯に引き続き左CB起用となった。
マッチレビュー
■コントロールしていたなかで生じた痛恨ミス
栃木にとって甲府は第3節に今季初勝利を挙げた相手であり、直近2試合でともに勝利を収めている比較的相性の良い相手。シーズンダブルを達成し、残留圏への足がかりにしたい一戦となった。
立ち上がりは両チームとも長いボールを蹴り合う展開でスタート。栃木は宮崎、甲府はウタカをターゲットに素早く敵陣にボールを入れていく。
長いボールに対してはホームチームの方が上手く対応できていたと言えるだろう。弾き返すCBとセカンドボールに備える中盤の距離感が良く、収めてからもパスを2本3本と繋ぐことで簡単に失わない。甲府は前線があまり深追いせず、栃木も神戸が下りて4枚で回すためボールを取り返す難易度はそれほど高くなかった。
甲府がどれだけウタカで収めること、もしくはセカンドボール回収で重心を押し上げることを狙いとしていたかは分からないが、どちらかと言えば栃木の陣形を縦に引き伸ばす意味合いの方が強かったように思う。栃木のボランチ脇にスペースを作り、そこを攻撃の入口にする形は立ち上がりから何度か見られた。
6分にはここから決定的なチャンスを生み出している。飯島が青島の脇に顔を出してフリックでボールを流すと、これを受けたウタカが前を向き、鳥海にスルーパス。鳥海からのリターンを受けたウタカはゴール前が開けたが、シュートはわずか右に外れた。
15分には右サイドの飯田が木村との縦関係のワンツーから森と神戸を剥がして前進。マッチアップが明確になるミラーゲームにおいては、少ないタッチ数で相手を置き去りにするワンツーは特に効果的であり、これも栃木のボランチ脇に入り込んだシーンだった。
栃木目線で言えば特に6分のシーンは肝を冷やしたが、巧みに懐に入り込まれたのはこのシーンくらい。基本的には長いボールを多用してくる相手への対応は前述したとおり問題なかったように思う。セカンドボールを回収されるか繋ぎ出しでミスが起こらなければ概ね自分たちでボールを落ち着かせることができ、保持で試合をコントロールできていた。
前線にウタカを据える甲府に対して最終ラインでボールを握り、じっくりと左右に揺さぶる保持はこの日準備してきたものだっただろう。GK丹野がCBにショートパスをつけるリスタートもその一環。その点で失点に繋がる丹野と平松の連携ミスは非常に痛恨だった。丹野が声を掛け、平松がボールに対して目を切らなければ生じなかったミスであり、その代償として重いビハインドを背負うことになってしまった。
■栃木の保持の狙い
リードしたことで無理せずに5-4-1でブロックを組むようになった甲府。よって、スコアが動いた16分以降は栃木がひたすら甲府のブロック崩しに挑む展開で進んでいく。
栃木の保持は中断明けから武器としている右サイドに重きを置いたものだった。神戸が最終ラインに下りて右CB坂を押し出し、右WB福島はサイドの高い位置に進出。ボールを前に運べば神戸は中盤の底に戻り、今度は青島が内側から右サイドの攻撃に関わっていく。
狙いは甲府の5バックに対して6トップをぶつけることだっただろう。1トップ+2シャドー+両WBの5人に加えて、坂または青島がプラス1として前線に絡んでいく。甲府は左シャドーの鳥海が守備をしなければ数的不利に陥るため、栃木としては右サイドから押し込むメリットは大きく、またクリアされてもウタカには2CBで対抗できる構図となっていた。
これに加えて飲水タイム以降は、左右CBから縦パスを差し込む回数が増加。これで相手の守備意識が中央に向けば、ボールを受けた選手は空いたサイドに広げたり、ボランチ脇まで斜めに下がって自ら前を向くなど、攻撃にアクセントをつけていく。奥田がブロックの隙間で甲府のボランチ木村に連続で受けたファールはこうした流れで起きたシーンだった。
甲府としてはリスクを負わずに5-4-1を組むことで堅く守れていたが、ウタカへの長いボールを封じられ、シャドーも押し上げられないとなると、なかなか攻撃に移行することはできず。主体的にボールを前に進められないため栃木のミス待ちといった状態だった。
唯一突破口になりそうだったのは右サイド。甲府はボールを保持すると全体がやや右肩上がりになり、サイドに寄った右CB関口には多少の時間が与えられる。この関口が出し手となってウタカに鋭いパスを通したり、飯田と縦関係のワンツーを行ったりと、攻め手を探している様子は窺えた。
ただ、こうした攻撃も回数としては限定的。両チームともゴール前までたどり着く回数は少なく、膠着状態でハーフタイムを迎えた。
■ひたすらブロック崩しに挑んだが…
栃木はハーフタイムに神戸に代えて玄理吾を投入。5-4-1で堅く構える甲府に対して、パスの出し手を入れ替えて引き続きブロック崩しに挑んでいく。
玄を投入したことによる変化はすぐに見て取ることができた。例えば46分のシーン、福島から斜めにパスが入ると、玄はボールに触れずに流しつつ、逆サイドの森へスピードを落とさないようにパスを供給。50分には自陣ビルドアップの場面で相手に対して背中を向けた状態でGK丹野からのパスをダイレクトで平松へ繋ぎ、右サイドからの前進を促した。後方での繋ぎのテンポは明らかに上がっていた。
48分には奥田や坂も中盤に関わりながら分厚い攻撃で敵陣に押し込むと、右奥を取った大島の落としを受けた福島がクロスを供給。宮崎のヘディングは枠上に逸れていったが、ファーには左CBラファエルが飛び込むなど押し込んだことによる迫力ある攻撃を繰り出すことができていた。
続く55分には青島の差し込んだパスに宮崎が相手CBともつれると、背後に流れたボールに反応した奥田がGKと1vs1に。しかしシュートをミートできず、跳ね返りを拾った大島のシュートもGKのファインセーブに阻まれた。
栃木としては保持に変化をつけ、ゴール前にボールを運べていたこの時間帯に同点に追い付きたかった。このプレーの直後には顔触れの変わった甲府の3トップにカウンターからシュートに持ち込まれ、58分にはミスから決定機を作られている。自らの決定機を決められず、カウンターに狙いを定める甲府のプランを軌道に乗せてしまった格好だった。
甲府がウタカと飯島に変えて三平と飯島を投入してからはこの構図がより顕著に。栃木はボールを持たされ、堅いブロックを攻めあぐねた挙句、失っては甲府の鋭いカウンターにさらされる。山本、南野を投入しても流れを変えられず膠着状態が続いたが、飲水タイムを経て、イスマイラを前線に入れて迎えた77分、ようやく栃木に得点が生まれた。
敵陣でボールを回すなかでラファエルが山本に縦パスを供給すると、山本は半身でボールを内側に持ち出し、逆サイドの福島へ。サポートに入った坂にボールを預けると、坂がダイレクトに上げたクロスにラファエルが頭で豪快に合わせた。右CBから左CB。まさに押し込んだからこそなせる力強い攻撃だった。
ここから会場の雰囲気も含めて逆転弾への気運が高まったが、最後に試合を動かしたのはアウェイチームだった。90+1分、前線のコンビネーションから鳥海に抜け出されると、ゴール右隅に巧みに押し込まれた。甲府らしいクオリティの高さが表れたシーンだったが、栃木にとって悔やまれるのは三平に対してノープレッシャーになってしまったことだろう。トップの三平が後ろ向きにプレーしているにも関わらず、平松もラファエルも足が止まり迎撃できていない。これが真ん中に起点を作らせ、そこを破られるきっかけとなってしまった。
試合はこのまま1-2で終了。栃木はホーム連戦で勝ち点1止まりとなり、残留圏内の17位熊本とは勝ち点で5ポイント差となった。
選手寸評
GK 27 丹野 研太
平松との連携ミスで1失点目の原因に。これで長い時間をビハインドで過ごすこととなった。
DF 2 平松 航
ウタカへの対応は決して悪くなかっただけに、ボールから目を切った一瞬の隙が悔やまれる。
DF 13 坂 圭祐
ラファエルの同点弾をアシスト。右サイドからの攻撃参加は試合を重ねるごとにスムーズになってきている。
DF 33 ラファエル
力強いヘディングで記念すべきJ初ゴールを決めた。ウタカへの対応も卒なくこなした。
MF 10 森 俊貴
右利きのため相手のプレスに捕まりやすい状況だったが、サイドチェンジや低い位置から前を向いた際は持ち前の推進力を発揮した。
MF 22 青島 太一
中盤に下りてくる鳥海に手を焼く時間もあったが、球際の強度そのものは高かった。自らハーフスペースを突撃するなど攻撃面の良さも見せた。
MF 23 福島 隼斗
右幅で起点を作り、チーム最多の9本のクロスを上げた。大島や青島に差し込むパスも正確だった。
MF 24 神戸 康輔
最終ラインと近い距離感でセカンドボールを回収した。4枚回しからサイドに展開するボールが多く、チームとして縦につけたい狙いからハーフタイムに交代となった。
FW 15 奥田 晃也
後半早々に背後に抜け出してGKと1vs1となったが、シュートを上手くミートできなかった。
FW 19 大島 康樹
相手にとって嫌らしいポジショニングや動き出しを繰り返すことで、右サイドの攻撃を活性化させた。
FW 32 宮崎 鴻
高さと足元で起点を作り続けた。膠着した展開を打開するためにも宮崎にもっとアバウトに入れるシーンがあっても良かったように思う。
MF 16 玄 理吾
ハーフタイムからピッチに入り、司令塔としてすぐさま試合をハンドリングした。加入後最長のプレータイムとなった。
FW 42 南野 遥海
同点直後には南野らしい強烈なミドルシュートでゴールを脅かした。小林体制の初戦以降ゴールがなく、残留に向けて彼のゴールが待たれる。
FW 45 山本 桜大
同点に追い付いたシーンではラファエルの強めの縦パスを上手くコントロールし、逆サイドの福島に繋げた。
FW 9 イスマイラ
機動力を生かして後ろからボールを引き出した。同点シーンではイスマイラが飛び込んだ後ろでラファエルがフリーで合わせた。
MF 6 大森 渚生
少ない時間では見せ場は作れず。
最後に
栃木にとって間違いなくダメージの大きい敗戦となっただろう。試合を通して甲府を押し込み、甲府が前に圧力をかけてきたタイミングでも上手く繋いでいなし、ピンチを未然に防ぐ守備も試合全体を通して見れば安定していた。ピッチ上のパフォーマンスは概ねプラン通りだったはずである。それだけにミスと隙から生じた失点は痛恨。自分たち次第で避けることのできる失点を2つも重ねてしまっては勝ち点を得ることは難しい。
残り10試合で残留圏内と5ポイント差はあの2019年と同じ状況である。あの年はラスト10試合で勝ち点を15ポイント積み上げ、最後の最後に得失点差によって残留に漕ぎ着くことができた。まさに奇跡の残留だったが、得失点差に期待できない今季は実質6ポイント差と考えた方がよく、2019年以上の奇跡が起こらなければ難しい状況である。次も敗れると実質9ポイント差に広がる可能性さえある。まさに正念場。厳しい状況ではあるが、内容面の向上を結果に結び付けて現状を打破することに期待したい。
試合結果・ハイライト
2024.8.25 19:00K.O.
栃木SC 1-2 ヴァンフォーレ甲府
得点 16分 佐藤 和弘(甲府)
77分 ラファエル(栃木)
90+1分 鳥海 芳樹(甲府)
主審 石丸 秀平
観客 5654人
会場 カンセキスタジアムとちぎ