スターティングメンバー
栃木SC 3-4-2-1 19位
リーグ戦中断前の岡山戦は1-1のドロー。仙台戦、山形戦と続いていた連敗を止めたものの、先制直後に追い付かれる悔しいドローとなった。前節からのスタメンの変更は2人。今夏加入の坂が右CBに入り、福島は右WBにスライド。出場停止明けの神戸が中盤に入り、奥田は本職のシャドー起用となった。ベンチには新加入の玄理吾が入った。
ロアッソ熊本 3-3-1-3 15位
前節はアウェイで千葉に勝利し、降格圏と勝ち点差を4ポイントに広げた熊本。エース石川と16歳の俊英神代に得点が生まれ、ホームに強い千葉を複数得点&無失点で叩いてみせた。前節からのスタメンの変更は伊東→藤井の1枚のみ。G大阪から加入した唐山は2試合連続で先発し、古巣対戦の松岡はベンチスタートとなった。
マッチレビュー
■持つ熊本と持たない栃木の駆け引き
3週間ぶりのリーグ戦は残留ラインを間に挟む両者によるシックスポインター。栃木にとっては降格圏脱出に向けて落とせない勝利必至の試合となった。
試合は互いに自分たちのスタイルを色濃く押し出す展開でスタート。選手間の距離を縮めてボールを細かく繋ぐ熊本に対して栃木は前からプレスをかけていく。
この日の熊本は右WBの大本がかなり低めのポジションを取ることが多かった。よって栃木は川名が深いゾーンまで寄せることになるのだが、3バックとほぼ同ラインまで低いため十分に圧力をかけることが出来ない。大本を起点にしたビルドアップから川名の背後でラファエルがスペース勝負を強いられたのが前半6分のシーン。熊本はここでの機動力の差を生かしたチャンスメイクを準備してきたようだった。
このプレーで左足を痛めたラファエルは前半10分に負傷交代。中断明け初戦の出鼻をくじかれた栃木だったが、そうした暗雲をすぐさま振り払ったのは代わって入った大森だった。前半12分、ハーフライン付近からの川名のFKを左足で合わせて先制に成功。大森はファーストタッチをゴールに結び付けてみせた。
先制点によって落ち着くことができた栃木はここから次々とプレスを機能させていく。とりわけ前線からの守備で効いていたのがこの日は右サイドで起用された大島。対面の左CBに対するプレス強度とコース限定が冴えており、大島が寄せた次の局面でボールを回収する場面が非常に多かった。
前半17分には岩下→豊田のパスを福島が迎撃し、最後はゴール前で青島がミドルシュート。続く前半18分には豊田→藤井のパスを青島が奪い、自ら左足でフィニッシュ。大島の限定によって後ろが迎撃できたシーンであり、ゴール前では前節得点を挙げた青島の思い切りの良さが表れたシーンだった。
このシーンにも見られたように栃木はサイドに誘導してからボールにアプローチするというプレスの順序がしっかり整理されていた。言わずもがな熊本は保持に長けており、同じく保持に長ける山形に対して栃木はプレスが空転したという苦い経験がある。まずは片方のサイドに追い込むことで逃がさずに奪い取りたいという狙いだっただろう。
また、システムの噛み合わせで見れば、熊本はWBとシャドーの5枚が流動的に中盤に関わるため、栃木としてはプレス時にアンカーを捕まえるためボランチを押し出すのはリスクが大きい。よって、熊本の3バック+アンカーの4枚に対して栃木は前線3枚で見なければならず、サイドに追い込んで局面で圧縮しなければならないという状況であった。これが上手く機能していたのがショートカウンターを連続して発動できた時間帯だった。
こうして守備からリズムを掴んだ栃木だったが、飲水タイム以降に主導権を掴んだのはホームの熊本だった。
熊本が修正を施したのは右サイドからの前進方法。立ち上がりは大本が低い位置を取ることで釣り出した背後を狙っていたが、栃木の左CBが大森に変わり、また平松のカバーリングを破れないと見るや、今度は大本を高い位置に張り出すように変更。代わって中盤には唐山が顔を出すことで右サイドの前後の関係性を入れ替えてきた。
これに対して栃木は唐山への対応がなかなか定まらなかった。対面の大森が出て行くには距離が遠く、その前の川名が寄せれば大森がサイドにスライドするため平松のカバー範囲が増え、長いボールへの対応で後手を踏んでしまう。神戸が寄せれば中央の藤井や上村への対応が遅れてしまう。
さらには、熊本はアンカーの上村を最終ラインに落とすことで右CB大西をフリー化。ここに対しても奥田が寄せるべきなのか、川名が寄せるべきなのかはっきりせず、リアクションでの対応から背後を取られてクロスを許す場面が多かった。
ただ、ゴール前では身体を張った守備で熊本の攻撃を凌ぐことができていた。カバー範囲の広がった平松はセーフティーに切りながら状況をリセットし、神戸はシュートコースに身体を投げ出していく。福島は逆サイドから上がってくるクロスに対応し、GK丹野はビッグセーブでゴールマウスに仁王立ち。前半終盤はピンチの連続だったが、全員守備でなんとかゼロで凌いでハーフタイムを迎えた。
■堅調な守備でゴールマウスに鍵をかける
栃木は後半開始とともに選手を交代。奥田に代えて森を左WBに投入し、川名を左シャドーに一列スライド。前半の飲水タイム以降に後手を踏んだ左サイドの守備に手を打っていく。
熊本のアンカーを下ろす4枚回しに対しては左シャドーの川名が深追いするのではなくステイするよう修正。宮崎が江崎と上村を両睨みしながら左右CBにボールが渡ったタイミングでシャドーがプレスのスイッチを入れていく。選手交代とピッチ上のアプローチによってまずは前半終盤のような防戦一方を免れることができた。
しかし、ハイプレスを抑えてミドルプレス気味にしたことで高い位置でボールを奪う機会は減少。熊本は前半同様に下りて受ける唐山に加えて左WBの豊田がボランチ化することでボール保持をさらに安定させていく。栃木としてはいざプレスのスイッチを入れても奪い切れず、ようやくマイボールにしても低い位置からの押し上げに苦戦した印象だった。
こうして再び熊本ペースで試合が進むことになったが、次の得点が生まれたのはアウェイチームだった。熊本の背後へのボールを坂が弾き返すと、これに反応した宮崎が相手DFの処理ミスを誘い、右サイドを突破してCKを獲得。このCKを大森が供給すると、鋭い軌道のボールに宮崎がドンピシャで合わせた。宮崎の対熊本2戦連発となるゴールで栃木がリードを広げることに成功した。
2点目を挙げてからの栃木は交代選手を中心に非常に落ち着いた試合運びができていたと言えるだろう。2点目が入る直前にピッチに入った南野は前からの守備だけでなく、フィジカルを生かした強引な前進で前線にエネルギーをもたらしていく。同時に入った玄理吾も守備強度を保ちつつ、攻撃では随所に巧さを発揮。左サイドでは森が大島とタッグを組み、前半猛攻にさらされた唐山と大本を無効化することができていた。
これを受けて熊本は右サイドを修正するのではなく、左サイドに松岡、トップ下に伊東を投入。ボールの前進を左サイドに任せ、唐山がフィニッシャーに徹することができるよう微調整を図っていく。
栃木としては右サイドを破られてクロスを上げられるシーンは少なくなかったものの、エリア内のクロス対応は非常に集中していた。唐山と対峙した大森はクロスに対して先にポジションを取ることで弾き返し、マッチアップの相手が長身の大﨑に変わってからも目立ったチャンスを作らせなかった。
試合はこのまま2-0で終了。熊本に23本ものシュートを放たれたものの、前半の終盤以外はピンチシーンはなく、充実した内容と結果で再開初戦を勝利で飾ることに成功した。
選手寸評
GK 27 丹野 研太
43分のビッグセーブはまさにチームの危機を救ったシーンだった。
DF 2 平松 航
左CBの背後を狙う相手に対してスライドして手堅く対応した。劣勢の時間帯もラインを高く保ち続けた。
DF 13 坂 圭祐
ボールを切る判断や長いボールを正確に届ける技術はさすがJ1でやってきた選手。
DF 33 ラファエル
左足を痛めて前半10分に交代。筋肉系のトラブルでなければよいが。
MF 18 川名 連介
正確なフリーキックで大森の先制ゴールをアシスト。サイドを破る仕掛けなど攻撃面で良さを見せたが、守備時の立ち位置に迷う場面が多かった。
MF 22 青島 太一
チャンスと見るやボールを奪いに行く判断と出足が速かった。バイタルエリアで迷いなくシュートを振り切れており、前節の良い感触は継続している印象。
MF 23 福島 隼斗
大島と協力して相手の受け手を厳しく迎撃した。対面の相手が状況によって変わるなかで90分を通して卒なく対応し、地元凱旋マッチを見事勝利で飾った。
MF 24 神戸 康輔
ゴール前の局面で身体を張るシュートブロックやセカンドボールへの出足の速さなど特に守備面での存在感が大きかった。
FW 15 奥田 晃也
ようやく本職の前線で起用されたが、奥田らしいタメを作るプレーやアクセントを付けるプレーは少なかった。熊本の保持に対して守備がハマらず、ハーフタイムにピッチを退いた。
FW 19 大島 康樹
前線守備のプレス強度・コースともに申し分なく、大島の後ろでボールを回収する場面が何度も見られた。
FW 32 宮崎 鴻
ロングボールに対して先に飛んで身体を当ててくるなど熊本DFに相当警戒されたが、自ら獲得したセットプレーを頭で叩き込んだ。
MF 6 大森 渚生
スクランブル投入からのファーストタッチをゴールに沈めると、後半には宮崎のヘディング弾をアシスト。ようやく得点に関わるスタッツに数字を付けることができた。
MF 10 森 俊貴
後半開始からピッチに入り、左サイドの守備を引き締めた。福島のWB起用によりライバルが増えたが、両サイドをこなせる起用さは森の強み。
MF 16 玄 理吾
加入後初出場。ボールに関わる回数は決して多くなかったが、随所に巧さを見せた。
FW 42 南野 遥海
投入直後から鋭いプレッシングとフィジカルの強さを発揮し、全体の強度を一段階引き上げた。
FW 29 矢野 貴章
短い出場時間で出来る限りの追い回しを見せた。
最後に
メリハリの利いた守備対応を最後まで切らすことなく完遂できたことがこの日の最大の勝因と言えるだろう。熊本のボール保持は確かにクオリティが高く、ともすれば山形戦のように噛み合わずに後手を踏む可能性もあったが、プレスとブロックを適切に使い分け、ゴール前での守備対応も非常に堅かった。呼ばれなくなって久しくなっていたが、この日のチームはまさに「堅守栃木」と呼ぶに相応しい姿を見せてくれたと言えるだろう。
セットプレーから得点を重ねることができた点も非常にポジティブ。長身選手を多く擁しながらセットプレーを生かせないもどかしさを抱えてきたが、この大事な試合でいきなり2発飛び出した。攻撃回数が決して多くないチームだからこそセットプレーの重要性は高い。ジリジリとした終盤戦ではセットプレーの1点が試合を分けることも往々にしてあるだけに、得点源として引き続き磨いていきたいところである。
試合結果・ハイライト
2024.8.3 19:00K.O.
栃木SC 2-0 ロアッソ熊本
得点 12分 大森 渚生(栃木)
62分 宮崎 鴻(栃木)
主審 清水 修平
観客 5178人
会場 えがお健康スタジアム