栃木SCのことをより考えるブログ

主に栃木SCの試合分析(レビュー)をします。

【起用法と戦い方を巡る苦悩】J2 第32節 栃木SC vs アビスパ福岡(●0-1)

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スターティングメンバー

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栃木SC [3-4-2-1] 21位

 前節は岐阜との裏天王山をゴールレスドローで終えた栃木。第28節町田戦(△0-0)以来のクリーンシートで連敗は止めたものの、9試合連続で勝ちがなく、さらにはここ4試合無得点が続いているなど状況は明るくありません。残留争い直接対決となる今節は左WB瀬川がスタメン復帰。メンデスに変わりユウリが2試合ぶりにベンチ入り。

 

アビスパ福岡 [3-4-2-1] 19位

 シーズン途中に久藤清一監督をコーチから昇進させたものの、躓いた出足を修正できず残留争いから抜け出せない福岡。それでもリーグ戦2巡目となった第22節からの10試合で4勝を上げるなど、一時期の不調からは脱した印象があります。ウォンドゥジェ、菊地、城後のスタメンは前節長崎戦(●0-1)からの変更点。前回対戦でゴールを決めた石津は負傷離脱中、實藤は出場停止。

 

前半

栃木の逆手を突いていく福岡

 互いにロングボールを蹴り合う展開で始まった立ち上がりでしたが、栃木は前進するための最優先手段として、福岡は栃木の前からのプレッシングを回避する手段として、ロングボールを多用しているように見えました。

 栃木のプレッシングはゾーン1で構える3CBまで向かっていく攻撃的プレッシング。[3-4-2-1]どうしの噛み合わせによりピッチ全体でマッチアップになることから、判断の早さ、アプローチの強度・スピードは非常に高い水準で行えていました。特に、右シャドーの三宅は積極的な守備スプリントで対面の左CB篠原を牽制。スポーツビッグデータメディア『SPAIA』によると、右CBウォンドゥジェに比べて篠原の方が高い前方パス割合を記録しつつも、その成功率は約20%も低かったことが分かります。ミラーゲームでは1vs1に敗れれば間違いなく後方は数的不利に陥ります。プレッシングに捕まるくらいであればセーフティーに前方へ蹴り出してしまおうという狙いがあったのかもしれません。

 

 立ち上がりから栃木が積極的にプレッシングをかけたことから前方へのロングボールが増えた福岡。福岡はCF城後をターゲットにポストプレーや背後への抜け出しを狙いますが、栃木CB乾とCHへニキが決まって挟んで対応するためあまりボールを収めることはできませんでした。対する栃木もセカンドボールを拾えればサイドから素早い前進を図りますがゾーン3を攻略するには至らず。競り合いの迫力とは裏腹に、両チームともフィニッシュワークに苦戦する展開となりました。

 

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 互いにゴール前での動きが少ない立ち上がりでしたが、前半9分、先制点はアウェイチームにあっさりと訪れました。

 栃木は例のとおり前からのプレッシングを敢行します。福岡CB菊地はバックパスを受けると大黒に寄せられる前に右サイドに張る松田に向けてロブパスを供給。左CB森下が一瞬の隙を突かれ背後を取られると、松田のクロスに城後が合わせて先制に成功。前川とともにペナルティエリア内の数的不利を剥がす巧みな動き出しからゴールを決めた城後は出場したここ7試合で4点目。前からのプレッシングによりWB瀬川とCB森下の繋がりが希薄になったところを見逃さなかった福岡が先手を取ることに成功しました。

 

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 またしても早々に失点を許してしまった栃木。前線へのロングボールから打開を図ろうとしますが、ターゲットのへニキは福岡CBの厳しい対応にボールを収められず。へニキが前線に上がると生じるCH古波津の脇のスペースを埋め切れないため、局所的な数的不利からセカンドボール争いで後手を踏む展開が続きました。

 

 前半25分を過ぎた辺りからはポジティブトランジションから何度かペナルティエリア内に侵入することができた栃木。前半26分にはCB森下のボール保持に合わせて大黒の引いて受ける動きと三宅の縦へのランニングから福岡の最終ラインとMFライン付近にギャップを作るような形や、前半30分には浜下から3CBの背後に抜け出した大黒を目掛けたロングボール(→GKセランテスの飛び出しによって阻まれる)など、これまで長らく課題となっていた守備から攻撃へと切り替わったタイミングでの最初のパスから効果的に福岡ゴールに迫るようなシーンを作ることができました。

 再現性をもって行うことができれば大きな武器にできるところですが、福岡の粘り強いディフェンスにかき消された印象もありました。大黒の引いて足元で捌くポストプレーは前節岐阜戦では意図的に行われたプレーでしたが、この試合ではほとんど見られませんでした。出し手と受け手の信頼関係があって初めて成立するプレーですが、キムヒョン不在時に有効となる前進手段なだけに一つの選択肢として完成度をより高めてほしいところです。

 

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 トランジションから好機を演出される場面もあった福岡でしたが、少しずつ栃木の出足に慣れてくると、前半30分以降は後方からのビルドアップでマッチアップをズラしながら前進するようなシーンもありました。

 特に、[5-2-3]でプレッシャーをかける栃木に対して大黒の背後に顔を出す2CHのポジショニングは秀逸でした。人への意識が強いへニキをおびき寄せられれば、ただでさえ空きやすいCH脇のスペースをシャドー松田がより活用することができます。この試合では見られませんでしたが、松田が下りたスペースに対してWB石原やCF城後がダイアゴナルに潜り込む動きを交えられるとさらにチャンスが広がるように見えました。いずれにせよ、自分たちから能動的にマッチアップを崩していくことで栃木の守備陣形を混乱させようという狙いが窺えました。

 

 前半は福岡が1点を奪い0-1で折り返し。

 

後半

後半の選手起用で一転した流れ

 後半も前半同様、セカンドボールの回収率で上回る福岡が主導権を握る立ち上がりとなりました。前述のとおり古波津の脇のスペースがセカンドボールの回収場所。栃木は自陣に深く押し込まれることからマイボールにしても最終ラインで時間を作ることができず、へニキが上がる前にボールをリリースするため大黒が孤立してしまうシーンが目立つようになりました。

 

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 しかし、後半10分に三宅に変わりキムヒョンが投入されると流れが一転します。

 それまで前線へのハイボールのターゲットはへニキが担っていたため、どうしてもセカンドボール争いで歪な形から数的不利を強いられていた栃木でしたが、キムヒョンがメインターゲットになると無理に陣形を崩す必要なくプレーできるため、キムヒョン自身の強さも相まって、栃木が押し込めるようになりました。

 後半16分には、GKユヒョンからのロングボールをキムヒョンが落とすと、ペナルティエリア周辺で拾った西谷和希が大黒へパスを供給。後半20分には、同じくGKユヒョンからのロングボールをキムヒョンが前方にフリックし、大黒がシュートに持ち込んだシーン。後半22分には、キムヒョンのポストプレーを起点とした平岡のシュートなど、前線のポストプレーヤーを確保できたことで次々とチャンスを作り出すことに成功。このままでは居ても立ってもいられない福岡は城後に変えて森本、鈴木に変えて山田を投入することで、前線からの運動量と最終ラインの高さを補填する交代策を見せましたが、形勢を変えるほどの采配にはなりませんでした。

 

 [5-4-1]で耐える福岡は、ボールを回収すると素早く前線へ供給しますが、味方のサポートが少ない森本は栃木3CBに簡単に対応され、また頼みの綱のカウンターもゾーン3へは送り届けられず、フィニッシュまで持ち込むことができません。イライラの募った松田が不要なイエローをもらってしまうなど、栃木のロングボール戦術を前に反撃の糸口を見い出せない福岡、という構図が色濃く表れた展開となりました。

 

 効果的な攻め筋を見つけながらも最後の一手が甘い栃木。こういう展開こそ被カウンターが脅威になるところですが、守備へ切り替わったときのプレッシングの意識は相当高く、チャンスを作れない福岡の振る舞いは良くない時の栃木を見ているようでした。

 終盤栃木はCB森下を前線に上げてパワープレーを行いますが、最後までゴールネットを揺らすことはできず。0-1。後半主導権を握りながらも、前半の1失点が重くのしかかる敗戦となりました。

 

最後に

 徹底したロングボール戦術をやり切ったと言える90分でしたが、その結果として、前半のロークオリティが際立つ試合展開となってしまいました。前後半の大きな違いは大黒とキムヒョンを使い分けた1トップの選手起用でしたが、個人的にはそれ以上に、セカンドボール争いにおける中盤中央の強度の差が争点だったのではないかと思います。

 へニキはその渦中で戦う選手の一人です。おそらく今の戦い方を続けるうえで、無尽蔵のスタミナとフィジカルを兼備するブラジル人を外すことはできないでしょう。であれば、彼をチームの中心に据えて全体を整備し直す必要があると思います。最も力を発揮できるポジションでの起用、そこから発生しうる可能性に対応できるだけの攻守のメカニズム。周囲の選手とのユニットの関係性も重要ですし、前提として対戦相手との噛み合わせも考慮する必要があります。

 個人的には第30節水戸戦(●0-3)でのチャレンジが一つ鍵になるのでは考えていますが、田坂監督がどのような考えを持っているのかは分かりません。残された試合は10試合。もう一戦も落とせないですし、次節が20位鹿児島であれば尚更です。何とかしてチームの最適解を見つけ出し、残留に向けて大きなヒントと自信を掴むことができるような一戦に期待したいと思います。

 

試合結果

J2 第32節 栃木SC 0-1 アビスパ福岡

得点 9’城後(福岡)

主審 山本 雄大

観客 4,242人

会場 栃木グリーンスタジアム