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【プランA´が試合を握る鍵に】J2 第39節 栃木SC vs レノファ山口FC(●0-1)

  今回は第39節レノファ山口FCとの試合を振り返ります。

 

 

 

 両チームのスタメンと配置はこちら。

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 我らが栃木SCは現在17位。前節は甲府に最終盤に追い付かれてドロー(△2-2)に終わったが、他会場の結果によりJ2残留を決めた。大混戦のJ2リーグでまずは最低限のノルマを達成できたことに、栃木に関わる多くの人がホッとしているだろう。

 しかしここからは来季に向けたサバイバルが始まる。クラブにとっては今季目標にしていた11位、選手にとっては来季の契約が懸かっている。消化試合はないことをプレーで示してもらいたい第1戦目になる。

 

 今節の対戦相手はレノファ山口FC。前回対戦時は2-5の大敗を喫し、これを機にシステムを4バックから3バック(5バック)に変更した。そして次の試合で讃岐に勝利して勝ち点3を掴むことになるわけで、栃木にとっては一つのターニングポイントとなった試合である。

 その山口について、夏の移籍市場で攻撃の核だった小野瀬が抜けた影響は大きかったが、ここ最近は徐々に良さを取り戻してきている印象がある。前回対戦でゴールを決めている高木も出場停止から復帰し、プレーオフ進出へ望みをつなぐ一戦に臨む。

 

 

前半

序盤は前プレの応酬により中盤でのせめぎ合いに

 栃木は3-4-2-1、山口は3-3-2-2のシステムで入ったこの試合。両者とも3バックを採用したため、マッチアップする対面の相手が大方はっきりする噛み合わせになった。しかし中盤の構成は多少異なっているため、ここが試合の中でどう働くかが一つの注目ポイントになってきそうだ。

 

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 キックオフ後のロングボール合戦が終わると、まずは山口がボールを保持する形に。山口はボール保持時は、3バックの両側をそれぞれ開かせてWBに高い位置をとらせた。

 栃木は山口の2トップには3CBが、2IHには2CHが、両WBには対面のWBが対応した。後方の対応関係をはっきりさせたことで山口の前線の選手から事前に自由を奪い、完全にはめ込んだ状態で前プレを開始した。山口の左右のCBにボールが入るのを合図に、シャドーの選手が内側を切るようにプレッシングをすることでボールをサイドに誘導し、WBの前進とシャドーの二度追いで囲い込んでマイボールに、という構造になっていた。

 このとき大黒はCBからのパスコースを切るようにDHワシントンをマーク。左右のCBから直接ワシントンに斜めのパスが入ることを防ぎ、サイドにボールを回させるようなポジションを取った。システム上中央は山口の選手が多いため、サイドで奪い切ろうという意図があったのだろう。案の定、CBの中央の坪井へのプレッシングは遅れるが、ワシントンへのコースは切っているため、ボールは再び左右のCBへ。そうしたら栃木は再びサイドに追い込むという形で山口のビルドアップを制限していった。

 山口は後方でのビルドアップが安定せず、苦し紛れに前線にロングボールを供給。ただ、高さでは栃木に分があるため収めることはできず。カバーリングに回ることの多かった福岡やCHが回収することで、山口の攻撃を抑えることに成功し、栃木はマイボールの回数を増やすことができた。

 

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 ただ、山口も前プレには前プレで対抗。栃木の3CBに対して山口は2トップ+IHの片上げにより枚数を合わせてプレッシングを行った。栃木はボールサイドのWBやIH裏へシャドーが下がってボールを引き出す動きを見せたが、ここには山口の選手が迎撃守備で対応した。特に右CB前の前方への意識は高く、西谷和はなかなかルックアップして前を向くことができなかった。

 結局栃木も地上戦でビルドアップはできず(もとからそれほど固執してはないが)、いつものへニキへのロングボール戦法に。事前のスカウティングによりへニキがロングボールのターゲットになると分かっていた山口は、へニキに対してワシントンが徹底マークをした。栃木は競り合いに勝てなくてもセカンドボールを拾えればよかったが、多く選手を配してきた山口の中盤の前にボールを回収できず、栃木もビルドアップに苦しむ序盤になった。

 

 

山口は後方の選手の位置を動かしてビルドアップを安定化

 序盤の前プレの応酬後は、栃木のボール奪取のメカニズムにシャドーの二度追いが含まれ、またへニキとの競り合いはワシントンが跳ね返すことが多かったため、徐々に山口がボールを保持する場面が増えた。

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 序盤は栃木のプレッシングにCBやWBが自由を与えられず苦しんだ山口だったが、前半15分過ぎから後方の配置を微修正。DHワシントンが最終ライン付近まで下がり、左右CBを押し出す形にシフトした。

 図は山口の右サイドでのシーンだが、ワシントンが坪井の右側に落ちて前が上がることで、第1プレス隊の一角としてビルドアップ制限に貢献していた西谷和を押し込んた。中盤の数的優位を生かしてプレッシャーラインを下げさせ、後方でのボール保持は安定するようになった。

 前プレで相手を嵌めてショートカウンターを狙っていた栃木は、この山口の修正により狙いを掻き消されることに。なんとか勢いを維持しようと、最終ラインに加わるワシントンに対してCH古波津がプレッシングを行ったが、山口は古波津が中盤からいなくなったスペースを狙って両IHがへニキ脇に位置取り、CB前を経由して栃木の中央のエリアに侵入するなど、徐々に危険なエリアでプレーすることができるようになってきた。

 

勿論中央を突かれたくない栃木は、ここでCHを含め全体的に前プレよりも自陣でのブロックを選択。全体のラインは下がってしまったが、ブロックの前でならプレーさせてもいいと割り切った。しかし、これにより山口の攻撃を受ける展開になった。

 山口は前線でボールロストをしても栃木の低いラインの前に全体を押し上げられていたため、即時奪回でマイボールの時間を増やすことに成功。前半中盤以降は一方的に攻める展開となり、PKから先制点を奪った山口が1-0のリードで前半を終えた。

 

 

後半

相手を見てボールを運ぶ

 前半は山口のビルドアップの微修正により苦しんだ栃木。後半なんとか巻き返すべく再び前プレを行ったが、山口はそれを躱しながら生じたスペースをうまく活用して攻撃を作っていった。

 

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 62分のシーン。直前の交代でアレックスを投入し、システムを山口と同じ3-3-2-2(5-3-2)に変更。中盤の構成を合わせることで守備の基準点をはっきりさせ、よりプレッシングが噛み合う形にしたが、これが裏目に出てしまったシーンである。

 栃木は中盤の選手が山口の後方での繋ぎに対してプレッシング。アレックスもワシントンをケアしながら、同サイドに人数をかけて奪い切ろうとした。

 端山が三幸へのコースを切りながら佐藤をチェックしに向かうと、山口は佐藤からワシントン、前を経由し逆サイドの右WB高木へ。アイソレーションしていた高木はどんどん前方へボールを運び、栃木のプレッシング隊は長い距離を戻ってリトリートすることとなった。同サイドでボールを奪うのであれば、どこか中央でフタをして、ワシントンより向こう側のサイドにボールを運ばれないようにする必要があった。しかし、一瞬のスキと言うべきか、プレスのベクトルを前へ向ける意識が強く、サイドに追い込むことができなかったため簡単に逆サイドへの展開を許してしまった。

 

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 同様の仕組みは71分にも見られた。同サイドに押し込むのであれば、西谷和が三幸、古波津が髙橋をケアした方がバランスがいい。しかし前述と同じ理由で今度はDH裏が空いてしまい、山口はそのスペースにワンタッチのパスでボールを運び、前プレ回避とライン間侵入を難なく遂行した。

 前半長い時間最終ラインを低めに設定していたDFの選手と、後半はどんどんプレスをかけたい中盤より前方の選手の間で意識に差があったのかもしれない。間延びしやすい時間帯でもあったが、いずれにせよ栃木は取りどころで奪い切れず、出方を見ながら裏を突く山口の選手とボールの動かし方に対応することができなかった。

 

 

最後まで攻撃の形が作れなかった栃木

 栃木は83分に古波津に代えて西谷優希を投入。端山をDHにスライドさせた捨て身の攻撃布陣に変更した。しかしここまでボールが渡る場面は少なかった。山口の選手は80分過ぎでも落ちないプレッシング強度を維持し、栃木のCBやMFから自由を奪いボールをサイドへ追いやった。

 栃木は最後はパウロンをパワープレー要員に上げて打開を図ったが、このまま試合は終了。0-1で敗れ、これで5試合勝ちなしとなった。

 

 

最後に

 山口の前半のビルドアップ修正は見事だった。組織のメカニズムを大きく変えずに流れを引き寄せたプランA´とも言うべき采配を序盤のうちに表現した霜田監督の観察眼と実行力は素晴らしいものであった。これにより栃木は守備の起点を失い、山口は試合の流れを掴むこととなった。

 次の対戦相手はカマタマーレ讃岐。事実上の降格圏が決まった相手だが、J3との兼ね合いで残留の可能性のある21位を何が何でも死守したいだろう。直近の町田との試合では、優勝争いをする相手にも引けを取らずにドローを得ていた。キャラクター的に一点を争う難しい試合になると思われるが、良い形でこのトンネルから抜け出したいところだ。

 

 

↓試合結果(Jリーグ公式)↓

 

↓試合ハイライト(YouTube)↓