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【残留を手繰り寄せた一戦】J2 第38節 栃木SC vs ヴァンフォーレ甲府

 さて、今回は第38節のヴァンフォーレ甲府戦を振り返ります。

 

 

 

 両チームのスタメンと配置はこちら。

 

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 ホームの栃木SCはお馴染みの3-4-2-1。大宮と対戦した前節は、ライン間で大前を自由にさせてしまい、堪らず与えたファールからFK一発に泣いた。後半前プレから勢いを取り戻したものの、大宮のソリッドな4-4-2の守備の前にゴールを奪えず、3試合連続でノーゴールとなってしまった。

 前節からのスタメンの変更は2人。西谷優希と久富に代わって、浜下と川田がそれぞれ2試合ぶりに入った。

 

 対するアウェイのヴァンフォーレ甲府は、ここ6試合負けなしでその間失点も1と、プレーオフ圏滑り込みに向けてラストスパートをかけてきた印象だ。ミッドウィークに徳島戦を戦っているが、後半AT弾による劇的勝利は、試合の疲れを吹き飛ばすだろう。

 前節メンバーを外れていたバホスがスタメンに復帰し、変態スルーパスで有名な小塚(褒め言葉)がシャドーに入る充実の布陣で、過去負けなしと相性の良い栃木戦に臨む。

 

 

前半

ミラーゲームの利点を生かした栃木

 両チームとも3-4-2-1の同じシステムで入ったこの試合。栃木はまずは序盤をゼロで凌ぐため、甲府がボールを持ったときはプレッシングでのボール奪取よりも自陣でのブロック形成を優先していた。

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 ボールが甲府に渡ると、素早く両WBが下がって5バック化。その前をMFの4人が固めた5-4-1のシステムで、中央に入るボールをしっかりシャットアウトする形を作った。まずはブロック守備からという共通理解があったためか、へニキの前プレも序盤はあまり見られなかった。ライン間を使われた前節の影響も一因だろう。

 これにより甲府は、守備の薄い大黒の脇からビルドアップを開始。保持時5トップ気味に入った前線の選手に対してCHを中心にボールの出し入れを行った。

 しかし、その先が上手くいかなかった。ロングカウンターから小椋のミドルシュートで先制したものの、狙い通りの試合運びができていたのは栃木だった。ミラーゲームによりマッチアップする相手が明確だったためである。

 

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 前半3分のシーン。右WB道渕がCH小椋とのパス交換のために少し下がると、その裏を右シャドーの曽根田がランニング。悪くてもCKや高い位置でのスローインの獲得を狙ったペナ横への侵入には、対面の左CB福岡が徹底マークでぴったり付いていった。

 この時中央では、バホスと小塚の位置が入れ替わっていたが、シンプルにマークを受け渡して対応した。別の時間帯にも小塚のポジショニングに応じて選手の配置が入れ替わる場面があったが、基本的な構図が変わらないため、栃木の守備への影響はそれほどなかった。

 

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 次に前半15分のシーン。左WBの高野が引いて川田を釣り出し、その裏のスペースにCH佐藤が走り込むと、そこにはへニキが最終ラインまで付いていき対応した。

 他の選手とポジションの入れ替わりを伴わない個人の大きな動きに対しては、マッチアップ関係にある選手が最後まで見ることも一つの決まり事とされていたようだ。

 

 いずれにせよ、栃木は甲府にボールを持たれる時間が多くなったとしても、対面の敵がはっきりしていたため、守備の基準点を見失うことはなかった

 この構図のなかで生きたのがパウロンと福岡(栃木の左右のCB)である。甲府のCHやCBから縦パスが出るタイミングで受け手になる対面のシャドーに対してチャージ、あるいは先にボールに触れるなど、迎撃守備をベースとすることでライン間で甲府の選手に自由を与えなかった

 そのままボールを奪い一気にショートトランジションで攻撃へ、という形も何度も見られ、前半はまさに「良い守備から良い攻撃へ」を体現できていた内容だった。

 

 

良い距離間で素早く囲い込む

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 栃木は守備からリズムを掴むことで全体としてラインを高めに、そしてコンパクトに保つことができた。そのため敵陣でのボールロスト時も周囲の選手が素早く囲い込んでボールを奪い返し、再攻撃に移行することができていた。

 1点目に繋がるFKを獲得したシーンや、前半14分大黒の反転からのシュートに至る直前の夛田のインターセプトは、チームが高い位置で良い距離間を維持していた結果である。

 甲府は失点以降、栃木のブロックの外側でボールを回す時間が長くなり、引っかかると5-4ブロックを形成した。プレッシングもミドルゾーンに侵入されるまでほとんど行わず、全体的に下がって構える姿勢になっていた。そのため栃木は左右のCBが攻撃に参加する回数が増え、ボールロスト時に囲い込む質も量も高まっていった。

 

 前半はこのまま1-1で終了。終始栃木がペースを掴み、甲府のシュートを1本に抑える上場の内容となった。

 

 

後半

甲府がライン間を使い始める

 前半なかなか前線で起点を作れなかった甲府は、微修正を施して後半に入った。

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 図にするとこのような形に。前半に比べて小塚が栃木のCH付近でプレーすることが増えていた。バホスと曽根田が前線で捕まっていること自体は前半と変わらなかったが、小塚が中盤に参加することで中盤で数的優位を作り、シンプルにワンタッチで捌くことで中央から攻撃にアクセントをもたらした

 上野監督からの指示なのか、本人の即興なのかは分からないが、この微修正はジワジワと栃木にダメージを与えた。58分バホスのシュートまで至ったシーンでは、へニキと古波津が同時に前プレをしたタイミングを見計らって引いてボールを受け、ワンタッチで小椋へ出した。リスク覚悟で迎撃を狙った服部を嘲笑うかのような絶妙な立ち位置とプレーの選択により、甲府は徐々にバイタルエリアを使う回数が増えていった。

 

 

3センターで対応した栃木

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 嫌な雰囲気が漂い始めたところで、栃木は交代により応急処置を図った。62分、へニキに代えてアレックスを投入。3-3-2-2(ほぼ5-3-2ではあるが)に変更したことで甲府と中盤中央では同数になった。後半ここまで攻撃の起点になっていた小塚には1アンカーになった古波津が対応し、このエリアで小塚が受ければ服部と2枚で挟み込めるような形に変化した

 3センターになると生じる両IHの外側のエリアは、両WBの全力縦スライドで対応。アレックスもある程度下がって守備に走ってくれていたが、大黒サイドでは西谷和と夛田の2人が守備に奔走することが多かった。特に夛田の上下動は左サイドを支える生命線となっていた。

 

 システムを変えたことでペースを取り戻した栃木は、71分待望の逆転弾を上げる。大黒が甲府CB山本のミスを誘い奪ったボールを右足アウトサイドでシュート。このシュートがGK岡のニアサイドをすり抜けゴールネットを揺らした。難なく決めていたが、相当なアイデアとスキル、そしてそれを実行するメンタリティはさすが大黒様である。DAZN週間ベストゴールにノミネートされるのも納得のファインゴールで勝ち越しに成功した。

 

 

最後は一瞬の連続から

 81分古波津に代わり菅、85分大黒に変わり西谷優希が入った。フレッシュな選手を投入し、守備の強度を維持することで逃げ切りを図った。しかし試合はこのままでは終わらなかった。

 後半アディショナルタイムに入った92分、高野のクロスから中央にいたジエゴがフリーでヘディングシュートを決めた。このシーンを振り返ると、まず起点となったCB山本へのアレックスのプレスが多少甘かった。CHへのコースを切りカバーシャドウで素早く寄せられれば、アイソレーションしていた高野へボールが渡ることはなかったかもしれない。川田もアイソレーションしていた相手にこの時間で素早く寄せるのは厳しかったし、中央のマークの受け渡しのミスもジエゴのポジショニングの妙にやられてしまった感がある。

 ある意味「たられば」の世界なので言っても仕方ないが、どこか一つ歯車が合っていれば、起こり得なかったかもしれない。非常に悔しさの残る幕切れとなってしまった。

 

 

最後に

 栃木はJ2残留が決定。21位讃岐が引き分けたため他力ではあったが、4試合を残した時点で何とか残留を決め切った。開幕3連敗の時はどうなるかと正直思ったが、現状とリソースを鑑みて一つの栃木SCのスタイルを作り上げた横山監督の手腕には、一定の評価ができるでしょう。来年以降はこれをどう積み上げ、スケールアップできるか注目である。

 試合に戻ると、甲府戦はある程度理想の形を体現できたと言える。栃木のスタイルを発揮するにはボール支配率は42~45%くらいがいいのだろう(甲府戦は43%)。これより少ないと攻撃に厚みが作れないし、逆に多いとボールを持ち慣れていない分攻めあぐねてしまう。ここに主眼を置く必要はないが、チームのパフォーマンスを客観的に示すデータとして、いかに理想の数値を維持できるかにも焦点を当てたい。

 次の対戦相手はレノファ山口。そう、吉満と大石である。2人とも苦しいJ3時代を共に戦った元栃木戦士である。2人の活躍も見たいが、ここは一旦抑えてもらって、5試合ぶりに勝利を上げられるよう期待したい。

 

 

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