栃木SCのことをより考えるブログ

主に栃木SCの試合分析(レビュー)をします。

【カオスをコントロールする強かさの有無】J2 第30節 栃木SC vs 水戸ホーリーホック(●0-3)

f:id:y_tochi19:20190905232806j:image

 

 

スターティングメンバー

f:id:y_tochi19:20190905232817j:image

栃木SC [4-2-3-1] 21位

 前節は山形にボールを持たされたことで拙いビルドアップを露呈してしまった栃木。より走れるメンバーを選考したという今節は、第19節鹿児島戦(●0-2)以来11試合ぶりに4バックスタート。CH古波津は初スタメン、左SB和田は12試合ぶりの出場となりました。

 

水戸ホーリーホック [4-4-2] 6位

 若手の登竜門として「選ばれるクラブ」となった水戸。今夏もJ1クラブからの有望株の迎え入れに成功したことで戦力はパワーアップ。自動昇格圏に向けてギアをもう一段階上げるべくダービーマッチに臨みます。

 敗れた前節東京ヴェルディ戦(●1-2)からスタメンは3人変更。CB宮は加入後初先発、左SH木村は出場停止処分明けとなりました。

 

 

前半

ダービーらしくインテンシティ高めの立ち上がり

 水戸のキックオフで始まったこの試合。ロングボールをターゲット(栃木はキムヒョンやへニキ、水戸は小川)に当てて素早く前進を図ろうという両チームの思惑が色濃く見えた立ち上がり。ハイボールに対して競り合ったへニキと細川が激突し両者倒れ込む場面が早々に見られるなど、ダービーらしいハイインテンシティな球際バトルが繰り広げられる立ち上がりとなりました。

 

 チームの志向やピッチコンディションから、両チームとも終始ロングボールを中心とした展開となりましたが、前進手段が微妙に異なっていた点は興味深いところでした。

f:id:y_tochi19:20190905232831j:image

 栃木の狙いはまず第一に最前線のキムヒョンを狙うこと。自分で収められた場合は味方に預けて前線へ。収められなくてもCHやSHがキムヒョンの周辺にポジショニングしセカンドボールを回収することで、手数をかけずに水戸守備ラインを突破していくことを狙いとしていました。前半3分及び前半9分には、自陣深い位置からのクリアボールをゾーン2で収め反転して浜下へロブパスを配給する形も見られ、トランジション時は水戸SB(特に攻撃力のある志知)の背後を狙うこともプランニングしていたことが窺えました。

 対する水戸もファーストチョイスは小川へのロングボール。ここから栃木の場合はキムヒョンから素早くリリースされるボールをフィニッシュワークに繋げることを目的としていましたが、水戸の場合はよりポストプレーからのボールキープで前線にタメを作ることが求められていたように感じました。周りの選手のセカンドボールへの出足を見る限り、ネガトラにおける栃木のカウンター返しを考慮し4-4ブロックを大きく崩さないことを踏まえたプレーを優先しているように見えました。栃木CBに対して勝算のある小川のポストプレーにより敵陣で時間を作ることで、カウンターリスクを軽減してから上がってきた味方に預けるという形が再現性をもって見られました。

 小川へのロングボールから陣地回復どころかゾーン3侵入を容易に行える水戸は、この形から前半8分に先制に成功。エリア内で福満にボールがこぼれたのは栃木にとってアンラッキーでしたが、あれだけ最終ラインが低い状態ではアクシデントも起こってしまいます。ましてや小川と初めに競り合ったのが藤原だったという点も身長のディスアドバンテージが露見したシーンでした。

 

栃木の攻守の問題とそれを顕在化させたプレー

 栃木は失点後もキムヒョンへのロングボールから前進していくプランを愚直に行いました。失点直後の前半8分にはセカンドボールを回収した古波津からの縦パス、前半14分には同じくセカンドボールを回収したところから川田→へニキ→キムヒョンと繋ぎバイタルエリアに侵入していく形を作りました。いずれもロングボールからのセカンドボール争いに勝利したところから生まれた形であり、4-4のブロックを水戸が組み切る前に素早くゾーン3を攻略していく意識が窺えました。

 

 しかし次の得点は水戸に生まれます。前半15分、これまで同様キムヒョンのポストプレーからセカンドボールを収めると三宅がドライブし左サイドの西谷和希に預けます。西谷が中央へのコースを探しながらカットインする間に水戸はブロックを完成させプレッシングからボール奪取。ロングカウンターでゾーン3に侵入し、その流れから福満がペナルティエリア内で倒されてPKを獲得。黒川が落ち着いて決め序盤のうちにリードを2点に広げました。

f:id:y_tochi19:20190905232844j:image

 栃木はロングボールからのセカンドボール回収に備えてポジトラ時はSHがキムヒョンに近い位置を取ることからCHの両脇は空きやすい状況にありました。加えてセカンドボールが相手にこぼれた際は前線4枚がそのまま最初のプレッシングの矢になるため、どうしてもSHとCHの横の繋がり、SHとSBの縦の繋がりが弱くなってしまい、4列になった守備ラインの間(特にCH脇)にスペースが生じやすい構造になっていました。

 見方によっては中盤が間延びしているとも捉えられ、このようなリスクを抱えたままプレーする栃木にとっては、マイボールにした攻撃を素早くフィニッシュに繋げるということは守備強度を保つうえで一つの大きな生命線になっていました。しかし時間がかかってしまったことでボールロストし、そこを突かれ失点。その後も水戸の内側に絞ったSHや黒川がこのエリアを使うなどして攻撃を円滑に行っていたことから、水戸は早いうちに栃木のウィークを見定めていたように感じました。

 

 2点ビハインドになった栃木はもう攻めるしかありません。前半27分にはキムヒョンのポストプレーから三宅・浜下が絡んでいきペナルティエリア内に侵入。前半35分にはGKユヒョンからのパントキックを収めたキムヒョンから三宅がボールを引き出し左足シュートもGK松井の好セーブ。前半36分及び前半39分にはキムヒョンのポストプレーからのセカンドボールを回収しスペースへランニングする浜下へスルーパスを送りゾーン3に侵入。前半41分には前からの守備でボールを奪いキムヒョンのシュート。

 キムヒョンのポストプレーが頼みの綱の栃木はボールを再三集めることで打開を図ろうとしますが、水戸の連動した縦横スライド、運動量、サイドに2vs1を作る献身的な守備を前に決定機を作ることはできず。シュートで終わる意識はここ数試合で最も強かったように感じましたが、ゴールは奪えずに前半は0-2で折り返しました。

 

 

後半

プランの再考を迫られた栃木

 キムヒョンが脚を痛めたことで負傷交代により前半終盤に大黒を投入した栃木。ロングボールのターゲットをへニキに変更し「いつもの形」から水戸ゴールに迫ります。

 「いつもの形」のメリットは、へニキのフィジカルと運動量をピッチ全体で活かせること。ロングボールのターゲットから自陣ゴール前での守備まで献身的に行えるプレースタイルはまさに戦士。CHの枠を越えたダイナミックなプレーは栃木の各ポジションにおいて足りない部分を補強してくれます。

 対してそのデメリットとは、構造上、そして本人の性質上、自身の持ち場を空けてしまうこと。CHの位置から前に出てロングボールのターゲットになるとどうしてもCH古波津の脇にスペースが生じてしまいます。そのためロングボールを自陣方向に落とす場合、古波津にダイレクトに渡らなければカウンターのリスクが一気に高まることとなります。後半立ち上がりの栃木はセカンドボールをあまり回収できず自陣に押し込まれる場面が目立ったのはこのためでした。

f:id:y_tochi19:20190905232857j:image

 さらには、へニキは献身的なプレースタイルが売りとあって持ち場を捨ててまで自分のマーク対象を追ってしまうきらいがあります。水戸が追加点を奪った後半9分のシーンでは、へニキが白井の動きに釣られて中央のエリアを空けてしまったことで志知のインナーラップを許してしまいました。浜下か川田が付いていければ防げていたかもしれませんが、そもそも古波津の横スライドが間に合っていない段階でのへニキのチャレンジは無謀であったと言えます。水戸はこのへニキの特徴を逆手に取ることで試合を決定づける3点目を奪うことに成功しました。

 前半から繰り返したロングボール大作戦がキムヒョンの負傷交代により純粋に行えなくなった栃木。大黒をターゲットとしては計算しにくい以上、CHとしてのへニキにどこまでのタスクを与えるべきか。戦術的、技術的、そして属人的なリソースに乏しい栃木にとって、キムヒョンの負傷交代はプランの根幹を揺るがすものとなってしまいました。

 

へニキの前線起用と副産物

f:id:y_tochi19:20190905232906j:image

 失点直後の後半10分、栃木は西谷和希に変えて枝村を投入することで、へニキを2トップの一角に変更しました。

 この交代策で息を吹き返した栃木。後方でのセカンドボール回収要員に2CHを配置できたことで簡単なボールロストが減少。特に出足の良かった古波津はセカンドボールを回収するだけでなく素早く前線に送ったり、サイドに捌いて自身がペナルティエリア内に入り込むなど、復帰戦とは思えない存在感のあるプレーを見せてくれました。

 後半14分には浜下からのクロスを古波津が折り返してへニキが飛び込んだプレー。後半19分にはセカンドボールを回収した古波津から大黒へのロブパス、その後のネガトラ時の反応。後半38分にはオーバラップする右SB岸田へのタックルからボールを奪取し、大﨑のクロスにCB乾が飛び込むシーン。

 チャンスシーンの起点には古波津がいることが多く、へニキが前線に移ったことによりフラットな2CHとしてプレーできるようになった二次的なメリットは非常に多いと感じました。

 もちろんへニキも守備の制約が比較的少ない前線に移ったことで自身の特徴を十二分に発揮。ゴールにこそ至りませんでしたが、新たな起用法を実戦で試せた意味は大きいと思います。キムヒョン不在時の選択肢として機能性を確保できるオプションを得られた点はこの試合における一つの収穫になるのではと思いました。

 

 圧力を高める栃木に対して水戸は粘り強い守備で対抗。前半と比べると小川へのロングボールの回数こそ減りましたが、交代選手も交えながらのサイドでの細かなパスワークは、無駄なボールロストの可能性を下げるという意味でも有意義なものでした。前かがりになる栃木を強かに鎮めた水戸がこのままゲームをクローズ。3点差を付ける完勝で北関東ダービー8連覇を達成しました。

 

 

最後に

 リスクを冒した今節は、敵陣への侵入回数やシュート本数、球際のインテンシティを見ても決して好調水戸を相手に引けを取るような内容には見えませんでした。しかし結果は0-3の惨敗。攻守においてカオスの起こりやすいロングボール戦術を両チーム多用しながらも、これだけの差が結果に如実に表れてしまうと、水戸の方が一つ一つのプレーのクオリティ、ひいてはプランニングの段階で一段階上手だったということを認めざるを得ません。水戸にあって栃木になかったのはカオスをコントロールできるだけの強かさでした。

 次節からは残留争い直接対決3番勝負。まずはアウェイの岐阜戦から。この3チームとの前期戦の対戦ではいずれの試合も勝利を上げることはできませんでした。さあ、リベンジの時。勝ち点1どころか失点1すら無駄にできないサバイバルマッチを、ぜひ勝利という結果で乗り切ってほしいところです。

 

 

試合結果

J2 第30節 栃木SC 0-3 水戸ホーリーホック

得点 8’福満(水戸)、18’黒川(水戸)、54’小川(水戸)

主審 岡 宏道

観客 5,341人

会場 栃木グリーンスタジアム

 

合わせて読みたい!

前節のレビュー(vsモンテディオ山形戦)

前回対戦のレビュー