スターティングメンバー
栃木SC [5-3-2] 21位
前節は京都相手に2点を先行しながらも、優れた選手交代と戦術の前にリードを守りきれずドローに終わった栃木。先手を取ったとはいえ勝ち点2を失ったというよりは、終始ボールを保持され守勢に回る時間が非常に長く、どちらかと言えば拾った勝ち点1という印象の試合でした。
今節は京都戦からシステムは変えずにスタメンを2人変更。トップにはキムヒョンが5試合ぶり、ユウリは加入後初先発となりました。ミッドウィークの天皇杯鹿島戦(●0-4)で指揮官へのアピールに成功した榊や和田らは久しぶりのリーグ戦ベンチ入り。
FC町田ゼルビア [4-4-2] 19位
難しい時期を過ごしている町田。ここ7試合はいずれも勝利から離れており、その間5得点18失点と攻守に歯車が噛み合っていない印象。残留争いに本格的に巻き込まれないためにも直接対決は制したいところでしょう。
スタメンは前節金沢戦から3人入れ替え。神戸から期限付き移籍で加入した小林友希は移籍後初出場。昨季今季と栃木からゴールを決めている林陵平はベンチスタートとなりました。
なお、相馬監督は体調不良により今節は帯同せず。村主ヘッドコーチが代わりに指揮を執ります。
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— ゼルビー[FC町田ゼルビア公式] (@FcMachidaZelvia) 2019年8月17日
前半
異なる狙いのロングボール
町田は基本布陣こそ[4-4-2]ですが、「システムなんてただの電話番号だ!」と言わんばかりの極端な縦横圧縮を行い、狭いエリアのなかで全員攻撃全員守備を行う特徴的なスタイルを持つチームです。コンパクトを作るあまりどうしてもボールサイドの逆サイドや最終ラインの背後にはオープンスペースが生じてしまうデメリットもありますが、そこへ展開される前に狭い守備の網に引っ掛けてしまおう、あわよくばカウンター!というのが第一の狙いなのでしょう。守備のときに攻撃を、攻撃のときに守備を考えられる戦術を高いレベルで実現できているのが町田の大きな特徴です。
その特徴そのままに町田が立ち上がりから攻勢をかけていきます。前進手段はサイド深い位置へのロングボールからボールを収めてニアゾーンへ侵入すること。特に立ち上がりはCF富樫が左サイドに流れてSH平戸やSB下坂と協力しながら栃木の対応に対して数的優位を作り、簡単にクロスを供給することができていました。前半5分の下坂→森村→下坂と繋いで上げたクロスがその例です。
栃木は立ち上がりからサイドでの守備に手を焼いていましたが、それもそのはず、システムの噛み合わせの時点でサイドで後手に回ることは明らかでした。
図のように栃木はセット守備においてはWBを最終ラインに並べる[5-3-2]になります。この時WBは町田のSHを主に担当。ゴール前中央のエリアでは3CBが2トップに対し数的優位を作りつつ、その前の3センターは中央へのパスコースを切りながらライン間を締めてバイタルエリアでの町田のプレーエリアを狭めます。この時自然とフリーになるのが町田のSB。一応の担当は3センターの両端の選手(へニキ、西谷和希)になりますが、中央を封鎖しながら3人が連携してスライドする必要があるため、どうしてもSBへのアプローチは遅れてしまいます。前述の前半5分のシーンはまさにその形からであり、前半11分や前半24分にはスローインのスロワーをマークする選手が居なく、ボールサイドに人数が足りなくなるというシーンも見られました。
前半11分にアクシデントにより左WBを瀬川から榊に変更した栃木。純粋なサイドプレイヤーがWBのみのこのシステムでは独力でタッチライン際を力強くアップダウンできる瀬川の負傷はゲームプランに大きく影響を与えるものでした。
栃木の狙いはキムヒョンをターゲットにしたロングボールからセカンドボールを回収し一気に高い位置を取ること。この時2トップの位置関係は大黒を頂点にキムヒョンが少し下がり目でポストプレーを行うことが多く、前線へフリックすれば大黒が、後方へ落とせば3センターがセカンドボールを回収できるという仕組みになっていました。しかしここは町田も事前に分かっていたところ。キムヒョンに対しては2CBが激しいボディコンタクトで自由を与えず、CHやSBもコンパクトに立ち位置を取るため、栃木はなかなかセカンドボールを回収できず。次第に前線で起点が作れなくなると2トップと3センターの距離感が遠くなり、さらには自陣に引いた栃木に対し町田がネガトラから素早くプレッシングをかけられるようになったことからロングボールの精度も悪くなり、ボールの出し手と受け手がともに町田の守備陣に捕まる恰好となってしまいました。
それでも何とか大黒の足元でのポストプレーから逆サイドのWBに展開できればチャンスに繋がることもあり、前半12分には浜下、藤原、へニキの連携から右サイド深い位置に侵入しへニキのクロス、前半37分には同サイドですが大黒のポストプレーから狭いスペースを繋ぎ西谷和希がドリブル突破という場面を創出。町田攻略の定石である逆サイド展開がチーム全体で共有されていたことが窺えただけに、シュートまで持ち込めなかったのは痛恨でした。特に前半37分のシーンでは西谷和希から榊へのパスが通ればGKと1vs1になりうる、この試合最大の決定機と言える場面でした。
栃木のビルドアップで気になったのは崩しの局面でのへニキのプレーエリア。エリア内でこそフィジカルやパワーを発揮しうるへニキがサイドに流れてチャンスメイクに加わるのは攻撃の設計としてはどうなのでしょうか。クロスを上げる前の段階でサイドに人数が足りていないのが要因だとは思いますが、前節の対戦相手である京都が個人の特徴を発揮できる仕組みを用意していたのに比べれば、多少の勿体なさを感じざるを得ませんでした。
終始町田が競り合いの強さとセカンドボールへの出足の良さから試合の主導権を握ったものの、エリア内でシュートを打たせない栃木の堅い守備に決定機を作れず、前半は0-0で終了。
後半
前半同様の一進一退な展開となった後半
町田のキックオフで始まった後半も、基本的にはロングボールのセカンドボールを回収できたチームが相手にゴールに迫っていく、前半と同じような展開で試合は進みました。
意外だったのは栃木の後半序盤の攻勢。後半7分には大黒のサイドチェンジを起点とした浜下のクロス、後半8分にはCKのセカンドボールを回収したユウリのクロスにキムヒョンのヘディング、後半11分には浜下のグラウンダーのクロスに大黒が合わせに行くなど、ここまで後半立ち上がりの失点が非常に多く、守りを固めるため慎重な入りを見せることの多かった栃木ですが、エリア内に侵入していく回数を多く見られた点は多少の新鮮さを感じました。時折聞こえてきた監督の檄や選手間の声かけもチームを前向きにさせる言葉が多く、またラフプレーも少なく不必要なセットプレーを与えることがなかった点は今後も継続していきたいところです。気持ちは熱く、プレーは冷静に。
一方町田もセカンドボールの回収からロメロフランクや富樫らがエリア外からミドルシュートを積極的に放つなど、高いシュート意識を維持。依然球際の強さやセカンドボールへの出足の早さでは優位に立っており、後半19分に土居に変えて中島、後半28分に李に変えて佐野を投入すると、CHに奥山を移すことで密集の強度を高めつつ、サイド攻撃にもパワーを補強する交代策を披露。後半30分にはスローインからロメロフランクがニアでタメを作り最後はサイドに戻して佐野がクロスを入れるなど、栃木との噛み合わせの利と自分たちの攻め筋の合わせ技でゴールに迫るシーンは印象的な場面でした。
ボールが飛び交い、激しいボディコンタクトも多く見られたスペクタクルな試合でしたが、その後も両者ゴールネットを揺らすことはできず。残留争い直接対決は勝ち点1を分け合うスコアレスドローとなり、栃木は4試合連続のドローとなりました。
最後に
田坂監督の交代策についてはスタジアム内外で様々な意見が飛ばされているところですが、私自身はこの交代策は決して悪くなかったと思います。もちろん、順位浮上のチャンスがある6ポイントゲームだったため勝てれば今後のターニングポイントにもなりうる重要な一戦でした。しかしながら、裏を返せば、負けた時のダメージも通常の倍になるのも事実。プロセスはいずれにせよ、最低限町田に勝ち点差を離されないことが至上命題となってくるのがこの試合でした。
ピッチに目を向けてみるとフィールドで戦っている11人の選手で均衡が保たれていたのが90分を通じてのこの試合の大勢。極度の均衡状態のなか、交代によるリスクを冒してまで不均衡になるのは、最低限の結果を得るためには避けたいというのが正直なところだったと思います。それでも勝利は諦めない。田坂監督の考えるこの試合における勝利の方程式は「均衡は長く、不均衡は短く」だったのでしょう。後半ATに差し掛かる時間帯での2枚目の交代策はそれを象徴するものでした。最小のリスクで最大のリターンを得る。田坂監督はそのようなことを考えていたのではないか、というのが個人的な意見です。
これでリーグ戦は3分の2を終了。泣いても笑っても結果が全ての終盤戦が次節から始まります。栃木は現在リーグで2番目に多い12分けという数字が物語っているように「負けないサッカー」は実現できています。ただ現実は降格圏の21位。自らの手で残留を掴み取るためにも、リーグ戦残り3分の1は「勝ち切るサッカー」を体現できるよう、どこで、どのようなリスクを、どれだけ冒せるかが大きな鍵になってくるのではないでしょうか。
試合結果
主審 福島 孝一郎
観客 4,664人
会場 栃木グリーンスタジアム
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