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【個の特徴を引き出す京都の配置に屈した栃木】J2 第27節 栃木SC vs 京都サンガ F.C.(△2-2)

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スターティングメンバー

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栃木SC [5-3-2] 21位

 試合に臨むに当たって対戦相手の京都を徳島、東京Vと同じジャンルに位置づけていた田坂監督。整理されたポゼッションから配置の優位性とウィングの質的優位性で殴るスタイルに、今季の栃木は耐える試合が多くなってしまいましたが、迎える今節はどのような対応を見せたか。

 対京都仕様の新布陣[5-3-2]を採用した今節は前節からスタメンを4人入れ替え。ベンチには大怪我から復帰したメンデスが2017年のJ3最終節以来のメンバー入りを果たしました。

 

京都サンガF.C. [4-3-3] 2位

 充実の内容と結果で今季のJ2を席巻する京都は、前節東京Vに4-0で圧勝。連続負けなしを9試合に伸ばし、勝ち点2差で首位を走る柏レイソルを猛追します。

 スタメンの変更は下畠→本多、重廣→金久保の2人。攻撃陣を牽引する一美にとっては、前回対戦で2ゴールを奪い自身の飛躍のきっかけとなった栃木相手に再びゴールを決められるかが注目されます。

 

前半

お互いに用意してきた戦術行動と変化

 立ち上がりは栃木が工夫したCKからフリーになった三宅の折り返しや枝村のシュートからゴールに迫ったものの、基本的には京都がボール保持を高めてブロックの隙を窺う予想された展開に。

 

 京都がボール保持から栃木ゴールに迫っていくなかで、崩しの局面の切り札としてプランニングしていたのは幅を取ったWGの仕掛け。小屋松とジュニーニョはともにタッチラインを背にした1vs1の勝負を得意としており、中央を厚く固める栃木を相手にしたときは、より個々の勝負を得意なシチュエーションで仕掛けやすい大外レーンが、栃木のWBを最終ラインにピン留めさせるという意味でも試合の鍵を握るエリアとなっていました。

 

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 京都がWGに安定してボールを供給するために行ったのがSBのインサイド化。1アンカー庄司の脇にポジションを移し、少し開いたCBからWGへの直線のパスコースを確保します。SBを経由することなくCBから素早くWGにボールが入れることができれば、一気にアタッキングサードでの崩しの局面に移行できる設計です。いわゆる「偽SB」。この日のSBを務めた福岡と黒木はともにボランチロールを担うことが可能(むしろ福岡はボランチが主戦場)なことからインサイドでの配球も臨機応変に実行。流れのなかで選手自体がポジションを離れている時も他の選手が必要なポジションを埋めていたことから、チーム全体で設計図が共有されていることを窺えました。

 

 対する栃木のこの試合のポイントは2トップと3センターの採用。後者は(町田戦の3センターとはタスクが異なるため)今季初めての採用だったため特に注目していましたが、そのタスクは上述した「偽SB」に対応するためのものでした。

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 戦術的に面白かったのがこの3センターの立ち位置。DFラインと協力しながらライン間をコンパクトに保つことにより、まずは危険なエリアを消すことで中央への侵入を封じます。さらには、そもそもの彼らの立ち位置が京都の攻撃の肝となる偽SBの移動先と重なることから、SBがインサイド化したあとのプレー制限に加え、そもそものインサイド化を制限する役割も担っていました。SBが内に絞れないでいると栃木の3センターが横スライドから一気にプレッシャーをかけます。頼みの庄司は近い側のCBとともに2トップのマークを受けており、立ち上がりの京都はここをうまく外せていない印象でした。

 

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 変化が見えたのは前半10分ごろ。この時間帯からアンカーの庄司が最終ラインの中央に落ちることが多くなります。サリー。これにより空いたポジションには両SBがよりインサイドに。[3-2-5]の形になると、栃木は2トップではプレスをかけ切れず、かつ3センターも中央寄りのポジショニングになるため、左右に開いたCBから再び幅を取ったWGへのパスコースが復活することになります。これによりボールをスムーズに前進できるようになった京都は持ち前の子気味良いパスワークからのフィニッシュをはじめ、プレスのかかっていないCBの運ぶドリブルから数的優位の貯金を前線へ送り届けることでチャンスを作れるようになっていきました。前半12分の宮吉のシュートや前半19分の福岡のシーンは、解決策を見出した京都の振る舞いを印象づけるものでした。

 

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 試合後に、[5-3-2]ではミスマッチを突かれてしまうので[5-4-1]に変えたと語った田坂監督。ミスマッチとはおそらくCBの持ち上がりに対する無抵抗さの部分でしょうか。それまで栃木の左サイドを起点に攻め込まれていたこともあり、前半20分以降は西谷和希を2列目に下げた[5-4-1]に変更しました。これにより再び京都のCBからWGへのコースを遮断。CBの持ち上がりは容認したものの、そこから出されるパスの受け手への対応を徹底することで堅固な5-4ブロックを形成。ブロックの中を割って入っていくことができない京都は前半30分以降は特に最終ライン背後へのロブパスにより打開を図っていこうとしますが、栃木の集中した対応を前に効果的にペナルティエリア内にまで侵入することはできず。攻め筋に試行錯誤するなか無理に刺してきた縦パスを奪った西谷和希がそのままドリブルによる単騎突破から値千金の先制点を奪うと、その後も展開変わらず前半は栃木が1-0のリードで試合を折り返しました。

 

後半

多様な攻撃パターンに耐える一方の栃木

 後半の展開は概ね前半と同じ。ボール保持からゴールに迫りたい京都と耐えてからのカウンター一本の栃木という展開でスタートしました。

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 前半同様の展開のなかで多少の変化が見られたとすれば、京都の幅を取るWGの振る舞いでしょう。前半以上に最終ラインからWGにボールを供給する回数が増加し、特に左サイドの小屋松からの攻撃は回数、効果ともに栃木にとって脅威なものでした。後半6分には左サイドを起点にインナーラップした黒木を経由し一美がシュートの局面に至るなどサイド攻撃から確実にゴールへと迫っていきました。マッチアップする浜下が小屋松のトラップ際を狙おうと前に出れば、IH金久保やSB黒木がインナーラップから背後を取るなど、WGを中心とした攻撃を生かすべく、ハーフタイムに立ち位置を修正した印象を受ける京都の後半立ち位置でした。

 

 引き続き立ち上がりから防戦一方の栃木。京都の圧力に5-4ブロックが低くなってしまい、どうしても大黒との距離感が遠さから、マイボールにする回数はごくわずかでした。終始耐える一方の展開。それでも次のゴールを決めたのが栃木というのは、サッカーというスポーツがミスプレーによる影響を非常に受けやすいものであることを示唆してくれます。

 

 試合展開と得点経過の乖離に頭を悩ませる京都は選手交代。空中戦の脅威こと、田中マルクス闘莉王が後半18分にピッチインします。

 闘莉王が入れば狙いは明確。後半18分にはリスタートのプレーからさっそく闘莉王が足元でのシュート。続く後半19分には右サイドからジュニーニョの供給したクロスにバー直撃となるヘディングシュートを放つなど、後半途中出場にも関わらずチームトップのシュート数を記録し、ビハインドのチームを攻撃で牽引しました。

 

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 最前線の闘莉王に注目がいきがちでしたが、見逃せなかったのは中盤の構成の変化。無理やりフォーメーションに当てはめれば[3-1-4-2]と言えるでしょうか。後方は2CB+黒木+庄司が形を変えながらボールを供給、幅取りは両WG、闘莉王を頂点に一美・重廣・福岡はインサイドにポジションニング。これによりCBのオーバラップも含めてサイドで数的優位を作れるようになると、京都はよりWGが攻撃の意識を高めたプレーを選択するようになります。そして後半28分、小屋松の鋭いクロスからGKユヒョンのミスを誘い、一点差に迫ることに成功しました。

 

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 栃木は後半33分に川田、後半35分に大﨑を投入し、前線の守備とカウンターのパワーを補強します。しかし試合は依然京都ペース。それまでの細かいパスワークに加え、アタッキングサードでは割とシンプルに闘莉王目掛けたクロスを供給するなど多彩な手段から栃木を攻め立てます。京都の再三の攻撃に栃木はサイドではWBとシャドーの二度追いで対応、中央では体を張ってボールを弾き返す、まさに満身創痍の守備で終了まで時計を進めようとします。しかし結果は無情。ペナルティエリアのライン付近で福岡とのパス交換を経てボールを受けた一美の左足シュートはGKユヒョンの右手をすり抜けてゴールイン。わずかなスペースから放ったシュートは値千金の同点弾となり、試合はそのまま終了。栃木は2点のリードを生かすことができず、悔しいドローに終わりました。

 

最後に

 栃木にとっては拾った勝ち点1なのか、悔しい勝ち点1なのか。見る人によって評価の変わる試合だと思いますが、結果的に得た勝ち点1をターニングポイントに、今後のリーグ戦に繋げていくことが最も大事であることにはほかありません。

 内容を振り返れば相当苦しい展開を強いられたのは事実です。選手個々の特徴を最大限に引き出すために準備された京都の配置と栃木の対応に対する「後出しジャンケン」のクオリティの高さ。そして圧倒的な質的優位。その全てが栃木のレベルを凌駕するものであり、京都が上位を走る理由を改めて実感しました。早く昇格してください。

 栃木にとって痛恨だったのは最前線のバラエティ不足。前節ゴールを決めたキムヒョンや似たような展開となった東京V戦で猛威を奮った平岡がこの試合ではメンバー外となったことで栃木は最後まで大黒を引っ張ることになりました。もちろん貴重なゴールを上げた大黒を批判はしません。ただ、チームとして大黒に気持ちよくプレーさせてあげられなかった点は反省しなくてはならない点です。

 次節はミッドウィークの天皇杯鹿島戦を挟んで中2日のホーム、FC町田ゼルビア戦。ここのところ絶不調で残留争いに巻き込まれてきた町田ですが、気を付けたいのは先日リリースのあった林陵平の加入。栃木にとってはトラウマ感の強い選手ですが、しっかり抑えることで良い結果になることを期待したいと思います。

 

試合結果

J2 第27節 栃木SC 2-2 京都サンガF.C.

得点 39’西谷和希(栃木)、59’大黒将志(栃木)、73’小屋松知哉(京都)、86’一美和成(京都)

主審 池内 明彦

観客 6,420人

会場 たけびしスタジアム京都

 

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