栃木SCのことをより考えるブログ

主に栃木SCの試合分析(レビュー)をします。

【闘う集団への回帰】J2 第33節 栃木SC vs 鹿児島ユナイテッドFC(〇3-1)

はじめに

フリーペーパー『ココグリ』にプレビューを寄稿させていただきました。ご覧いただいた皆さん、ありがとうございました!

 

スターティングメンバー

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栃木SC [4-4-2] 21位

 第31節岐阜戦(△0-0)、第32節福岡戦(●0-1)と順位の近い相手に勝ち切れず、降格圏脱出に向けて苦しい戦いが続いている栃木。「栃木SCのために闘える選手 」を起用した今節は、第30節水戸戦(●0-3)以来の4バックスタート。前節からスタメンを5人入れ替え、中盤を主戦場とするへニキがトップで起用されました。

 

鹿児島ユナイテッドFC [4-2-3-1] 20位

 前節は山形に0-3で敗戦。前半早い時間帯に失点することが多く、ここまで60失点はリーグワースト2位。クリーンシートを達成した第19節栃木戦(〇2-0)以降、12試合連続で失点が続いているなど守備面の改善は急務。前節からCH2枚を入れ替え、前回対戦の再来を目指します。

 

前半

奇襲成功

 勝ち点5差で迎えた残留争い直接対決。21位の栃木にとっては勝てば勝ち点2差に迫りますが、負ければ勝ち点8差に広がる、まさに6ポイントゲーム。鹿児島が1試合未消化であることも考慮すれば、この試合での勝ち点3は残留に向けて間違いなく至上命題になるでしょう。能力、戦術以前に相手を上回ろうとする熱い闘志が必要となる一戦、立ち上がりから相手を押し込んだのはホームチームでした。

 

 栃木のこの試合の2トップは榊とへニキ。もちろん2人ともこの試合が今季初めてのトップ起用スタート。2CBからビルドアップを行いたい鹿児島に対して、彼らを起点に全体が連動して前から圧力をかけていくことでプレーを制限しつつ、前で引っ掛けてショートカウンターを誘発することが栃木の狙いです。この試合はマッチアップの関係にあったことからもプレッシングの対象を絞りやすく、選手の特徴も相まり、立ち上がりのハイプレッシャーは今季一番のインテンシティがあるように見えました。

 

f:id:y_tochi19:20190926004327j:imageセカンドボール争いで後手を踏むシーン(第32節福岡戦)

 ボールを回収すると、素早く最前線のへニキにロングボールを送ります。これまでのへニキの起用法はCHのポジションから列を上げてのターゲットマンという形がほとんどであり、その際へニキが空けたスペースを埋め切れずにセカンドボール争いで後手を踏むシーンが目立っていました。しかし、この試合ではトップ起用のためその心配はなく、配置のバランスが良くなったことで周りの選手のサポートの反応も早まり、セカンドボール回収から二次攻撃、三次攻撃と移行できる場面も多く見られました。

 

 前半立ち上がりの2得点は、まさにそれらの狙いが表れた格好と言えました。

 前半5分の先制点に繋がるCKは、へニキへのロングボールからセカンドボールを大﨑、榊が繋いで獲得したもの。瀬川のアウトスイングのキックから田代のヘディングシュートまで動きは事前に準備していたものであり、得点に至るまでの全てのプレーが狙いどおりに再現されたシーンから先制に成功しました。

 

 続く前半14分のシーンも、前からのプレッシングがはまった形。ユウリが平川からボールを奪った時点で榊にはシュートをイメージするだけの時間とスペースがありました。榊は2017年に栃木に加入後初めてのリーグ戦ゴール。栃木が立ち上がりのうちに2点を奪う理想的な展開で序盤をリードしました。

 

CHの立ち位置を巡る駆け引き

 4バックを採用する栃木が最も警戒していたのは、鹿児島の幅を取るSBを生かしたサイド攻撃でした。左右どちらにも実力者を揃える鹿児島に対してSBをフリーにしてしまえば失点のリスクは高まります。とはいえ、はじめからSHを監視役に付けてしまえば、苦い記憶しかない6バックが完成してしまいます。そこで、栃木は守備のときは次のようなことを決まりごとにしていたように感じました。

赤字=栃木の選手、青字=鹿児島の選手

FWはボールホルダーのCBに対してCHを背中で隠しながらプレッシングを行う。

SHは内に絞る鹿児島の2列目を背中でケアしながら、CBからSBにボールが渡ったタイミングでSBにプレッシングを行う。

③②のSHのプレッシングと同時にボールサイドのCHに対して必ず一人がマンツーマンで守備につく。

④ボールの出し手が見つからないSBに対してSHを中心に複数の選手で囲い込んでサイドで奪い切る。

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 この守備を行うにあたり、最も重要なのが③のボールサイドのCHへの対応でした。CHを抑えることでサイドチェンジを未然に防ぐためです。栃木は特定のマーカーを設けるというよりは、近くにいた選手がマークにつく形で臨機応変に対応していました。仮にSBからCBにリターンパスが入ったとしても、再び①から繰り返すことで絶え間なく前線から強度の高い守備を実現していました。この時間帯は困った鹿児島CBが最前線のルカオ目掛けてロングボールを入れる回数も多かったと思います。

 

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 前半20分を過ぎたあたりから鹿児島がCHの立ち位置に変化を加えていきます。いわゆる「サリー」と呼ばれる形。2CHのうち1枚を最終ラインに下りて擬似CBとすることで、3CB+1CHの形でビルドアップを図りました。

 中央の守備を固める栃木に対して、局面の優位性を生かしながらブロックの外側から前進を行う鹿児島。栃木が2点をリードしたことで前からの圧力が減ったことを考慮する必要はありますが、前半20分以降は鹿児島がボールをポゼッションして攻める時間が長くなっていきました。

 印象的だったのが右SB酒本のプレー選択。左SB砂森の攻撃力を生かすために前線へのオーバーラップを控えつつ、最終ラインからのビルドアップに加わりながらチーム全体として左サイドにボールを展開できたところで前線に上がっていくスタイルは、さながら往年のラームを見ているようでした。

 

 序盤に比べて左右に振られるようになった栃木でしたが、それでも前線からの二度追いも辞さない献身的なプレッシング、素早い縦横スライドとコンパクトな4-4ブロック、球際の強さを発揮して前半をクローズ。攻撃の手数は減少しましたが、鹿児島に決定機を作らせない粘りの守備で前半を2-0で折り返しました。

 

後半

2列目にボールが入るようになった鹿児島

 後半も前半同様に最終ライン3枚でビルドアップを行う鹿児島。栃木はSHやCHを第一プレッシングの枚数に組み込むことはせず、あくまで中央を絞った守備を優先したため、鹿児島最終ラインは安定してボールを持つことができました。鹿児島の追撃弾となるFK獲得シーンも、ノープレッシャーで最終ラインを経由してサイドを変えた際に、栃木のスライドが遅れたことに端を発したものでした。

 

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 徐々に栃木のスライドが間に合わなくなってくると、鹿児島は最終ラインから直接2列目に縦パスを刺せるようになります。後半9分にCB堤からSH牛之濵に縦パスが入った場面では、SH浜下が幅を取るSB砂森に釣られ中央を締め切れなかったために通されたものでした。牛之濵がライン間で起点を作ると、2列目の選手たちによるコンビネーションでバイタルエリアを攻略。結果的には、ゴール方向に向かうクロスを瀬川がライン上でクリアしたことにより事なきを得ましたが、前線からの圧力が低下したことで、広がったブロックの合間を自由に鹿児島の選手が使えるようになり、押し込まれた栃木は攻撃にも出られないため、ひたすら我慢を強いられる時間帯となりました。

 

2トップを入れ替え息を吹き返す栃木

 後半立ち上がりの勢いそのままに追い付きたい鹿児島は、後半14分、枝本に変えて藤澤を投入。決定的なプレーに絡む回数の多かった牛之濵をトップ下に移すことで、よりゴールに近い位置でプレーさせようという狙いが窺えました。

 苦しい時間の続く栃木。前述のとおり低い位置でのディフェンスが長くなるため、回収後の最初のパス(へニキへのロングボールなど)は鹿児島CBとCHの挟み込む守備に簡単に対応されてしまいます。攻守において歯車が噛み合わない栃木は、後半20分に榊に変えて平岡、後半22分にへニキに変えてキムヒョンを立て続けに投入。この采配が早速功を奏したのが、2人の特徴が前面に表れた後半27分の追加点でした。

 

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 後半に入ってからは完全に主導権を握り終始攻め続けたものの、一つのロングボールに泣いた鹿児島。リスクを冒してでもゴールを決めるしかないアウェイチームは、失点直前に投入していたFW韓を最前線でルカオと横並びにし、中盤ダイヤモンドの[4-4-2]に変更しました。この交代によりシンプルなロングボールからの前進も選択肢の一つとして多用してきました。

 しかし、前からのプレッシングにより息を吹き返した栃木の粘り強い守備により、最も侵入したいバイタルエリアを効果的に使える場面はそれほどなく。ならばと、高い位置を取るSBを起点にエリア内にクロスを供給しようとしますが、SHの献身的なプレスバックを前にチャンスを作ることができません。

 

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 後半30分を過ぎた頃から栃木は、右SB酒本に比べてより攻撃的な左SB砂森を早めにケアするべく、浜下を最終ラインに下げ、[5-3-2]のような陣形で対応。3MFの両脇にスペースが生じますが、それぞれユウリと大﨑、後半38分からは和田がハードワークすることで中央への侵入を許しません。後半39分以降は、このスペースから侵入を試みよう牛之濵を左SHに戻しましたが、時すでに遅し。チーム全員で最後まで勝利への執念を見せた栃木が3-1で鹿児島の猛追を振り切り、待望の勝ち点3を獲得しました。

 

最後に

 立ち上がりの勢いで相手を圧倒できたことが勝利の鍵となりましたが、鹿児島がCHを落として最終ライン3枚によるビルドアップを行い始めた前半20分以降はチャンスを作ることはほとんどできませんでした。もちろんリードを保っている状態のためセーフティーに構える心理は分かります。しかし、後半平岡らが入るまでの時間帯は、いつ同点に追い付かれてもおかしくないような押され具合であり、3点目が奪えなければドローも十分有り得る試合内容だったと思います。次節の愛媛は3バックを採用するチームのため、この試合と同じ[4-4-2]ではミスマッチが生じます。愛媛の3バックによるビルドアップに対して、栃木は3トップで合わせるか、それともSH片上げを行うか。いずれにせよ、今節と同じような戦い方をすれば押し込まれる時間は長くなるような気がします。

 とはいえ、最後の部分で身体を張ってゴールを守る姿勢については、戦術などは関係ありません。今節のように粘り強いディフェンスを発揮できれば、強豪を相手にしても簡単にゴールを割らせない、堅い試合を演じられるのではないでしょうか。

 

 さあ、残りは9試合。まずは目の前の鹿児島を直接対決で制しました。しかし、順位は依然降格圏の21位。まだまだ落とせない試合が続きます。残留をグッと近づけるためにも、次節愛媛戦はアウェイとはいえ勝ち点3が必須になる試合です。良い結果になるよう期待したい。

 

試合結果

J2 第33節 栃木SC 3-1 鹿児島ユナイテッドFC

得点 5’ 田代 雅也(栃木)、14’ 榊 翔太(栃木)、51’ 水本 勝成(鹿児島)、72’ 大﨑 淳矢(栃木)

主審 吉田 哲朗

観客 3,725人

会場 栃木グリーンスタジアム

 

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