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【徹底した戦い方に見られた確かな自信】J2 第41節 栃木SC vs V・ファーレン長崎(〇1-0)

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スターティングメンバー

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栃木SC [4-4-2] 21位

 ホーム連戦で勝ち点4を獲得し、残留圏となる20位鹿児島との勝ち点差を3にまで縮めた栃木。得失点差を考えれば、今節の結果次第で順位を逆転することもできる大一番。負傷によりメンバーを外れたユウリに変わって古波津が9試合ぶりにスタメンとなった(出場は6試合ぶり)。乾にとっては古巣との対戦。

 

V・ファーレン長崎 [4-4-2] 12位

 前節は上位山形に快勝したものの、その前に喫した4連敗が大きく影響し昇格の可能性が潰えた長崎。クラブの再建、成長に多大な貢献をもたらした高田明社長の今季限りでの退任が発表されて迎えるホーム最終戦は、何がなんでも有終の美を飾りたいところだろう。スタメンには玉田が復帰し、得点ランク2位の呉屋と2トップを組む。

 

前半

大竹のファジー(曖昧)な位置取り

 [4-4-2]を採用してからの栃木は、2トップが起点となって中央を封鎖し、サイドに誘導したところをSHが猛然とプレッシングをかけることで相手に自由にボールを前進させない守備を行っている。攻撃的な守備を行えるようになってからは、優勝争いの渦中の大宮を無失点に抑えるなど、手堅い試合運びで残留へ巻き返しを図っているところだが、今節対戦する長崎は興味深いアプローチで栃木の組織的守備をパワーダウンさせようという狙いが窺えた。(図は前節大宮戦の前半7分のシーン)

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 栃木の守備におけるストロングポイントは左サイドでのボール奪取力である。右SHがFWとほぼ同じくらいの高さで相手の攻撃を栃木の左サイドに誘導するや否や、左SH大﨑がプレッシングを開始。相手の右SBが慌てて縦に入れれば瀬川が、内側に入れればユウリがボールホルダーからボールを奪い取る。ユウリに変わり古波津が入った今節もコンセプトには特段変更はないだろう。

 前節大宮戦のレビューでは、栃木の調子を示すバロメーターをSHのベクトルだと書いた。守備から攻撃への移行が上手くいっている時は、ほとんどの場合でSHが前方向に強いプレッシャーをかけることができている。前述のとおり特に左SH大﨑のプレッシングは武器になっているが、これに対して長崎は右SH大竹をCHと同じ高さでプレーさせることで大﨑にプレスの的を絞らせない立ち位置を取らせていた。

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 大竹をケアすれば米田が空き、米田をケアすれば大竹が空くという二択を突き付けられたことにより大﨑のプレス強度が弱まると、次に長崎は栃木の構造上空きやすい右CHの脇のエリアにロブパスを供給。香川の縦突破や澤田も含めたコンビネーション、時には呉屋も流れてチャンスメイクに加わるなど、長崎は右サイドで工夫を加えてから左サイドに展開するという仕組みで栃木のゴールに迫っていった。

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 立ち上がりから骨格を叩かれた栃木だったが、CBを中心にペナルティエリアに入ってくるボールを跳ね返して粘り強く対応すると、待望の先制点はセットプレーから生まれた。瀬川のインスイングのボールに合わせた乾は今季2ゴール目。古巣相手に貴重なリードを奪い、先手を取ることに成功した。

 ゴールに至るまでの過程を見ると、瀬川のCKの起点になったのはへニキへのロングボールだった。ロングボールを当てた後のセカンドボールに反応した榊がシュートを撃つ前にクリアされたボールがCKとなり、その2本目で決め切った得点。少ない手数で攻め切り、セットプレーで仕留める形は終盤戦の定番になりつつあるプレーである。

 

中閉じ優先

 先制点を取った栃木はプレッシングラインを低くしたことで自陣でのプレータイムが増えていったが、中央を閉じバイタルエリアにボールを入れさせない守備を徹底。長崎は最終ラインを敵陣まで押し上げ、圧倒的にボールポゼッションするもののブロックの中には入り込めず。玉田や大竹がブロックの間に顔を出してハーフスペースを起点に前を向く場面もあったが、どちらかと言えば即興的なものであり、それほど再現性はなかった。

 前述した大竹の立ち位置を巡る問題も中央を閉じる守備で解決。自陣にコンパクトなブロックを敷くことで間のスペースを極限まで狭めつつ、ボールが入ったとしても周囲の選手の囲い込みとFWの献身的なプレスバックで自由を与えなかった。長崎の最終ラインでの横パスをスイッチとして前からプレッシングをかける場面でも、大竹に対しては大﨑がマークに付くことで中閉じを優先し、フリーになる米田には瀬川が縦スライドすることで対応した。

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 試合後の磯村のコメントにもあったように、瀬川の裏のスペースを活用できれば効果的だったが、それほどそのエリアにボールは供給されず、磯村がダイアゴナルに流れるシーンも古波津が付いていくことでフリーにさせなかった。栃木の守備に手を焼く長崎は、失点時間と多少前後するが前半10分~25分の間はSHを左右入れ替えてみたり、前半34分には左サイドに流れた呉屋がカットインから強引にシュートに持ち込むなどしたがゴールまでは至らず。前半は栃木の1点リードで折り返しとなった。

 

後半

リードゆえの割り切り

 後半のレビューを書く際は主に前半との変化点に焦点を当てることでポイントを整理していくが、この試合の栃木は後半のシュート数ゼロが物語るようにひたすら守り倒したと言っても過言ではないだろう。前からのプレッシングも最低限に留め、ブロック守備が崩れないことを第一に優先。最終ラインの4人はペナルティエリアの幅を守り、空いた大外レーンはSHのスライドで対応した。6バックにはならないよう4-4のブロックを保ちつつ、サイドにボールが出る度にスライドを行ったSHは相当な運動量を強いられたことだろう。左SH大﨑や久しぶりの出場となった古波津が負傷でピッチを退いたことがその証左である。

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 というわけで、徹底した守備を行う栃木に対して長崎がどのような手を打っていったのかに触れていくが、まず触れなくてはならないのはイバルボの存在だろう。前節山形戦でもゴールを上げた元コロンビア代表FWは、見た目の通りの強靭なフィジカルと卓越したシュートセンスを武器としている。来日してからのキャリアは順風満帆とは言えないかもしれないが、イタリアセリエAでもレギュラーとしてプレーした実力はJ2では群を抜いている。

 

 イバルボを投入してからの長崎はとにかくイバルボを中心に攻撃を敢行。右サイドに流れることの多いイバルボにボールが渡ると、ロングカウンターで馬力のあるドリブルを行ったり、ハーフスペースの味方とのワンツーからゴールに迫るなど、左サイド偏重だった前半とは異なるアングルからの攻撃が多くなった。

 しかし、イバルボの投入が脅威になったかと言えば実際は微妙なところ。一度ペナルティエリア内を個人技でシュートに持ち込んだシーンはあったものの、右サイドに流れる回数が多く、ゴール前を不在にすることから栃木としては多少なりとも守りやすさを感じただろう。GK川田が背後の呉屋に気付かずにボールをピッチに置いてしまったミス以外で、被決定機はそれほどなかった。

 

 長崎は終盤に長谷川を投入して前線に高さを補強するも、ゴール前を固める栃木から得点を奪えず。セットプレーから得た虎の子の一点を守り抜いた栃木が、残留争いに大きな意味のある勝ち点3を得ることに成功した。

 

最後に

 この日の栃木のシュート数はたったの2本。枠内シュートに限れば、(厳密に言えば枠内に飛んでないと思われるが)乾のヘディングシュートのみであり、その後は1本もシュートを記録することはなかった。それでも結果は1-0の勝利なのだからサッカーは分からない。

 栃木の戦い方は非常に徹底されていた。ピッチに立つ選手全員がそれぞれのタスクを完全に理解し、一糸乱れることなくブロック守備を構築。途中からピッチに入る選手も、アクシデントによる投入でありながらも攻め込まれる展開に十分アジャストした。チーム全体がまとまり、ここまで割り切ったプランで戦うことは一朝一夕のトレーニングで実現できるものではない。厳しいシーズンを戦い最終盤を迎える選手たちの顔には自信さえ窺える。

 シーズンも残すはラスト1試合。栃木が残留するためには他会場の結果も関わってくるが、まず一番初めに考えなくてはならないのは自分たちの勝利である。現役ラストゲームとなる廣瀬浩二を笑顔で送り出すためにも、自信を持って自分たちのサッカーをやり切ることが間違いなく勝利、そして残留への近道となることだろう。

 

試合結果

J2 第41節 栃木SC 1-0 V・ファーレン長崎

得点 23’乾 大知(栃木)

主審 大坪 博和

観客 9,138人

会場 トランスコスモススタジアム長崎

 

前節のレビュー(大宮アルディージャ戦)

 

前回対戦のレビュー