栃木SCのことをより考えるブログ

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【先制点の重要性】J2 第37節 栃木SC vs FC琉球(●0-2)

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スターティングメンバー

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栃木SC [4-4-2] 21位

 前節甲府戦(△1-1)、前々節徳島戦(△1-1)と先制しながらも終了間際に追い付かれ、勝ち点2を失う試合が続いている栃木。ハイテンションで試合に入るため、疲れの見えてくる後半の戦い方が課題となっているが、選手交代も含めその辺りのマネジメントを田坂監督はどのように考えているか。スタメンの変更はなし。三宅と森下は5試合ぶりにベンチ入りした。

 

FC琉球 [4-2-3-1] 15位

 前節東京V戦は5失点の大敗。残留ラインと言われる勝ち点40に到達し、「チーム全体がフワッとした状態」だったと語ったのは樋口監督。残留をより引き寄せるためにも仕切り直しにしたい一戦だ。スタメンの変更は2人。風間宏希、河合が復帰し、注目の小野伸二はベンチスタートとなった。

 

前半

攻撃的かつ組織的なプレッシング

 キックオフからボールを繋いでいこうとする琉球に対して、栃木は高い位置からボールホルダーにプレスをかけることで守備から試合をコントロールしていく。

 琉球のボール保持の特徴は最終ラインを2CB+1人(GKかCH)にすること。栃木の2トップに対して数的優位を得ることで余った選手から前線に縦パスを供給していこうという算段である。栃木の第一プレッシャー開始位置や琉球の最終ラインの高さ設定からGKよりもCH(特に上里)が+1人の役割を担うことが多く、その位置はCB間や左SB-左CB間に下りることが多かった。

 3人になった最終ラインと前線とのリンクマンになる1CHによるビルドアップに対して、栃木は中央を閉じることでボールをサイドに誘導。2トップは縦関係になりながら琉球2CHをケアし、サイドに出たところでSHがプレッシング開始。SBも縦スライドし、周りの選手もそこに連動していくことで、サイドに蓋をしていく仕組みになっていた。3枚のバックラインの右側に立つことの多かったCB岡崎に対してSH大﨑が寄せると後ろにフリーの選手ができそうな気もするが、予測とアプローチの鋭さにより危険な場面を作られることはほとんどなかった。コーナーフラッグ付近からの瀬川のFKに田代が合わせきれなかった前半3分のシーンもこの形から生まれたものであり、栃木の出足の良さに琉球が後手を踏んでいるように見えた立ち上がりだった。

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 栃木の高い位置からの組織的なプレッシングにより後方でのボール回しを思うように行えない琉球。プレスの網にかかる前に前線へロングボールを入れるシーンもあったが、栃木はCBを中心に集中して対応。1トップの山田は183センチと上背はそこそこあるが、ポストプレーを得意とするプレーヤーではなさそうだった。相方の上門やSHらは足元で受けたがる傾向がありスペースへ裏抜けさせるようなロングボールが飛んでこなかった分、目の前の相手を見ればよい栃木の最終ラインにとってはそれほど難しくない対応だったように思う。

 

徐々に見えてきた攻撃の形

 いつものようにへニキへのロングボールから前進していく栃木。最終ラインではとにかく時間をかけずに蹴り飛ばす。チーム全体のベクトルが前方かつボール周辺に向いているため何度も高い位置にカオスを作ることができていた。仮にボールを収められなくても密集の中での枝村のセカンドボールへの予測やユウリのボール奪取能力を中心に二次攻撃へ移行。前半30分には琉球のクリアを内に絞った久富が回収し、ユウリからの縦パスをへニキが体を巧みに使いながら反転し前を向いたシーン。前半34分には大﨑のプレッシングによりボールを奪取すると瀬川のクロスに川田拳登がゴールライン上に折り返したシーン。前半37分には榊のプレスバックにより回収したボールを瀬川がGK-DF間にクロスを供給したシーンなど、守備→攻撃の流れが一体となったプレーを次々と行うことができていた。ロングスローやCKも多く、先手を取るチャンスは何度もあったが、フィニッシュワークの精度に欠け無得点のまま推移することになってしまった。

 

 ここまでなかなかチャンスを作ることのできなかった琉球も少しずつではあるが、再現性をもった形から意図した攻撃を作れるようになってくる。全ての攻撃において起点となったのは左SH河合のポジショニング。主に左のハーフスペースに位置取り、栃木の守備ブロックのギャップでフリーになり後方からボールを引き出そうとした。実際にボールを受けたシーンでは高確率でアタッキングサードに侵入しており、そこからシュートやクロスなどでゴール前にボールが入ってくるシーンは多く作れていた。特に、左右の揺さぶりから栃木のプレッシングの逆を突いた前半AT1分の崩しは見事だった。

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 前半はスコアレスで折り返し。

 

後半

琉球の変化

 前半の琉球は両SBにそれほど高い位置を取らせずにビルドアップの出口になってもらうことで、サイド攻撃に厚みをもたらそうという狙いが見えたが(栃木の中を閉じたプレッシングの影響もあると思うが)、後半に入ると両SBがライン間で幅を取るなど攻撃的な立ち位置を取るようになった。樋口監督がDAZNの試合直後のインタビューでも話していたが、狙いは「栃木の横スライドが間に合わないように回しブロックを間延びさせ、中央にパスを通すため」。一列下りたCH上里や風間宏希がSBに対して対角フィードを入れる回数が多くなり、明らかに前半とは異なる戦い方を実行していく後半となった。

 変化後の琉球の[2-4-4]もしくは[3-1-4-2]は、栃木にとって前節甲府戦で防戦一方になってしまった苦い記憶のあるシステム。相手の変化に対してマッチアップにある選手を合わせてしまえば容易に6バックになり得る。SHが引き込まれてしまった前節の課題を清算するべく、栃木は横幅をコンパクトに保つことでボールサイドに圧縮し、幅を取る逆SBにはSHが背中でケアするような形をとった。

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 中央を閉じてサイドに誘導し、人数をかけてボールを絡め取る。前半同様に高い集中力と判断の早さ、球際の強さから琉球の前進を規制していくと、琉球はブロックの外を回るパスに終始。無理に縦に入れてきたところを回収し、遅攻から大崎がシュートに持ち込んだ後半21分のシーンは、奇しくも栃木がシーズン当初に取り組んでいたサイド密集からの崩しであった。

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 後半20分を過ぎたあたりから琉球の幅を使った攻撃が徐々に効き始める栃木。ロングボールを拾えずに守備に切り替わった際にSHの戻りが遅くなり、琉球SBに与えられる時間とスペースが多くなっていった。特に立ち上がりからフルスロットルだった大﨑の背後は顕著であり、瀬川が諸刃の縦スライドで対応する場面がいくつかあった。

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 交代選手を投入しながら守備強度を維持しようとする栃木。榊に変えて平岡を入れた直後にはピッチサイドから久富に対して「中を閉じるように」と指示があり、このまま崩れることなく終盤に入っていくと思えたが、無情にも試合は川田拳登→浜下の交代を行った直後に動いてしまった。後半34分、ここまで集中した守備で割らせることのなかったCB-SBのチャンネルを突破され失点。我慢し続けた琉球が栃木の一瞬の隙を突き先制点を奪うことに成功した。

 

 またしても終盤に失点を喫した栃木はへニキに変えて三宅を投入。選手をターゲットにしたロングボールでなく、快足2トップを生かすべくスペースを目掛けたロングボールにシフトしていく。なんとかして同点に追い付きたい栃木だが、焦りからか間延びした陣形がネックになりセカンドボールを回収できない。逆にCB田代を前線に上げて前がかりになった背後をカウンターで突かれ失点を許すと、このまま試合終了のホイッスル。残留に向けてホームゲームで厳しい勝ち点0に終わった。

 

最後に

 守備から試合の主導権を握り、何度もゴールに迫った栃木であったが、一つのミスが命取りになってしまった。残り試合を戦う明確なスタイルを確立したことで、チームが上向き状態になってきた時期だったからこそ今節の敗戦によるダメージは正直大きい。残留に向けてまた大きな壁が現れたな、と思いつつも、結局は先制点を奪えなかったことに尽きるのかなと思っている。栃木が主導権を握る試合展開のなか迎えた終盤の時間帯で、「勝ち点1でも良い琉球」と、「ホームゲームで何としてでも勝ち点3を取りたい栃木」という対照的な選手心理の差が一瞬の隙を生んでしまったのだとすれば非常にもったいなかったと思う。シンプルではあるが、重要なのはどんな形でも先制点を奪うことなのである。泣いても笑っても残りあと5試合。「惜しい」で勝ち点を落とさないためにも、全てのプレーの細部に拘っていきたいところだ。

 

試合結果

J2 第37節 栃木SC 0-2 FC琉球

得点 79’上門(琉球)、90+5’上門(琉球

主審 上田 益也

観客 6,255人

会場 栃木県グリーンスタジアム

 

前節のレビュー(vs甲府

前回対戦のレビュー