栃木SCのことをより考えるブログ

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【さらに積み重ねていくには】J2 第30節 栃木SC vs ヴァンフォーレ甲府(△0-0)

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はじめに

 前節愛媛戦は森の2試合連続ゴールにより1-0で勝利した栃木。順位は9位まで浮上し、今節は初の3連勝をかけてヴァンフォーレ甲府をホームに迎える。前節スーパーアシストを記録したオビがマリノスに復帰、明本が負傷離脱とチームの屋台骨が不在となるなか、自分たちのスタイルをどれだけ表現できるか。試金石となる一戦だ。

 

スターティングメンバー

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栃木SC [4-4-2] 9位

 ホームの栃木は前節から4人変更。オビの抜けたGKには川田が9試合ぶりに先発復帰。最前線には矢野が起用された。左SH大﨑とボランチの佐藤は負傷からの復帰組。ベンチには第7節町田戦で負傷したGK塩田が久々のメンバー入りを果たした。

 

ヴァンフォーレ甲府 [3-4-2-1] 6位

 アウェイの甲府は前節から6人変更。試合ごとに先発を大きく変えているが、ここ4戦で3勝するなど好調を維持している。最前線のドゥドゥはチームトップの7得点を記録。去年まで2年半栃木に所属したメンデスにとっては古巣対戦となる。

 

 

前回対戦を踏まえた甲府

 前回対戦は栃木が1-0で勝利。後半6分の西谷優希の得点で逃げ切ったという試合だったが、プレッシングから何度もチャンスを演出するなどスコア以上に充実感のあった試合だったことを覚えている。このとき甲府のトップに入っていたのがラファエル。サイドからボールを斜めに差し込んでの起点作りなどポストプレーを軸にした組み立てに対して、栃木はCB陣が前向きに対応することで中央を封鎖。攻撃をサイドに追いやることでチャンスらしいチャンスを与えない好内容の試合だった。(図は前回対戦)

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 この日の甲府の最前線はドゥドゥ。どちらかといえばシャドーやSH気質の選手であり、ポストプレーの強さというよりはスピードで勝負するタイプである。最大の狙いは栃木の最終ラインの背後。前半5分には、GK河田→松田のロングボールからドゥドゥが抜け出そうというシーンにも見られたように、ハイラインを敷く栃木をひっくり返すことで直線的にゴールへ迫る甲府だった。

 

 対する栃木もロングボールを多用する点では平常運転。背後に抜け出すというよりは矢野をターゲットに据えて、そこからのセカンド勝負というイメージだった。チームのセンターラインが不在となるなか、なるべくシンプルにという狙いはあったのかもしれない。右サイドからの黒崎のクロスを榊がニアでフリックし森のシュートに繋げた前半10分のシーンも中盤でのセカンド争いを制してからのものだった。

 

 前半15分くらいから繋ぐ気配を見せる甲府。それに応じて栃木もプレッシングを開始。どこまで意図していたかは分からないが、甲府の左CBメンデスにボールが渡るように追うことが多かった。試合勘やプレス耐性に不安のあるメンデスはどうしても近くの味方にボールをつけてしまうことが多く、栃木の選手は連動したプレスで狙いを定めることができていた。

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 左サイドからの組み立てに不安のある甲府は飲水タイムに微修正。その最たる例がボランチ武田からドゥドゥを背後に抜け出させるパターン攻撃だった。メンデス→内田→武田の繋ぎで栃木のプレスを誘い出し、ドゥドゥが一気に背後を取る。飲水タイム後の前半26分に初めてこの形から裏を取ると、前半39分には全く同じ形からドゥドゥが抜け出して左サイドからクロスを供給。その流れから泉澤がゴール至近距離からのシュートに至る場面があった。

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 最終ラインでの駆け引きが増え、また中盤を越えるロングボールの蹴り合いにより、徐々に全体を押し上げられなくなってきた栃木。全体を押し上げられなければコンパクトさは維持できない。ロングボール時に矢野が孤立してしまうことも少なくなく、弾き返されたボールの争奪戦で後手を踏んだ影響か、特にSHの2人がボールを持つシーンは少ないように見えた。

 自陣でマイボールにしてから遊びの横パスを一本入れることでSHが内側に絞る時間を作ることができればセカンドボールの勝率も上がっていたかもしれない。ただ一方で、素早く攻めることにより相手に準備する余裕を与えないということを踏まえれば間髪入れないロングボールも一概に否定できないわけで、ここは悩みどころな部分である。いかに攻撃を意識しながらコンパクトに守備できるかを試されているような展開だった。

 

 飲水タイムを経て主導権を握った甲府。ボールが空中を行き交う展開に栃木は武器であるハイプレスを見せることができなかった。前半はこのままスコアレスで終了。

 

 

大事にしたいロングボールからの展開

 前からプレッシングをかけてもロングボールで回避されてしまう栃木。後半5分には、榊がGKまでチェイスして蹴り出したボールを中盤で回収するというシーンはあったが、そもそも甲府がセットした状態で繋ぐこと自体が少なかったため、ハイプレスが機能した場面は限定的だった。

 

 プレスを封じられてしまうならば自陣からのロングボールは大事にしたい栃木。前半の課題として挙げたコンパクトさの部分については幾らか修正された印象だった。セカンド争いから大﨑がファールを受ける場面だったり、相手にボールが渡ったタイミングで囲い込む速さだったりは栃木のコンパクトさが光ったシーンだったように思う。

 

 とにかくロングボールを蹴り込んでセカンド争いを繰り広げていくことで、栃木は敵陣深い位置を取ること自体は成功していた。ただ、セカンドボールを拾ってからの展開力に乏しかったのが正直なところ。岩間、佐藤と無骨派な2人がボランチを組んでいたことも影響していたかもしれない。

 そのなかでも後半18分にあったように、田代がボールを持ち運んでから楔のパスを榊に入れ、中央に起点を作ったうえでサイドから黒崎がクロスを供給する形はもう少し再現性をもって繰り返したかった。

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 前半と比べれば押し込まれる機会の多くなった後半の甲府だが、栃木の守備網を突破できればカウンターのチャンスはあった。栃木の選手の少ない逆サイドに展開できれば左サイドなら泉澤の個人のクオリティがあるし、右サイドの小柳も積極的にオーバーラップを繰り返す。後半17分には、松田との連携でドゥドゥが右サイドを突破し、クロスから混戦となり最後は田代のクリアがクロスバーを叩くシーンがあった。

 遅攻時はCB新井をアンカー気味に一列上げることでIH化する武田がよりゴールに近い位置でプレーできる仕組みの片鱗は見えた。ただ、基本的にはWBからのクロスで終えることが多く、またそもそも遅攻回数が限られたこともあり見られた場面は少なかった。

 

 5連戦の1戦目に加えて、均衡した展開ということで交代策が慎重となった両チーム。そのなかで交代選手がチームをよりパワーアップさせられていたのは栃木だった。ボランチの西谷優希が中盤でタクトを振ることでSBを押し上げ、エスクデロがボールサイドに顔を出してダイレクトのパスなどからテンポを上げる。終盤にはこの2人を中心にセカンド争いから何度もチャンスを演出し、5試合ぶりにフル出場となった矢野も前線で体を張り続けた。

 

 後半アディショナルタイムには甲府もメンデスを上げてパワープレーを仕掛けるも、両チームともゴールネットを揺らすことはできず。0-0のスコアレスドローで試合終了となった。

 

 

最後に

 栃木にとっては今季ここまで苦戦を強いられたパターンにまさに合致する試合だったと言えるだろう。前からのプレッシングはロングボールで回避され、ハイラインの背後を取る攻撃にはシンプルながら手を焼いた。前半の飲水タイム以降は難しい時間を凌ぐ展開となったが、それでも何とかやり過ごしてから後半に主導権を取り戻す試合運びにはこれまでの経験の積み重ねが窺えた。

 甲府が栃木の強みを消すように割り切ったスタイルで戦ってきたこともあり、明本不在による影響はこの試合では測りにくかった。これだけ空中戦の応酬になってしまうと、いくら明本といっても活躍は未知数となる。ただ、一つ言えるのは、普段明本の見せる強引なまでの前へのベクトルがこの試合では見られなかったこと。ノンストップで続く連戦を戦い抜くためにも今いる選手で補い合い、越えていくことでチーム力をさらに高めていけるよう期待したい。

 

 

試合結果

栃木SC 0-0 ヴァンフォーレ甲府

主審 中村太

観客 3,742人

会場 栃木県グリーンスタジアム

 

 

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