スターティングメンバー
栃木SC [4-4-2] 10位
前節徳島戦は0-1で敗戦。圧倒的なボール支配に対して粘り強く戦ったが、4試合ぶりの黒星となった。ホーム連戦となる今節は3人入れ替え。CBには柳、右SBには黒崎が入り、溝渕は左SBでスタメンとなった。溝渕と岩間は古巣対戦。
松本山雅FC [4-4-2] 19位
J1復帰を目指すべく布啓一郎監督を招聘した松本だが、ここまでは苦しい前半戦となっている。アウェイ連戦のなか、今節はスタメンを3人変更。前節2得点をあげた塚川は引き続き先発。阪野、乾、サブの服部は古巣対戦。
準備していた形から
立ち上がりから敵陣に多くの選手が侵入していくことで、勢いをもって試合に入った栃木。FKを繋いで明本が入れたクロスがさっそくポストを直撃し、続く西谷優希のクロスから森がGKと一対一になるなど、早くも得点の気配は漂っていた。
それだけに、勢いのままに取ることのできた山本の得点は、一連の攻撃を完結させられたという意味でも大きな価値があった。自身にとっても価値あるJ初ゴール。左利きの山本を右サイドで起用していることから、監督としても内側に入りながら中央に絡んでいってほしいという狙いは大いにあったと思う。チームとしての山本の活かし方と本人の思い切りの良さが実った先制点だった。
\ 🚀 J初ゴールはスーパーミドル! 🚀 /#栃木SC の21歳、 #山本廉 の左足から放たれた強烈なシュートがポストを叩いてネットを揺らす!#GoalJ2リーグ
— Goal Japan (@GoalJP_Official) 2020年9月13日
🇯🇵#明治安田J2 第19節
🆚栃木SC×松本山雅FC
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出鼻をくじかれた松本だったが、CKからすぐさま同点に追い付く。ゾーンディフェンスの泣きどころであるファーサイドに対して、正確なスピードボールを突き刺したセルジーニョのキックはさすがであった。ボールの落ちたゾーンは大島の担当だったかもしれないが、おそらく手前でジャンプした田代で見えていなかったと思う。「試合前のセットプレー練習でも「あそこはボールが来るぞ」というコーチングスタッフからの指示もあった」と乾が話したように、狙いの形から同点に追い付くことのできた松本だった。
収支はプラスだったのか
ボール保持に拘らない栃木はポゼッション率で40%を切ることも珍しくはないが、この試合では50%ずつのイーブン。ボールを持たされたという側面もあると思うが、どちらかといえば栃木のプレッシングを回避するべく松本がシンプルにロングボールを入れてきたという意味合いの方が大きかったと思う。
ロングボールの供給先はSB裏に流れるFW。自陣でCBがプレスを受けるときだけでなく、カウンターに転じたときには素早くグラウンダーのパスも供給していたことから、チームとして狙いのエリアになっていたのかもしれない。栃木のCBを釣り出すことができれば、ゴール前を手薄にできるという算段である。
個人的に気になったのが、ゴールキックなどセットした状態で松本GKが蹴り出すときの栃木の守備の形。このとき、栃木はボランチの西谷優希をCB間に下ろして5バックを形成。松本の2トップがともに長身であり、どちらにロングボールが向かうか分からないことから、2CBを分断させないこと、CB裏に抜けた場合のカバーリングがタスクだったように見えたが、かえってセカンドボールへの出足が鈍くなってしまっているようにも見えた。
松本も栃木同様に、セットした状態での前進手段はロングボールからのセカンドボール回収である。ボランチが下りることで手薄になる栃木の最終ライン手前のエリアでは、セカンドボールに目を光らせる松本の選手がスタンバイ。キープ力のあるセルジーニョや塚川にボールを回収されることが多く、リスク管理を優先しながらも二次攻撃を許していた点が少し気になったところである。
ボール保持の課題
試合を通じて松本はロングボール、栃木は密集してのサイド突破をベースに前進を図っていくが、セカンドボールやこぼれ球への意識はともに非常に高かった。あまりの激しさに小競り合いになる場面も見られるほどであり、ピッチサイドでは監督同士の舌戦も繰り広げられていた。
一方で、相手CBがボールを持ったときのFWの動きは対称的であった。 (ロングボールで回避されてしまったが、)連動して前からプレスをかけていく栃木に対して、松本はハーフラインあたりでステイの方針。
したがって、栃木には時おりボールを持つターンが訪れるのだが、ここに関してはまだまだ未整備感が否めなかった。ボランチの岩間が下りて両SBを前に押し出すものの、そこからの前進手段が即興的であり、イメージの共有が上手くいっていなかった印象である。
前半は1-1のタイスコアで折り返し。
戦術を支えた運動量
5連戦のラスト45分。選手を入れ替えながら戦っているとはいえ、心身ともに疲労は溜まってきているはずである。タフな状況において、戦術を支えるための運動量は両チームともに切らすことはなかったが、セカンドボールへの出足と球際のバトルで徐々に主導権を握っていったのはホームチームだった。
栃木は後半に入ってからも前からのプレッシングを続行。ロングボールで回避されるため直接引っ掛けるシーンこそ少なかったが、松本の選手は相当手を焼いていたように見えた。圧力を受けて蹴り出したボールがタッチラインを割ったり、FWがサイドに流れても栃木のCBの密着マークにより次の局面に持ち込めるシーンは少なかった。
前線が収められないから二列目が上がれず、二列目が上がれないから前線でセカンドボールを拾えない。栃木のプレッシングを正面から浴びた後半の松本はこんな悪循環のなかにいるようにも見えた。
松本のラインが下がったことで、よりボールに対してプレーできるようになったのが栃木のボランチ。とりわけその中心となっていたのが西谷優希。左右に散らすパスはさることながら、ブロックの隙間を刺す縦パスのタイミングと精度は非常に優れていたと思う。
セカンドボール争いにおいても、途中出場の佐藤とともに前を向いた状態で参加できるため素早く詰め寄ることができていた。
試合終盤はシンプルなロングボールからゴールに迫っていく両チーム。栃木は矢野、松本は服部と、ともに途中出場の選手をターゲットにパワープレーを仕掛けていったが、ゴール前で決定的なチャンスを作ることはできなかった。
試合はこのまま1-1で終了。勝ち点1ずつを分け合う結果となった。
最後に
試合後インタビューでは、消化不良の前節と比較して今節はやり切ったと手応えを口にした田坂監督。
序盤の展開からプレッシングをロングボールで回避されることは分かっていたと思うが、足を止めずに前から圧力をかけた結果、後ろの選手が有利にボールを奪い取ることができた場面は多かったと思う。前線の選手が少しでも相手のプレー精度を削ぎ、後ろの選手がタフに対応する。チーム全体でボール回収の共通認識があったからこそ、運動量に差の出る後半は特に相手を押し込むことができたのだろう。
もちろん、押し込んだときのクオリティが課題なのは明白である。自分たちでボールを持って崩すアイデアはまだまだではあるが、そういう部分が求められるフェーズに入ったと捉えることもできると思う。
5連戦が終わったばかりだが、一週間後にはもう次の5連戦が控えている。対戦相手はいずれも難敵であり、特にリーグの半分を折り返してからは前半戦で黒星を喫した相手が並んでいる。上位に食らいついていけるか、下位に引きずり込まれてしまうのか。次からの5連戦は、栃木にとってリーグでの立ち位置を大きく左右するものになるかもしれない。
試合結果
得点 3’山本廉(栃木)、11’乾大知(松本)
主審 川俣秀
観客 2,057人
会場 栃木県グリーンスタジアム