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【サイドの立ち位置を巡る駆け引き】J2 第36節 栃木SC vs ヴァンフォーレ甲府(△1-1)

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スターティングメンバー

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栃木SC [4-4-2] 21位

 前節は徳島をシュート2本に抑えながらも唯一の枠内シュートを決められドローに終わった栃木。へニキを前線に置く奇策を採用して3試合、残り試合を戦う明確なスタイルの確立と戦術のブラッシュアップは一定の成果を見せている。前節からのスタメンの変更はゼロ。キムヒョン、平岡のほか古巣対戦となる福田が久しぶりのベンチ入りを果たした。

 

ヴァンフォーレ甲府 [3-4-2-1] 6位

 連勝を達成し逆転での自動昇格圏入りを目指す甲府。シーズンを通してレギュラーメンバーとシステムに大きな変化はなく、一貫したチーム強化を行っている印象だ。スタメンの変更は2人。シャドーに入った宮崎純真は、栃木との前回対戦がプロデビュー戦、今回の対戦がプロ初スタメンとなった。いつか栃木で夢を叶えてほしい。

 

前半

インテンシティ高く攻撃的な守備を見せた栃木

 ボール保持にはそれほど拘らない両者。立ち上がりから後方では時間をかけずにロングボールを供給していくが、栃木の前線からの守備の仕組みにより徐々に甲府がボール支配を高めていく展開になっていった。

 

 甲府の3バックに対して栃木の2トップはミスマッチ。栃木にとっては自然と生じるズレにどう対応していくかがまず注目されるが、その答えは中央を締めることだった。榊、へニキの2トップはCBではなく2CHをケア。ワイドCBにボールを誘導するとSHが猛然とプレッシングをかけ、それに合わせてSBが甲府WBに縦スライドで対応。甲府の前進に対して中央、サイドともに蓋をする仕組みは前節徳島戦(△1-1)、前々節愛媛戦(●2-3)と同じ形であり、3バックのチームと連続の対戦となったことからもスムーズに対応できていた。

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 奪ってはすぐさま放り込むロングボールも数試合を経て洗練されてきている。競り合うへニキの前方には榊が裏抜け準備、横と後方にはSHやCHがセカンドボールを取るべく非常にコンパクトな距離感を保っていた。プロ2試合目のスタメンとなったGK川田修平のキック精度も高く、効果的な前進を後押ししていた。

 そして狙い通りに先制点を奪う。GK川田からのロングボールに榊が抜け出しを図るも甲府DFが手前でクリア。距離感が近いためセカンドボールを拾えた枝村が右サイドに預けると駆け上がった久富がクロス。川田拳登のラストタッチにオフサイドラインぎりぎりで抜け出した大﨑がボレーで合わせてゲット。幸先よく先手を取ることに成功した。

 

 ポゼッションを高める甲府は失点後、CHが最終ラインに落ちてワイドCBに高い位置を取らせたり、ウタカが中盤やサイドに流れたりと、栃木の守備の基準点を混乱させようと試みるも試合に変化をもたらせず。2トップが縦関係になってボールをサイドに誘導し、SHがワイドCBを捕まえる構図は甲府が可変してからも変わらなかった。特に大崎淳矢のいる栃木の左サイドでは、大﨑の出足の良さと瀬川の縦スライド、ユウリのボール奪取能力が光った。神出鬼没なウタカに対してもCBを中心に近くにいる選手のチャレンジと周りのカバーリングが十分に機能していた。

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 ただそれでも、栃木は保持時後方で時間を作らないため、常に守備に走るかポジティブトランジションで前線に駆け上がるかであり、体力の消耗は比較的多いように見えた。体力の消耗は判断に影響する。前半18分には構造上ノープレッシャーのCB小出からライン間の横谷に縦パスが入り、落としを受けた小椋から前線ウタカ・宮崎に向けてロングパス。前半28分には右SH川田の前プレに久富が連動できず、中央からCH枝村が引き出されたところに斜めのパスを入れられることがあり、徐々にミスマッチを利用される場面が増える展開となっていった。

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成功した甲府トレードオフ

 ミスマッチを突きながらも栃木のブロックの周りをU字に回るパスが増え、なかなか決定打を打てない甲府。痺れを切らしたウタカが中盤に下りてきてボール回しに関与するが、ゴール前の脅威が少なくなる分栃木にとっては好都合だっただろう。

 

 上手くいかない甲府は前半35分ごろにシステムを変更。武岡を右SB、田中を右SHに移し、[4-4-2]のシステムに変更した。

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 この変更の狙いは栃木の左サイドを下げさせることにあったように思う。変更前の3バック時はミスマッチを埋めるためにSHが前に出てくるため、チームとして栃木は前へ前へ圧力をかけることになる。左サイドの守備の連動の高さは前述のとおりである。しかし甲府の最終ラインが4バックになると話が変わってくる。システムが噛み合い、かっぷりよつの構図になるとどうしても目の前の選手を第一にケアしなければならない。マークがはっきりするためアプローチの速度は上がるものの、甲府SBの立ち位置次第で栃木のSHを押し下げられてしまう。前半終盤の時間帯は武岡のポジショニングが低く、前半38分のように左サイドからボール奪取に成功する場面もあったが、配置の変更による采配は後半徐々に栃木を苦しめることとなった。

 

 前半は栃木が1点をリードして折り返し。

 

後半

防戦一方

 実際のところ後半の構図は45分間を通してほとんど変わらなかった。猛攻を仕掛ける甲府に対して栃木が11人の全員守備でひたすら耐える展開。守りきってカウンターを繰り出そうとするも、前線2トップが完全に孤立してしまい、「ずっと甲府のターン」状態になってしまった。

 大きな要因は途中から右SBとなった武岡がより高い位置を取れるようになったこと。ハーフタイムにスタッフから指示があったのかもしれない。2CB+2CHでビルドアップを行うようになった甲府に対して2トップだけではプレスをかけられない栃木。前半は回させていたはずの甲府のU字パスが後半はジャブとなり、横スライドを強いられた守備ブロックは時間とともにラインを下げるようになっていった。

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 後半11分には武岡に変えて金園(田中が右SBに移動)、後半22分には小椋に変えてアラーノ、後半30分には宮崎に変えて森を投入するなど、同点、逆転に向けて攻撃的な交代策で前線を補強していく甲府。交代選手が三者三様のプレーで栃木ゴールに迫っていくが、GK川田のハイパフォーマンスによりゴールを奪うには至らないまま試合は終盤へ。

 栃木は後半36分、榊に変えて和田を投入することでサイドの運動量を補填。クリーンシートでのゲームクローズに向けて交代策を切っていくが、試合は望むような結果では終わらなかった。後半43分、CBエデルリマからのロングボールをクリアし切れずに後逸、サイドに展開されるとCB小出のクロスにアラーノがヘディングで合わせてゴール。時間を巻き戻せば、同じように栃木の左サイドからクロスを入れられるシーンが2度ほどあり、受け手に対して唯一競り切れなかった3度目に失点を許してしまった。栃木のシュート3本に対して甲府のシュートは12本。再三のシュートチャンスをようやくものにした甲府が試合を振り出しに戻すことに成功した。

 

 栃木は失点直後の後半AT2分に平岡とキムヒョンを同時投入するも、残りわずかな時間ではボールタッチすらままならず、試合は1-1で終了。互いに昇格、残留をかけた一戦は勝ち点1を分け合う結果となった。

 

最後に

 甲府のシステムチェンジによって自陣に押し込まれ防戦一方になってしまった栃木。今の守備の仕組みだとSHがどれだけ前を向いてプレーできるかが生命線であり、それが攻撃の鋭さにも大いに影響してくるが、前半のうちにそこに手を打ってきた伊藤監督の采配はさすがであった。ミスマッチにもマッチアップにもどちらにもメリット・デメリットがあるが、サイドの攻守(特に栃木SHvs甲府SB)の部分においては甲府がマッチアップ状態を存分に生かせたと言える。後半は特にサイドを起点に押し込まれ、甲府のCBやCHを遮断できなかったために左右への展開を許してしまったが、リードしているからこそ戦況を見守ることを田坂監督は選択したのだろうか。第33節鹿児島戦(〇3-1)のようにボールサイドのCBとCHを抑えるプレッシャーを行えれば、甲府をサイドに閉じ込め[4-4-2]の横スライドも間に合ったかもしれない。次節戦うFC琉球は後半の甲府に近い立ち位置を取ると予想されるので、直近の課題を修正し、残留に向けて勝ち点を積んでほしいところである。

 

 

試合結果

J2 第36節 栃木SC 1-1 ヴァンフォーレ甲府

得点 8’大﨑(栃木)、88’アラーノ(甲府

主審 清水 勇人

観客 7,063人

観客 山梨中銀スタジアム

 

前節のレビュー(徳島ヴォルティス戦)

前回対戦のレビュー