栃木SCのことをより考えるブログ

主に栃木SCの試合分析(レビュー)をします。

【やれていただけに痛感した差】J2 第31節 栃木SC vs 京都サンガFC

f:id:y_tochi19:20210929225441j:image

スターティングメンバー

f:id:y_tochi19:20210929225451p:image

栃木SC [4-4-2] 14位

 前節水戸戦はドローに終わったものの4試合負けなしが続いている栃木。守備の安定感が好調に繋がっており、この勢いが首位相手にどれだけ通用するか試金石となる一戦に臨む。京都からレンタル加入の谷内田が外れ、森が5試合ぶりに先発。豊田は2009年に所属した古巣との対戦となった。

 

京都サンガFC [4-3-3] 1位

 琉球、山形との上位対決を連勝し首位に返り咲いた京都。曹貴裁監督のもと攻守にアグレッシブなスタイルなサッカーはここまでリーグ4位の48得点、24失点はリーグ最小と磐石な戦いを繰り広げている。前節からは荒木に変わって武田が先発復帰、松田は左WGでの起用となった。

 

 

守備のクセを突きたい両者

 初めてボールが落ち着いたのは京都が後ろで繋ぐ姿勢を見せた前半13分。飲水タイムを迎えるまでは互いにシュート0本ずつと、中盤での激しい奪い合いが頻発する慌ただしい展開で試合は幕を開けた。

 互いに奪い合いを制すれば一気に攻撃のチャンス。ともに片方のサイドに多くの人数をかけるため、逆サイドに広げることができれば開けたスペースを享受できる。栃木は前節を継続するように西谷からサイドを変えてボールを受けた黒崎、溝渕の両SBがクロスを供給していく。

 一方京都もこれに対して準備がないわけではなかった。その一つが黒崎に対して左WGに松田を当てること。ここ2試合起用されていた荒木に比べて、普段はIHでも起用される松田は守備面でそれなりに計算が立つ。栃木が黒崎を含めた右サイドからの攻撃をストロングとすることを踏まえて、あらかじめ手を打ってきた格好である。イレギュラーな流れからではあるが、前半8分には逆サイドでボールを受けた黒崎を松田が引っ掛ける場面があり、ここからショートカウンター発動というシーンがあった。

f:id:y_tochi19:20210929225512p:image

 敵陣に入ることができれば京都はトライアングルを作ってサイドからの突破を目指す。ポジションチェンジを行いながらショートパスを繋いでいくが、原則はシンプル。大外に張る選手、栃木のCBとSBの間に入る選手、それを後方でサポートする選手の3人をまず確保したうえで、そこにアンカーの川崎や逆サイドの選手が絡むことでパスコースを増やしていく。それぞれの役割を誰かが担えればよく、各選手は入れ代わり立ち代わり栃木の選手に捕まらない立ち位置を取ることができていた。

f:id:y_tochi19:20210929225521p:image

 これを繰り返されると苦しいのが栃木の中盤。とりわけボランチはCBとSBの間に入ってくる選手のケアが基本的な役割だが、後ろに引っ張られ過ぎてしまうと中盤の密度が下がったしまう。横スライドで片方のサイドに全体を圧縮しても、中央の人数が減れば後ろでサポートする選手には時間が与えられる。京都の選手たちは少ないタッチ数でボールを動かすことで栃木の守備の網を掻い潜ると、中央に潜った選手が逆サイドに広げることでチャンスを作っていった。

f:id:y_tochi19:20210929225527p:image

 京都の先制点もこの形から。引いた位置でサポートに入った飯田がドリブルで内側に入っていくと、中央の松田から荻原へ。このとき栃木は全体の重心が低く、ゴール前にも関わらず松田に対してボランチの西谷は強く寄せ切れていない。左サイドのウタカに渡ってからも同様で、ポジションを取り直した西谷は最終ラインに吸収されてしまっていた。京都の先制点は栃木のボランチの行動範囲の広さを逆手に取ったと言えるものだった。

 

 この時間、栃木は繰り返し高い位置でボールを引っ掛けることができていた時間帯だった。京都は自陣の深い位置、特に左サイドからのビルドアップが怪しく、栃木はこのエリアで奪えれば楔のパスをゴール前に打ち込み、豊田や森にシュートチャンスを与えることができていた。

 それでも京都が自陣に押し込まれなかったのは前線にウタカがいたから。繋ぐことのできるチームの最前線に圧倒的なボールキープ力を備える選手がいるのは大きい。ウタカへのロングボールが逃げの選択肢にならず、一つの強力なオプションになる。だからこそウタカを擁するチームはウタカにある程度の自由を与えたうえで全体で空気を読んでポジションを取り直していくサッカーに収斂していくのだろう。

 自陣からのビルドアップと前線へのロングボールを使い分ける京都に押し込まれていく栃木。時間の経過とともに、失点シーンのようにピッチを横断される場面が増えていく。京都は逆サイドで待つ荻原をフィニッシャーとするべく逆算するように栃木の左サイドから攻撃を開始し、それが上手くいっていた。ハーフタイムに森が交代になったのはその辺りの影響があったのかもしれない。

 

 

受け入れた攻め筋がリスクに

 後半の京都は中盤の流動性が増したような印象だった。特に宮吉、福岡、飯田のいる右サイド。前半の得点シーンにもあったように逆サイドの荻原を終着地点にすればよいため、サイドでの細かい繋ぎには左サイドから松田が出張してくる。それに加え、武田がパスを受けに下りていくと、その分3列目から川崎が攻撃参加する形も織り交ぜてくるなど、人への意識が強い栃木のディフェンスにとっては厄介な攻撃を繰り返してきた。

 

 セットした状態からの栃木の攻撃は、前半同様豊田や有馬にまず当てて、その落としを拾った選手から素早くサイドを攻略していくもの。後半はあらかじめミドルゾーンに構えてからの守備がメインとなったことで、敵陣でのボール奪取よりも自陣での回収からカウンターという流れが多かった。おそらくピッチを横断された前半を踏まえ、ハイプレスでは流動的な中盤へのパスコースを消し切れないとの判断からだろう。

 カウンターのスタートが自陣からとなると自ずと2トップ、特に豊田のポストプレーへの期待は大きくなってくる。それだけに、その攻め筋を受け入れた時間帯にピンポイントにそこを抑え込まれて喫した2失点目は痛恨だった。

 

 2点をリードしたあとの京都は無理をしない戦いで時計の針を進めていく。基本的にはウタカを前線に残すのみで5人のMFと4人のDFのブロックを堅調に保ち、自陣で絡め取ったあとはロングボールをウタカやサイドのスペースに走り出す選手に収めさせる。シュートを打って攻撃を終わらせることもできたはずだが、無理せずゲームコントロールを優先した試合運びには首位の貫禄を感じさせた。

 

 栃木は植田、松岡、松本を次々に投入していくが、ゴール前を固める京都の壁を破ることができない。ある程度後ろでボールを捌く役割を担っていた松本を除き、植田、松本は久しぶりの出場だったためボールに絡んでも周りと連携する場面は少なかった。もう少しサイドの崩しからSBのクロス以外の選択肢をもたらすことができれば良かった。

 

 最終盤には三國をCBに投入し柳をFWに上げるも、目立ったチャンスはなく試合終了。栃木は一矢報いることができず5試合ぶりの敗戦、3連勝をマークした京都は首位をがっちりキープした。

 

 

最後に

 試合全体やスタッツを見ても決して栃木はやれていないわけではなかった。むしろここ最近取り組んでいるミドルゾーンに構えてからの守備の精度は上がってきているし、クロスを上げるためのサイドの揺さぶりも行うことができていた。プレッシングからショートカウンターへの移行を断片的でもこのメンバーで表現できた意味は大きい。

 それだけに決定機を確実にものにされ、こちらの意図を真正面から跳ね返されたことへの衝撃は少なくない。攻守において京都のクオリティは高く、置かれた立場を示す力の差を感じざるを得なかった。

 表現するための配置やディテールは異なるにしても、栃木も京都と志向するサッカーはそう変わらないように思う。栃木としては今取り組んでいることを曲げずに胸を張って前へ進んでいくことが大事である。

 

 

試合結果・ハイライト

栃木SC 0-2 京都サンガFC

得点 28分 荻原拓也(京都)

   65分 宮吉拓実(京都)

主審 川俣秀

観客 4703人

会場 サンガスタジアム by KYOCERA