スターティングメンバー
栃木SC [4-2-3-1] 17位
前節新潟戦はプレッシングが機能せずあれよあれよと失点を重ねてしまった栃木。7試合勝ちなし、5試合連続失点中と守備の改善は急務である。夏のウインドーで獲得した豊田、黒崎がさっそく先発となり、矢野は右SHで起用された。大島は今季初めてメンバーから外れた。
ヴァンフォーレ甲府 [3-4-2-1] 5位
現在3連勝中の甲府。この間メンデスを出場停止で欠いた1試合以外は先発を固定しており、充実の戦いができていることが伺える。キーマンは前回対戦でも得点をあげ、攻守に貢献しているメンデス。ハイタワーへのロングボールを基調とする栃木としては是非とも上回りたい相手である。
テーマはサイドの奥を取ること
この試合から夏の移籍市場で獲得した選手を起用できるとあってどんな起用法になるかは注目ポイントだったが、さっそく2人揃っての先発起用となった。力不足感の否めなかった右SBに黒崎をあてるのは予想できていたけど、豊田を先発起用、ましてやフル出場はさすがに読めなかった人も多いのでは。加入直後のオビを先発起用させたのも含めて、田坂監督もできる手は余すことなく打っている印象である。
そんな栃木で最も予想外だったのが矢野貴章の右SH起用。経験はあると思うが栃木に加入してからはおそらく初めての起用だったのかなと。そして案外これが一つの手段としては悪くないようにも見えた。
ロングボール主体の栃木にとって厄介なのは強烈なパワーヘッダーであるメンデスの存在。それを避けるように栃木はロングボールのターゲットである豊田と矢野を分散させる配置をとっていた。とりわけ矢野はタッチラインに張るようにポジショニング。対面の荒木に対して体格の差を生かして収めることで右サイドの高い位置で起点を作ることができていた。ジュニーニョの立ち位置もメンデスを迷わせるという意味で絶妙だったと思う。
ボールを収めてからは上がってきた黒崎やボランチ、ジュニーニョが絡んでサイド攻略を狙う。矢野がサイドに張った分、黒崎は内側に潜りながらボールを引き出すことが多く、インナーラップや左足クロスなどサイドから圧力をかけることができていた。
肝心のターゲットである矢野がエリアの外に残ってしまうのは今後の課題だが、そもそもサイド攻撃のクオリティが不足していた栃木にとって深い位置を取るシーンを繰り返し作れたことは一歩前進と言える。右サイドの奥を取ることで泉澤の重心を下げさせるという狙いも十分あったはずだ。
一方、プレッシングを含めた守備面においても、前節と比べればよく改善されていた。2トップが甲府ボランチを背中で消し、サイドに誘導してからSHがスイッチを入れる。新潟戦の後半もプレスに行く行かないの判断が整理されてからテンポが良くなっていったように、この日もその流れを継続できていた。チーム全体の重心やプレスのかけ方を見るに、ストーミングというよりは逆転残留を果たした2019年の終盤戦に近いスタイルだったといえる。
したがって、甲府の最終ラインはボールを持つ時間が増えることになるが、中央は遮断され、WBに預ければプレッシングを受けることとなる。栃木のSB裏のスペースも栃木がやみくもにプレスをかけてこないため空いていない。
それでも甲府が焦れずにその展開を受け入れられたのは一点をリードしていたから。最前線のリラは柳や三國とのバトルにも簡単には負けず、決勝点はセカンドボールを回収したところから鳥海が巧みにシュートを押し込んだ。決して甲府ペースとは言えない展開ながらもワンチャンスをものにしたことで無理せずに虎視眈々と追加点を狙うようシフトしたといえるだろう。
前半の途中から甲府は[5-3-2]に変更し、中央を厚く、またカウンターの急先鋒として泉澤を最前線に確保。前からプレッシングに来ないため栃木がボールを持つことはできていたが、右サイドへのロングボールも徐々に対応され始め、また厚く固める中央になかなかクロスを合わせることができなかった。一方で、甲府が前から来ないことで時間のできた佐藤から左サイドに幅を取った吉田へ対角にフィードを入れ、そこからクロスという流れは、相手の目線を変えさせるという意味で有効な攻撃だった。
過程も大事にしたい
栃木は後半開始とともに吉田に変えて面矢を投入。甲府のシステム変更により面矢には3センター脇からの持ち上がりや三國とともにリラを見てほしいという狙いがあっただろうか。あらかじめ高い位置を取れることや攻撃に切り替わった時の縦のスプリントが持ち味の吉田も悪くなかったが、早めの交代となった。
後半序盤も栃木がボールを持つ展開で進んでいく。前半のように右サイドに張る矢野へのロングボールというよりは、低い位置で受けたSBがSHのサポートを受けて前進していく形が増えていった。セカンドボールにはジュニーニョが素早く反応することで攻撃回数を確保。57分、ジュニーニョのファーストディフェンスでボールを回収、右サイドに開き黒崎のクロスに豊田の陰から森がヘディングという形は理想的な展開だった。
対する甲府も前残りするリラや泉澤へのロングボール、対角フィードを交えた幅を広く使う攻撃から少ない人数でゴールに迫っていく。左サイドに張る泉澤、内側を抜ける荒木、そこをサポートする野津田の関係性もスムーズだった。ただ、黒崎を中心にCBとの間を埋める松本、SHもプレスバックを怠らずにシュートまで持ち込ませるシーンはほとんどなかった。
栃木の攻め筋が明らかに変わったのはジュニーニョが退き松岡が投入され、矢野がトップ下に移ってから。正直ここからのサッカーは工夫がなくツインタワー目掛けた縦ポンになってしまったと言わざるを得ない。サイドアタックはメンデスのカバーリングでフタをされてしまい、クロスもほとんどがアーリー気味。そしてそのクロスもまたメンデスに跳ね返されてしまうというメンデスの評価が爆上がりする戦いになってしまった。
終盤には三國を前線に上げることで強引さをこれほどかと足していったが攻勢実らず。甲府の集中したディフェンスを前にセカンドボール争いでも優位に立てず、0-1で敗戦。栃木は2連敗、甲府は4連勝となった。
最後に
振り切ったスタイルを多少丸めようとしている過渡期と言うべきか、それともただただ中途半端なチームになってしまったと言うべきか。内容は悪くないとはいえちょっと評価に迷う試合だったなぁ。
— YOSHIKI (@ts_gooners) 2021年7月17日
試合後には現地観戦しての率直な感想を呟いたけど、プレッシング戦術のウィークばかり見えてしまっている現状においてこの舵取りは仕方ないのかなとも思う。繋いで崩せるだけのクオリティを求めるのは難しいにしても、ストロングである高さを生かすための工夫は最も突き詰めていくべきポイントだと思う。その一つが矢野貴章のサイド起用だとすれば、次は起点を作ってから矢野がエリア内に入っていくための仕組みをどう作っていくか。甲府が無理をしないことでボールを持たされる格好ではあったが、後半戦のヒントとなる試合になったと思う。
田坂監督のもと変わろうとしているチームが3週間の中断期間を経てどんな試合を見せてくれるか。今後の戦いに注目したい。
試合結果・ハイライト
得点 8分 鳥海芳樹(甲府)
主審 岡部拓人
観客 3573人
会場 栃木県グリーンスタジアム