栃木SCのことをより考えるブログ

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【進歩とあと一歩のもどかしさ】J2 第26節 栃木SC vs 東京ヴェルディ

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スターティングメンバー

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栃木SC [4-4-2] 17位

 前節群馬戦が延期になったことで中11日で迎えることとなった今節。延期の代替として組まれた慶應義塾大とのTRMでは、試合勘を維持しつつ多くのメンバーや組み合わせを試すことができた。前々節相模原戦からの変更は3人。左SB溝渕は栃木に復帰してから初出場となった。

 

東京ヴェルディ [4-4-2] 9位

 現在5試合勝ちなしと難しい状況にあるヴェルディ。先制や勝ち越しなど相手をリードする時間帯がありながらも、そこからの試合運びに苦戦している印象である。前節得点をあげた森田がメンバーを外れ、右SBには今夏加入の浜崎が起用された。

 

 

強度不足から崩される

 これまで[4-3-3]のシステムを主軸にしてきたヴェルディだが、今節は[4-4-2]を採用。中盤を一枚削り、その分最前線には得点感覚に優れた小池を置く普段とは異なるシステムでこの試合に臨んできた。

 システムが異っていたとはいえヴェルディの選手の多くはいつもと同じ役割を担っていた。最終ラインとボランチは形を変えながらプレッシャーを剥がしていき、ウイングの山下と杉本がピッチの横幅を広く取り、中盤には端戸が顔を出してアクセントをつける。栃木としてはある程度予想していた大枠のなかで試合が展開されたと思うが、唯一想定外だったのが小池の1トップ起用だった。

 この日の小池の役割は裏に抜け出すアクションを繰り返して栃木のCBを押し下げること。これにより栃木の最終ラインと2列目を間延びさせる。栃木としては2ラインの距離感が徐々に遠くなっていくことで、次第に下りてくる端戸にはボランチが対応することになるのだが、ここで前進を塞き止める強度が不足していた。

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 図は1失点目のシーン。福村からパスが渡った際に端戸に対応しているのは西谷。ポストプレーをする端戸を止めきれないまま梶川に前向きにサポートされると、そのまま間延びしたライン間へ進入→スルーパスから小池の先制点を許してしまった。

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 2失点目のFKを招いたファールも同じような形から。ここでは端戸に対して佐藤が寄せているがプレーを限定できていない。落としを受けた梶川の縦パスは引っかかったが、クリアを拾った端戸が間延びしたライン間をドリブルで持ち上がると、堪らず柳が倒してしまいFKを与えてしまった。

 どちらの失点も下りてくる端戸、その落としをサポートする選手のいずれにも十分な圧力がかかっていない。前に出ていったボランチとそこからの連動で相手を止められないと、芋づる式にCBが晒されてしまう。ピッチ内で整理する間もなく立て続けに失点を喫し、早い時間でビハインドを背負うこととなった。

 

 

分断された連動

 2点をリードした後のヴェルディは立ち上がりと比べれば多少ボールを持ちながら栃木の出方を探る姿勢に移行。

 それに対して栃木は矢野を先頭に、セカンドトップに入る豊田、両SHが連動してプレスを敢行していく。2点のビハインドを考慮する必要はあるが、相模原戦よりも前からのプレッシングの積極性は上がっているように見えた。矢野に呼応して豊田の出足も良くなっているように見えた。

 

 ただし、失点シーンにも見られたようにプレッシングが効果的だったかは微妙なところ。矢野が牽引していくことで全体的に前へのベクトルは高まったが、可変と巧みなボール回しで剥がしてくるヴェルディに対して、なかなかプレッシングの糸口を見つけることができなかった。

 要因の一つは、前線からのチェックで相手のボランチや下りてくる端戸など中央に差し込んでくるボールを規制することができなかったから。通常2トップが背中でボランチを消し切れない場合はボランチが前に出て対応することになるが、右に左にブロックを揺さぶられるうちにボランチが後ろに引っ張られ、相手に寄せるには距離が遠くなってしまっていた。

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 さらには、加藤が最終ラインに加わって3バック気味にビルドアップを行うことで、栃木のサイドでのプレス連動を破壊しようという狙いも伺えた。特に栃木のプレスを難しくさせたのが高い位置に張り出した杉本の存在。序盤からバチバチとやり合っていた黒崎はどうしてもプレスを躊躇する場面が見られるようになり、それに伴い一列前の畑もプレスの判断が遅れてしまうシーンがあった。

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 満を持して黒崎が福村目掛けてプレッシングをかけていけば、最終ラインから杉本やサイドに流れる小池へフィードが渡るなど、右サイドのプレス連動で後手に回った印象だった。前半を終えるまでのヴェルディは左サイドでフリーになる選手を使いながら、大きくサイドを変えることで浜崎のクロスや山下の仕掛けからゴールに迫っていった。

 

 栃木はこれらの問題を解決できないまま前半を過ごしていくことになるが、数少ない前で引っ掛けられたシーンを得点に繋げることができたのは大きかった。これも発端は下りてくる端戸への縦パスが入ったところからだったが、縦パスとセットとなる前向きのサポートがこのシーンでは遠く、ボールを回収した畑がそのまま得点に繋げることができた。

 

 

プランを発揮できた後半

 後半のヴェルディはシステムをいつもの[4-3-3]へチェンジ。ここまで[4-4-2]がハマっていただけに変更には驚いたが、中盤を厚くすることでよりボールを支配しようという思惑だったのだろうか。しかし、この変更が良い方向に転んだのは栃木の方だった。

 栃木にとってこれがメリットと言えたのは、下りてくる端戸への対応をCBが担えるようになったから。これまではボランチが端戸を止めきれずにピンチを招いていたが、[4-3-3]になってからは小池を気にする必要がなくなったことでCBが前向きに対応できるようになった。

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 起点を作らせない対応で最終ラインが安定すると、それに応じてボランチやSBも前向きに対応できる機会が増加。ヴェルディがいつもの形に戻したことで、予め準備してきたものを発揮できるようになったのだろう。とりわけ左SB溝渕のパフォーマンスは圧巻だった。浜崎に対するボディコンタクトやパスを引っ掛けるタイミング、裏を取られてもプレスバックするスピードは現状の栃木が最も求めていたプレーだった。

 

 ここ数試合は左サイドが沈黙し、左SH森が試合から消えてしまうこともあったが、左サイドのパワー感が増したことでここも改善。この試合に関しては右サイドよりも存在感があった印象である。溝渕、佐藤、森のトライアングルからCKを獲得したり、引っ掛けて左サイドからクロスを供給するなど、しっかりサイドの奥を取る事で効果的にゴールに迫ることができた。

 

 栃木が良い雰囲気でペースを握ると、72分に同点弾をゲット。オビのロングキックからセカンドボールを拾うと右サイドに展開。黒崎のクロスにファーで森が折り返し、佐藤が押し込んだ。全体的に前へのベクトルが高まりスムーズにサイドの奥を取れるようになったことで、栃木の狙いたい形から得点が生まれた。佐藤はJ2初ゴールとなった。

 

 同点後はややオープンな展開に。ヴェルディはショートパスに固執することなくスペースにボールを送り込み、パライバや山下を生かす縦の早さを押し出していく。ただ、いずれも個のクオリティを生かす前にボールサイドで孤立してしまい、そこからのチャンスクリエイトはならず。栃木も途中出場の谷内田が技術の高さを見せたが、勝ち越しには至らなかった。

 

 試合は2-2で終了。ともに久しぶりの勝利とはならず、栃木は10試合、ヴェルディは6試合勝ちなしが続くこととなった。

 

 

最後に

 振り返ってみればここ数試合のなかで最も勝ち点3を掴むチャンスがあったように思う。苦手ヴェルディを相手に後半はほとんどの時間でプレッシングから試合のペースを握ることができた。それだけにもどかしいのが失点の部分。相模原戦を除けば、直近の甲府戦、新潟戦、町田戦はいずれも前半の早い時間に失点を喫している。残留争いを戦う他のチームが失点を抑えることで勝ち点を積み上げているように、まずは立ち上がりの波をチーム全体でなくしたい。

 次節は中3日で迎えるザスパクサツ群馬との北関東ダービー。群馬は監督交代や選手のコロナ感染など難しい状況を何とか乗り越えながら結果を出していることで、チーム全体に一体感が生まれていることだろう。暫定とはいえ降格圏に足を踏み入れた今、不器用でも勝ち点3を掴むことで反転攻勢に繋げていきたいところだ。

 

 

試合結果・ハイライト

栃木SC 2-2 東京ヴェルディ

得点   7分 小池純輝(東京V)

   10分 浜崎拓磨(東京V)

   42分 畑潤基(栃木)

   72分 佐藤祥(栃木)

主審 野田祐樹

観客 1977人

会場 栃木県グリーンスタジアム