栃木SCのことをより考えるブログ

主に栃木SCの試合分析(レビュー)をします。

【ミスマッチを埋めた運動量】J2 第35節 栃木SC vs 徳島ヴォルティス(△1-1)

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はじめに

 前回ホームゲームに引き続き今回もフリーペーパー『ココグリ』にプレビューを書かせていただきました。ご覧いただいた皆さん、ありがとうございました!

 

スターティングメンバー

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栃木SC [4-4-2] 21位

 前節愛媛戦は打ち合いの末、2-3で惜しくも敗れた栃木。「栃木のエンブレムに誇りを持って闘える選手」を採用した第33節鹿児島戦(〇3-1)からチームは見違えるように攻守にアグレッシブなスタイルへと生まれ変わった。勝利すれば降格圏脱出となる今節はスタメンを2人変更。負傷により欠場となったユヒョンに変わりGKには川田修平が、右SHには川田拳登がスタメンに名を連ねる。

 

徳島ヴォルティス [3-4-2-1] 7位

 リカ将政権3年目の今年はここ数年に比べ夏に戦力の刷新がなかったことから戦術の浸透が進み、ここ7試合を5勝2分、14得点4失点と充実の戦いを見せている。野村と小西を出場停止で欠く今節は、表原と内田航平が起用された。古巣対戦となる福岡はベンチ入り、栃木県出身の鈴木はベンチ外となった。

 

前半

徳島のビルドアップと栃木の対応

 前回対戦(●2-3)時は徳島の幅を取るウインガーに気を取られSHが最終ラインに吸収されたことで6バックになってしまった栃木。4バックで臨む今節は前回と同じ轍を踏まないよう、前線からのチェイスにより誘導したサイドでボールを奪い切ろうという狙いが窺えた。

 

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 サイド誘導の鍵となったのが2トップのタスク。彼らの主な役割は徳島の2CH(特に岩尾)を厳しく監視することだった。最終ラインに下りながら4バックを形成する内田航平には榊が、前後のリンクマンとしてピッチ中央に位置する岩尾にはへニキがマークを担当。立ち上がりから[4-1-5]でボールを回す徳島に対して2トップが縦関係になることで出し手としてのCHを封じ、合わせてSH、CH、CBらでシャドーを厳しくケアすることで、中央へのボール供給を牽制する意図が見られた。縦への選択肢のない内田航平やバイスらがそれぞれ石井、内田裕斗に横パスを出すと、それを合図にSHがプレッシングをかけることで前線から追い込み、ショートカウンターを発動させようという算段だったのだろう。

 

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 栃木による守備主導の展開となった前半15分頃には、徳島ベンチからさっそくポジショニングに関する指示。内田航平を最終ラインに下げ過ぎずに岩尾と横並びの関係を維持することで中央の経由地としての機能を強化した。[3-2-5]をベースとしながら、栃木のプレッシャーが厳しいときは最終ラインにGK梶川を加えたり、やむを得ず内田航平が下りても中央を渡井が埋めたように、何とかして中央に起点を作ろうという意思を感じられた。

 しかし、いずれの場合も栃木の中央を通させない守備が機能し状況は変わらず。2CHを2トップが監視し、ワイドCBにボールが入るとSHが対応する形は立ち上がりから一貫して変わらなかった。特に石井に対する大﨑のプレスを皮切りに前線へのパスの選択肢を削っていき、最終的にユウリが奪取する形を多く作れていた。

 

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 中央を経由できないならばと、徳島は前半30分前後から再びCHの最終ラインに下りる動きを敢行。再びバイス-石井間に内田航平が下りる形を再開し、それに加えて立ち上がりにはなかった岩尾の下りる動きもこの時間から見られるようになった。バイスの左側に下りることで左CBの内田裕斗をサイド高い位置に押し出し、渡井、表原などが中央に顔を出しながらボールを引き出そうとした。

 また、中盤空洞化によりCB(特にバイス)から幅を取る選手へのロングボールも増加。4バックの栃木はよりピッチ幅をスライドで埋める必要があるためサイド深い位置まで侵入される場面もあったが、2CBを中心に粘り強く対応。前半28分に岸本にニアで合わせられるシーンを作られた以外、被決定機はほぼゼロだったと言える展開だった。

 

再現性のある形から生まれた先制弾

 積極的な守備から試合をコントロールする栃木は、ここ最近多用する「トップ」へニキへのロングボールから前進を図る。こぼれ球を拾うと素早くサイドにつけてからクロスを狙う形は整備されてきており、PA内のフィニッシャーもへニキ一枚のみでなく、必ず複数の選手が飛び込んで行くなど、シンプルながらも厚みのある攻撃を繰り返した。前半34分にはへニキがバイスとのロングボールの競り合いを制し、榊のクロスにへニキがヘディングシュート。前半36分には相手のスローインからのボールを回収し、榊のクロスにへニキが飛び込むシーンを作り出した(徳島ディフェンスが直前でクリア)。

 そして迎えた前半41分、栃木に待望の先制点が生まれる。瀬川からのボールをへニキが落とすとへニキはそのままゴール前へ。左サイドに流れた榊が入れたクロスにへニキが合わせると、一度は弾かれながらも再び放ったシュートはゴールネットを揺らした。まさに気持ちで捻じ込んだ得点。右SH川田拳登もゴール内に身体を投げ出しゴールへの執念を見せた。

 

 ロングボールでへニキを起点にし、サイドからのクロスをへニキが仕留める。「一週間トレーニングしてきた形」(へニキ)から前半終了間際の良い時間帯に先手を奪い、1-0で前半を折り返す。

 

後半

徳島の布陣変更

 徳島はハーフタイムに選手を交代。前半終盤にイエローを貰っていたCB石井に変えてFW河田を投入。内田航平をCBに下げることで中盤ダイヤモンド型の[4-4-2]に変更した。

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 形の異なる[4-4-2]どうしのマッチアップにより生じたのは中盤のミスマッチ。2CHの栃木に対して4枚の中盤で数的優位を作る徳島。前半は中央を締める守備に手を焼いた徳島だったが、後半はそこにより人数と配置の妙を掛け合わせることで、栃木の守備と真っ向勝負をするような格好となった。

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 徳島の配置変更に対する栃木の回答は図のとおり。2トップはアンカーの岩尾を背中で隠しながらCBをケア。MF4枚はまずは中央を締め縦への選択肢を消すことでサイドにボールを誘導し、SBに入ったところでボールサイドに横スライド。MFの横スライドが間に合わないときはSBの縦スライドとCHのカバーリングでボールサイドが数的不利にならないよう、根気強くスライドを繰り返すことで対応した。

 しかし、時間とともに徐々にスライドに遅れが生じ始める栃木。特にSBの縦スライドが遅れると徳島に時間とスペースと与えることになり、後半7分には杉本から岸本への縦パス、後半8分には渡井からのクロスを立て続けに許した。それでも守備のインテンシティを高く保った栃木はボールを奪えばポジティブトランジションから素早いカウンターによりチャンスを創出。前がかりになる徳島は後方が2CBとアンカー岩尾の3枚になることが多く、何度か訪れたカウンターチャンスを仕留めきれなかった点は、今後越えていくべき壁になるのだろうか。

 

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 徳島がボールポゼッションを高めながら押し込むことで守備の時間が長くなった栃木は、後半33分榊に変えて古波津を投入。最終ラインで数的優位を維持しながら中盤をマッチアップさせることで守備アプローチのスピードの改善を図った。しかしながら、同分に投入された狩野がキッカーを務めたCKにより同点に追い付かれてしまう。狩野の供給したボールに対して栃木の選手が2人ニアで潰れてしまった点は致命的であった。ニアを越え中央に入ってしまえばアクシデントも起こってしまう。混戦から岩尾が押し込み、後半38分に試合を振り出しに戻されてしまった。

 後半42分にはへニキに変えて和田を投入し、再び[4-4-2]へシフト。この少し前からパワープレー要員としてバイスが最前線に上がっていたことから、クロッサーのSBを早めにケアする狙いか。

 両者の志向するサッカーのスタイルの差が如実に表れた試合となったが、スコアはこのまま1-1のドローで終了。ともに勝ち点1を分け合う結果となった。

 

最後に

 前半は可変を行うことで、後半は[4-4-2]の泣きどころとなる部分に人を配置することで、90分を通して栃木にミスマッチを強いた徳島。支配率の上でも大きな差をつけ、栃木にボールを持つ時間すら与えない徹底ぶりを見せたが、アタッキングサードでのクオリティを欠いたことが最後まで響いた。シュート数がそれを物語っている。しかしながら、ミスマッチで得た時間とスペースの貯金を前線に運ぶことができないなかでも、一つのセットプレーから追い付けたのは力のあるチームの証拠。負けなしを継続できたことをプラスに捉え、今後の昇格争いに活かしていきたいところだろう。

 前節愛媛戦の反省を活かして3バックの相手に対しても積極的に前からの守備を実行した栃木。相手の状況に応じてプレッシングのオンオフを使い分けられるようになり、またプレッシングの強度も徐々に高くなっていることから、守備で相手をコントロールする場面が多くなってきたように感じる。特に今節は、サイドに誘導してから局面の枚数を合わせる守備が機能し、ミスマッチであることを感じさせない迫力あるディフェンスが見られたのは収穫であった。逆に自らミスマッチを攻撃に活かしたいところだが、そこは先の段階だろうか。セットプレーへの対応など課題はあるが、確実にチームは残留に向けて進化をし続けている印象だ。

 次節はアウェイ甲府戦。台風の影響で開催が危ぶまれているが、仮に開催される場合はスタジアムに向かわれる方は十分気を付けてほしい。そして、できれば選手たちと一緒に勝ち点を持ち帰って来てほしいのが正直なところである。

 

試合結果

J2 第35節 栃木SC 1-1 徳島ヴォルティス

得点 41’へニキ(栃木)、83’岩尾(徳島)

主審 松尾 一

観客 4,685人

会場 栃木県グリーンスタジアム

 

前回対戦のレビュー

 

ハイライト