栃木SCのことをより考えるブログ

主に栃木SCの試合分析(レビュー)をします。

【周到な鹿児島と策不足な栃木】J2 第19節 栃木SC vs 鹿児島ユナイテッドFC(●0-2)

f:id:y_tochi19:20190623204616j:image

はじめに

 前節新潟に敗れたことで20位に順位を下げた栃木SC。かろうじて降格圏には入っていないものの、18位から21位までが同勝ち点で並ぶ混戦模様のなか、アウェイとはいえ求められるのは勝ち点3でしょう。今回の対戦相手は18位の鹿児島ユナイテッドFC。なおさら結果が重要視されるアウェイゲームです。

 

 

スターティングメンバー

f:id:y_tochi19:20190624122156j:image

栃木SC [4-4-2] 20位

 前節との大きな変更点は大﨑淳矢が復帰したこと。第11節の岐阜戦以降、負傷によりメンバーを外れていましたが、先週末のトレーニングマッチではゴールを決めており、9試合ぶりのスタメン入りとなりました。チームは苦しい状況ですが、第4節で東京ヴェルディを破ったときのような結果に直結する働きが期待されます。

 主な欠場選手は田代雅也、和田達也、そして大黒将志。今季勝利した3試合のうち2試合で決勝ゴールを上げている大黒ですが、これで5試合連続の欠場に。ベンチにはベテランの菅和範廣瀬浩二、大学時代を鹿児島で過ごした坂田らが控えます。

 

鹿児島ユナイテッドFC [4-2-3-1] 18位

 昨季J3を2位で昇格し初めてのJ2を戦っている鹿児島。オフには同じく昇格した琉球から金鍾成監督を引き抜く驚きの人事を見せましたが序盤はJ2の水に馴染めずに低迷。5連敗を喫するなど難しい時期を過ごしましたが、ここ最近は持ち前の攻撃力を発揮できるようになってきた印象があります。

 鹿児島の攻撃を牽引するのはチームトップの4ゴールを上げる牛之濵拓。献身的な運動力とゴール前での嗅覚に優れるMFは、先月第一子となる男の子が誕生し、公私共に充実した状態で迎える古巣戦となります。栃木としては絶好調男をどう抑えるかがポイントになりそうです。余談ですが、個人的な彼についてのハイライトは栃木SC公式(栃木SC公式 (@tochigisc) on Twitter)のこのツイートです。

 

 

前半

栃木のビルドアップと鹿児島の対応

f:id:y_tochi19:20190624122215j:image

 「スカウティングの時点で相手CBが前には強いけど裏にはスペースがあると。試合前にも(西谷)和希と(浜下)瑛には、最初は裏を狙って、相手の状況を見ながらその後は決めるから、という声をかけて狙ってもらっていました。前半はある程度は狙えていたと思います」(寺田紳一の試合後のコメント)

 栃木はキックオフから敵陣にロングボールを蹴り込み、相手に回収されても素早いトランジションから攻撃的な守備を開始。自陣に跳ね返されたボールもまずは鹿児島のCBの背後へ供給することで、自陣でのプレータイムを極力少なくしつつ最短距離でゴールを目指そうという狙いが見られました。寺田のコメントにもあるとおりスペースでの受け手は主に西谷和希と浜下が担っていました。そのためロングボールによる攻防は栃木の右サイド(=鹿児島の左サイド)がほとんどであり、左CBを務めた堤は時おり後ろ向きの対応を余儀なくされる場面がありました。栃木としては右サイドでスペースを活用しながら、中央から左サイドにかけて位置取る大島や大﨑をフィニッシャーにしようという寸法だったのでしょう。この試合最大の決定機となった西谷和希のシュートがGKを弾きクロスバーに直撃した前半31分のシーンは、ゴールキックからボールが落ち着いていない状況で寺田がCBの背後へ供給したプレーから開始したものでした。

 

 鹿児島は[4-2-3-1]を軸に、非保持ゾーン2ではトップ下の枝本を一列上げた[4-4-2]、ゾーン1では枝本も中盤の守備を助ける[4-5-1]のフォーメーションを組んでいました。プレス開始位置はハーフウェーラインを少し越えた辺りから。序盤からボールが頭上を越える展開を強いられたことから、2トップはなるべく蹴り込まれないようにサイドに誘導しつつSBに渡ったらSHとともにサンドして奪い取るといった守備の仕方をしていました。

 栃木は鹿児島の対応に関わらず前線へのロングボール供給を徹底していました。ただ、こぼれ球を拾った選手が一目散に蹴り込むことが多く、少し単調になっていた点は否めず。鹿児島としてはボールの出処とタイミングが分かれば、そこに合わせて対応すればよく、自陣深い位置での守備でピンチを招く場面はほぼなかったといえるでしょう。

 逆に栃木としてはもう少し横に揺さぶってからロングボールを供給するなど、ひとつ工夫をする必要があったと思います。横に揺さぶれない原因は栃木のビルドアップ時の最終ラインにあると思います。栃木は自陣でのビルドアップではボールサイドのSBはそれほど上がらずに最終ラインをサポートします。しかしこれでは鹿児島とのシステムの噛み合わせ上SHからのプレスの的になってしまいます。両SBはミドルゾーンより前に位置取り、CHが最終ラインに列を下りることでサポートするなど、配置に工夫を施すことで相手のプレッシングの限界を探る動きはより積極的に試しても良いのではと思いました。

 

鹿児島のビルドアップと栃木の対応

 前線へのロングボールを第一とする栃木に対して、鹿児島は自陣からショートパスでのビルドアップを試みます。

f:id:y_tochi19:20190624122244j:image

 マッチアップをベースとする栃木のプレッシングを回避するための対抗策は大きく二つ。一つ目はGKを最終ラインに組み込むことでした。上図はそのイメージ。CBの2人が開き、その間にGKが入ることで擬似的に3バックを形成します。栃木の2トップは鹿児島の2CBを守備基準とすることからGKは時間とスペースを得ることができます。栃木はGKに対して特定のマーカーを設けると自陣で数的不利を招いてしまうことから明確な対応策は生み出せず。鹿児島はGKをフィールドプレーヤー化することで一人多い(11vs10)形を作り出し、数的優位を生かして前進しようという狙いが見えました。

 

f:id:y_tochi19:20190624122315j:image

 栃木のプレッシングは鹿児島のバックパスや最終ラインでの横パスを起点にしていましたが、GKを経由されると噛み合わせも相まって十分に制限することができませんでした。それでも相手が後ろを向いたときなどチャンスと見るや、2トップをスイッチに中盤ラインやサイドの選手たちが連動してプレスをかけようという気概は見られました。

 ただそれが上手くいっていた場面はほとんどなかったように感じました。図は前半37分のシーンですが、鹿児島は栃木のプレッシングの構造を見極めた上で、ウィークポイントに縦パスを的確に刺していました。GKを交えたビルドアップに対してSHが出た穴を突かれた格好ですが、チームとして内側を使われないようアプローチしているのであれば、最低限コース切りのみ優先できればよかったと思います。理想はボール位置が基準のゾーンディフェンスを整備し、機を見たカバーシャドウによるプレッシングですが、栃木にはもう少し時間がかかりそうです。

 

f:id:y_tochi19:20190626064804j:image

 もう一つの対抗策はCHの一枚がCB間に下りる形。これもGKの最終ライン化と同じで、狙いは栃木のプレッシングの届かない場所を作ることでした。CH枝村は前で規制をかけようとしていましたが、自陣4-4のブロックはそれぞれ間や外側に位置取る鹿児島の選手が気になり十分にプレッシングを行えず。鹿児島は時と場合に応じてGKやCHをCB間に設けることで得た時間とスペースを前線に送り届けることで丁寧なビルドアップを行っていました。

 前半は両チームともゴールを奪えずスコアレスで折り返し。

 

後半

リスタートのプレーから2失点

 両チームとも選手の交代やシステムの変更はなく入った後半。先手を取ったのはホームチームでした。

 鹿児島は前半からCKを短く繋ぎ、視線をボールに集中させた上でクロスボールを入れる形が前半二度ありました。栃木はボールサイドへの寄せは不十分ではありましたが、中央で弾き切ればよいという意図だったと思います。「クロス対応のポジショニングをしっかりとろう」という田坂監督のハーフタイムコメントを受けてからも、ボールサイドへの寄せはそれほど変わらなかったため、そのような狙いがあったと思います。

 そんな栃木に対してニアサイドを突破した鹿児島の崩しはパーフェクトだったと言えます。ボールサイドに時間をかけたことで数的同数にはなったものの視線を動かすパスワークと素早い動き出しに後手を踏んでしまった栃木。アシストを決めた五領に対する寺田から大﨑へのマークの受け渡しの失敗は痛恨でした。

 

 2失点目となったCKも鹿児島の狙いどおりの形から。栃木はセットプレーの守備においてはユヒョンのパンチングに頼ることが多く、ここ数試合の対戦相手はユヒョンの動きを制限するようにゴール前に密集を作る形はよく見られていました。味方に対してもパンチングに出るスペースの確保を求めるほど、ユヒョンはパンチングに自信を持つプレーヤーですが、ここではその強みが仇となったと言えるでしょう。鹿児島はスカウティング通りにセットプレーから追加点を上げることに成功しました。

 

計らずのカオス

 2点ビハインドとなり苦しくなった栃木。へニキ、平岡、イレジュンら特徴のある選手たちの投入によりピッチ上にカオスを生み出したいところでしたが、かえって攻撃が雑になってしまい、自分たちがカオスに陥ってしまった感は否めませんでした。後半33分、34分に左サイドから立て続けに上げられたクロスは、大島が交代し、イレジュン投入前のピッチ状況ではどれだけゴールへの期待値があったのでしょうか。

 イレジュン投入後はスローインやクロスからシンプルに高さを生かそうという展開になりました。しかし、この交代により戦術兵器「平岡の最前線起用」はわずか10分で終了。これが非常にもったいなかったと思います。西谷和希のパスからあと少しでゴールまで迫ったシーンは最前線だったからこそ生まれたものと思いますし、左SHに移ってから見せ場は全く作れなかったところを見ると、ある意味カオス状態の栃木を象徴するものだったと言えるのではないでしょうか。

 試合はこのまま鹿児島が2点のリードを危なげなく逃げ切り2試合ぶりの勝利。アウェイ連戦で連敗を喫した栃木はこれで6試合勝ちなしとなりました。

 

最後に

 まずは牛之濵の状態が心配です。試合翌日の6月23日には退院したというリリースがあり、幸いにも大事には至らなかったことがうかがえますが、衝突後の様子から脳へのダメージは大きかっただけに、焦らず慎重に復帰してほしいものです。周りの選手が心配そうに立ち尽くすなか、メディカルが到着するまでの間、牛之濵の脚を揉みほぐしていたアンジュンスの姿は非常に頼もしかったですね。

 ここ最近気になるのは栃木の交代策について。一時的な勢いは生み出せるものの、交代の前後を見ると、結果的にどうも停滞感を招いてしまっているのは気になるところです。途中から出てくる選手もおおよそパターン化してきており、他の選手が交代枠を争えていない現状も、これから厳しい夏場を迎えるに当たって心配な要素と言えます。トレーニングマッチでは結果を残している選手もいるので、停滞感を打破するという意味では大胆な抜擢があっても良いかもしれません。

 次の対戦相手は愛媛FC。栃木より順位は一つ高く、勝ち点では2離れている相手です。降格圏もチラつくなか愛媛との直接対決は間違いなく6ポイントマッチと言えるでしょう。前半戦ラストのホームゲームを良い形で締めくくり、後半戦の足がかりにしたいところです。

 

試合結果

J2 第19節 栃木SC 0-2 鹿児島ユナイテッドFC

得点 58’赤尾(鹿児島)、70’韓(鹿児島)

主審 鶴岡 将樹

観客 5,027人

会場 白波スタジアム

 

前節のレビューはこちらから