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【衝撃的な逆転劇のなかで見えたビルドアップの改善】J2 第20節 栃木SC vs 愛媛FC(●1-2)

はじめに

 新潟と鹿児島に連敗を喫し、残留圏ギリギリの20位で迎えた今節。三週間ぶりに帰ってきたホームスタジアムでの対戦相手は、勝ち点2差で一つ上の順位につけている愛媛FCです。連敗からの脱出、残留争い直接対決、前半戦ラストのホームゲーム、そして打倒橙カエル(?)、などなど勝ちたい理由には事欠きません。目指すは勝ち点3です。

 

スターティングメンバー

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栃木SC [3-4-2-1] 20位

 スタメン発表時に3バックなのか4バックなのか分からない問題は今節も健在。出場停止の森下に変わって出場停止明けの田代がCBに入ることは予想できましたが、久富の右CB起用がここで復活するとは予想外でした。ちなみに前回起用されたのは第8節の京都戦でしたが、その時も同様に森下は欠場しています。その意味で、「3バックの右CBのセカンドチョイスは久富」というのは田坂監督の一つの構想なのかもしれません。

 右WBには負傷により第6節以来の出場となる川田、ベンチには同じく負傷明けの大黒とプロ初のメンバー入りを果たした荒井が入りました。

 

愛媛FC [3-4-2-1] 19位

 ここ5試合を1勝1分3敗といまいち流れに乗り切れていない愛媛。ただその一勝はリーグ最小失点の柏を相手に3点をマークして上げたものであり、ひとたびペースを掴んだときの勢いは目を見張るものがあります。

 スタメンにはトゥーロン国際大会で結果を残した神谷や長沼が順当に入り、西岡やベンチには河原など元栃木戦士もメンバー入りしています。栃木としては愛媛にボールを持たれる時間が長くなることが予想されるだけに、しっかりゴール前にバスを停め、愛媛にスイッチを入れさせないことが大事になります。

 

栃木のビルドアップと愛媛の対応

 連敗を喫した2試合は攻撃の形を作れず防戦一方になってしまった栃木。新潟戦はポジティブトランジション時の最初のパスの選択肢と精度に乏しく頻繁にボールをロスト、鹿児島戦は裏抜け一辺倒になったことによる策不足の露呈により、自分たちで攻撃そのものを潰してしまっている印象を受けました。その反省も生かしてか、今節は主体的に丁寧にビルドアップをしていこうという狙いが見られました。

 

 この試合では、最終ラインのボールホルダーが相手選手を引き付けてからのリリースや、自らスペースに持ち運んでからのリリースなど、後ろの選手が積極的にビルドアップの起点になろうとしていました。印象的だったのは左CBの田代。シーズン序盤はビルドアップ能力に不安の多い田代でしたが、基本技術や戦術理解度が高まり、徐々に田坂サッカーに馴染んできたように感じます。その田代ですが、この試合におけるビルドアップのキーは彼のポジショニングにありました。

 

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 図はビルドアップのイメージ。栃木は攻撃時に左サイドに選手を偏らせた可変的なビルドアップを行いました。狙いは西谷ツインズを近くでプレーさせること。波長の合う双子によるパスワークは栃木において非常に大きな武器になります。田代を上がらせて後方を枝村がサポートし、へニキが中央でバランサーになることで全体を左サイドにスライド。これによりツインズを近い距離感でプレーさせることでサイドでのボールの前進をスムーズ化し、ペナ横を起点としたエリア内への侵入を遅攻の大枠としていたと思います。

 一方栃木の右サイドは、コンビネーションというよりは単騎でのドリブル突破が崩しのメインでした。右シャドーの浜下や右WBの川田は一人で相手を抜き去るテクニックとスピードがあります。前半34分のシーンでは、藤原からパスを受けた川田が対面の下川をかわしてサイドを突破。そのまま右サイドを駆け上がってクロスを入れるシーンがあり、両サイドにおいて選手個々の特徴を生かされる攻撃パターンをプランニングしていることが窺えました。

 対する愛媛は、ミドルゾーンでは[5-2-3]、自陣深い位置まで押し込まれたときは[5-4-1]ブロックを組んで対応。全体のコンパクトネスの維持を第一に、ハーフウェーライン付近から機を見て全体が連動して同数プレスをかける、という守備をベースとしていました。栃木はボールサイドに人数をかけた愛媛の守備対応を前に思うように前進できず。サイドチェンジや相手のクリア直後はある程度深い位置まで入り込むことはできていましたが、総じて時間と人数をかけた左サイドに比べ、テクニックとスピードを重視した右サイドの方がチャンスクリエイトの数は多かったと思います。

 ただ、ゴールに迫るシーンというのは、得てして上記とは関係のない形から生まれるもの。実際に栃木が獲得した2つのPKシーンは、ポジディブトランジションや何気ないロブパスから相手の背後を取ったものであり、ゴールに直線的なプレーの有効性が改めて感じられました。それだけに時間と人数をかけて崩すことのできた後半9分(左サイドを西谷優希が突破し、ゴール前グラウンダーのクロスを大島がシュート)のシーンは非常にもったいなかった。

 

愛媛のビルドアップと栃木の対応

 栃木のマッチアップを生かしたプレッシングに対して、愛媛は複数の選手が列を下りる動きを交えながら前進を図りました。

 

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 図はこの試合多く見られた形。丁寧にビルドアップを行いたい愛媛は最前線目掛けてロングボールを蹴ることはなく、自陣からショートパスやミドルパスにより攻撃を組み立てていきます。このときCH田中は栃木のプレッシングの強度に応じて適切なポジショニングで最終ラインをサポート。このポジショニングがまた絶妙で、栃木のプレッシングが強ければしっかりCB間を、最終ラインとGKで凌げそうなときは栃木のマーカー(CH)から離れて浮いたポジショニングを取ることで、常に前進のための潤滑油になっていました。

 最終ラインでのポゼッションが安定すると、次はミドルゾーンのフェーズ。ここではシャドーの選手の下りる動きを軸に前進を図ります。特に良い動きを見せていたのは左シャドーの近藤。ワンタッチでの吉田への落としや反転からの前を向く動きなど、マーカーの久富が寄せきれないプレー選択により栃木の守備を乱すほか、自身の動きでスペースを生み出し味方を生かすなど崩しの局面の一つ前の部分で高いクオリティを見せていました。

 フィニッシュに至る場面で輝いたのは左WBの下川。前半から鋭い抜け出しと高いクロス精度で栃木ゴールを脅かし続けた下川ですが、対面の川田との攻防はこの試合最も見応えのあるマッチアップだったと思います。前半4分の裏に抜け出してからのクロスに長沼が合わせた場面は、彼のストロングがさっそく発揮された形でした。その後も愛媛の効果的な攻撃は左サイドから作られることが多く、フィニッシュの局面を担う下川のパフォーマンスそのものが、この試合の勝敗を分けたと言っても過言ではないでしょう。事実逆転に至る2つのアシストも彼から生まれたものであり、栃木は最後まで止めることができませんでした。

 

試合を分けた際の部分

 栃木の2つ目のPK獲得シーンからはまさに激動の展開となったこの試合。浜下vs岡本となったPKシーンは、抽象的な表現ですが、正直経験の差が出た場面かなと。得点力不足に喘ぐ栃木にとってのPKは非常に貴重な好機であることは明白であり、さらに大黒不在時ということも考慮すれば、より慎重に敏感になるべきだったと思います。結果も相まった上で、甘さがあったと形容されても仕方ないでしょう。

 愛媛はPKセーブ後、CB西岡に変えてFW有田を投入。システムを[4-4-2]に変え、ゴール前のパワーの強化します。対する栃木もPK失敗の焦りからか攻撃比重を高める展開に。愛媛のSBに対して栃木はWBを当てているのは若干の危うさを感じました。

 トランジションの多いオープンゲームに移行すると、栃木は徐々に愛媛のクロス攻撃に耐える展開に。オープンな展開になるとカバーリングがしにくくなるため、球際や一つ一つのプレー細部が試合を分けるポイントになります。その意味で、栃木は細部へのケアが疎かになった部分をまんまと突かれてしまった終盤でした。具体的には、[5-4-1]のSHが愛媛の[4-4-2]のCBまで行ってしまうプレッシングの構造や、それによるクロッサーへの対応の遅れ、エリア内の選手に対するマークの割り振りなどです。PK失敗の時点でも依然リードは保っていましたし、リード時の試合運びという点も粘り強く勝ち点を積んでいくためには、より洗練していく必要が急務だと思います。

 試合は愛媛が劇的な後半アディショナルタイム弾で逆転。栃木はこれで7試合勝ちなしとなりました。

 

最後に

 メンタル面にしばらくダメージの残りそうな試合結果でしたが、チームが目指そうとするビルドアップの形を連敗中に示してくれたことは、サポーターにとってもせめてもの収穫になるのではないでしょうか。個人的には遅攻への工夫は十分感じられたため、これを継続することが一番だと思っています。ただそれを結果に結びつけるためには決定力を上げることが最重要課題。今週加入が発表されたキムヒョンと三宅の両選手が夏以降の栃木の起爆剤になることを期待したいですね。

 次のリーグ戦はアウェイのFC琉球戦。ミッドウィークにはサブ組が天皇杯を戦い山形に勝利を上げたことで、チームの雰囲気は決して悪くはないと思います。サブ組の突き上げがこれまでのレギュラー組にどのような影響を与えるか。人選という意味でも琉球戦は注目かもしれせんね。

 

 

試合結果

J2 第20節 栃木SC 1-2 愛媛FC

得点 45+2’西谷和希(栃木)、85’藤本(愛媛)、90+4’吉田(愛媛)

主審 柿沼 亨

観客 3,759人

会場 栃木グリーンスタジアム

 

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