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【攻守に噛み合わない、前半戦を象徴した試合】J2 第21節 栃木SC vs FC琉球(●0-3)

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はじめに

 リーグ戦3連敗、7試合勝ちなしと苦しい時期を過ごしている栃木ですが、ミッドウィークに行われた天皇杯2回戦は山形を相手に会心の勝利を収めました。サブ組主体で得た公式戦2ヶ月ぶりの勝利は、前半戦ラストのリーグ戦にどう生かされるか。中2日の今節は会場をJ2最北端から最南端に移してのアウェイゲーム、FC琉球戦です。

 

スターティングメンバー

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栃木SC [3-4-2-1] 20位

 栃木は前節から先発を3人入れ替え。DFラインには出場停止明けの森下が、CHには寺田がそれぞれ2試合ぶりにスタメンに入りました。そして、得点力不足に悩む栃木にとって朗報なのが大黒の先発復帰。前節は途中出場により5分程度のプレータイムでしたが、今節はベンチにFW登録の選手がいないことを考えれば、ある程度長いプレータイムが与えられると思います。ベンチには天皇杯で活躍した選手が入ったほか、怪我から復帰した選手も名を連ね、チーム全体として少しずつですが選手層が厚くなってきたように感じます。

 

FC琉球 [4-2-3-1] 14位

 J3を優勝した勢いそのままに開幕4連勝を達成しましたが、それ以降は16試合で2勝と決して上手くはいっていない琉球。それもそのはず、得点数はリーグ3位の29得点を上げる一方で、失点数はリーグワースト4位の30失点。クリーンシートは2回のみで、ここ最近も複数失点が続いています。それを補って余りある攻撃力は魅力的ですが、粘り強く勝ち点を奪っていくためには守備の再考が急務というところでしょうか。前節からはスタメン変わらず、ロシア行きの噂のある徳元はメンバー外となりました。

 

前半

開くライン間、必然の失点

 試合は栃木ボールでキックオフ。大黒が下げたボールを藤原が前線左サイドに蹴り込むと、西谷優希はコントロールし切れずにボールはタッチラインをアウト。その後の琉球ボールのスローインに対してはボールサイドに人数を集めて高い位置から守備を開始。相手をサイドに閉じ込め、得意のボール回しを自由にさせないという寸法でしょう。栃木は立ち上がりから積極的に攻防をサイドに集中させ、前半1分には田代のクロスに浜下が飛び込むシーンや、前半7分には浜下・寺田・川田による細かいパスワークなど、サイドを軸とした攻撃からゴールに迫ろうという狙いが見えました。

 琉球は立ち上がりから栃木のプレス強度に合わせた攻撃を選択。栃木のプレッシングが厳しいと思えば最前線の鈴木へシンプルにロングボールを供給したり、最終ラインでボールを保持できればSBがしっかり高い位置で幅を取りながら距離感よくボールを回し丁寧かつスピーディーな前進を図りました。

 

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 試合が動いたのは前半18分。守備時に[5-4-1]になる栃木の泣きどころであるハーフスペースの入口でCH風間がボールを持つと、ライン間にポジショニングした富所へ縦パスを供給。慌てて寄せたCB森下の対応は一拍遅く、寄せ切ったときにはボールはすでに森下の背後へ。抜群の嗅覚で抜け出した鈴木がそのまま持ち込んでちょこんと浮かせたシュートは、ユヒョンの左側を抜けゴールイン。栃木は前半早い時間帯に痛恨の先制点を許してしまいました。

 この先制点、起点となった富所のポジショニングは絶妙でしたが、それ以上に栃木の距離感の悪い守備が際立ったシーンでもありました。栃木の行う[5-4-1]ブロックは、そもそも攻撃に出にくい人海戦術的な歪な守備戦術だと思います。そのため攻撃への移行に難があるのならば、最低限守備を堅固に構築することがプライオリティであり必須事項になります。それにも関わらず失点シーンでは最も失点に繋がりやすいライン間のバイタルエリアが約7、8メートルほど空いていました。テクニックとパスセンスに優れた琉球の二列目の選手にとってこれは次のプレーを行うのに十分な時間とスペースがあることを意味するでしょう。このエリアで受けた富所は前を向いて鈴木の動き出しを確認した上で正確なスルーパスを出しています。マッチアップが守備の基軸であれば、ライン間の選手へのパスが出た瞬間には一歩寄せ始めたいところですが、そのような動きが少ないのはチームとして守備意識に緩慢さがあること認めざるを得ません。痛恨の先制点は栃木の改善されない拙守を象徴するシーンとなってしまいました。

 

ポゼッションはできたが、、

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 この試合の琉球は栃木の最終ラインに対してそれほどプレッシングを行うことはなく、どちらかと言えばパス方向を見極めながら受け手を制限しようという意識の方が強かったと思います。そのため栃木は最終ラインでは余裕をもってボールを持つことができました。

 最終ラインでのポゼッションの術を確保できれば、次のポイントはそこで得た時間とスペースを前線に送り届けること。栃木はWBが高い位置で幅を取り琉球の最終ラインをピン留めしていることを考えれば、噛み合わせ的にシャドーの選手が中間ポジションから攻撃の起点を作りたいところでした。しかし前述のとおり、琉球はパスの受け手に厳しく圧力をかける守備対応がベース。栃木はシャドーにボールを入れてもそこからの前進が上手くいかず、なんとかボールを持ち運んでも精度の低いクロスやパスにより跳ね返されてしまう場面が何度も見られました。攻撃が上手くいかなくなると次第に全体のラインが低下。特にWBが下がってしまうことにより琉球の守備基準がはっきりすると、栃木は後方でのU字パスが増える展開に。苦し紛れのパス回しは、特に意味のないパス本数を増やすだけでなく、琉球にとって高い位置でのインターセプトのチャンスを生み出してしまう原因にもなりました。

 そして前半39分。ユヒョンからのゴールキックを回収すると、琉球はブロックの内外、中央やワイドのエリアを子気味良いパスワークにより崩していきCKを獲得。このCKを栃木は一度跳ね返したものの、そのまま続いたプレーから最後は西岡に押し込まれて失点。ボールウォッチャーになったことでニアゾーンに侵入され、クロスに対してフィニッシャーをフリーにしてしまう形は鹿児島戦の1失点目と同じシチュエーションでした。

 

後半

形の見えないアタッキングサードの崩し

 0-2で折り返した後半、田坂監督は立ち上がりからCBの並びを左から田代-藤原-森下の順に変更。3バックを採用する時は基本的にこの並びを取ることが多い栃木ですが、慣れた形とハーフタイムの指示もあってか、ライン間やミスマッチを突かれる回数は前半と比べて減少したように見えました。むしろ後半のセットディフェンスはそれほど悪くはなかったかなと。前半の中央CBに森下、右CBに藤原という普段と異なる並びはビルドアップにおける一つの工夫だったというのが個人的な見解ですが、正直なところよく分かりませんでした。もし分かったら教えてください。

 琉球は前半同様、パスの受け手へのケアを第一としながら全体をコンパクトに保つことで、栃木のボール前進を制限。時にはボールサイドのSHが最終ラインまで落ちて5バック化することもありましたが、基本的には4バックがペナルティエリア幅を分担することによって最も危険な中央のエリアを封鎖するという意識はチーム全体で共有されていることがうかがえました。

 栃木は引き続き琉球ブロックの外側でのパス交換に終始。後半5分や後半6分にはそれぞれシャドーの西谷和希や浜下を起点にサイドからクロスを入れる形を作るものの、エリア内に高さのある選手がいないため簡単に跳ね返されてしまい、ゴールを脅かすには至りません。逆に後半12分には自陣でのボール回しをインターセプトされ一気にカウンターに持ち込まれるなど、慣れないボール保持を強いられたことによりチャンスよりもピンチが目立ってしまうという印象でした。

 

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 後半15分、状況を打開したい栃木は選手を交代。田代に変えて久富を投入することによりシステムを[4-4-2]に変更します。左SHには西谷優希が一列前にスライドして入りました。

 しかしこれも流れを変えるほどのエッセンスにはならず。一列高い位置を取れるようになった西谷優希が単独で左サイドを持ち上がり、そのまま上げたクロスに浜下が飛び込むというシーンはありましたが、チャンスシーンはこれくらいでした。攻撃のペースを掴めなくなると、次第に大黒が下がってボールを受けてしまう回数が増え、肝心のゴール前にはフィニッシャーがいないこともしばしば。システムを変えてもアタッキングサードでのクオリティは低いまま、ステーションパスが増える展開となり、判断の遅れた前線の選手は琉球守備陣を乱すどころか迎撃の格好の的となってしまいました。

 

今季最多タイの3失点

 流れを掴めないまま迎えた後半27分。琉球は風間がセンターサークル付近から最終ライン背後にパスを出すと、1トップ鈴木がこれに反応。サイドで起点を作りエリア内に低いクロスを入れると、ディフェンダーの間からうまく顔を出した越智が身体で押し込みゴールイン。琉球がダメ押しとなる3点目を決め、試合を決定づけました。

 栃木は枝村に変えて古波津、負傷した森下に変えて坂田を投入。坂田はリーグ戦約2年ぶりの出場。天皇杯を戦い勝利に貢献した二人の勢いに懸けたいところでしたが、ともにディフェンスを持ち味とする選手のため、攻撃に変化を加えるような采配にはなりませんでした。アタッキングサードにおける球際バトルの勝率やパス精度の低さ、ポゼッション時の距離感の悪さは最後まで改善されないまま試合は終了。攻撃へ行こうという姿勢は見せたものの、気迫と手段に乏しく、最後までネットを揺らすことはありませんでした。

 

最後に

 4連敗、そして8試合勝ちなし。リーグ戦の半分を終えてわずか3勝はリーグワーストの数字です。田坂監督を迎えて始まった今シーズンは、昨季までの固い守備と速攻をベースに遅攻のクオリティを上げていくことを大きな目標として掲げていました。しかし現実は20位。シーズン折り返しの時点でハイレベルを望むのはナンセンスですが、現時点でどこまで目標を実現できているでしょうか。0-3で敗れた今節は、ある意味攻守に機能不全な前半戦を象徴するような試合になったと言えるのではないでしょうか。

 例年の結果を見ると、残留ラインは勝ち点40が一つの目安になります。現在の勝ち点は17。リーグ戦残り半分で積み上げるべき勝ち点を23としたとき、最低でも8勝、もしくは7勝2分などの成績を残す必要があります。現在3勝の栃木にとって、これまでと同じ試合数で2倍以上の勝ち星を上げなくてはならないことを考えれば、もう同じ轍を踏んでいる時間はありません。今のチームに足りないものを的確にトレーニングや補強などで補填する。我々サポーターは全力でフォローする。高い授業料だったなぁ、と最後に笑って終えられるよう、チームにはこれまで積み上げてきた数々の経験値を十分に生かしてほしいと思います。

 

試合結果

J2 第21節 栃木SC 0-3 FC琉球

得点 19’鈴木(琉球)、40’西岡(琉球)、73’越智(琉球

主審 中井 敏博

観客 3,082人

会場 タピック県総ひやごんスタジアム

 

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