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【マッチアップを破壊されたときのプランニング】J2 第18節 栃木SC vs アルビレックス新潟(●0-2)

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はじめに

 4試合連続でドローが続いている栃木。そのうち2つはビハインドから追い付いてのドロー、ほか2つはクリーンシートを達成してのドローと、難敵を相手にしても粘り強い戦いから着実に勝ち点を奪うことができています。ただ後ろを見れば、じわりじわりと降格圏が迫ってきているのも事実。勝ち点差3で迎える新潟との直接対決は今後の行く末を占ううえで試金石となる重要な試合です。

 

スターティングメンバー

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栃木SC [4-4-2] 19位

 スタメンを見たときに3バックなのか4バックなのか分からないのは栃木サポならあるあるですが、蓋を開けてみると新潟に合わせた[4-4-2]を採用。少し前から練習で試していたそうですが、さすがに田代の左SB起用は予想できませんでしたね。もうお馴染みの西谷優希の左SBや森下の右SB、西谷和希の1トップ起用など、田坂監督のコンバートにはいつもながら驚かされます。

 CHには軽い怪我から復帰した寺田が2試合ぶりのスタメン入り。6試合連続でベンチ入りした廣瀬は今か今かと出場機会を狙います。

 

アルビレックス新潟 [4-4-2] 14位

 シーズン途中に吉永監督を据えた新潟は前節連敗を4でストップ。とはいえ、最下位の岐阜を相手に同点のチャンスを与える二度のPKを献上するなどまだまだ安定感を得るまでには達していません。栃木としては付け入る隙がないわけではありません。

 スタメンの変更はなし。二度のPK献上をした広瀬もしっかりスタメン入りしており、吉永監督からの確固たる信頼か、それともメンタル面を考慮してなのか、いずれにせよ古巣相手に燃える男がゴール前に立ちはだかります。もう一人の古巣対戦となるパウロンはメンバー外。昨季この会場で栃木に先制点をもたらした選手のメンバー外はちょっとだけ残念な気持ちになります。栃木はいつでもウェルカムです。

 

前半

序盤の攻勢と新潟の対応

 コイントスに勝利した栃木は風上を選択。田坂監督の試合後のコメントからは「前半は相手の攻撃を耐えて後半に勝負を仕掛ける」というプランで臨んだことが分かりますが、風上に陣地を取ることで、相手のパワーある攻撃を多少なりとも減退させつつ攻撃の回数を増やしたいという狙いも十分あったと思います。一方で風下に立つ後半は、前半の修正をした上で、前から来るであろうホームチームの虚を突くことで試合を優位に運ぶというプランニングをしていたと思います。ベンチにはピッチ上にカオスを生み出せる速さ、高さ、運動量のある選手らが控えています。90分全体を通してのゲームプランを設計する上で、その初手として前半はメンタル的にも優位に立ちやすい風上を選択したものと思いました。

 

 キックオフから前へ前へと全体のラインを上げる栃木は、新潟陣内でさっそく積極的なプレーを見せました。開始わずか44秒には遠い位置から寺田のミドルシュート(公式記録ではシュートとしてのカウントはなかったが…)。直後の前半1分には右サイドで西谷和希、西谷優希と繋いで最後は浜下の左足シュート。ボールを失っても素早い切り替えからボールホルダーを囲い込み、前半8分には囲まれたトップ下高木が下げたボールを大島が奪い切り、浜下のサイド攻撃に繋げることができていました。新潟の最終ラインでの繋ぎに対してもマッチアップを生かしたプレッシングからミスを誘発することに成功していました。

 

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 立ち上がりの栃木の姿勢に怯んだ感のあった新潟でしたが、前半10分過ぎからはビルドアップの形を微修正。CHカウエの列を下りる動きで最終ラインに数的優位を確保すると、守備の基準点を乱された栃木のプレッシングは徐々に鳴りをひそめることになりました。ここからは新潟のポゼッションの時間が次第に増える展開へと移行しました。

 

マッチアップを破壊された後の戦い方

 列を下りるカウエに対してマッチアップの原則に従って枝村もしくは寺田がマンツーマンでアタックに行くとバイタルエリアがガラ空きになってしまう栃木は、プレッシングの頻度を減らして[4-4-2]で構えます。新潟のCB間のパス交換に対してボールサイドのSHが加わって同数プレスを行うシーンもありましたが、この形は特に決まり事とされているわけではなく場当たり的に行っているように見えました。

 

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 新潟のビルドアップで興味深かったのはCH戸嶋の動きを軸とした周辺の選手のポジション調整。相方のカウエが最終ラインに落ちたことで中央を一人で担うことになった戸嶋ですが、栃木2トップ脇(特に西谷和希の脇)にポジションを取った時に最終ラインからのボールの引き出しや前線への供給が上手くいっているように見えました。主な前線への供給先はトップ下の高木。最終ラインから離れつつ、枝村の背後を取ることでスペースを確保した高木は、CH戸嶋のほか最終ラインの選手からの縦パスの中継地になっており、効果的な前進を生み出すファクターになっていました。戸嶋が右サイドに寄ったことで空いた左サイドのスペースにはSB堀米がポジショニング。ここを起点に繰り出されるインナーラップの形は前半何度か見られ、おそらく練習から取り組まれていたプレーであったことがうかがえます。栃木にCH寺田とSH浜下のどちらが対応するのかを強いた時点でデザインされたプレーでした。

 前述のとおり栃木は高木にライン間を使われることがしばしばあり、これを抑える対応策を用意できなかったところが、この試合の一番の課題になると思います。頻繁にライン間を通されると守備側としてはエラーを改善すべく対応策を施します。ただ栃木はこれをチーム全体で共有することができませんでした。その現れが引き続き高木に通された縦パスであり、前線からCHまでは機を見てプレッシングをかけたい、他方、最終ラインの選手は一定の高さを保ちつつCHにライン間を締めてほしい、という意識のズレから引き起こされたように見えました。おそらく栃木は3バックを採用していればCBの迎撃からライン間を使われることはそれほどなかったと思います。ただこの試合の栃木は4バックで臨んでいるわけで、細部を詰めきれていないという弱みに新潟はうまく付け込むことでリズムを掴んでいきました。

 栃木も前半38分には素早いワンツーでのパスワークから最後は浜下がゴールに迫るもシュートは枠の外へ。互いにゴール前での決定機は少なく0-0のスコアレスで前半は終了しました。

 

後半

退場、そしてPK献上

 両チームともメンバー交代なく入った後半は、前半同様に栃木が前へ前へと圧力をかける形で始まりました。その勢いのままセットプレーを立て続けに獲得すると、CKから森下のヘディングシュートに繋げるなど入りとしては悪くなかったと思います。しかしその直後には、高木にライン間でボールを引き出され前を向かれるシーンがあり、高木の巧みさもありますが、決して前半の修正が上手くいっているようには見えませんでした。

 試合が動いたのは後半6分でした。再びライン間で高木が縦パスを引き出すと、新潟はサイドを起点に攻撃を開始。フランシスからのクロスは一度弾き返したものの、セカンドボール争いのなかでCB田代がCH戸嶋を倒してしまい2枚目のイエローカード。不慣れなポジションで難しいタスクを任された田代でしたが、守備の積極性が仇となってしまいました。栃木は残り約40分を10人で戦う苦しい状況を強いられることとなりました。

 

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 1人少なくなった栃木はフォーメーションを[4-4-1]に変更。後方の形はそのままに一発のカウンターに懸ける、まさにアウェイ大宮戦と同じ格好になりました。

 常時数的優位となった新潟は栃木のファーストプレス隊の人数が減ったことから、CHカウエの列を下りる動きを止めビルドアップの起点を微修正。前線の枚数を確保しつつSHとSBの絡むサイド攻撃から栃木を攻め立てる展開が続きました。そしてこれが功を奏したのがPK獲得シーン。ライン間でフランシスが戸嶋からのミドルパスを受けると左方向へカットイン。内にボールを供給し、最後はSBの堀米がエリア内に侵入したところを浜下が倒してしまい新潟にPKの判定。サイドを主戦場とする選手たちが高い位置で栃木のゴールに向かうことで得たPKをレオナルドが落ち着いて決め、新潟が先制に成功しました。

 

フェードアウトした栃木

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 1人少ない状況下で1点ビハインドとなった栃木。前半同様のロングボールからでは攻撃が難しいと見ると、主に左サイドの西谷ツインズを中心に細かいパスワークからのビルドアップを試みます。近い距離間でパスが回り出すことで新潟のプレッシングをうまく買い潜れるようになると、栃木は両SBが高い位置を取りながら後方は2CHと2CBでビルドアップをするようになりました。

 自分たちから効果的なアクションを起こすことでリズムを掴み始めた栃木。ビルドアップを局面ごとに切り取ると、そのほとんどにCH寺田が関わっており、最終ラインのサポートが終われば中盤に戻ってボールを捌き、サイドにボールが渡れば数的優位を作るべく近い距離間を取り続けるなど、ピッチ内を上下左右にカバーする運動量と適切な位置取りは後半20分前後の栃木に最も影響力を与えていました。それだけに後半25分の途中交代は少しもったいないところがありました。

 一方新潟は状況的にリスクをかける必要がないため、縦横をコンパクトに栃木の攻撃を抑えながら隙を突いてのカウンターを狙います。これが実を結んだのが後半29分の追加点のシーン。前への意識が強い栃木を尻目にライン間へ縦パスを付けると、最後はレオナルドのシュートが弾かれるもフランシスがプッシュしゴールイン。少ない手数で的確に粗を見つけ、そこを冷静に突いてくるプレーによってもたらされた追加点は、栃木の覇気を下げさせるには十分でした。

 栃木は交代カードからペースを引き寄せようとするも、途中出場の和田がアクシデントにより途中交代。左サイドから内側へカットインをしながら前線をうかがう西谷和希のプレーもなかなか最後の局面までは侵入させてもらえませんでした。終盤はCB森下を前線に上げてパワープレーを行うも決定機は作り出せず。後半アディショナルタイム、GKユヒョンのセービングからのポジティブトランジションで選手の上がりが非常に遅かったのは残念でした。

 試合はこのまま新潟が栃木をシャットアウト。4連敗のあとの2連勝かつ6試合ぶりのクリーンシートを達成する大きな勝利になりました。一方栃木は5試合勝利なしとなりました。

 

最後に

 前節千葉戦もそうでしたが、栃木は相手のCHの列を下りる動きに対して滅法弱く、守備から攻撃に繋げる対抗策がないように見えました。千葉戦はCH熊谷が最終ラインをサポートすると、自陣に[5-4-1]で構える時間が長くなり攻撃を組み立てることができませんでした。かろうじて失点は許しませんでしたが、それは千葉の攻撃の質に助けられた部分が多かったからでしょう。もちろん守備時は最終ラインが5枚になることで積極的に前へ潰しに行けたという見方もできますが、その後、効果的に攻撃に移行できたかと言うと微妙なところでした。

 そんな千葉戦を経ての新潟戦でしたが、さすがに一週間では改善できず。カウエが最終ラインに下りた前半10分過ぎからはほとんど防戦一方になってしまいました。プレスの開始位置をどこに設定しどこまで追っていくのか、ライン間に位置取る選手に対して最終ラインとMFラインは状況に応じて何メートルの距離間を保つのか。マッチアップを軸に軌道に乗りかけた栃木でしたが、次の課題はそのマッチアップを破壊されたときのプランニングだと思います。リーグも中盤戦を迎え、他チームも少しずつ完成度を高めていくなか、これ以上遅れを取らないよう早めに手を打つ必要がありそうです。

 

試合結果

J2 第18節 栃木SC 0-2 アルビレックス新潟

得点 64’レオナルド(新潟)、74’フランシス(新潟)

主審 西山 貴生

観客 14,112人

会場 デンカビッグスワンスタジアム

 

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