栃木SCのことをより考えるブログ

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【試行錯誤のなかのシーソーゲーム】J2 第16節 栃木SC vs FC町田ゼルビア(△2-2)

はじめに

 前節岡山戦は1-1のドローに終わった栃木。気候面やサスペンションの影響から序盤は劣勢を強いられましたが、フォーメーション変更と選手交代が功を奏し、終盤は主導権を握る展開となりました。今節の対戦相手は町田。特徴あるチームを相手に負けなしを継続できるか。飛躍の足がかりにしたい一戦です。

 

スターティングメンバー

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栃木SC [4-3-3] 18位

 3試合負けのない栃木は今季初めて[4-3-3]を採用。「相手のストロングを消そう」という田坂監督のコメントからも読み取れるとおり、密集を作って前進してくる相手に対して、中盤中央に一枚厚みを持たせることで強度を高めようという狙いでしょう。初のアンカーシステムには負傷明けからフルタイム出場を続ける枝村が、IHにはテクニックとインテンシティを兼ね備える寺田と西谷優希が入りました。

 ベンチには昨年7/29以来負傷離脱していた和田が復帰。前節の坂田同様、徐々に怪我人がカムバックしているのは嬉しい知らせ。これから厳しい夏場を迎えるにあたって非常に頼もしい存在です。

 

FC町田ゼルビア [4-4-2] 11位

 町田はいつも通りのフォーメーションを採用。3試合負けなしということもありスタメンの変更もなし。勝手知ったるスタイルで、過去4戦勝利のない栃木戦に臨みます。

 個人的に注目していたのは大谷と酒井の両CB。圧縮がテーマになるチームで、いかに最終ラインを高く維持することができるか。途中から出てくるであろう平岡への対応も含めて、町田の戦術のキーとなる2人のパフォーマンスはこの試合も鍵を握るでしょう。

 ところで、最近見かけないけど端山は一体何処へ·····。

 

前半

町田の特徴と[4-3-3]の採用

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 町田の特徴はもう言うまでもないような気もしますが、念のため簡潔にまとめると、「圧倒的な縦横圧縮によりプレーエリアを狭めることで攻撃と守備を同時に管理する」点に重きが置かれているところでしょう。鍵となるのが攻撃と守備の間にある2つのトランジション(ポジティブ&ネガティブ)。この2つのトランジションでの振る舞いで主導権を握るための配置が町田の大きな特徴と言えます。

 図で表すと上のようなイメージ。片方のサイドに密集することで、ロングボールを交えながらの縦に早い攻撃を実現するとともに、ボールロスト時(=ネガティブトランジション)は素早く相手を囲い込み、時間的余裕を与えないプレッシングでミスを誘発させるゲームモデルは、6年目を迎えた相馬政権のなかで非常に洗練されてきているように見えました。片方のサイドに密集、もう一方のサイドには広大なスペースという光景はJ2クラスタにはすでにお馴染みの場面ですね。「ピッチ幅?何それ美味しいの?」の精神です。

 

 栃木がこの試合で[4-3-3]採用したのは、町田の密集からの前進を抑えるため。特にCHの一角に入るロメロフランクはパワーとフィジカルを生かした多少強引な突破から前線に厚みを持たせられるため、栃木にとっては抑えるべき大きなポイントになりました。そのため普段のマッチアップを前提とした守備ではなく、中央を一枚多くした3センターの形を執り、前線でのミスマッチを受け入れた上での「町田仕様」の戦い方で試合に臨みました。

 しかし、これが上手くいっていたかというと微妙なところ。守備時は[4-1-4-1]もしくは[4-5-1]になる栃木でしたが、町田の直線的なプレーにボールの取りどころが定まらず。セカンドボール争いでも球際へのインテンシティが高い相手になかなか回収することができず。徐々に重心が下がっていくと、1トップに入った西谷和希が孤立してしまい、チーム全体として攻守が機能不全に陥る場面がしばしば見られました。

 

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 そして、前半26分についに失点。

 町田はワンサイドアタックの際、逆SH(ここでは森村)がボールサイドに寄ることで密度をさらに高めるとともに、2トップがそれぞれニアとファーにポジションを取ることで、フィニッシュの可能性を高める配置を取っていました。これに対し栃木もバランスを崩し過ぎずに3センターを中心にボールサイドを囲い込みます。しかしエリア内まで侵入されると、なかなかボールホルダーに対しては強くは当たれません。シュートのこぼれ球をエリアの外から井上が蹴り込むとこれがGKユヒョンの右側を抜けてゴールイン。町田は狙いの形から、栃木は気を付けていた中盤中央からゴールが生まれ、ホームの町田が先制点を得る展開になりました。

 

栃木のビルドアップ

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 なかなかボールを握る時間さえ与えられなかった栃木でしたが、唯一再現性をもって行われていたのが上の図のような形。西谷優希を中心に左サイドでボールを回収すると、一旦後方のCB藤原にバックパス。その後、森下、久富を経由して、最後は久富から前線の浜下や西谷和希らへロブパスを送るという展開です。

 中継のなかで栃木は町田戦に向けてサイドチェンジからの攻撃を練習してきた、と紹介されましたが、その一つのパターンがこの形でしょう。町田の最終ラインに対して縦横スライドを同時に行わせることで選手間にギャップを作り出し、マークのズレが生じたタイミングで背後のスペースにロブパスを入れるという展開は、数える限り前半で5回ほどあり、意図的な組み立てであったことがうかがえました。

 また、他にも栃木は左サイドでボールを回収し右サイドで攻めるという形が非常に多く、西谷和希を1トップに置いたのは右SH浜下と近い距離間でプレーさせるという狙いがあったからなのでしょうか。右サイドで組み立てて中央で仕留めるという算段であれば、最後の局面で中央に絞りフィニッシュ役に徹するという大島の左SH起用も納得がいきます。

 しかし、前半は町田の圧力に屈する時間が多くなかなか攻撃の形を作り出せず。GKユヒョンがいつもどおりのスーパーセーブを見せなければ前半で試合が終わっていたと言っても過言ではない内容に終始し、ビハインドのまま前半は終了。町田仕様の戦い方はここで頓挫することとなりました。

 

後半

栃木の[4-4-2]変更

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 栃木は後半から選手の配置を[4-4-2]に変更。中盤を2CHにし、大島を前線の一角に置くことでクリア時のターゲット、クロスからのフィニッシュ役を確保しました。

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 この采配により生きたのが2トップの一角となった西谷和希。セカンドトップ気味の位置取りからボールサイドに顔を出すことでパスワークの潤滑油になると、両SH、特に右サイドの浜下とのコンビネーションからサイドを深い位置まで攻略。町田のSBを挟んだワンツーは再現性をもって行われ、寺田の同点ゴールのシーンもこのプレーが起点になっていました。

 町田に目を向けると、後半立ち上がりは西谷和希のポジショニングに非常に手を焼いており、CBが見るのかボランチが見るのか、ゾーンで挟み込むのかも含めて守備の基準が曖昧になっている印象がありました。ゴールシーンもその曖昧さが引き金に。サイドに流れる西谷和希に対してCH井上が大きく寄せて対応しましたが、このときバイタルエリアを埋める選手が一人も居らず。CHが見るのであればSH森村は帰陣して埋めるべきですし、ゾーンディフェンスで挟み込むのであればそもそも井上はそこまで寄せなくても良かったと思います。町田は思わぬところでネガティブトランジションを迎えたという事情もありましたが、一瞬の隙を突いた栃木がダイレクトプレーからゴールを奪い同点に追い付くことに成功しました。



選手交代から打開を図りたい両者

 栃木が同点に追い付いてからは一進一退の攻防に。中盤でのせめぎ合いが多くなると次第に求められるのは最後の局面のクオリティ。ということで両者とも比較的早い時間から交代カードを切りました。

 町田は後半11分に中島、後半19分に土居を入れることで2トップを変更。縦に早い攻撃に異なるエッセンスを投入したことに加え、さらにロメロフランクが前半以上に前への圧力、推進力をもたらしたことで攻撃を活性化。すると後半27分に勝ち越しに成功します。左サイドからのクロスにロメロフランクが飛び込むと、最後は土居が押し込みゴールイン。栃木は2CHの強度を維持するために直前に投入したへニキが、スペースを埋めるべくロメロフランクのマークを離してしまったのは痛恨でした。

 交代策で多少もったいなかったのは平岡を投入した時間帯。同点時、後半15分に切られた交代カードはハイラインの背後を執拗に突くなど一定の効果は見せました。しかしビハインドから追い付く鍵となったサイドを攻略するワンツーはこの交代以降一度も見られなくなりました。もちろん町田が修正したことを考慮する必要はありますが、前線でのタメやアイデアという点で単調になってしまった感は否めず。平岡のキャラクターも含めて、もう少し後の時間での投入でも良かったかなと個人的には思いました。

 終盤は途中投入のイレジュンの高さと平岡の裏抜けから攻撃の起点を作る栃木に対して、町田は機動力のある2CBを中心に、縦横圧縮を維持して対応。このまま町田が試合をシャットアウトしそうな展開でしたが、痛かったのはロメロフランクの負傷交代。中盤でのフィルター兼攻撃の牽引役を失った影響が最後の最後に響くことに。後半アディショナルタイム1分、競り合いのこぼれ球を平岡、西谷和希と繋ぎ森下の足元へ。パワープレーとは名ばかりのFW顔負けの切り返しから左足でシュートを放つと、これがGK増田の手をすり抜けてゴールイン。そのまま試合は動かずに2-2で終了。栃木は土壇場で勝ち点1を拾い、町田は間近に迫った勝利から勝点2を失う幕引きとなりました。

 

最後に

 2試合連続でビハインドから追い付く試合を演じた栃木。チームとして最後の部分で踏ん張り切れる粘り強さが芽生えてきていることがうかがえる一方、できれば先制点は許したくないのは正直なところ。相手の攻撃を受け止めることで守備から入ったここ2試合ですが、ともに失点から始まっているという点は、ゲームプランに再興の余地があるということを示唆されているように感じます。

 ただ、スイッチを入れたときの攻撃力が逞しくなっているのも事実。シュート数自体は多くはないですが、枠内シュートや決定力という点では決して悪くない数字を記録しています。

 現在はチームが戦うことを根底に、様々なパターンやプランを試している段階。勝ちきれない試合が続いていますが負けなしを継続できているのは進んでいる道が正しいということの表れかなとも思います。ここでの試行錯誤が花開くのはいつになるか。怪我人が戻り始め、個々のパフォーマンスも上がってきた今、その時は案外近いのかもしれません。



 

試合結果

J2 第16節 栃木SC 2-2 FC町田ゼルビア

得点 26’井上(町田)、49’寺田(栃木)、72’土居(町田)、90+1’森下(栃木)

観客 3,414人

会場 町田市立陸上競技場

 

 

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