はじめに
前節は二度のビハインドを追い付き、アウェイで勝ち点1を得た栃木SC。ここ3試合はドローが続いていますが、いずれの試合も攻守において強度の高い、粘り強さのあるプレーを演じていることから、チーム状態は上向いていることが感じられます。今節の相手はジェフユナイテッド千葉。岐阜に大勝したと思いきや前節は長崎に大敗するなど混迷を極めるチームを相手にしっかり勝利を収めることで上昇気流に乗りたい一戦です。
スターティングメンバー
栃木SC [3-4-2-1] 17位
ここ2試合は相手のストロングを抑えるためにあえてミスマッチのシステムを採用していましたが、今節はマッチアップする[3-4-2-1]を選択。守備の基準点を明確にすることで前からプレッシャーをかけ、ポゼッションを志向する千葉から時間と選択肢を削ろうという狙いがうかがえます。
スタメンの変更は二人。左CBに田代が、左CHに和田が、それぞれ菅と寺田に変わって入りました。和田は昨季第26節の金沢戦以来の11ヵ月ぶりの公式戦となり、クラブからのリリースはありませんが前々節のウォームアップで負傷した大黒は引き続き欠場となりました。
ジェフユナイテッド千葉 [3-4-2-1] 15位
第4節終了時点で監督交代に踏み切った千葉。代わって指揮を執る江尻監督は2010年以来二度目の采配となりますが、途中就任の難しさもあってか、なかなかチームを軌道に乗せることができていない印象です。ただ、それでも浦和を指揮してACLを制した経験のある堀ヘッドコーチら脇を固めるスタッフの陣容はJ2では非常に豪華であり、なんだかんだ最終的にはそれなりに巻き返すんじゃないかなとも思っています。
前節までは3試合連続で同じスタメンでしたが、長崎戦の結果を受け、今節は3人変更がありました(茶島、新井、佐藤優→ゲリア、鳥海、鈴木)。なお、佐藤ツインズは二人ともベンチ入り。
前半
定番の[3-4-2-1]マッチアップ
試合は序盤からミラーゲームの特性を生かした栃木がプレッシングから主導権を握りました。千葉の自陣でのCB間のパス交換やCBへのバックパスを起点とするプレッシングは非常に効いており、特に右シャドーの西谷優希が千葉CB乾からボールを奪ってショートカウンターに移行するシーンが、前半5分に西谷和希のフィニッシュワークに繋がるシーンなどこの試合何度か見られました。
また、プレッシングに行くときのシャドーのポジショニングも、千葉のシャドーを消した位置からスタートすることでサイドに誘導し、最終的にWBが蓋をしてボールを囲い込むことができるようにデザインされており、ミスマッチで入ったここ二試合よりもスムーズに攻撃的な守備を行うことができていました。
序盤から栃木の出足の速さに怯んだ感のあった千葉でしたが、早い時間帯のうちに工夫を施します。その方法は図のとおり。CH熊谷が列を下げて最終ラインのサポートに入ることで、ビルドアップの起点となるエリアで数的優位を確保しました。
これによりプレッシングの矢が3人では足りなくなってしまった栃木。マッチアップの担当は対面のCH枝村ですが、前に出過ぎてしまうと空けたスペースを使われた際に一気に最終ラインが晒されてしまうリスクを抱えていたため、十分にはプレッシャーをかけることはできませんでした。そのため自陣で[5-4-1]のブロックを構えるようになります。
最終ラインで自由を得られるようになった千葉は自分たちがボールを持つ時間が長くなった一方で、ボールを効果的に前進させる方法は持ち合わせていませんでした。下りてくるシャドーや背後に走らせるWBへのボールなど、あの手この手で前線に付けようとしましたが、栃木の構える[5-4-1]のブロックを崩すまでには至らず。マッチアップの醍醐味である迎撃守備により行く手を阻まれ、イエローカードが両者に出された前半13分前後の森下vs船山の局面バトルは、この試合を象徴するシーンでした。ただ、ボールを保持している分攻撃を仕掛ける意識は高く、左WBの為田のところから繰り出されるチャンスメイクには何かが起きそうな雰囲気がありました。
密集の課題が浮き彫りに
この試合で幾度となく見られたのが右サイドに栃木の選手が密集する形。西谷ツインズを中心におよそ4人の選手がポジションを動かしながら子気味よくショートパスを繰り返す形は、オートマチックに行われており、また万一のボールロスト後の守備設計も確保されていたため一定の完成度がありました。それだけにゴール前が少なくなってしまうところ残念な点でした。[3-4-2-1]の両シャドー(西谷ツインズ)がパスワークの中心としてボールサイドに寄ることからゴール前の人数が少なくなってしまい、肝心のフィニッシュワークに持ち込む回数はほぼ見られませんでした。田坂監督も「攻撃面ではシステムを3-4-2-1に変えたことでゴールが遠くなったと思います。少し攻撃が乏しかったという印象は受けています。」と試合後に語っていたのが印象的でした。
ここからは例えばの話になってしまうのですが、相手を押し込んだ上でペナルティエリア内に選手をもう一人確保するという点では図のようにCHをプラスワンとして配置するパターンが挙げられます。もちろんそのときのピッチ状況より実現できないことも十分有り得ますが、相手に[5-4-1]を強いる時点で、それほどカウンターのリスクは少ないことから、CB二人とCH一人を残す形でも十分リスクマネジメントはできていると思います。いつの試合か定かではありませんが、試合後にMF寺田紳一が「もう少しエリア内に人をかけないと迫力が出ない。」「CHや逆のWBなど、必ず一人はプラスで入るべき。」というようなことを語ったことがあったと思います。現時点でもここの課題がクリアできていないという点では、今後攻撃のクオリティを高めていくためには潜在的に付きまとう課題になるのかもしれません。
後半
平岡の投入による影響
前からのプレッシングからリズムを掴みたい栃木と守備の基準点を乱しながらも[5-4-1]のブロックを崩す術のない千葉、という構図は後半も変わらず続きました。特に両者ともハーフタイムで選手、戦術などに変化を加えることもなくお互いがリスクをかけない試合を演じたことから、両チームのサポーターでない人からは非常に停滞感のある試合に見えたと思います。
後半の45分間を通じて試合に変化が見られたと言えば、後半23分の平岡投入でしょう。平岡の爆発的なスプリントとスピードの有効性はここ数試合で証明済みであり、相手は特別な対応を図る必要があります。その意味で局面を打開する切り札としての投入に注目されました。
前述のように後半23分に投入されると3トップの頂点の位置に入り、大島はシャドーに移りました。さて、ここからが勝負!というところで、さっそく直後には森下のロングフィードに抜け出すシーンが見られましたが、ここはオフサイド。その後もボールを奪っては千葉のハイラインの背後へ、というシーンが見られました。ただ、千葉は多少手を焼きながらも予想できた展開であったため対応は難しくなかったと思います。トランジション時に最終ラインの選手が身体の向きを斜めに構えて常にリスク管理を徹底しているように見えました。
切り札が対応されると厳しい栃木。徐々に攻撃が縦ポン一辺倒になり、DFとMFが十分にラインを押し上げることができなくなると、全体的に選手間が間延びしたことで、前半できていた前からのプレッシングや細かいパスワークは見られなくなっていきました。
試合はこのまま動かずスコアレスで終了。互いにゴール前でのプレーが少なく、シュート数は栃木3本に対して千葉4本と塩感の強い試合になりました。
最後に
攻撃のクオリティを上げるためにチームとして平岡をどう活かしていくかがこれからの課題でしょう。平岡個人の活かし方としては従来の方法が最も効果があるものと思いますが、それ一辺倒では相手にとって封じるのは簡単です。前半のような攻守に前へ前へという積極的な姿勢を出しながら多様な攻撃を仕掛けるなかで、一つの武器として平岡のハイスプリントがあるいうのが理想的なシチュエーションだと思います。その意味で今節の試合展開は前節町田戦と全く同じだったと言えます。強力な個性を擁しているだけに、投入する時間帯を含め、一段階高いレベルに押し上げるために攻撃をどう再興していくかがこれからの課題になってくると思います。
千葉サポーターのみなさん、多数のご来場ありがとうございました!
試合結果
J2 第17節 栃木SC 0-0 ジェフユナイテッド千葉
観客 5,663人
会場 栃木グリーンスタジアム
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