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【割り切ったゲームプランに見えた収穫と課題】J2 第25節 栃木SC vs 東京ヴェルディ(△0-0)

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はじめに

 リーグ戦3連戦の2試合目。中3日で高温多湿という厳しいコンディションのなか、チーム全員が集中したディフェンスを見せ、試合は0-0のドローとなりました。許したシュートはわずか1本。8試合ぶりのクリーンシートは守備の自信を高めるだけでなく、割り切ったゲームプランを達成するだけの遂行力をうかがえるものでした。

 

 

スターティングメンバー

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栃木SC [3-4-2-1] 21位

 前節は柏に逆転負けを喫した栃木。一瞬の隙から奪われた2失点はともに相手のストロングに屈したものでした。チームのパフォーマンスに対して田坂監督は「わかっていることでやられている」と悔しさを滲ませていましたが、それでも90分を通して見れば狙い通りの守備を行えていたと一定の手応えを感じているようでした。今節はその守備を絶え間なく再現したいところ。

 スタメンの入れ替えは2人。アンラッキーな形で失点に絡んでしまった藤原は今節はお休み。CBには菅が2試合ぶりのスタメン。枝村に変わってCHに入った荒井は、プロ入り初のリーグ戦出場となりました。

 

東京ヴェルディ [3-4-2-1] 11位

 ギャリー・ジョン・ホワイト前監督が退任し、ユース監督を務めていた永井秀樹氏がトップチームの監督に就任したヴェルディ。丁寧なビルドアップからゴールを目指す「ヴェルディらしい」サッカーから、就任2試合で2連勝を達成。今節は就任後初のアウェーゲームになります。

 ミッドウィーク開催ということもあり、スタメンを大幅に変更。田村と内田は4ヶ月ぶり、フランス帰りの澤井は復帰後初めてのスタメンとなりました。和製フェライニこと李栄直は累積警告により出場停止。

 

前半

配置と選手の特徴で殴りたいヴェルディ

 ヴェルディのキックオフで試合開始。立ち上がりから3CBを中心にポゼッションを高めるヴェルディに対して、栃木はミラーゲームを生かした出足の早いプレッシングやへニキのポストプレーから前進を図ります。前半1分には前プレからボールを奪い浜下のクロスに大黒が飛び込んだシーン(直後のCKの流れから瀬川のシュートはポストを直撃)。前半6分にはへニキのポストプレーのこぼれ球を拾った瀬川のクロスに大黒が合わせるシーンなど、ボールは握れないものの序盤から相手ゴールに迫ったのは栃木でした。

 

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 守備時は[5-4-1]でセットする栃木に対して、ヴェルディは前進を急がずに自陣から丁寧なビルドアップを行います。基本形は[3-2-5]。WBが高い位置に張ることで栃木のWBをピン留めしつつ、シャドーがCH脇を基準にしながら後方からのボールの引き出しやCFレアンドロが受けるためのスペースメイキングを担当します。

 

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 このとき面白かったのが両シャドーの微妙に異なるタスク。右シャドーの藤本は中央での崩しが難しいと見るや、図のようにブロックの外側、主に西谷和希の左側でパスワークに関与する形を取りました。象徴的なのが前半13分のシーンで、WB澤井が少し内側に入って菱形を作りながらパスコースを複数確保する形は、サイドで数的優位を作る永井監督のスタイルを表すものでした。実際に、ここにポジショニングされると栃木は、もともとマッチアップしていた森下が迎撃するには遠く、西谷和希がマークに行くと右CB山本へのプレッシャーが皆無になってしまうため、藤本の移動から始まるポジショニングはヴェルディに配置的な優位をもたらすものでした。

 一方で、左シャドーの森田はよりシンプルに背後へのランニングを繰り返すなどゴールに近いプレーを志向していました。藤本に比べればよりサイドアタッカーとしての特徴が強い森田。背後へ走り出すタイミングは主に右CB山本に右サイドからバックパスが入る時であり、左利きの山本から直線的にロブパスを引き出したシーンは序盤から数回見られました。

 右シャドー藤本の移動から左シャドー森田へのロブパスが一連の流れになっているのも面白いところ。ヴェルディは自分たちからミラーゲームにズレを作ることで、配置的な側面と選手の特徴を引き出すという側面を同時に発揮できるだけのプランを事前に準備していました。

 

栃木の粘り強い守備

 圧倒的にヴェルディにボールを持たれながらも崩れなかった栃木の守備。この試合は5-4のブロックが非常にコンパクトに保たれており、ヴェルディの選手にライン間で時間とスペースを与えることはほとんどありませんでした。中継のなかで実況の西さんも触れていた、大黒がへニキのプレッシングを制する声を掛けていたように、チーム全体でライン間が間延びしないような意思疎通が図れていたという点は、今後の守備構築を考える上で大きな収穫だと思います。ヴェルディの横パスに対してスライドする回数はかなり多い展開でしたが、「持たせている」という感覚でやれていたであろう栃木の選手たちにとってはそれほど難しい時間を過ごしたという印象はなかったのではと思います。

 

 どちらかというと、ゴールへの道筋が見えにくくなっていたのはヴェルディの方。依然高いボールポゼッション率を保ちながらも、時折刺す縦パスがことごとく5バックの迎撃と中盤の選手のプレスバックにより窒息してしまう展開に。左シャドーの森田が列を下りてパスワークに参加したり、CH渡辺が左サイドに流れたりと即興的な配置の移動により工夫しようとするも根本的な解決策にはならず。さらには、WBやシャドーがサイドの高い位置で前を向いても後方へ下げてしまう場面が多く、特に前半の中盤以降は後方でのパス本数が増えるのみでテンポの上がらないボールポゼッションに終始した印象でした。

 

 徐々に栃木がヴェルディのボールポゼッションに慣れてきたところで前半終了。0-0のスコアレスで試合を折り返しました。

 

後半

システムの変更でポゼッションをさらに高めるヴェルディ

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 永井監督は後半頭から内田を下げて小池を投入。システムを[4-3-3]に変え、前半右CBを務めていた山本をアンカーにスイッチしました。ハーフタイムでの交代について「少しボールロストが目立ってきたので、人を代えてプランを変えてという部分でした。」と語ったのは永井監督。ポゼッションから数的優位を作りサイドを起点に崩していくベースはそのままに、CBを削って前線の枚数を増やす攻撃的な布陣で栃木のゴールを目指します。

 

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 ヴェルディのシステム変更による栃木の対応は、前半同様ライン間を締めてコンパクトに戦うことでした。特に後半の開始から15分間は栃木の最も失点を喫している時間帯ということもあり、前プレも自重気味に。攻撃的なプレーヤーである右SB小池の上がりを中心に、澤井、藤本ら右サイドのユニットが繰り出す攻撃に最終ラインが押し込まれる場面もありましたが、集中した守備から最後の局面で体を張り、苦手な時間帯を失点せずに乗り切りました。

 良い守備ができれば良い攻撃に移行できるのがサッカー。後半14分には森下が藤本からボールを奪うとそのまま持ち上がり、ハンド疑惑もありながらのCK獲得。その流れからCB乾の枠を捉えたミドルシュート。直後の後半16分には三宅がプレッシングからボールを回収し、最後は右サイドを駆け上がった荒井がクロスを上げるシーンを作り出すなど、攻めきれないヴェルディを尻目にカウンターやセットプレーから続けざまにチャンスを創出。しかし、フィニッシュの精度が足りず、ゴールを奪うまでには至りませんでした。

 

平岡大作戦(vs上福元編)

 ヴェルディは後半22分に田村に変えて井上を投入すると、山本を再びCBに下げ、渡辺をアンカーに移動。後半25分過ぎからはGK上福元もセンターサークル付近でボール回しに絡むなど、徹底的にポゼッションを強化するポジショニングを取りました。

 これを見た田坂監督は即座に大黒と西谷和希を下げて平岡と大﨑を投入。横スライドに疲労の見えてきた前線の守備力を補強すると同時に、平岡大作戦が開幕しました。

 

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 実戦では第15節岡山戦から始まったとっておきのこの奇策。ボールを奪ったらまずは前線のオープンスペースへ、というシンプルかつ強引な攻撃は、相手チームからしたら分かっていても止められないといったところでしょうか。後半32分からの出場でしたが、数えるだけでも栃木は計5回、平岡のスプリントを生かしたカウンターを展開しました。中でも後半アディショナルタイム3分に繰り広げられた平岡と上福元が並走するシーンはこの大作戦を象徴するものでした。シュートを決めることはできませんでしたが、押し込まれたときのクリアを陣地回復だけに狭めない選択肢は今後も有効策になると思います。和製ヴァーディーへの道はまだ始まったばかり。

 

 試合はこのまま互いにフィニッシュワークの精度と決定力に欠け、0-0の痛み分けで終了。栃木は連敗をストップする8試合ぶりのクリーンシート。ヴェルディは永井体制初のドローとなりました。

 

最後に

 180度異なるスタイルを掲げる両チームによる対戦は予想通りの展開で進み、結果はスコアレスドロー。収穫も課題も見えた試合内容でしたが、厳しいコンディションのなかで、後半は特に割り切ったゲームプランでしぶとく勝ち点1を拾えた点は、連敗中の栃木にとってはポジティブな側面でしょう。8試合ぶりのクリーンシートならなおさらです。

 一方で、課題を上げるとすれば押し込まれた展開でのカウンターのバリエーションの少なさ。前半はへニキのポストプレーが前進の助けになっていましたが、後半へニキも含め完全に押し込まれた場面では、平岡が投入されるまでボール奪取後の供給先を見つけることがなかなかできませんでした。試合後瀬川も平岡頼みのカウンターに対してコメントをしていましたが、フィニッシュの精度を高めていくためにはより鋭いナイフを複数相手に突きつける必要があると思います。

 スタイルのブラッシュアップ。今後の成長の余地を収穫と課題を通して発見しつつ、勝ち点も拾えたことは、目標とする残留に向けて大きな意味があると思います。次節以降もトップハーフのチームとの対戦が続きますが、この課題を少しずつ解消しながらチームとして勝ち点も内容も積み上げられるような試合に期待したいと思います。

 

試合結果

J2 第25節 栃木SC 0-0 東京ヴェルディ

得点 なし

主審 西山 貴生

観客 3,765人

会場 栃木グリーンスタジアム

 

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