栃木SCのことをより考えるブログ

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【好機を仕留め切れず、個のクオリティに屈す】J2 第24節 栃木SC vs 柏レイソル(●1-2)

はじめに

 前節から夏の移籍ウインドーで獲得した選手を起用できるようになったJ2リーグ。前半戦の低迷からの巻き返しを図るべく、栃木は積極的な補強策を展開し、今節は夏に加入した4選手全員が出場しました。既存戦力と新戦力の融合。今後の浮上を予感させるような堂々とした内容でしたが、地力で勝る柏に一歩及ばず、1-2の逆転負けを喫しました。

 

スターティングメンバー

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栃木SC [3-4-2-1] 20位

 5試合連続で3バックを採用した栃木は、前節からスタメンを5人入れ替え。今週水曜日に合流した乾は右CBに、木曜日に合流した瀬川は得意の左WBに早速入りました。それにしても前回のホームゲームで栃木の右サイドをガンガン突いてきた瀬川が栃木の選手として出場とは、サッカーは何が起こるか分からない。まさに昨日の敵は今日の友。一緒に栃木で夢を叶えよう。大黒と出場停止明けのへニキは2試合ぶり、西谷和希は3試合ぶりのスタメン復帰となり、三宅は前節からポジションを一列上げてシャドーでの起用となりました。

 

柏レイソル [4-2-3-1] 2位

 「困った時のネルシーニョ」がここにきてハマりだし、5連勝で一気に自動昇格圏まで浮上してきた柏。3バックと4バックを使い分ける今季は守備陣が安定感を維持し、ここまで23試合で15失点はリーグトップの堅さ。なかなか稼げなかった得点も外国籍選手を中心に徐々に盛り返してきている印象があります。あとはブラジル人ガチャの成功次第というところでしょうか。スタメンの入れ替えは3人。ヒシャルジソンは2回目の累積警告による出場停止明けになります。

 

前半

電光石火の先制点

 前半2分、キックオフから前へ前へ圧力をかける栃木は幸先良く先制点を上げることに成功しました。

 西谷和希が試合後「(大黒に合わせるFKは、)去年からやっているパターンです」と語ったように、大黒の特徴を最大限に引き出す浮き球パスから放たれたシュートはGK中村に一度は防がれましたが、こぼれ球を見逃さなかった乾が押し込みゴールイン。キックオフからマイボールをロストすることなく、セカンドボールへの出足の早さを見せた栃木が絶好のスタートを切りました。

 

質で殴るを体現した柏の同点弾

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 先手を取った栃木は守備時[5-4-1]のブロックを形成。柏の最終ラインでのボール保持に対しては、最前線をハーフウェーラインより前に保ちつつ、相手の横パスやバックパスには連動してサイドに追い込むことでボールを奪おうという狙いが見えました。前半27分に三宅、浜下、へニキらが見せた右サイドに人数を合わせて追い込んだプレッシングはその狙いを象徴するものだったと思います。しかし効果的に行えたのはこのシーンくらい。柏は適宜、ヒシャルジソンもしくは三原が最終ラインをサポートする位置に下りて、プレッシングの逃げ場になるだけでなく、栃木のCHを引き出す役割も担っていました。

 

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 栃木は、ポジションに従って三原が下りればへニキが、ヒシャルジソンが下りれば枝村が列を上げて中央へのボールを牽制。それならばと、1CHとなった脇のスペースに活路を見出したい柏でしたが、クリスティアーノは栃木の最終ラインに張り付く時間が多く、瀬川も浜下や乾のマークにより自由にさせてもらえませんでした。ダイアゴナルに動くことで浜下と乾の注意を引きつつ江坂にスペースを提供しようという場面もありましたが、なかなかタイミング良くボールが入らず、またボールが入っても栃木のアラートな迎撃守備により前線でキープできないなど、地上戦からはビルドアップの起点を作れない柏でした。

 

 自陣からのビルドアップが難しいと見るや、柏は劣悪なピッチ状況を考慮したうえで、シンプルにロングボールを放り込むパターンも見せました。ヒシャルジソンからオルンガを目掛けて放たれた前半5分を皮切りに、時折繰り出されるロングボールに対して、栃木は常に二人が対応することでチャレンジ&カバーを徹底。前回対戦でもロングボールを多用されたこともあり、ここへの対応はある程度想定していたものでした。しかし、同点弾はこのロングボールから。猛然とボールとゴールへ一直線に向かうオルンガのパワーとスピードを前に、栃木の選手それぞれの対応が中途半端になり、何もないところから安い失点を献上してしまいました。簡単にクリアできたであろう場面だっただけに、悔しさよりも切なさが込み上げてきたのは個人の感想。対応されることをおそらく理解していながらも、自分たちのストロングを真正面から相手にぶつけることで奪い切った得点は、圧倒的な質の優位を見せつけるには十分でした。

 

ポジティブトランジションから好機を作る栃木

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 同点に追い付いたことでボール保持を安定化させる柏。CHが最終ラインをサポートしながら栃木の陣形を左右に揺さぶり、SBに栃木WBが食いついたところで、その背後をSHがランニングしてボールを引き出す形は再現性をもって行われていました。ただそこからペナルティエリア内に入っていくパターンには乏しく、栃木としてはWBが引き出されたとしても隣のCBやCH、シャドーのプレスバックなどにより根気強く対応できていました。

 

 柏の攻撃に徐々に慣れてきた前半30分以降は、逆に栃木が反撃を開始。前半33分には藤原のインターセプトから右サイドの浜下に展開し、最後はハーフスペースを突撃したへニキがCKを獲得するカウンター。前半39分にも森下のインターセプトから素早く前方に繋ぎ、最後は右サイド深い位置からの浜下のクロスに攻撃の起点となったCB森下が合わせるシーンを作り出すなど、相手の攻撃を凌いでからのポジティブトランジションにより好機を演出しました。

 

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 押し込まれる柏は前線の動き出しが減ったことからロングボールが合わない展開に。前半41分にはネルシーニョ監督が、瀬川を左WBに、江坂を左SHに下げた[5-4-1]に応急処置的に変更することでカウンターを許していた栃木の右サイドをケア。栃木の反撃を凌ぎ切った柏、一方で柏攻略のヒントを得た栃木、という格好で前半は終了。1-1のドローで折り返しました。

 

後半

生まれたスペース

 後半は柏ボールでキックオフ。意外にもファーストプレーは最終ラインにボールを下げてポゼッションをする、あくまでロングボールに頼り切るのではなく丁寧なビルドアップを心がけていたことを窺わせる立ち上がりでした。

 静かな展開で始まる思われた後半でしたが、早々に柏が試合を動かします。ボール保持のなかで左SB古賀へ渡ると、古賀は対面の三宅を抜き、斜め前方の江坂へダイアゴナルパス。江坂は寄せてくる乾を牽制するようにワンタッチでボールを落とすと、最後はクリスティアーノが右足を一閃。藤原に当たり軌道の変化したシュートにGKユヒョンは一歩も動けず。ボールはそのままゴール左隅をとらえ栃木は痛恨の逆転を許してしまいました。

 

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 ゴールシーン直前を見ると、クリスティアーノバイタルエリアで不自然にフリーになっていました。守備時[5-4-1]を敷く栃木は相手とのミスマッチな噛み合わせからボールサイドの逆サイドではゾーン守備が求められます。しかし、このシーンではDFがラインを上げて対応するのか、MFがプレスバックするのか曖昧になっていました。前者はオルンガへのマーク、後者は前プレ直後という事情があったからだとは思いますが、いずれにせよライン間が間延びしてしまったことは致命的でした。

 柏としてはハーフタイムに指示のあった、味方にスペースを作る動き出しが後半立ち上がりから奏効した形と言えるでしょうか。ボールを一瞬でリリースした江坂、ボールに触らずとも相手DF二人を引き付けたオルンガのプレーは、クリスティアーノに得意な位置からのシュートを打たせるための絶好のお膳立てとなりました。そのほか、得点直後の後半2分のミドルシュートや後半13分にもクリスティアーノがライン間でスペースを得るシーンがあったことは、栃木が後半立ち上がり修正できなかったことを物語る場面でもありました。

 

栃木のシステム変更後

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 逆転を許した栃木は後半18分、枝村に変えてキムヒョンを投入。三宅をCHに下げた[4-4-2]に変更します。

 守備時柏はトップ下の江坂がオルンガと同列になることから[4-4-2]どうしのミラーゲームに。各ポジションでのマッチアップが成立したことで局面のデュエルがより重要視されるようになると、目に見えて攻撃が活性化したのはホームチームでした。

 栃木は大黒とキムヒョンを2トップに並べ、ロングボールを最前線のキムヒョンに当てるポストプレーから前進。後半20分にはキムヒョンのポストプレーを起点に最後は浜下のクロスを大黒がドンピシャでヘディング。続く後半22分にはキムヒョンの懐の深い足元でのポストプレーから浜下のクロスに左SB瀬川和樹はシュートまで持ち込めず。後半29分には浜下のクロスからキムヒョンがヘディングで合わせるもシュートはゴールのわずか左。後半38分には川田のパスからオフサイドなくキムヒョンがDFラインの背後に抜け出したもののGKとの1vs1を決められず。後半45分にはキムヒョンのポストプレーから大黒が潰れて大﨑がシュートを狙うも途中出場の田上がブロック。

 キムヒョンがプレーした約30分で栃木は数多くのチャンスを作り出しましたが、最後の決定力に欠け、ゴールを奪えず。このうち一つ、ビハインドなのであわよくば二つゴールネットを揺らせれば、当然ですが試合展開も変わっていたでしょう。一方で柏も、ミラーゲームによる同数の局面を突破しペナルティエリア内に侵入する回数が増えたのは確かでしたが、GKユヒョンの再三の好セーブにゴールを奪えず。栃木のシステム変更後は、ゴール前の局面が増えたオープンな試合になりましたが、栃木の圧力を感じ始めた柏が素早く5バックに移行したことで、最後まで得点が動くことはありませんでした。落ち着いて長いアディショナルタイムをやり過ごした柏がそのまま逃げ切って勝利。地力の差を見せつけられた栃木にとっては悔しい敗戦となりました。

 

最後に

 「わかっていることでやられているのは本当に悔しくてしょうがない気持ちです。」とは田坂監督の試合後コメント。ここ最近の栃木は相手のストロングに簡単に屈する場面が多く、はじめは準備してきた守備から集中して対応できるものの、リスタートや立ち上がりなど試合の際とも言えるプレーから、自ら試合を難しくしてしまっている印象があります。もっとも、3バックを軸にサイドからのクロス攻撃という戦術に最適解が見えてきた今、好機を演出した後半に追加点さえ奪えれば勝ち点とともにさらなる自信を得ることができたところですが。相手を上回るだけのストロングを発揮する攻守のバランスをいかに整備できるか。チームとしてポジティブな兆候が見え始めているだけに、この試合から始まる夏場の連戦は、チームにとって今後の行く末を懸けた、無下にはできない正念場になっていくのではないでしょうか。

 

試合結果

J2 第24節 栃木SC 1-2 柏レイソル

得点 2’乾(栃木)、17’オルンガ(柏)、46’クリスティアーノ(柏)

主審 西村 雄一

観客 5,815人

会場 栃木グリーンスタジアム

 

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