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【90分全体を通じてのゲームプラン】J2 第15節 栃木SC vs ファジアーノ岡山(△1-1)

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はじめに

連日続く猛暑に辟易しながらも、Jリーグはいつもどおり平常運転のデーゲーム開催。時期外れの暑さは身体に堪えますが、サポーターも給水タイム多めで、一足早い夏を乗り切りましょう!さて本題。今回はホームに岡山を迎えての試合を振り返っていきます。

 

スターティングメンバー

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栃木SC [3-4-2-1] 19位

強豪との2連戦を1勝1分かつクリーンシートで逃げ切った栃木。守備の自信を片手に、次は攻撃の質と量を上げていきたいところ・・・でしたが、予想だにしなかったウォーミングアップでの大黒の負傷。代わりにトップには先日加入したばかりのイレジュンが入り、スクランブルでのデビュー戦となりました。

さらには、藤原と西谷優希が出場停止の今節は、菅と大島が変わってスタメン入り。イレギュラーな状況下で、チャンスを得た選手がいかにプラスアルファをもたらすことができるか。大怪我から2年ぶりにメンバー入りを果たした坂田も含め、まさに全員戦力です。

 

ファジアーノ岡山 [4-4-2] 11位

4年間の長澤徹政権を終え、今季から有馬賢二監督を迎えた岡山は、開幕から一貫して[4-4-2]を採用しています。注目すべきは2トップの一角に入るイヨンジェ。現在得点ランクトップにつける韓国人FWは、フィジカルとシュート技術、一瞬のスペースを見つける感覚に優れ、キャリアハイのパフォーマンスを発揮しています。栃木としては前節大宮戦同様、相手のパワーある攻撃陣を抑えつつ、いかに効果的な攻撃に移行できるかがポイントになります。

 

前半

[3-4-2-1]の採用とその影響

第4節東京ヴェルディ戦(〇3-2)の後半以降、相手にフォーメーションを合わせたマッチアップを選択することにより守備を安定化させてきた栃木でしたが、今節はミスマッチとなる[3-4-2-1]を採用。守備時は5バックとなり、常に相手より1枚多く選手を配することで、まずは失点しないことを第一としたプランで試合に入りました。

相手に好調のFWがいること、5バックで連続クリーンシートを達成していること、最終ラインのレギュラーが二人欠場していること、など考えられる理由はいくつかありますが、最も比重の高かったのは気候面でしょう。試合後、田坂監督が「暑さもあったので60分から攻めに出たかった」と語ったように、時期外れの高温を受けてのゲームプランだったことが覗えます。

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[5-4-1]で自陣にブロックを敷く栃木はMF-DFライン間をコンパクトに保ちつつ、中央を固めることでボールをサイドに誘導。サイドでボールを刈り取ることを目的に、相手に「回させる」ことにより、守備からリズムを作る狙いが見えました。特に岡山のCB間のパス交換やCH→CBのバックパスに対しては、シャドーがスイッチとなって全体が連動。前半2分のシーンでは、CHの位置取りを首を振って確認しながら制限していくプレッシングにより、岡山のプレーできるサイドを限定すると、苦しくなったCBからのフィードはタッチラインをアウト。意図を持った守備からマイボールにする一連の流れが少しずつ整備されてきたことが垣間見える場面でした。

 

対する岡山はというと、試合全体を通して前線へのロングボールを多用。特に序盤は、リスクをかけずに最終ラインの背後に走り込む2トップにボールを供給することが多く、2トップが収められなくても、内に絞ったSH仲間らがセカンドボールをいち早く回収することで二次攻撃、三次攻撃を展開する場面がしばしば見られました。また、ロングボールの落下点を左サイド寄りにすることで、競り合う相手を、それほど上背のない菅や浜下に限定する巧みさも、時間とともに増えていきました。

 

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プレッシングをロングボールで回避されてしまう栃木は、徐々に重心が下がり自陣でブロックを構える展開に。こうなると栃木としては厄介でした。

岡山のビルドアップの基本形は2CB+2CHからの前進。栃木は[5-4-1]になることにより、第一プレス隊がイレジュンしかいなく、岡山の前進を制限することができませんでした。さらには、シャドーが前プレに加わっても、岡山は後方を3+1に変化させ常に数的優位を保っていたため状況は変わらず。かえって、シャドーの空けたスペースを活用されるという悪循環も生じていました。

ビルドアップの起点を確保すると、次は栃木陣内のサイドの攻略。有馬賢二監督も「徐々に隙間ができたところでサイドからクロスでチャンスを作っていけていた」と語ったように、サイドに大きく張り出したSBと、そこに絡むSHのサイド攻略は、栃木のマークを混乱させ、何度かチャンスを生み出しました。栃木も途中からSHにはWB、SBにはシャドーが対応するよう明確化しましたが、それによりシャドーが最終ラインに吸収。重心が過剰に低くなってしまい、カウンターに出るにもゴールが遠い、まさにアウェイ徳島戦に近い展開になりかけました。

 

それでも前半30分以降は、ポジトラから徐々に盛り返した栃木。浜下の単騎突破からのクロスでチャンスを作り出すなど、決してリアクションで終わらない姿勢を見せ前半終了。0-0での折り返しとなりました。

 

後半

痛恨の先制点献上

両チーム選手の交代なく前半同様の展開となった後半立ち上がり。試合は動きました。

後半8分、岡山のセットプレー崩れから仲間がラインギリギリでクロスを供給。ボールウォッチャーになった栃木ディフェンス陣の間から、マークをかわしたイヨンジェのヘディング。至近距離のシュートにGKユヒョンも弾き切れず。栃木にとっては、後半立ち上がりという最も失点を喫している時間帯にまたしても被弾してしまいました。イヨンジェは3試合連続となる10ゴール目で、2桁ゴール一番乗り。

 

尻に火のついた栃木

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先制を許した栃木は、フォーメーションを[4-4-2]に変更。「60分から攻めに出る」というプランのもと、守備に割いていた人員を前に充てることでゴールに迫ります。

配置のバランスが良くなった栃木。3バック時との大きな違いは、サイド攻撃に人数をかけながらも、2トップにしたことで中央の厚みを確保できるようになったこと。多少アバウトなボールであってもイレジュンや大島らがポストプレーから浜下や西谷和希に展開するなど、徐々に重心を前に傾けることができるようになりました。

守備においてもマッチアップによりマークの対象が明確化したことで、プレー速度が上昇。前線2トップが背後のCHを消しながらCBへプレスをかけられるようになったため、岡山も前半同様には自陣でボールを保持することができなくなりました。

 

後半19分に平岡を投入すると、栃木はギアをもう一段階アップ。平岡の快足を生かすべく、シンプルに岡山の最終ライン背後にボールを供給することでリズムを掴み始めると、岡山は最終ラインが押し下げられてしまったことで徐々にライン間も開通。途中投入された韋駄天の存在に岡山はかなり手を焼いているようで、プレーが切れた直後に集音マイクが拾った「速いって、こいつ(平岡)!」はこの試合の個人的なハイライトでした。それだけに右SBに移った久富からのチャンネルを突くスルーパスから抜け出したシーンでは決め切ってほしかった。あれを決めきれたらヴァーディーになれる。

 

攻勢を強める栃木に対しては岡山は後手を引く展開に。2トップを生かすロングボールも、栃木のCBが厳しく対応することでなかなか収めきれず。また、サイド攻略についても、栃木がマークを整理したこと、SB裏を平岡に抜け出される恐れがあることなどから、前半ほど効果的には行えませんでした。

 

攻守に主導権を握った栃木はついに同点に追い付きます。後半32分、エリア内で森下が粘ったあとのこぼれ球を平岡がライン際で折り返し。「ファールか!?」と全体的に足が止まるなか、一足早く反応したへニキがシュートを放つと、これがネットを揺らし同点に成功しました。

 

終盤は互いに疲労から、ゴール前でのプレーが多くなりましたが、得点には至らず。後半アディショナルタイムの大島のヘディングシュートに対する椋原のブロックは「むむむ!?」というシーンでしたが、いずれにせよ90分以上走り切ったなかで身体を投げ出して守備を行えるのは素晴らしいこと。非常に悔しさは残りますが、次こそはサッカーの神様も恵んでくれることでしょう。

このまま試合は1-1、両チーム勝ち点1を分け合う結果で終了となりました。

 

最後に

この試合、栃木は90分全体を通じて、時間帯ごとの戦い方と狙いが整理されており、非常に締まったゲームになったと言えます。特にスイッチをどこでどのように入れるかという点について、フォーメーションの変更や、強烈な個のクオリティを持つ選手の起用は、今後厳しい夏場を迎えるにあたって、乗り切るための大きなヒントを得たように感じられました。

次の対戦相手はFC町田ゼルビア。昨季に比べ今季は苦しんでいる印象ですが、怪我人も復帰してきたことなどから難しい試合が予想されます。良い結果になることを願って野津田に念を送りたいと思います。

 

 

試合結果

J2 第15節 栃木SC 1-1 ファジアーノ岡山

得点 53’イ ヨンジェ(岡山)、77’へニキ(栃木)

会場 栃木グリーンスタジアム

観客 4,286人

 

前節のレビューはこちらから

 

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