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【勝利への執念がもたらした逆転劇】J2 第22節 栃木SC vs レノファ山口FC(〇2-1)

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はじめに

 前半戦をわずか3勝、20位という順位で折り返すことになった栃木。攻守に歯車の噛み合わないチームは、シーズン当初の目標を下方修正。心機一転、チーム一丸となって「残留」を目指します。後半戦初戦の相手は山口。正念場を迎える栃木が好調を維持する山口にどのように立ち向かったのか、振り返っていきます。

 

 

スターティングメンバー

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栃木SC [3-4-2-1] 20位

 メンバー的に様々な組み合わせや配置が予想されましたが蓋を開けると、相手とのマッチアップを意識した[3-4-2-1]のシステム。スタメンは前節琉球戦から4人変わり、右CBに菅、CHにへニキ、シャドーに大﨑と榊が入りました。西谷和希は今季初めてのベンチスタート、前節フル出場を果たした西谷優希はメンバー外と、大きく変化を加えた人選は吉と出るか凶と出るか注目されます。

 

レノファ山口FC [3-4-2-1] 15位

 3連勝、6試合負けなしと好調を維持する山口。それもそのはず、リーグでは15位に位置しながらも、攻撃力は抜群でリーグトップの34得点をマークし、ここ3試合も計11ゴールを上げています。前節町田戦からはスタメン変わらず。豊富な前線のタレントを余すことなく前面に押し出したプレースタイルに対して、栃木は5-4ブロックでしっかり凌いでいきたいところです。

 

前半

栃木の弱点を突いた立ち上がりの山口

 立ち上がりの前半8分。試合は早々に動きました。CKから吉濱が左足アウトスイングで入れたボールに対してGKユヒョンはパンチング。セカンドボールを拾った三幸がエリア内に再び供給するとボールは菊池のもとへ。両チームを通じて最長身の菊池(188cm)目掛けて放たれた正確なボールにマーカーの藤原はまともに競ることができず。栃木は痛恨の先制点を許しました。

 栃木は今シーズンCKの守備時は、マンツーマンとゾーン(ストーン役+ゴール前中央1枚)を併用しています。ストーン役は主に1トップ(大黒、大島)が、ゴール前中央はCB(森下、田代)が担っていることが多く、それ以外の選手は相手に合わせてマークに付きます。このセオリーに従えば菊池のマークを藤原が行うこと自体は不自然ではありません。しかし現実問題として大きな身長差(12cm)があります。フィニッシュワークについてはアシストをした三幸と菊池が非常にスーパーでした。おそらく藤原でなく他の選手だったとしても防ぐのは難しかったと思います。ただ、そもそものマーク担当や選手選考自体はこれが正解だったのでしょうか。100%の正解はないにしても、高さを武器にここまですでに2ゴールを上げている菊池に対して、このスタメン起用では高さで若干心許ないところがあります。逆に山口は、栃木の高さ不足という弱点をハイクオリティな攻撃で的確に突くことで狙い通りにリードを奪うことに成功しました。

 

山口のビルドアップ

 ともに[3-4-2-1]を採用することからミラーゲームが想定されたこの試合。立ち上がりからアグレッシブに入った山口はボールポゼッション時、栃木の立ち位置の泣きどころを突くことでミスマッチを作りながらスムーズにビルドアップを行いました。

 

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 図はビルドアップのイメージ図。[3-4-2-1]マッチアップ時の定番とも言えるCH1枚落としが基本形。最終ラインに落ちるのは主に三幸が担当していました。栃木としては三幸の落ちた最終ラインへ圧力をかけるためにはCHが第一プレッシング隊に加わる必要があります。ただ、あまり前に出過ぎてしまうと空けたスペースを使われた際に一気に最終ラインが晒されてしまうリスクがあるため、十分にはプレッシャーをかけることはできませんでした。そのため三幸のポジショニングに応じて適宜[5-4-1]で構えることが増えていきました。

 最終ラインで時間を得られるようになった山口は、三幸を中心に長短様々なパスから試合を組み立てていきます。パターンとして多く見られたのは三幸や右CB前から高い位置を取った左WB瀬川への対角ロングフィード。序盤はロングボールが届かず引っかかる場面もありましたが時間の経過とともに改善。前半30分あたりからは中盤を越えるダイナミックな展開から試合の主導権を握り、三幸の対角ロングフィード→左WB瀬川のクロス→右CB前のヘディングシュートまで至ったシーンは、山口のこの試合のビルドアップを象徴するものでした。直後の前半40分にはCB楠本から、続く前半41分にはシャドーの吉濱から左サイドに供給されており、再現性をもって行われていることからも、ここを狙いとしていることが窺えました。

 

スピーディーなサイド攻撃

 前半は押し込まれる時間の長かった栃木ですが、決して攻撃の形を作れないという訳ではありませんでした。この試合の栃木の狙いはサイドをスピーディーに攻め上がり早めにエリア内にボールを供給すること。序盤は山口の出足の早さに怯んだ印象もありましたが、山口がリードを奪い試合の落ち着いてきた前半20分以降は、時折クロスからチャンスを作る場面がありました。前半22分には榊とへニキが、前半23分には浜下が、前半26分には右サイドを単騎突破した川田が立て続けにクロスボールをエリア内に供給。出し手の確保とともに、エリア内には1トップ2シャドーのほか、CHの片方と逆WBを中心に平均して3~4人の選手がポジションを取ることで受け手も確保。前半のうちは直接フィニッシュに結びつけることはできませんでしたが、得点の匂いを感じさせる厚みのある形を作ることができていました。

 

 前半は基本的には1点をリードした山口のペースで試合が進みましたが、栃木は終始受けに回ったというよりは、攻守における山口の出方を窺った前半だったと言えるでしょう。0-1のビハインドで折り返すことになったものの、前半の45分間で攻略の糸口を見つけた栃木は後半、躍動したサッカーを見せることとなりました。

 

後半

前からの守備とアイソレーションから好機を生んだ栃木

 後半に入ると栃木は、右CB菅による山口のカウンターの芽を摘む迎撃を皮切りに、アグレッシブな前からの守備でリズムを掴みます。山口は前半同様三幸や前、瀬川を起点にしたダイナミックな展開から攻撃を組み立てますが、対応に慣れてきた栃木の守備を前にペナルティエリアまで侵入する回数を増やすことはできず。DAZN中継の解説を行った佐藤悠介氏も、三幸にボールが入ってからの前線の動き出しや中央からの攻撃の少なさに言及しており、後半19分に吉濱に変えて佐々木を投入した采配も、セットプレーよりはオープンプレーを重視した、前線の活性化を意図していたものだと思いました。

 

 栃木の前半と比べて攻撃の組み立て方に変化が見られました。前半はサイドをスピーディーに前進し早めにクロスを入れるというものでしたが、後半はクロスのクオリティにより拘った崩しを行っているように見えました。

 

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 後半よく見られたのがこの形。左サイドで人数をかけながら味方と相手を狭い空間に引き寄せ、一気に右サイドへ展開。時間とスペースを得た右WBは、ボールを受けると積極的なドリブル突破やアーリークロスなどからフィニッシュに直結するプレーを見せました。これにより山口の左WB瀬川は前半と比べるとオフザボールで高い位置を取ることはできなくなっていました。後半15分に西谷和希が投入されるとその傾向はより強くなり、また西谷和希自身がドリブル突破やコンビネーションからフィニッシュに至るシーンも見られるようになりました。また、西谷和希の投入により左WBに回った榊も、前半から見せていた高精度の左足からの良いクロスを上げる場面があり、利き足サイドに置いた利点とも言うべきサイド攻撃のスムーズさからチャンスを創出することができました。

 

早めのパワープレー

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 後半は主導権を握りながらもなかなかゴールを奪えない栃木。相手を押し込む展開が続くなか、後半32分には負傷した榊に変えて久富を投入。これを機に栃木は、森下をパワープレー要員かつフリーロール気味に前線に参加させた[4-5-1]に変更します。後半36分には右サイドでボールを奪うと浜下の上げたクロスにさっそく森下が合わせるという形も見られました。

 山口も負傷により高井に変えて田中パウロを投入すると、ともにゴール前でのプレーを意識したことでボールが前後に行き来するオープンな展開に。間延びしているとも言える状況のなかで最も輝きを放ったのはへニキでした。

 へニキが抜群の出足とフィジカルから中盤戦を支配し始めると、後半39分についに試合が動きます。ユヒョンからのキックをへニキが粘り強く収めてマイボールにすると、右WBの浜下に展開。サイドで前を向いた浜下はドリブルを仕掛けるとそのまま切り返して左足一閃。弧を描いたミドルレンジのシュートはGK吉満の届かないサイドネットを揺らし、ついに同点に追い付きました。

 

 勢いの止まらない栃木はへニキのセカンドボール奪取や浜下のサイド攻撃から引き続きチャンスを作り出します。終盤には森下も2トップの一角としてプレーし、後方からのロングボールやクロスのターゲットに。栃木の迫力ある攻撃に対して疲労の見える山口は、前線の選手がプレスバックする回数が減少したことでより攻撃を受ける展開になりました。ただ裏を返せば選手が前残りになっていることとイコール。表裏一体の攻守。後半アディショナルタイム3分には、山口のポジティブトランジションから6人が一気に駆け上がり厚みのあるカウンターを見せました。

 栃木はなんとかこれを凌ぐと最後の最後に歓喜が待っていました。後半アディショナルタイム5分、CB菅が持ち運んで右SBの浜下に預けると浜下はそのままクロスを供給。大黒にはうまくヒットしませんでしたが、こぼれ球にいち早く反応したへニキが倒れ込みながらのシュート。ボールはGKの手を弾いてゴールイン。勝利への執念がもたらした逆転弾はそのまま決勝点となり試合は終了。8000人超のサポーターが詰めかけたホームスタジアムはホイッスルと同時に、歓喜と安堵に包まれました。

 

最後に

 ラストプレーで何とか試合をひっくり返し、9試合ぶりの白星を上げた栃木。結果のみを見ると薄氷の勝利とも言えるかもしれませんが、苦しい前半を経て修正を施した後半に主導権を握ったことを考えれば、90分通してのゲームプランとしては決して悪くなかったと思います。この試合で見せたインテンシティの高さを最低限キープした上でどれだけ上積みできるか、他の対戦相手に対しても同じように発揮できるかが今後の鍵を握ることは間違いないでしょう。

 次の対戦相手は横浜FC。夏の移籍市場で補強した選手をこの試合から起用できることを考えれば、注目は当然ホームチーム、というよりは中村俊輔に集まるでしょう。負傷中という情報もあるので欠場濃厚ではありますが。逆に栃木もこの試合からキムヒョンと三宅の二人を起用することができます。新加入選手が既存選手と融合することでどんな化学変化が生まれるか。メディアの目を引き付けるようなプレーを期待したいところです。

 

試合結果

J2 第22節 栃木SC 2-1 レノファ山口FC

得点 8’菊池(山口)、84’浜下(栃木)、90+5’へニキ(栃木)

主審 窪田 陽輔

観客 8,034人

会場 栃木グリーンスタジアム

 

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