栃木SCのことをより考えるブログ

主に栃木SCの試合分析(レビュー)をします。

【いかにしてボールを前線に送るかの設計】J2 第34節 栃木SCvs京都サンガF.C.

 第34節の京都戦の振り返りです!

 

 両チームのスタメンと配置は次のとおり。

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 ホームの京都サンガF.C.は、現在降格圏と勝ち点差1の20位。前節は岡山と対戦し、試合終盤の得点で追い付き勝ち点1を上げた(△2-2)。夏の移籍市場で選手を大量補強し、一時は3連勝とペースを上げてきたが、ここ4試合は未勝利となっている(3分1敗)。スタメンの変更は重廣、岩崎⇒金久保、小屋松の2名。小屋松は9試合ぶりのスタメンとなった。

 

 アウェイの栃木SCは現在15位。前節はホームで愛媛に●1-3で敗れて3連敗を喫した。特にCKから3試合連続で失点するなど一時期の堅守に綻びが見え始めている。栃木としては、京都の長身選手のCKを含めたセットプレーには注意したい。スタメンの変更は2名。古波津と契約上出場できない大黒に代わって、パウロンとアレックスが入った。アレックスは移籍後初出場。

 

 このカードの前回対戦はGWに行われた第12節。栃木が3-1で勝利した試合であり、この勝利により栃木はJ2復帰後初の連勝を上げた。良いイメージのある相手から白星を上げ、シーズン終盤に向けて立て直しを図りたい。

 

 

前半

左サイドからの攻撃を狙いとした京都①

 3-3-2-2の京都と3-4-2-1の栃木の対戦。両チームの配置を噛み合せると、京都はアンカーを置くシステムを取ったことから、中盤で3vs2の数的優位になっていた。そのアンカーには今夏加入の庄司が入り、最終ラインを含めた4枚で後方からのビルドアップを行っていた。

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 上記はその際の状況を図示したもの。栃木は京都の左右のCBに入ったタイミングをプレッシングの起点とし、京都の3CBに対して栃木は3トップが、庄司に対してはへニキがプレッシングを行うことで、枚数を合わせて京都の後方からのビルドアップを窒息させようとした

 ただこの時、栃木右シャドーの浜下は難しい選択下に置かれていた。主に牟田を見るか、小屋松を見るかだ。同数プレスの際、右ボランチのへニキは庄司へチェックに行くことから、浜下は牟田にプレッシングに行くと背後で小屋松がフリーに、背後をケアし過ぎると牟田がプレス回避の安全地帯になってしまう。上手く小屋松へのコースを切りながら牟田へプレスできればいいが、小屋松の細かな動き直しに多少苦しんでいるようだった。

 

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 図は前半29分のシーン。例にならって3CBに対して3トップがプレッシングを行うと、その際の小屋松へは右WBの川田が絞って対応していた。それにより今度は大外の左WB本多がフリーに。増川から本多に入ると本多は前を向いてプレーし、最後は金久保のシュートにまで至った。パウロンはカイオにピン留めされていることから、川田はフリーでバイタルエリアに侵入されることを防ぐために小屋松へ対応していたが、かえって本多がフリーになってしまった。浜下への二択が川田へ転嫁された格好であり、栃木は簡単にプレッシングをひっくり返されていた。

 

 

左サイドからの攻撃を狙いとした京都②

 プレッシングの構造上、右サイドに不安を抱えていた栃木であったが、京都はそこを突くようにもう一設計を加えていた。

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 前半8分から9分にかけてのシーン。左CB牟田にボールが入ると浜下がまずプレッシング。牟田は左WB本多にボールを送るとそこには対面の右WBの川田がプレッシング。すると、それをスイッチとするように左IHの小屋松が川田の背後のスペースへ走り込んだ。へニキが着いて行くことで対応していたが、その際右IHの金久保は小屋松のいた場所に入ることで、左サイドでの攻撃をサポートした。この両IHの動きは右サイドでも行われていたことから、ある程度狙いを持って再現的に行われていたが、右サイドの場合は福岡に対応されることがあり、パウロンがピン留めされる左サイドはより狙い目とされていた。このように京都は、中盤の数的優位下でへニキのプレッシングを誘うことで、左サイドでギャップを作ることを狙いとしていた

 

 

栃木のポイントは右シャドーの浜下

 守備では噛み合わせの問題で難しい立場であった浜下だが、攻撃時は鬱憤を晴らすかのように起点になり続けた。

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 前半15分のシーン。ボール保持時は右ハーフスペースを主戦場とする浜下であるが、流れのなかでスルスルと左ハーフスペースへレーンを越えて移動していた。これは栃木の同サイド攻撃の定石であり、相手最終ラインの守備の基準点を外すのにも効果的な動きだ。後方でボールを持っていた岡﨑はここで浜下へ縦パスを入れる。

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 パスを受けた浜下はそのまま左サイドに流れながら、自身の開けたスペースに走り込む西谷和へパス。西谷和は内側に向かって斜めにスペースへランニングすることで、ゴール方向へ体を向けた状況でペナルティエリアに侵入することに成功した。この時京都の最終ライン右側は西谷和vs石櫃、夛田vs金久保、浜下vs染谷と数的同数だったにも関わらず、栃木の3人全てを内側にしてしまうなど、対応が後手後手になっていた。

 

 前半序盤から良い動きを見せていた浜下だったが、チーム2得点目も彼のアシストによるものだった。

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 京都のゴールキックのこぼれ球をへニキが回収すると右の浜下へ。牟田と1vs1となり、浜下の技術であればここでクロスを上げることも可能であったが、冷静に川田のオーバーラップを利用した。牟田が川田の動きに釣られたことから浜下は一瞬フリーになり、余裕を持ってクロス。アレックスが頭で合わせてゴールを決めた。へニキがうまく染谷をブロックしたためアレックスはフリーになっていた。狙っていたのか即興なのかは分からないが、バスケットボールでいうスクリーンの形から大きな追加点を上げることに成功した。

 

 

京都は配置を4-4-2に変更

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 2点を先行され苦しくなった京都。このままではいけないということでシステムを変更。染谷を右SBにし、石櫃を右SHに押し出すことで前線に人数をかけやすい4-4-2を取った。ボール保持時は両CHが矢印方向へ動き、庄司はCBと同じラインで最終ラインをサポート、金久保は前線と後方を繋ぐリンクマンとしてプレーした。

 4-4-2に変更したことで多少盛り返した京都。3-3-2-2に比べて、ベースポジションをサイドに置く選手が多く、サイドを崩してクロスというシーンが見られるようになった。また前半43分、金久保⇒小屋松⇒石櫃と繋いでシュートに至るなど、少しずつ攻撃の形が作れるようになっていたところで前半終了。

 

 2-0、アウェイの栃木が2点リードで試合を折り返す。

 

 

後半

撤退守備vsボール保持の構図に

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 ハーフタイムに京都はジュニーニョを代えて闘莉王を投入。前半終盤からサイドでチャンスを作れるようなってきたため、最後に中央で仕留めるための交代は妥当だと思う。この交代により闘莉王にはパウロンが、カイオには服部がマンマークで見る形となった。

 栃木はハーフタイムを経て立ち位置を整理。前線とサイドの守備の基準点が明確になり、しっかり構えてブロックを作ったため、栃木の撤退守備vs京都の保持攻撃という構図が前半以上に出来上がっていた。プレスもシャドー起点の前半とは異なり、中盤で余るCHのどちらかが左右のCBにかけるという形の方が見られるようになった。

 また、構えて奪ったボールを縦に運ぶ質も高かった。構えた分ロングカウンターになるため、なかなかフィニッシュまでは行けなかったが、ポジティブトランジション(守から攻の切り替えの瞬間)時に西谷和を中心に時折鋭い攻撃を見せ続けることで、牽制を図っていった。

 

 

トリプルタワーを配置するも

 京都は、後半14分には小屋松に代えてレンゾロペスを、後半27分には牟田に代えて仙頭を投入。ついにトリプルタワーにし、加えてDFを削って中盤を厚くした攻撃的な采配をとった。システムはおそらく左IHに仙頭が入った4-3-3だと思われるが、栃木が前線で収められない&保持攻撃をしないため、実質3-4-3といった形になっていた。

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 これにより前線の高さを最高レベルに揃えた京都であるが、なかなかそこに良いボールが入らない。図を見ると、この時サイドのWBはそれぞれ栃木のWBとシャドーに挟まれていた。そのため栃木はサイドの数的優位をポイントに、サイドにボールが入ったら二人で挟み込んで奪い、またミドルゾーンから縦に侵入させない守備をすることで、サイドからのクロスの供給源へダメージを与えた。これにより、京都のWBは高い位置を取れず、アタッキングゾーンに侵入しても厳しいマークにあうことで、十分にクロスを上げる余裕を与えなかった。時折、IHが矢印方向のスペースへランニングすることもあったが効果的なボールは出ず、最後までチャンスを作ることができなかった。

 

 試合はこのまま2-0で終了。栃木がクリーンシートにより連敗を3で止めた。

 

 

最後に

 終盤京都はトリプルタワーを置くことで栃木の最終ラインに圧力をかけてきたが、肝心のクロスを上げるまでの設計が成されていなかった。3-4-3の状況で、WB1枚が栃木のサイドの2枚を剥がすのは至難の業だろう。その点、レンゾロペス投入前の4-4-2の方がサイドの選手が2枚いたため、より効果的にクロスを上げることはできていた。栃木としては、しっかりサイドを制限することでアバウトなクロスを上げさせ、中は枚数をかけてしっかり跳ね返すことを徹底していたため、トリプルタワー後も落ち着いて対応することができた。

 この勝利で栃木は連敗をストップ。次節からの相手を考えればここでの勝利は大きいし、京都から勝ち点を上げ、残留をほぼ確実にしたことも大きい。ここからはどこまで上に行けるかの戦いになる。まずは東京ヴェルディ戦。為す術なく敗れた前半戦のリベンジをしてほしい!

 

 

↓試合結果(Jリーグ公式サイト)↓

京都vs栃木の試合結果・データ(明治安田生命J2リーグ:2018年9月22日):Jリーグ.jp

 

↓試合ハイライト(YouTube)↓