栃木SCのことをより考えるブログ

主に栃木SCの試合分析(レビュー)をします。

【自分たちの現在地】J2 第8節 栃木SC vs 京都サンガF.C.(●1-2)

はじめに

ともに水曜日にリーグ戦を戦い中3日での試合となった一戦。タイトなスケジュールを乗り切るだけの体力がチームとしてどれだけ残っているかが試合を分けるポイントになるでしょう。昨季の対戦成績は栃木のダブル、そして過去の結果を見ても栃木の6勝3分3敗と、栃木にとっては比較的相性の良い相手と言える京都が今節の対戦相手。スタジアムへ向かうグリーンベルトの桜も満開となった初春の試合で、勝利の花を飾るのはどちらになるか。

 

スタメン

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前節福岡に競り負けた(●1-2)栃木は、京都のフォーメーションに合わせて3バックを採用。中3日の過密スケジュール、そして怪我人が続出している関係から、スタメンは2人変更となっています(大島、森下→大黒、久富)。岩間は今季初のCBでの起用。大黒は古巣との一戦になります。

 

今季新たに中田一三監督を迎えた京都は、ここまで2勝3分2敗とまずまずのスタートを切りながらも、ここ4試合は勝ちなしと若干苦しんでいる印象。前節敗れた山形戦からスタメンを5人変更し、5試合ぶりの勝利を目指します。金久保と一美は今季初スタメン。闘莉王はメンバー外となりました。

 

 

前半

栃木のビルドアップと京都の対応

栃木のここ数試合のサッカーを語るうえで切り離せないのが「守備ではマッチアップ、攻撃ではミスマッチ」を作ること。第4節のヴェルディ戦、後半27分に行った選手交代を皮切りにこの「決まりごと」がハマり出すと、攻守に安定感が出るようになり連勝を達成。開幕から波に乗れなかったチームは、相手によってシステムを変えるといったスタイルを武器にしたことで、浮上の兆しが見え始めました。京都戦でも同様の狙いをもって試合に入りました。

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ここまで他の試合のレビューでも書いたとおり、栃木は3バックと4バックを相手によって使い分けて守備を行い、ボール保持の局面では選手を左肩上がりに配置させて密集を作りながら相手とのミスマッチを作ります。

この日は京都が3バックのため栃木も3バックを採用。京都の構造上空きやすい2トップと3センターの脇を起点に前進を図ります。

京都はミドルゾーンに侵入されても、それほどプレスはキツくかけずに自陣への撤退を優先する[5-3-2]の陣形。空きやすい3センター脇のエリアは、IHの横スライドとWBの縦スライドで対応します。ただ、エリアを埋めるのにスライドを要することから栃木はWBが比較的高い位置を取りやすく、図のように西谷ツインズに大﨑が加わった左サイドは自然と攻撃の回数を増やすことができていました。前半早々に得た先制点もこのような形から。左サイドでの密集を起点に右へ展開すると、右CB久富が果敢に攻撃参加しCKを獲得。そのCKを藤原がヘディングでゴールを決め、今季ホーム初ゴールを記録しました。

「密集の逆サイドは空きやすい」というシチュエーションを有効に使えたのはこのシーンくらい。ハーフタイムには、栃木は攻撃の61%を左サイドで行っていたというスタッツが紹介されましたが、逆サイドを利用できた回数はわずかでした。

もちろん、ワンサイドアタックは密度を高めることにより細かいパスワークからの前進をスムーズにさせるほか、ネガトラでのボール回収も容易にするという点で効果的な手法の一つと言えます。しかし、それは最終的なフィニッシュまでの設計があって初めて効果を生むもの。栃木は左サイドで密集を作りながら敵陣深くまで攻め込んでもペナルティエリア内には大黒しかいない、という場面が散見され、京都としてはこれなら回されても守りきれるといった判断をしていた可能性もあります。密集を作ったときは必ず逆サイドのWBとCH一枚がエリア内に入るなど、チームとして決まりごとのクオリティを一段階上げる作業がこれからの課題になってくるでしょうか。いずれにせよ、ビルドアップの目的と手段の方向性は見失ってはならないところです。

 

京都のビルドアップと栃木の対応

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京都は[3-5-2]の形から、主に3CBと庄司を起点にビルドアップを行います。

3CBを起点としたミドルゾーンでのビルドアップが上図。

京都は噛み合わせ的に数的優位になりやすい3センターを軸に、ボールの出し入れやサイドチェンジ、IHのライン間に出入りする動きを使いながら、栃木のマークのズレを重点的に狙ってきました。

対する栃木の守備は、ミドルゾーンでは[5-2-3]ベース。3トップはボール位置を基準にすることで、噛み合わせ的に不利な3センターにCBから直接ボールが入らないようなポジションを取りつつ、目の前のCBへプレスを行いました。特に京都の配球の核となるアンカーの庄司に対しては大黒が徹底的にケア。しびれを切らして京都がサイドに振ったところをWBとCH、シャドーのプレスバックで奪うという仕組みになっていました。

 

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栃木は自陣に押し込まれるとシャドーが下がり[5-4-1]を形成。3センターにそもそもボールを入れさせない、入れさせても挟み込んで奪い切る守備で対応します。

これに対して京都は図のように後方の選手の配置を工夫して対応。アンカー庄司が最終ラインに入り、左右のCBがSBのようにプレーする[4-4-2]のような形に可変しました。CB安藤とアンカー庄司で大黒をケアしつつ、この二人からボールを配球する仕組みになっていました。

このとき栃木にとって難しかったのは、縦横無尽に動く京都のIHにどう対応するかという点。栃木は守備戦術としてゾーンプレスを浸透しきれていないことから、マッチアップを前提とした対個人のデュエルをベースとしています。そのため人への意識がとても強く、特に最終ライン付近に落ちたりライン間に入るIHの対応にはどこまで付いていっていいのか、判断に迷っているように見える場面がいくつかありました。

栃木は最後の局面で京都を抑えることができ、またリードしているという精神的余裕からそれほど焦りは感じられませんでした。ただ、なかなか対応策を施せず次第に流れが京都に傾くと、中田監督は変化を加える一手を打ってきました。

 

京都のシステム変更

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前半34分過ぎ、中田監督はフォーメーションを[3-5-2]から[4-3-3]に変更しました。ただこの[4-3-3]というフォーメーションは守備時のもので、ボール保持時は選手個々が図のように動き、ベースポジションから大きく形が変化していました。

そのなかでも面白かったのが金久保と黒木。金久保はCB-SB間に落ちたり、ライン間に入ったり、右サイドの幅を取ったりと複数のタスクを担いながらボール運びの潤滑油になりました。そのときスペースが出来やすくなるアンカー脇には黒木が偽SB的にスライド。中央の強度を維持しながら、栃木のマッチアップを前提とする守備基準をズラす配置を敷いたことで、以降は京都が主導権を握るようになりました。

 

それでもなんとか耐えていた栃木。このまま前半をリードで折り返すかと思われた前半42分、GKと最終ラインの連携ミスから同点弾を許します。GKからの繋ぎも今季の一つのテーマなだけに、いつかは事故が起こるだろうと思ってはいましたが、やはり悔やまれます。このまま前半は1-1で折り返し。

 

後半

プレスの矢が刺さらない栃木

後半に入ってからも展開は変わらず。栃木の3トップの前プレに対して京都は2CBとアンカーに加え、ボールサイドのSBでプレスを回避します。京都は後方に優位性を保てるようになると、栃木は自陣撤退せざるを得なくなり、一方的に京都がボールを保持し、栃木はカウンター一発を狙う展開となりました。

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すると後半7分、京都が勝ち越し点を上げます。例のとおり栃木は自陣に[5-4-1]で撤退すると、1トップ大﨑の脇から余ったCB安藤がボールを運びます。そして、そこから重廣→一美→小屋松と小気味よく繋ぐと最後はマイナスのクロスに一美が合わせました。

失点の局面、重廣にボールが入るタイミングで、栃木は右WB福田が一人で二人をケアしなくてはならない状況になっていました。5バックなので最終ラインには選手を多く配置しているはずですが、ここでは京都に栃木のお株を奪うような左サイドの密集から突破を許してしまいました。栃木は失点に至るまでボールと人に全く規制をかけられず、決勝点となる非常に重い失点を許すこととなりました。

 

栃木[4-4-1-1]変更後の攻防

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一点ビハインドの栃木は後半14分に、右CB久富に代えて1トップに大島を投入します。これによりフォーメーションを[4-4-1-1]に変更。京都の3センターに対して栃木も2CHとトップ下でマッチアップするような形を取りました。

ボールの出し手と受け手へのマークがはっきりするとここから守備が安定。京都に深い位置を取られる回数が減り、またポジトラからカウンターを繰り出すなど少しずつ栃木が盛り返す展開となってきました。しかしゴールまでは至らず。細かいパスミスや意思疎通の合わないクロス、余裕があるのにロングボールを蹴ってしまうなど、アタッキングサードに入ってからの精度は今後の栃木の課題でしょう。

そして、試合は1-2で終了。栃木は2連敗で3試合勝ちなし、一方京都は5試合ぶりの勝利となりました。

 

最後に

ホームで早々に先制点を生んだ展開がかえってプレッシャーになったのか。両者ともにシステムを変えながらの戦いは逆転によりアウェイチームに軍配が上がりました。

試合後のDAZNのインタビューでも田坂監督が話したように、後半栃木はあえて守備をミスマッチにし、迎え撃つように勝負に出ました。しかし結果は噛み合わせの悪さから失点を許し、直後の交代でマッチアップに変更。ゾーンディフェンスを仕込み切れないことで少ない選択肢の中から戦わなくてはならないという状況が、栃木の現在地なのでしょう。

次は強豪柏レイソルとのゲーム。怪我人も多く、厳しい状況ではありますが、なんとか一矢報いてほしい。良い結果になることを期待して、私も初日立台に参戦しようと思います。

 

 

試合結果

J2 第8節 栃木SC 1-2 京都サンガF.C.

得点 栃木:3’藤原 京都:42’、52’一美

主審 大坪 博和

会場 栃木グリーンスタジアム

観客 3889人