さて、今回は愛媛FC戦の振り返りです。
両チームのスタメンと配置は次のとおり。
ホームの栃木SCは前節徳島に真っ向勝負を挑み1-4で敗れた。これで2連敗となり、順位も14位に後退。データ的に残留はある程度見えてきたところではあるが、来季以降を見据えた上で、ここからの戦いは非常に重要になってくる。スタメンの変更は1人。出場停止のDFパウロンに代わり同じ位置に古波津が入った。古波津にとっては今季初出場&J2デビュー戦だ。
アウェイの愛媛FCは現在17位。ここ3試合はドローが続いているが、川井体制になってから自分たちでボールを動かしてペースを握るスタイルで徐々に調子を上げてきた。残留を確かなものにするために順位の近い栃木には是が非でも勝ちたい一戦になる。スタメンは前節讃岐戦と変更はなかった。
このカードの前回対戦はニンジニアスタジアムで行われたJ2第13節。後半ATに愛媛の有田がゴールを決めて1-1のドローになった試合だ。栃木にとって勝ち点2を落としただけでなく、9試合勝ちなしの始まりとなってしまった対戦カードに、選手も期するものがあるだろう。リーグ終盤戦に向けて互いに落とせない試合だ。
前半
試合の入りは殊勝の出来
見出しのとおり、この試合は今季の中でも非常に良い入り方をした。攻守においてこれまで実践してきたものをハイレベルで体現し、ここ2戦続いていた開始早々の失点もチーム全体で凌いだ。というよりかは、そもそも危ないシーンを作らせていなかった。DAZN中継でも紹介されていたが、前半21分時点でのシュート数は6-0で圧倒し、パス数もパスワークをベースとする愛媛を上回るなど、序盤は栃木が主導権を握っていた。
序盤からよく見られたのが、敵陣ペナルティエリア横を突く攻撃。愛媛のWBを前に釣り出した上で、その裏を狙うことはこの試合の狙い目とされていたようだ。また、その手段も左右それぞれのシャドーとWBの特徴、関係性を生かした進入となっていた。
図示したのが上図。右サイドはワンツーを利用した川田の大外レーン突破。左サイドは大外レーンに流れる西谷和に応じてハーフスペースに夛田が入り込むという形が見られた。最終的にペナ横に進入する川田と西谷和は、それぞれ縦の早さとクロスの正確さ、1枚剥がすテクニックを持っており、質の勝負では勝てるという見込みがあったのだろう。実際に彼らの仕掛けは愛媛守備陣を脅かし、特に左シャドーの西谷和は何度もこのエリアからペナルティエリア内に危険なボールを送っていた。
また、ペナ横進入は同時にセットプレーの機会を得ることにも繋がった。前半2分のCKのこぼれ球を拾った川田のバーを叩くシュートや、前半17分からの立て続けのセットプレー(CK→CK→ロングスロー)と、栃木は強みを押し出して愛媛のゴールに迫った。
愛媛も3トップがスイッチャーとなり、CBへと同数プレッシングをかけようとしていたが、前と後ろのタイミングが合っていなかった。特にWBは対面の栃木WBへのプレスが遅く、栃木CBは簡単にサイドにプレス回避することができたため、愛媛は次第に撤退守備でなんとか耐える展開になっていった。
バックラインを整理した愛媛
愛媛は前半25分あたりからマイボールでプレッシングを受ける際ボランチを1枚落として、最終ラインを4枚にした(図は16番田中が落ちる形)。これにより栃木の3トップに対する数的優位を作り、前からのプレッシングを落ち着いて対処することができるようになった。また、枚数の減った中盤には神谷が降りてボールの引き出し役になることで、保持時の安定化を図った。栃木がプレッシングがはまらず撤退してブロックを形成すると、再び3バックに戻るという構造になっていた。
これにより後方のビルドアップは安定した。ただ、そこからどう前方の選手を生かしていくのかは整理されていないようだった。再現性を持って行われていたのは、栃木のCB-WB間を狙ったロングボールくらい。神谷は積極的にゲームメイクに徹していたため、前線でそのエリアを狙うのは藤本と近藤のみで、栃木の最終ラインは特に問題なく対応できていた。前半43分にカウンターから服部と入れ替わった藤本がバーを叩くシュートを放った以外、前半愛媛に大きなチャンスはなかった。
前半は栃木が優勢に試合を進めるも決定力を欠き得点できず。0-0のスコアレスで折り返した。
後半
ついに均衡が破れる
さて後半は互いにどこから攻めていこうか、と模索していた中で愛媛がPKを獲得。スルーパスから栃木左WBの夛田vs愛媛右WBの小池という構図になると、小池がスピードで半身抜け出し、切り返しで夛田のファールを誘った。
PKは近藤がGK竹重の逆をついてゴール。愛媛は数少ないチャンスをものにすることに成功した。
3試合連続で相手に先制点を許した栃木。このままではいられないと反撃を開始。その中でも目立ったのは夛田だった。自身のPK献上になったファールを挽回するかのごとく縦への突破を繰り返した。そして後半16分にそれが実を結ぶ。
夛田が小池との1対1を仕掛けると、ペナルティエリア付近で愛媛のディフェンダーは栃木の3トップに対してマンツーマンで対応(大黒⇔西岡、浜下⇔前野、西谷和⇔野澤)。安藤はニアで小池が剥がされた場合の対応、小池はファーサイドで大黒を挟み込めるポジションを取っていた。
よって最終ラインで跳ね返す力は強化された。ただ見方を変えれば、栃木の3枚に対して愛媛は5枚を擁したとも言えるだろう。フリーになっていた川田にプレスはかからず、こぼれ球を拾うと左足を振り抜いてゴールを決めた。直後の後半18分にも夛田の似たような仕掛けを起点に浜下のシュートに至るシーンが見られたことから、愛媛は被クロスの際のライン間の距離間が多少アバウトな状態になっていた。
共に交代策を図り攻撃的に
後半29分、栃木は夛田に代えて端山を投入。端山はボランチに入り、へニキは右シャドー、浜下は左WBに移った。
対する愛媛は同29分、小暮に代えて吉田を投入することでシステムを4-4-2に変更した。
図のとおり4-4-2になってからは、愛媛の最終ラインは2vs1で安定化。中盤も神谷がボールを引き出せる位置に顔を出すことで3vs2で数的優位を作り出していた。また、サイドではSHがしっかり幅を取ることで対面の栃木WBの注意を引き付け、後方からのSBのオーバーラップを通じてWBに圧力をかけていった。そして後半43分、愛媛は右SB小池の攻撃参加からCKを獲得した。
セットプレーが決勝点に
CKから前野の入れたボールは、ニアに走り込んだ小池が上手く合わせてゴール。2試合前の岡山戦の再現をされたような失点だった。
栃木はこの失点の少し前、後半42分にへニキと西谷和に代えて、二川と西谷優を投入している。この交代により高さは減ったとはいえ、CK時の愛媛の勝負のポイントは高さ勝負ではなく、入り方・ポジショニングだった。栃木は交代に関わらず、あらかじめ愛媛の準備していた形にやられてしまった。
最終的に河原が追加点を上げて1-3。痛い3連敗となってしまった。
最後に
前半途中までのパフォーマンスを考えると、このスコアで負けるとは考えつかなかった。ただこれもサッカーと割り切って受け入れるしかないだろう。90分を通していかに勝利を手に入れるために我慢できるか、という点で愛媛の方が試合巧者だった。
愛媛の後方の安定化が直接攻撃に繋がったかは難しいところではあるが、少なくとも栃木のプレッシングを対処するという意味では効果はあった。 システムの噛み合わせを変えることによって栃木のペースを少しずつ落としていき、少ないチャンスながらもゴールを奪い勝利した。
この敗戦により3連敗。戦い方のクオリティは高水準を保っているだけに、あとは試合を決める局面の精度を高めるだけ。ある程度運も絡むかもしれない。次の京都戦こそ勝利して、歓喜の県民の歌を歌いたい!
↓試合結果(Jリーグ公式サイト)↓
栃木vs愛媛の試合結果・データ(明治安田生命J2リーグ:2018年9月15日):Jリーグ.jp
↓試合ハイライト(YouTube)↓