前節降格圏に沈む讃岐に勝利し、6試合ぶりに勝ち点3を上げた栃木SC。今節は優勝争い真っ只中の松本山雅FCをホームに迎えました。
両チームのスタメンと配置はこちら。
栃木はここ4試合連続で同じスタメンを採用。守備時5バックになる強固なDF陣をベースに今節も堅い守備からのカウンターとセットプレーからゴールを目指します。注目はパウロン。前節は先制点をマークするなど既に3ゴールを決めており、夏に加入したにも関わらず、栃木のDFラインの要の一人になっています。山雅は高崎の高さや得意のセットプレーからゴールを狙ってくると予想されるだけに、パウロンの攻守に渡る活躍が期待されます。
対する山雅もシステムは栃木と同じ3-4-2-1。もうお馴染みですね。1トップの高崎に、前田とセルジーニョの2シャドーという強烈な個のクオリティを持った選手を前線に据え、優勝に向け万全の布陣で戦います。
この試合は栃木にとってホーム最終戦。そして横山監督のグリスタラストゲーム。燃えない訳がありません。一万人を超えるスタジアムのなか、横山栃木の3年間の集大成を示す試合となりました。
前半
システムの噛み合わせ
両チームとも3-4-2-1を採用したことで、システムの噛み合わせ論的にミラーゲームの形となりました。上の図のように、ピッチ上の各所でマッチアップする相手が明確になります。この時大事なのは対面の相手に絶対に負けないこと。1vs1に敗れるとマッチアップによりピッチ全体で保たれていたバランスが一気に崩れ、どこかで1vs2の不利な局面を作られることになります。いかにして対面の相手に負けない粘りの戦いができるか、そして相手を上回っていくかが、勝負を分ける大きなポイントとなってきます。
マッチアップする相手をいかに上回るか
栃木の狙いはシンプルで、ボールを奪ったら相手陣地に素早く送り込むことでした。アタッキングサードではペナ横に侵入してからのクロスや、1トップ2シャドーのコンビネーションによる突破などが基本の形になります。西谷和や古波津が低めの位置から相手CBの裏に抜ける大黒へスルーパスを狙うというパターンもあります。
いずれにしても、前段階として良い形でボールを奪う必要があります。 栃木としてはより高い位置で奪えればショートトランジションから一気にゴール前でチャンスができるため、前線の選手を起点に前プレを敢行していきます。ミラーゲームということでプレッシングの対象がはっきりしていたため強度が非常に高く、山雅の3CBに時間を与えない守備ができていました。
前プレでボールを奪えなかったときは全員が自陣に撤退して5-4-1のブロックを敷きます。山雅の3CBがボールを持つ時間は増えますが、最終ライン、そしてバイタルエリアに選手を多く置いているので、余程のことがなければ中央にパスを通されることはありません。栃木のCBはライン間で受けようとする相手への迎撃も得意としています。そのため山雅はCHが栃木のブロックの中に潜ったり、下がって受けたりしますが、なかなか中央のエリアに侵入できません。後ろで持つ時間が長くなると、大黒が2CH間を切るようなポジショニングから寄せることで、ボールがサイドに回ることが多くなりました。
サイドにボールが渡ると栃木は連動してプレスをかけます。左CB橋内には浜下、左WB石原には川田、そして引いて受けに来るセルジーニョには最終ラインからパウロンが出てきて対応しました。右利きであることから内側に動き出すことの多かった石原への対応も整理されていました。川田が縦を切りつつ、内側に入る動きにマンマークで着いていき、加えて浜下は橋内へのパスコースのケア、へニキは高崎に出た場合と岩上にリターンされた場合それぞれに対応しやすい中間ポジションに構えることでプレーの選択肢を制限しました。左大外レーンに抜けていくセルジーニョにはそのままパウロンが対応します。これにより栃木はボールをサイドに意図的に誘導し、数的優位から囲い込んで奪うことができていました。
ただ山雅はこれだけではもちろん抑えきれません。1トップにはJ2屈指のポストプレイヤーの高崎が構えています。栃木の前プレにはまりそうな時や、5-4ブロックを越えられなさそうな時はシンプルに高崎にロングボールを供給します。服部やパウロンはこのようなロングボールを跳ね返すことに長けていますが、高崎との空中戦、収めた高崎への対応の勝率は五分五分くらいな印象を受けました。高崎のポストプレーから両シャドーが前を向くプレーが前半何度か見られました。
図は前半17分のシーン。ボールを持つCH藤田に古波津が寄せると、その空いたスペースに高崎が下りてきて藤田からボールを引き出します。このときパウロンが厳しく寄せますが、左から中央に入ってきていたセルジーニョにうまくボールを落とします。セルジーニョはボールを受けるとファーストタッチで福岡の背後のスペースに走り出した前田にスルーパス。ここは福岡が対応しましたが、高崎のポストプレーを起点に3トップの連携からゴールに迫ったシーンでした。前半41分にも高崎のポストプレーから前田へヒールパスといったプレーが見られ(福岡がクリア)、全体として3トップの特徴を生かした攻撃が設計されていました。
セットプレーに工夫を見せる
やはりこの2チームの特徴と言えばセットプレーでしょう。データで見ても栃木は全38得点のうち約42%にあたる16得点が、山雅は全54得点のうち約33%にあたる18得点がセットプレーから生まれています。栃木の方が全得点に占めるセットプレーからの得点割合は多いですが、実際の得点数は山雅の方が2点多く上げています。前回対戦時の決勝点もスローインを起点に生まれているだけに、この試合もセットプレーからのゴールが期待されます。
実際にセットプレーの場面になると、栃木は徹底的にニアサイドにボールを集めていました。合わせるのは服部。うまく相手の前に体を入れてフリックできればという形を何度も作りました。ロングスローは飛距離的にニアにはなりますが、前半32分のCKや前半45分のFKもニアに蹴り込んでいました。それ以外の形は、CKから福岡がニアへ走り、できたスペースを服部がワンテンポ遅くスタートして合わせるという、前半13分のシーンくらいでした。
対する山雅もセットプレーに工夫を見せます。CKの際、コーナーフラッグ付近にキッカーに加えてもう1人選手を用意し、一度ショートコーナーの形でパスを出してからニア、中央、ファーへクロスを入れていました。この形が前半2回ありました。一度視点をズラすことでクロスを入れるタイミングを測りにくくさせる狙いがあったと思います。決定機にはなりませんでしたが、反町監督らしいパターン化されたセットプレーでした。
ところで、個人的にかなり警戒していた岩上のロングスローがなかったのは意外でした。大きな武器なので封印したわけではないと思いますが、反町監督は対栃木ではそれほど効果がないと踏んだのでしょうか。
お互い一歩も引けを取らない内容で前半は終了。0-0のまま後半へ向かいます。
後半
前プレで取りどころを作れない
両チーム選手に交代はなく、前半と同じようなペースで後半が始まりました。ただ、この後半から山雅はCHのポジションを多少修正してきました。
図は後半9分のシーン。CH岩上がセンターライン付近でボールを持つと、中央CB飯田→右CB今井を経由して、動き直しながらリターンを受けます。岩上が積極的に最終ラインに関与することで、栃木3トップの見る相手が山雅3CB+CH岩上となり、数的不利から守備の基準点が定まらなくなります。栃木が前プレを止め自陣に撤退すると、岩上は最終ラインから前に出てCHの相方の藤田と同じ高さまで戻ります。
岩上のポジショニングにより、一時的に4バック1アンカーを作り、前プレを突破すると通常の3バック2センター戻るという微修正により山雅はボールを安定して保持することができるようになりました。そして得点もこの流れから生まれます。
栃木の泣きどころはハーフスペースの入口
栃木の前プレを突破したときの山雅の2CHのポジションは大黒の脇のエリアでした。ちょうどハーフスペースの入口になります。前半はCHがボールを持つと大黒はスルスルと寄って行きボールサイドを限定していましたが、後半になるとその動きも減ってきます。加えて、シャドーの浜下と西谷和も運動量は維持していましたが、CHにプレスをかけてもCBに返されたり下がってきたWBへのパスで回避されたりと、少しずつ前に出られない展開になってきます。
そして後半27分、山雅にゴールが生まれます。左ハーフスペース入口の藤田から左大外レーンの石原にボールが供給されると、石原は川田との1vs1を試みます。緩急をつけながら縦に抜け出して左足でクロスを入れると逆WBの田中がゴール前でうまく合わせて山雅が先制。マーカーの夛田の視野の外から入る動き出しはベテランの技を感じさせます。山雅は後半のポジション修正から相手を押し込み、貴重な先制点を奪うことに成功しました。
交代を交えながら修正→攻撃へ
ビハインドを背負った栃木は失点直後の後半32分に古波津に代えてアレックス、後半33分に浜下に代えて寺田を投入します。寺田は今季初出場。プレシーズンでアキレス腱を断裂し長らく戦列を離れていましたが、なんとかホーム最終戦に戻ってきてくれました。この交代によりシステムを3-5-2に変更します。
この交代の狙いは主に、失点の起点となったハーフスペースの入口にそれぞれ大黒とアレックスを置くことで山雅の2CHにボールを握る時間と空間を与えないこと、へニキのポジションを変えずに攻撃時に前線で収められる選手を置くことでした。へニキは前線でターゲットにはなりますが、その分後方にはスペースが空きます。試合も終盤に差し掛かり間延びし始めるタイミングでへニキの上下動や周りの選手によるスペースの穴埋めを行うよりは、シンプルにターゲットを入れた方がバランスが良いと考えたのだと思います。ただ結果的に、アレックスは前線に構えたことで山雅のCBに捕まり、空中戦ではほとんど勝てていませんでした。
後半38分には夛田に代えて西谷優希を投入。寺田が右SH、西谷和希が左SH、西谷優希とへニキが2CHの4-4-2にシステムを変更します。SBのオーバーラップなどによりサイドで厚みを作れるようになると、寺田から大黒を狙った鋭いパスが出るなど、5-4-1で撤退する山雅相手に攻め立てる時間が長くなりました。しかし一点が割れず。虎の子の一点を守り切った山雅が優勝に向けて大きな勝ち点3を獲得しました。
最後に
優勝争いを演じる山雅が相手ということでいつもと雰囲気の違ったグリスタでしたが、特に乱れることなくいつもと同じようなペースで戦えていたと思います。ただ、試合結果は0-1の敗戦。一瞬の隙を衝かれたと言えばそれまでですが、山雅は得点に至るまで様々なパターンからジャブを打ち続けていました。栃木は逐一対応することでピンチが可視化することはありませんでしたが、決勝点は山雅の用意した攻撃が実を結んだシーンと言えます。山雅にはこの瞬間まで我慢する徹底さがありました。
一見善戦したように見えますが実は大きな壁を見せつけられた試合だったような気がします。これから栃木SCはどのようにこの壁を乗り越えていくのか。乗り越えた先に何が見えるのか。様々な期待を胸にまた来シーズンも聖地グリーンスタジアムに足を運ぼうと思います。
試合結果(Jリーグ公式)
試合ハイライト(YouTube)