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【いざ巻き返しの5月へ】J2 第13節 栃木SC vs ヴァンフォーレ甲府(〇1-0)

はじめに

前節は徳島と打ち合いを演じるも、後半アディショナルタイムの被弾に泣いた栃木。7試合未勝利のチームはついに最下位に転落。何としてでも浮上のきっかけを見つけたいところです。今節は、過去9試合で一度も勝利したことのない難敵、甲府を迎えてのホームゲームとなりました。

 

スタメン

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栃木SC [3-4-2-1]

甲府のフォーメーションに合わせて、5試合ぶりに3バックを採用した栃木はスタメンを2人変更。右WBに久富が、CHには枝村が入り、8試合ぶりの勝利を目指します。

開幕戦で左膝を痛め、この試合が開幕戦以来の出場となる枝村。負傷離脱が発表された岩間に代わる軸として、不調にあえぐチームをどう立て直すかに注目です。

 

ヴァンフォーレ甲府 [3-4-2-1]

攻撃力を武器に現在4位につけている甲府ですが、ここ最近は停滞気味の模様。第11節の愛媛戦(△1-1)、第12節の千葉戦(●1-2)はともにシュート数で圧倒しながらも勝ち切れず、歯がゆい試合が続いています。

仕切り直しの今節は、スタメンを3人変更。ドゥドゥ、橋爪、武岡が2試合ぶりのスタメンとなりました。

 

前半

アラートな守備を見せた栃木

グリスタでの甲府戦となるといつも思い出すのが2010年のあの試合。満員のアウェイ席で昇格を喜ぶ甲府サポーターの姿は今でもよく覚えています。そのときの甲府と言えば、ハーフナーマイクパウリーニョマラニョンら強力アタッカーを擁してJ2を駆け抜けた記憶があります。そんな2010年の姿に近いのが今シーズンの陣容なのではないでしょうか。

 

今年の甲府は、スタメンだけでは収まりきらないほど十分なアタッカーを抱えていますが、伊藤監督のもと、うまくローテーションして出場時間をシェアしている印象があります。ただ、そのなかでも軸になっているのがウタカとドゥドゥ。昨季はともに栃木を相手に2ゴールを上げており、栃木にとっては言うまでもなく気を付けなくてはならない要注意選手です。これらJ2超級の選手を抑えるべく、栃木はどのような組織的守備を見せたのか、振り返っていきます。

 

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栃木は立ち上がりからマッチアップをベースに、明確になった目の前の相手に対して強い圧力をかけることで、守備から試合を作っていこうという意図が見えました。要注意のウタカやドゥドゥに対しては3CBを中心にタイトに、加えて重心が後方に傾き過ぎないよう、前線から連動した前プレを行うことでリアクションではない姿勢を見せました。ここまで組織的な攻撃を継続して作り出せていない栃木にとっては、前線で引っ掛けてからのショートカウンターは一つの生命線になります。前節徳島戦は立ち上がりからのハイプレッシャーにより流れを掴み先制点に至っているだけに、その再現を目指すような狙いがあったと思います。

そのようなプランで入った栃木に対して、甲府は栃木の前プレを無効化することを第一に、後ろを4枚にして対応しました。どちらかといえば下がり目に入るのは横谷の方が多かったでしょうか。最終ラインと前線を繋ぐリンクマンとしての横谷のプレーはしばしば栃木の守備基準を困らせ、これにより栃木は徐々に重心が後退し、[5-4-1]ブロックを組む時間が増えていきました。

 

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5バックを作ってからの栃木の守備は図のようなものでした。

栃木はリトリートしてブロックを組む時、基本的にペナルティの幅を5バックで分割して担当していました。4バックのゾーンディフェンスに近いようなイメージです。このときWBはそれほど甲府WBには食いつかず、自分のゾーンを埋めることに専念。その分甲府のWBにはシャドーの選手がメインで対応することになりますが、チームとしてあくまで危険なエリア(ペナルティエリア)内のスペースを埋めることを優先することが共有されていたため、栃木としてはプラン通り。堪らずサイドに振った甲府に対してシャドーとWBがタッチラインに追い込むことでボールを奪取しようという意図が見えました。

 

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押し込めてはいるものの、サイドをうまく活用できない甲府。CH横谷が下りることでポゼッションを高めることはできていましたが、かえってそれが裏目にも出ているように見えました。

図を見ると、甲府はビルドアップの始めにCH横谷が下りて[4-1-5]を作っていることが分かります。この[4-1-5]のフォーメーションは、全てのレーンで高い位置を取れるため非常に攻撃的な形として挙げられます。しかしその背後、CH(ここでは小椋)の周りには、一人では対応しきれないほどの広大なスペースが生じています。

ペナルティの幅で守る栃木の5バックは、エリア内の甲府の選手に対して、密度を高めた狭いゾーン守備とダブルチームでの対応によりほぼ完璧なシャットアウト。このとき跳ね返したボールが小椋の周りのスペースへ転がることで、その瞬間局地的に数的優位となっていた栃木はセカンドボールを回収し攻撃へとトランジション。枝村や寺田の卓越したポジショニングも相まりボールを回収してのポゼッションを安定させることで、甲府の攻撃を単発化させることができました。

なかなか二次攻撃には至らない甲府。それでも前線3トップが織り成すコンビネーションは何かが起こりそうな雰囲気がありました。事実、西谷優希がゴールライン手前で間一髪クリアしたシーンは、3トップの練度の高さが垣間見えるものであり、終始栃木にとって脅威であり続けました。

 

前半終盤に、ワンチャンスをものにした栃木。浜下の突破から得たPKを大黒が決め、4試合連続ゴールとなる今季5得点目で先制に成功すると、このまま前半は終了。3試合連続となる先制点をマークし、1-0のリードで前半を折り返しました。

 

後半

終始ラストプレーのようなテンションに

ボールを保持して攻め立てる甲府、耐えてカウンターを狙う栃木、という構図は後半も変わらず。得点が動いたことで甲府はより攻撃的に、栃木はより守備的になったとはいえ、決定機を決め切れればいいだけの甲府は大きくバランスを変えることなく、微修正を施しました。

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その微修正とは、CH小椋の周りに生じていたスペースの管理。前半はサポートに下りていた横谷をできるだけ中盤に留まらせ、ボールの前進を左右CBの運ぶドリブルに委任。これによりスペースを埋められた甲府は、跳ね返されたボールの回収率が上昇。二次攻撃に繋げられる回数が多くなると栃木はさらに後退し、押し込む時間が増えていきました。

 

自陣でブロックを作る栃木は甲府の攻撃に終始耐える厳しい後半になりましたが、エリア内をアラートに保つことで最後の場面で自由にさせず。苛立つ甲府の選手を前に、不格好ながらも冷静に時計の針を進める戦いができました。特に3CBはパワーで勝るウタカらを前に、愚直にチャレンジ&カバーを続けることで零封に成功。終いにはゴール前でこそ良さの出るウタカが中盤にボールを受けに下りてしまうなど、最後まで自由にはさせず。シュートには体を投げ出してブロックするなど、まさに出色の出来と言えました。

 

甲府は後半26分に佐藤、後半39分に宮崎、後半アディショナルタイムにパワープレー要員として小柳を投入。FW過多なファイヤーフォーメーションで同点を狙うもネットは揺らせず。試合はこのまま最後まで粘りの守備で逃げ切った栃木が1-0で勝利し、リーグ戦8試合ぶりの勝利を達成しました。

 

 

最後に

今週、チームとしてコンセプトについて語り合ったという栃木。それがどのようなものかは、終了間際の田坂監督の様子を見ると自ずと見えてくると思います。その成果が結実した勝利。昨年8月以来のホームゲーム勝利を祝うサポーターのなかには目に涙を浮かべる人もいました。やっぱりサッカーは素晴らしいし、どこかのタイミングで必ず感動を与えてくれます。開幕前に掲げたスタイルからは程遠いとは思いますが、いまは土台作りの時期。限られたリソースのなか現実的な戦いで成長を見守るのも一つの楽しみ方ではないでしょうか。苦しかった4月から反転攻勢の5月へ。今年の栃木はまだまだこんなものじゃない。

 

試合結果

J2 第13節 栃木SC 1-0 ヴァンフォーレ甲府

得点 43’大黒(栃木)

主審 家本 政明

観客 5,093人

会場 栃木グリーンスタジアム

 

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