はじめに
「幼い、大人のチームになり切れない」と田坂監督が言及した長崎戦から1ヶ月。その間栃木はチームとしてコンセプトを再確認し、現実的なプランニングのなか「闘う集団」への回帰を誓い、前節ようやく勝利を手にしました。この姿勢を継続できたのか。強敵大宮に乗り込んでのアウェイゲームを振り返ります。
スターティングメンバー
栃木SC [3-4-2-1]
栃木は勝利した甲府戦とメンバーは同じ。復帰戦をフル出場で飾った枝村は2試合連続、持ち前の高さと強さでクリーンシートに貢献した田代は4試合連続のスタメンとなりました。
サブには試合前日に登録の済んだイ レジュンがさっそくのベンチ入り。細身ですが今年の栃木にはなかった高さ(192cm)をもたらしてくれる存在として期待の選手です。
大宮アルディージャ [3-4-2-1]
高木監督の伝家の宝刀[3-4-2-1]を武器に、9試合負けなしで3位につける大宮。両WBがピッチ幅を上下動しながらダイナミズムを生み出しつつ、神出鬼没に顔を出す大前、フィニッシュ役のフアンマを中心に繰り出される攻撃は破壊力抜群。被シュート数が最多の栃木にとっては、前節甲府戦と同様に失点ゼロの時間を長くしつつ一瞬の隙を突くカウンターでゴールに迫りたいところ。
前半
鍵は連動したプレッシング
いつものように相手の形に合わせ、[3-4-2-1]のフォーメーションで入った栃木。基本はミドルゾーンで[5-2-3]で構えつつ、大宮の中盤から後ろでのバックパスや短い横パスをスイッチに、前線3トップからプレッシングを行うのが一つの狙い。そこで奪えればショートカウンターに移行できるし、GKまで下げさせてクリアさせればマイボールのチャンスも生まれる。マッチアップを武器に、いかに連動したプレッシングから攻撃の回数を増やせるかに大宮攻略の鍵がありました。
大宮は前線にフアンマを据えていますが、ロングボールには頼らず、自陣からのパスワークからビルドアップを図ります。そのため栃木にとってはスイッチを入れるタイミングが決してないわけではなく、序盤は前節同様アグレッシブな姿勢で大宮のパスの出し手と受け手を制限。ボール奪取から左CB田代が前線まで顔を出すなど、守備からゲームをコントロールしていたのは栃木の方でした。
大宮は徐々に栃木のプレッシングに慣れてくると、栃木のマンツーマンディフェンスの限界を探ってきました。前半11分のシーンが初めに見られた事例。最終ラインでボールを保持する大宮に対して栃木は前からプレッシングを行います。すると、それに合わせて右シャドーの茨田がスルスルと寺田の脇のスペースに侵入。[5-2-3]の泣きどころである2CHの左右のエリアに下りてくることで、プレス回避のオアシスを開拓。以降は、このエリアを有効に使った大宮のペースになっていきました。
マッチアップの原則から見れば、茨田の担当は左CBの田代になりますが、CHのラインまで下りることはできませんでした。背後にスペースを開けてしまうこと、フアンマへのカバーリング強度の低下などを懸念していたからでしょうか。
茨田としては「田代はここなら来られない!」ということが分かれば、あとはそこを突くのみ。最終ラインからのビルドアップの出口になり前進の糸口を見つけた大宮は、逆に栃木を敢えて引き込むようにパスを回し、栃木の5バックと2CHの間が空いたところでパスを入れることで、栃木のプレッシングを空転させました。
前半35分のシーンはそれの亜種。
栃木の5バックは守備時はリトリート第一だったことから、特にWBは大宮のWBが中盤にポジションを取ったときの対応が遅れ気味でした。そのため大山から奥井へのパスはノープレッシャーで通ります。一拍置いて優希が前に出ると、スペースを得ている茨田とパス交換し、一気にスプリントをかけて右サイドを突破。ゴールには繋がらなかったものの、チーム戦術と奥井を中心とした個人戦術を掛け合わせた崩しは、栃木が簡単にファイナルサードへの侵入を許したファクターになっていました。
ここまでは栃木の左サイド(大宮の右サイド)での展開。では栃木の右サイド(大宮の左サイド)はどうだったのでしょうか。
結論から言えば、こちらサイドは栃木がほぼ完封していたと言えます。前半44分には、大宮のCB間での横パスをスイッチに、前線のプレッシングが開始。CB山越からCH石川を経て、シャドーの大前がボールを受けに降りると、そこへ栃木CB森下がガツンと迎撃。田坂監督のハーフタイムコメントにもあったように、神出鬼没の大前に対する準備は徹底されており、ライン間で自由にさせることはほぼありませんでした。
全体的にはともに主導権を握れたとも、握れなかったとも言える堅い試合展開。前半は終始、栃木のプレッシングが成功すればカウンター、失敗すれば大宮の攻撃といった構図となりました。ただ、どちらもゴール前でのクオリティはいまひとつ。特に栃木はプレッシングが失敗したあとのブロック守備から攻撃に移行する際、ゴールまで遠くなる分WBがなかなか上がり切れずに攻撃が単発化。不用意なボールロストも散見され、攻撃の形を作れないまま、シュート1本に終わる前半となってしまいました。
後半
退場がチームを一つに
この試合のターニングポイントは間違いなく後半9分の栃木CB藤原の一発退場。終始耐える展開を強いられてきた栃木にとってはより厳しい、一人少ない約40分間を余儀なくされることとなりました。しかし、この退場が栃木の残り時間のゲームプランを明確にさせました。
前節甲府戦の前にも話しましたが、我々はチャレンジャーだと。今日の大宮さんはビッグクラブだと。我々は大きなクラブではないので、サッカーで勝つには何をすべきか。心を一つにしないといけないし、試合をやる目的をはっきりして、みんなが同じ方向を向いて戦わないといけない、と。(田坂監督の試合後コメント)
サッカーはメンタルのスポーツです。どんなに戦力差があったとしても、メンタルの持ちようによって結果はどちらにも転びます。そこは戦術を超えた、言葉では表し切れない部分であり、こういう不確実性があるからこそチームがどんな状況になっても応援しようと思えます。その意味で、ここまでフルタイム出場のキャプテンが退場したという出来事は、チームを一つにするには十分なものでした。
退場後、栃木は浜下をWBに下げた[5-3-1]に変更。あくまで後ろの形を変えることなく、大宮の攻撃をしっかりと受け止めた上で、隙があればカウンターというプランに狙いを定めます。むやみに大宮の最終ラインにプレッシングを行わなくなった栃木は、大宮の左右の揺さぶりに対しては3MFの横スライドで対応。スライドし切れない時は、WBが縦スライドして最終ラインを4枚にして守ることにより、守備強度を維持しました。2ラインがそれぞれ縦横の繋がりを意識し、[5-4-1]リトリート時と同様に中央にバスを置きサイドでボールを刈り取る作業を徹底した栃木に対して、大宮は最終ラインを経由するU字パスと、サイドからのクロスに終始し、栃木にとっては大宮に「回させている」シチュエーションを作り出すことができました。
後ろに人数を割く必要のない大宮は、CB畑尾を下げてFWシモビッチを投入し、パワープレーモードに変更。図では[4-4-2]表記ですが、実際はSBも高い位置に張り出す6トップ気味の形で栃木ゴールに迫りました。
栃木は引き続き[5-3-1]でステイ。中央をがっちり固めることでバイタルエリアへの侵入は許さず。時には至近距離のシュートも厭わない顔面ブロック、時には身長で勝る相手を封じ切るボディコンタクト、時にはチームを救うスーパーセーブ。絶対に勝ち点を捥ぎ取るんだというメンタルのもと、意思統一をした栃木のディフェンスを前に、さすがの大宮も決定機は作り出せず。長い長いアディショナルタイムを経て試合終了のホイッスルが鳴ると、栃木のサポーターからは惜しみない拍手に包まれました。
最後に
後半はほぼ攻撃の形を作れなかった栃木。それでも終盤、ロングカウンターから大黒が合わせたヘディングシュートは、決して最後まで勝ち点3を諦めていたわけではないことが伝わる心強いシーンでした。そして最も心強かったのはピッチ上を10人で守り切ったこと。おそらく前半同様の11人での戦い方ではどこかで陥落していたかもしれません。藤原がどうということではなく、チームが一つになれば10人でも苦境を乗り切れることを示してくれました。これを11人で体現できたなら、何が起こるでしょうか。これから栃木の成長を見ていくのが非常に楽しみです。
【5/18大宮戦】
— 栃木SC公式 (@tochigisc) 2019年5月18日
本日の大宮戦は相手の攻撃を全員で防ぎ前半を0-0で折り返し、後半ひとり少ない状況での戦いになりましたが、最後まで粘り強く戦いアウェイで勝点1を掴み取りました!次節はホームで岡山戦。引き続き共に戦いましょう!https://t.co/q40S7nKW0v#栃木SC #全員戦力 #ardija #栃木_大宮 pic.twitter.com/vO4NWzwKWq
試合結果
主審 柿沼 亨
観客 9,534人
会場 NACK5スタジアム
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