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【チームの勢いを一手に司ったSHのベクトル】J2 第40節 栃木SC vs 大宮アルディージャ(△0-0)

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スターティングメンバー

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栃木SC [4-4-2] 21位

 前節新潟戦は終了間際の決勝点により6試合ぶりの勝利を上げた栃木。前日の結果により20位との勝ち点差が7まで広がったなか、残留に向けて希望を繋ぐ貴重な勝ち点3となった。前節からのスタメンの変更は1人。レンタル元との対戦のため出場不可の川田拳登に変わり久富が2試合ぶりのスタメン入り。GK川田修平はユース時代も過ごした古巣との対戦となった。

 

大宮アルディージャ [3-4-2-1] 2位

 自動昇格圏内を固めるためにも負けられない戦いが続く大宮。ホームで柏の優勝を阻止し、ミッドウィーク開催となった延期分の福岡戦も3得点で快勝を収めるなど調子は最高潮。ここ7試合連続で複数得点を上げる攻撃陣はそのままに、連戦を考慮してかCBには畑尾が3試合ぶりのスタメンとなった。奥抜、富山、山越は栃木県出身。

 

前半

表裏一体の攻守

 異なる立ち位置ではあるが来季のカテゴリーが懸かっているという意味では似た状況にある両チーム。互いの意地とプライドを懸けた一戦は、残留を目指すホームチームが積極的に敵陣へ侵入していく展開となった。

 栃木の前進手段はサイド深い位置へのロングボールからのセカンドボール回収を連続して行うことで、敵陣ペナルティエリア横に侵入していこうというもの。競り合うへニキの周辺には大宮DFライン裏に抜け出す榊のほか、SHやCHがコンパクトな立ち位置を取ることでセカンドボール回収率を高める。ロングボールもへニキを目掛けるというよりは大宮DFラインの裏を狙って供給されており、背走して対応する大宮の選手が十分にクリアできない(中盤にボールが落ちてくる)ようなボールになっていた。また、サイドを中心に攻め入ることで多くのロングスローの機会を得ることにも成功していた。

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 DFライン裏へのロングボール→セカンドボール回収→サイド突破→ロングスロー→セカンドボール回収→サイド突破からのクロス、というように栃木は立ち上がりからインテンシティの高い守備から攻撃への移行で試合を掌握。サイド突破の際は逆SHもボールサイドに寄ることで厚みを持たせつつ、FWはレイオフの壁になることで縦への推進力を殺さないスピーディーな攻撃を体現していた。

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 栃木の立ち上がりからの奇襲に対して多少受け身になってしまった大宮。本来武器とする前からのプレッシングもロングボールを蹴り出す栃木には効果なし。盤面上ミスマッチとなる部分を突こうと最終ラインからビルドアップを試みるも、栃木のSHを始点とした連動したプレッシングにはまり効果的には前進できなかった。CHの1枚(主に三門)が最終ラインにサポートに加わると多少時間を得られる場面もあったが、受け手が厳しいマークを受けていたことから、苦し紛れのロングボールをフアンマに入れる回数が多く、なかなか攻め筋を見い出せなかった状況なだけに、前半12分栃木のセットプレー後に訪れたロングカウンターのチャンスは決め切りたかったところだろう。

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 ここ最近は一瞬の綻びで痛い目を見てきた栃木だったが、奥抜の枠外シュート後は安定した守備で大宮にチャンスを作らせない。4-4ブロックをセットしてから繰り出す前からのプレッシングは全員が連動しており、構造上空きやすいSBの裏のスペースに抜けていくシャドーにはCHが付いていくことで対応。前節新潟戦で失点を許す要因の一つとなった中盤のハーフスペースにはもう一方のCHがスライドしてスペースを埋めることで全体のコンパクトさを維持した。サイドに蓋をされた大宮は最終ラインからボールを受けたWBがワンタッチでフアンマへロブパスを供給するも、CBとの競り合いにあまり勝てず、さらにはスペースを埋めるCHがセカンドボールを回収するため、効果的な敵陣侵入はほとんどできなかった。もっとも背中向きに蹴り出すWBからのロブパスの精度がそれほど高くないという事情もあった。

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 攻守に後手を踏むことの多かった大宮は前半終盤にシステムを変更。茨田を左SHに移し、イッペイシノヅカを右SHに一列上げた[4-4-2]にスイッチし、栃木とのミラーゲームを選択した。ミスマッチを生かせないならマッチアップで個のクオリティの差を生かそうというところだろうか。高木監督にはあまりイメージのない4バックだが、後半に入るとこれがじわじわと効果を生むこととなっていった。

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スコアは動かず0-0で折り返し。

 

後半

大宮の[4-4-2]に対する栃木の我慢と反撃

 後半立ち上がりこそ中盤でのセカンドボール争いからユウリがファールを受けて得たFKをへニキが頭で合わせるという前半同様の形でスタートを切ったが、このファーストプレー以降は大宮がペースを握る展開になっていった。

 大宮は前半終盤から[4-4-2]に変更していたが、後半に入るとよりSBが攻撃時にサイドに張り出して内側のポジションを取るSHと協力しながらサイド攻撃を実行。特に右SHのイッペイシノヅカは栃木のCHの脇のエリアから何度も縦方向に推進力のあるドリブルを見せ、後半12分には左サイドに出張してから上げたクロスにフアンマがフリーでヘディングを放つなど、前半よりも得点の匂いのする後半となった。

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 ロングボールやセカンドボールへの対応についても、ミラーゲームによりマッチアップする相手が明確になったことからアプローチのスピードが上昇。前線にボールの収まる時間が徐々に減る栃木はSHやCHとの距離が遠くなったことで前線が孤立し、攻撃が単発化。富山、大前と攻撃的な交代カードを切っていく相手に押し込まれるようになり、試合は前半と異なる様相になっていった。

 両SBを上げて攻勢を強める大宮に対して栃木は4-4ブロックで応戦。最終ラインはペナルティエリア幅を守り、SHは豊富な運動量でサイドを上下動。中央を固める栃木に手を焼く大宮は、後半20分頃には石川が最終ラインに下りて擬似CBとしてビルドアップに関与することで工夫を図る。人への意識が強いユウリの空けたスペースに顔を出した大前へ斜めのパスを入れてシュートに至るシーンを作るなど一定の効果は見せたが、それ以上に3バック気味になったことで前半栃木が行っていたSHを押し出すプレッシングのトリガーになっていたようにも見えた。前向きのベクトルを取り戻した栃木は後半29分に大黒を投入。再びロングボールからサイド深い位置に侵入して行き、クロスやロングスロー、CKから相手ゴールに迫っていった。

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 終盤に入ると栃木はキムヒョン、大宮は山越をパワープレー要員として投入し前線の高さを補強。互いに陣形が間延びし、ボールがゴール前を行き来するオープンな展開となったためFWがシュートに至るシーンも目立ったが、両GKの好守が光り得点は生まれず。前回対戦同様のスコアレスで試合は終了した。

 

最後に

 上位の大宮相手にも自分たちの戦い方が通用することを証明した栃木。ゴールこそ奪えなかったものの、徹底した攻守の連動は敵将高木監督をして「今日は栃木のプレーを褒めるしかなかった」と言わしめるほどであり、ラスト2試合に向けて期待の高まる内容となった。

 課題を強いて挙げるとすれば、大宮が[4-4-2]に変化し、2CB+2CHでビルドアップを行うようになった後半立ち上がりの対応について。CHの脇を使われるようになり、一度守備を立て直すためのリトリートという意味があったのかもしれないが、前線が間延びし攻撃の起点を作れなかった事実は、同じシステムでの攻撃を構築する長崎や千葉を相手に克服しなくてはならない壁になるだろう。最終ラインのサポートに行ったCHにSHを当てられるようになったことでチームが前を向き、全体のラインがグッと上がったことを考えれば、今の栃木の調子を指し示すバロメーターはSHのベクトルだと言える。残留に向けて、いかにSHが前向きにプレーできる時間をチーム全体で増やせるかが残り2試合の鍵になってくるだろう。

 

試合結果

J2 第40節 栃木SC 0-0 大宮アルディージャ

主審 池内 明彦

観客 8,426人

会場 栃木県グリーンスタジアム

 

前回対戦のレビュー