栃木SCのことをより考えるブログ

主に栃木SCの試合分析(レビュー)をします。

【積み上げてきた「らしさ」】J2 第40節 栃木SC vs ツエーゲン金沢

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スターティングメンバー

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栃木SC [4-4-2] 15位

 前節長崎戦は立ち上がりの失点が響き0-3で敗れた栃木。直近6試合は勝利から遠ざかっているものの、ここで勝てば他会場の結果次第では残留が決まる大一番となる。西谷を出場停止で欠くボランチには小野寺を抜擢。豊田と谷内田は先発を外れ、森と山本がサイドに入る今季前半戦仕様の先発となった。

 

ツエーゲン金沢 [4-4-2] 18位

 前節はホームで東京ヴェルディに敗れ、2連敗を喫した金沢。降格圏とは勝ち点差2、残り2試合は上位陣との対戦が続くだけに、最後の直接対決となる今節は是が非でも勝利を掴みたいところだろう。前節からはスタメン、ベンチともに変更なし。古巣対戦となる瀬沼はベンチスタートとなった。

 

 

引き寄せた流れをものにする

 立ち上がりからしばらくはアウェイチームがペースを握る展開となった。金沢の攻撃は至ってシンプル。最終ラインやボランチの選手がロングボールを供給し、栃木のSB裏に流れた2トップがボールの受け手となる。繋いでのビルドアップもできるとは思うが、リスクを減らした割り切りの要素は多分に感じられた。ライン間にはSHが絞ってセカンドボールに備え、拾ってからの二次攻撃に繋げていくのが狙いだろう。

 ロングボール主体で背後を取っていくのは栃木や秋田と似ているが、金沢に特徴的だったのが大谷と丹羽の2トップが同時に背後を取りにいっていたこと。栃木なら矢野、秋田なら齋藤を頂点に2トップが縦関係になることが多いが、金沢はフラットな横並びの状態からスタートする。ハイラインを敷く栃木としては二人が同時に狙う裏抜けに序盤は手を焼いた。

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 裏抜けを連発された背景にはボールの出し手に上手くプレッシャーがかからなかったという側面もある。例えばゴール前を横切るクロスを入れられた10分のシーン。スローインを受けた嶋田には森が寄せるのがセオリーだが、外側の松田が気になって十分に寄せられていない。左足でのゲームメイクに長ける嶋田はプレッシャーのかかりにくい内側へ持ち出しておりフリーで丹羽にボールを届けることができた。19分にもボランチの大橋が廣井と松田の間に下りてフリーで大谷にボールを供給している。

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 金沢の走力を生かした縦に早い攻撃にプレスのはまらない栃木だったが、セカンドボールの攻防や攻守の切り替わる局面で後手を踏まなかったことは大きかった。とりわけジュニーニョと森は出色のパフォーマンス。局面を制して上手くスペースに前進していくことでチーム全体の重心を押し上げることに貢献。持ち出した先でファールを受ければそこからセットプレーのチャンスを得ることができる。押し込まれかけた序盤に彼らが持ち味を発揮できたことで一方的な展開にならずに済んだ。

 飲水タイム明けに得たFKではジュニーニョのシュートがわずか左に逸れていったが、この最初のビッグチャンスを経てチームの雰囲気はかなり前向きになったように思う。金沢のロングボールには小野寺がボランチの位置から跳ね返し、背後に流れれば柳や乾がラインを下げて跳ね返す。自分たちの狙い通りにボールを弾き落とすことでセカンドボールへの出足も良くなり、徐々に押し込む機会を増やしていく。そうして傾きつつある流れのなかで得たセットプレーが35分の先制点に繋がった。

 

 小野寺の記念すべきプロ初ゴールで一歩前に出ると、それ以降も栃木は前向きな攻守を継続。最終ラインに下りて捌こうとするボランチにも仕事をさせず、かえってそこで引っ掛けてからカウンターを仕掛ける場面もあった。

 コンパクト、ハイラインを徹底するため、セカンドボールが相手にこぼれたときは空いたサイドから前進されることもあったが、粘り強く対応。黒崎や溝渕らSBのプレスバックが間に合わなければCBがスライドし、追い越すように後ろの選手が絡んでくればボランチも勢いよく戻ってくる。佐藤は然ることながら小野寺もカバーリングのスムーズさでは遜色なかった。中央を堅く閉じることでチャンスを作らせず、栃木が1-0でリードして前半は終了した。

 

 

攻撃をコントロールした堅固な守備

 前半の飲水タイム以降に流れを掴んだ栃木だったが、後半もその流れを手放すことはなかった。後半はより敵陣で引っ掛けてからのショートカウンターを積み重ねていったわけだが、これだけプレッシングが功を奏したのも中央の強固な守備があってこそである。

 金沢はひとたび栃木陣地に入ることができれば、49分のようにボランチの藤村を中心にボールを左右に振り分けて栃木の守備の薄いサイドから攻略していくイメージはあった。ただ、前提となる敵陣でのボール保持というシチュエーション自体がロングボールに依存しているため、いつも以上に高さのある栃木の壁を打ち破ることができなかった。

 栃木はボランチ小野寺とその後ろに控えるCBから成る二層の高い壁が金沢の攻撃の一歩目を跳ね返し続けた。中盤でのハイボール処理を小野寺が担えるためセカンドボール回収に専念できる相方佐藤の反応も非常に早かった。

 そうして思うように前へボールを進められない金沢が後ろで前進手段を模索するようになると、そこへ栃木が前線の選手から次々とボールホルダーへアプローチしていく。矢野のプレスバックを中心に配球役の藤村には特に厳しく寄せることで金沢の攻撃の芽を摘んでいった。50分のジュニーニョのシュート、69分の森のシュートはともに手詰まった金沢のビルドアップを引っ掛けたところから。後半最大の決定機となった65分の矢野のシュートも前への意識の連続から最後は矢野の足元にボールがこぼれてきたともいえるだろう。

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 金沢が瀬沼、杉浦と2トップを入れ替えてくるや、栃木は75分に大島と三國を投入。前線を1人削って最終ラインを厚くすることで[5-4-1]に変更して逃げ切りを図る。

 5バックにしてからのラスト15分間、栃木の攻守の振る舞いは非常に徹底されていた。金沢にボールを明け渡す代わりに5バックはペナルティエリアの幅でゴール前を堅く閉じる。大外からの侵入にはSHが縦を切って防ぎ、絡め取ったボールは前線のスペースへ送り込み矢野やSHがそこでキープして時計の針を進めていく。終盤に左SHに入った畑も巧みなライン際でのボールキープで金沢から攻める時間を取り上げていった。

 最後まで危ないシーンを作らせず6分間のアディショナルタイムを耐えきった栃木が1-0で逃げ切り成功。勝ち点を42ポイントまで伸ばし残留をほぼ手中に収める貴重な勝利を達成。一方金沢は相模原に得失点差で抜かれ、降格圏の19位へ転落した。

 

 

最後に

 試合開始から切らすことなくプレスをかけ続け、手にしたセットプレーから先行し、最終盤は5バックで愚直に跳ね返す。これぞまさしく栃木の勝ち方である。結果が第一に優先される残留争いを戦うなかで、プレッシングを自重しなくてはならない難しくヤキモキする時期を過ごすこともあったが、この試合ではこれまで積み上げてきた栃木らしさを全面に押し出すことができた。そしてそれが勝利に繋がった。結果はもちろん内容でも満足のいく勝利となった。

 

 この試合のMOMは間違いなく小野寺だろう。攻守に発揮したパフォーマンスは圧倒的だったし、ゴールを決めるという宣言をまさに実行してみせた。終盤はつった足を何度も伸ばしながら終了の笛が鳴るまでファイトした。

 正直なところ西谷の出場停止がなければ先発機会は訪れなかったかもしれない。それだけ今のCBとボランチは他の追随を許さないレベルで磐石なのが現状である。ただ、それでも巡ってきたチャンスに万全のコンディションで応え、自分自身のプレーでチームを勝利に導いた。試合に出られなくても腐らず取り組んできた準備の賜物がここで結果として表れた。こういう選手が活躍できるのもチーム全体が一つの方向を向いて取り組めていることの表れだと思う。

 リーグ戦は残り2試合。チームを包み込む一体感を最大の武器とし、力強く残留を掴み取ってほしい。

 

 

試合結果・ハイライト

栃木SC 1-0 ツエーゲン金沢

得点 35分 小野寺健也(栃木)

主審 上原直人

観客 4038人

会場 カンセキスタジアムとちぎ