栃木SCのことをより考えるブログ

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【切り替えていざ決戦へ】J2 第39節 栃木SC vs V・ファーレン長崎

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スターティングメンバー

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栃木SC [4-4-2] 15位

 前節秋田戦は流れを掴んだ後半に豊田の得点で追い付くもドローに終わった栃木。ここ5試合勝利がなく、残留争いに向けて黄色信号が点っている。前節からの変更は2人。契約上出場できない畑に変わってトップ下にはジュニーニョが先発に。松岡は8試合ぶりのベンチ入りとなった。

 

V・ファーレン長崎 [4-4-2] 3位

 逆転昇格に向けて勝つしかない長崎。今節の結果次第では3位以下が確定するだけに、勝って2位京都にプレッシャーをかけたいところ。前節からの変更はGKのみ。栃木県野木町出身の高木和は今季初先発。 リーグ2位の得点力を牽引する植中には二桁ゴールの期待がかかる。

 

 

お株を奪われる

 立ち上がりの失点が全てだろう。できるだけロースコアで進めたい栃木にとって先制点を与えないことは大前提。そのうえで勝ち点を持ち帰るには数少ないチャンスから好機を見出さなければならない。立ち上がりに許した2失点はゲームプランそのものを変えざるを得ないほど痛恨なものだった。

 混戦から江川の目の前にこぼれてしまった1失点目、やり直しも含めて二度のPKストップを成功するもハットに押し込まれた2失点目。どちらも失点だけ見ればアンラッキーに見えるが、そこに至るまでの過程では栃木が掌握したいセカンドボール攻防で長崎にお株を奪われてしまった感がある。

 例えば2失点目。植中目掛けたロングボールを柳が制すると、黒崎のダイレクトパスは味方のいないところへ。相手に回収されて逆サイドまで広げられてしまうと、長崎のサイド突破に押し下げられた谷内田が堪らずPKを献上してしまった。ハットの仕掛けは上手く、谷内田の守備対応にも問題はあったと思うが、そもそもセカンドボールを争う局面なら黒崎は再び相手の背後に蹴り出しても良かったはずである。

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 立ち上がりの二つの失点を見ると、一つは長崎にセカンドボールを拾われて加藤大の前進を後ろからファールで止めたもの、もう一つは上図の栃木がセカンドボールを回収してからの拙さから許したカウンターによるものである。セカンドボールの攻防から生じた展開で後手を踏んでしまっては栃木の良さは発揮できないことを改めて考えさせる立ち上がりであった。

 

 

上手くやれているように見えるが

 2点のビハインドを背負ったからには前から行くしかない栃木。そもそもこの日はスタメンにジュニーニョが入ったことからも前から奪おうという狙いはそれなりにあったと思う。前回出場した千葉戦は一人連動性を欠く場面もあったが、首を振って周りの様子を確認しながら寄せることで組織的にプレスをかけようという意識は読み取れた。

 長崎のビルドアップは後ろをかなり重めにしていたのが特徴だった。とりわけSHは低い位置で繋ぎに関わる。栃木のプレッシングを引き出しSBが食いついたところで前に蹴り出すという動かし方を行うチームは多いが、SHをこれだけ低い位置に留まらせるのは珍しかった。ボールを送り込む先ではボランチが縦関係になることで、カイオや加藤大が栃木の最終ラインの手前にできるギャップを使おうという狙いだったのだろう。

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 これに対する栃木はというと、始めはハーフライン手前で浮いた選手に手を焼いたが、CBが前に出て対応するよう整理したことでギャップを突かれる回数は減少。柳が加藤大に寄せれば、後ろから押し出されるように西谷が鍬先に、豊田が江川に寄せることとなり、連動した守備を行うことができていた。

 飲水タイム後は特に顕著で、ビルドアップからSHが斜めに入れてくるボールも、プレッシングを回避するロングボールであっても柳を中心に、時には敵陣まで食い付いて寄せることで中盤でボールを回収。そこで奪えずとも西谷がプレスバックし、逆サイドから谷内田らも加わって中盤でボールを絡め取るシーンも何度かあった。

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 ただ、奪ってからのボールをどうゴール前まで運んでいくかは依然課題。良い形でボールを回収できても、目立ったチャンスシーンは柳のヘディングシュートをGK高木和の横っ飛びセーブで防がれた場面くらい。サイドでの細かいパス回しも不安定で、いざ仕掛けても長崎守備陣に阻まれてしまうの繰り返しだった。

 長崎の用意してきたビルドアップは正直それほど上手くいっていたとは思えないが、あえてリスクをかけてまで変更を加える必要はないという判断はあったと思う。上手く転べばカウンターを仕掛けられるし、もともと後ろに多くの選手を残すビルドアップのため守備に転じたときも守りやすい。栃木としてはやれているように見えて、実際は長崎の想定したリスク管理の範疇を越えられなかったといえるかもしれない。

 

 

二列目を生かす

 後半栃木は矢野を最前線に移し、両サイドに森と山本を投入。長崎の堅い守備を出し抜くためにSBの背後にボールを送り込み、苦し紛れのクリアボールを拾ってからは二列目の推進力やドリブルによる仕掛けからサイドを中心に攻め込んでいく。

 後半も栃木が敵陣にボールを押し込めていた理由として最前線に矢野を配置したことが大きい。ロングボールに競り勝てる高さは然ることながら、サイドに流れてボールを引き出せるのは同じターゲットでも豊田と異なるところである。右SHとしてロングボールの受け手になることが必要となる試合もあるが、この試合では矢野が敵陣にボールを落とすことで二列目の3人を生かす攻撃が効いていた。

 また、矢野は守備においても豊富な運動量で相手CBやGKへチェイスをかけていく。ジュニーニョに加えて矢野も最前線から追い回してくるのは長崎にとって厄介だっただろう。59分には、矢野が二見へ寄せたところで追い込むサイドを限定すると、ハットからカイオへの横パスに佐藤とジュニーニョが反応。ボールサイドのボランチジュニーニョが遅れず寄せられたのは矢野の献身性があったからである。

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 攻守に良い時間を過ごす栃木だったが、追加点はホームチームに生まれる。カイオを気にした西谷が少し前にポジションを上げると、その背後で都倉がボールを引き出す。巧みなボールキープで西谷と黒崎をかわして加藤大へパスを送ると、ボールの軌道がディフレクションして変わり左SHの米田のもとへ。オビの対応も虚しくこの試合二度目のPKを献上すると、都倉が決め切りリードを3点に広げられた。

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 失点後にはジュニーニョに変えて松岡を投入して前線をテコ入れする栃木。シームレスにボールに関わりサイドにも積極的に顔を出す松岡に加えて、右サイドの崩しには逆サイドから森が出張するなどしてサイド攻撃に厚みを増していく。しかし、なかなか長崎の守備の間を割っていくことができず、サイドに人数をかけたことで中央が手薄になってしまう場面も散見。時間がかかったことで長崎にボールを絡め取られ、ロングカウンターを許すことも何度かあった。

 最終盤には三國と小野寺を投入して柳を前線に上げるパワープレーを敢行するも、シュートシーンを作ることはできずにタイムアップ。スコアは0-3。長崎は昇格に望みを繋ぐ4連勝、栃木は得失点差にも響く敗戦で、6試合勝ちなしとなった。

 

 

最後に

 圧倒的な力の差を見せつけられた感覚はないが結果は3失点大敗。失点は全てアンラッキーだけで片付けられるものではないにしても、こうなったら切り替えるしかないだろう。試合後の選手のコメントを見る限りチームの温さや緩さを指摘する一方で、アクセントをつけたセットプレーに手応えを感じている声もある。まずは先制点を何としてでも死守する手堅い守備を取り戻すこと。そして長崎に対してやれた部分をより磨いて次に生かすこと。金沢、北九州と続く直接対決ではこうしたこれまでの積み重ねを発揮できたチームから残留を決めていくに違いない。

 

 

試合結果・ハイライト

栃木SC 0-3 V・ファーレン長崎

得点   4分 江川湧清(長崎)

   14分 ウェリントン・ハット(長崎)

   68分 都倉賢(長崎)

主審 吉田哲朗

観客 6795人

会場 トランスコスモススタジアム