はじめに
新型コロナウイルスの影響により約4ヶ月の中断を余儀なくされたJリーグ。再開初戦を迎えるにあたって、まずは未曾有のウイルスに対して現在も対応にあたっている医療従事者をはじめとした全ての人々に感謝と敬意を表したいと思います。ウイルスの危機が去ったとは言えない状況ですが、新しい日常のなかで迎えるJリーグをこれまで以上に楽しみたいファンの一人として、マッチレビューも再開していきます。ぜひ今シーズンも振り返りのお供にしていただければと思います。
スターティングメンバー
栃木SC [4-4-2] 15位
開幕戦は長崎に敗れたものの、昨季からの継続性が随所に見られた栃木。長い中断期間を経て戦術をどれだけ上積みすることができたか。新加入のエスクデロ、高杉、塩田が初先発を飾り、下部組織出身の森がベンチに入った。
モンテディオ山形 [3-4-2-1] 20位
今季就任した石丸清隆監督のもと再出発を図る山形。開幕戦こそ磐田に力負けしたが、丁寧にパスを繋いでいこうとする新スタイルがうかがえた。先発のほとんどは昨季も所属した選手であり、新加入で唯一先発の渡邊はチームにどんなエッセンスを加えることができるか。
前半
栃木のプレッシングを逆手に取った山形
イレギュラーな中断期間を経ての再開初戦ということでコンディション面が心配されたが、鋭い出足で立ち上がりから主導権を握ろうとしたのはアウェイの栃木だった。
栃木のボール非保持の陣形は[4-4-1-1]。矢野は対面の栗山を睨みつつ、エスクデロは少し下がり目で山形のボランチ(主に中村)をケアする立ち位置を取っていた。プレッシングのスイッチを入れるのはSHの役割。山形の左右のCBにボールが入ると一気にギアを上げて詰め寄り、それに連動してボールサイドから相手を捕まえる形は徹底されていた。立ち上がりの前半2分には敵陣で明本が横パスをインターセプトし、駆け上がってきた溝渕が深い位置からクロスを上げるシーンがあった。
プレッシングによりボールサイドを制限された山形が栗山や中村から右WBの末吉に大きく展開するシーンが多く見られたのは、おそらく準備していた形だったからだろう。横幅を4人でカバーする栃木にとって大外のWBへの対応はどうしても遅れてしまう。山田の左サイドよりも末吉の右サイドへのフィードが多かったのも、SBとの勝負を制してクロスを入れたときのターゲットに本職最前線の山岸を加えられると考えれば妥当な選択である。
その点山形の2シャドーが両サイドで異なる役割を担っているのは面白かった。前述の山岸は大槻に続くセカンドストライカーとしての役割がメインだった一方で、渡邊はビルドアップのサポートやライン間で受けて前を向く役割がメイン。両チームを通じて最初の決定機は、末吉へのロングフィードのこぼれ球を拾った渡邊が引いた位置から仕掛けてラストパス。抜け出した大槻のシュートがポストを叩いたシーンは、チームとしての狙いと個人の特徴が表れた場面だった。
栃木のプレッシングの特徴はSHの前への意識が非常に強い点である。山形が最終ラインでボールを持つとSHはFWと同じラインで睨みを利かせるため、形の上は[4-2-4]にも見える陣形を取る。連動してSBが縦スライドすれば裏に流れる選手に対してボランチが斜めについていく形はオートマチックにできていたが、いずれにしてもボランチ脇がぽっかり空いてしまう中盤は、山形にとって狙いどころになっていた。
決勝点となる山形の先制シーンもこの形から。最終ラインからのパスワークで明本と溝渕を誘うと、山岸はSB裏へランニング。ボランチの岩間が外へ釣り出されたことで空いたスペースに左WBの山田が強引にドリブル突破。こぼれ球が渡邊の元に渡ると右足で振り抜いたシュートがゴールネットを揺らした。
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— DAZN Japan (@DAZN_JPN) 2020年6月27日
右足一閃⚡
強烈シュートが決まる‼
\#渡邊凌磨 の加入後初ゴールが決まり、山形が先制。
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🆚山形×栃木
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先制後の山形は最終ラインの数的優位を生かしながら丁寧なボール回しで栃木のプレッシングを牽制。左右に揺さぶりつつ、敵陣深くまで押し込んだ時にはボールサイドのCBも参加し攻撃に厚みを加えていった。栃木はマイボールにしても矢野へのロングボールからシュートまで辿り着けず、再三再四のCKも好機を演出することはできなかった。
前半35分過ぎには前からのプレッシングを止めてリトリートに変更。2トップが横並びで山形の2ボランチを消しつつ、SHはWBを監視するタスクに。ボランチとSBを極力動かさずになるべくセーフティーにハーフタイムを迎えようとのことだろうか。
前半はこのまま0-1、山形のリードで終了。
後半
手のひらで踊らされる
後半開始と同時に栃木はプレッシングを再開。山形の左右のCBに対してSHが圧力をかけることで高い位置で回収しようという意識は見られたが、プレッシングの仕組みが変わらないためボランチ脇が晒されるという弱点は前半同様。山形の右WB末吉は、特に後半立ち上がりは意識的にサイドの高い位置に張っていたため、足止めされる瀬川とプレッシングに出る大﨑の距離感は非常に遠くなっていた。ロングボールの競り合いで瀬川が勝利しても、ボランチ脇の人数の利でマイボールにするのは山形の選手だった。
自らのプレッシングにより生じる構造的な歪みを埋められない栃木に対して、山形はボールサイドを限定されても後方の数的優位と逆サイドへの大きなサイドチェンジがあるため無理をしない。サイドの深い位置でボールを持てたときに末吉が見せる積極的な仕掛けとクロスは、昨季まで栃木に所属した浜下(現徳島)を見ているようだった。
栃木がこの試合最も理想的な守備でボールを奪えたのが後半32分のシーン。前線からパスコースを限定してサイドに閉じ込めたところをボランチの佐藤が蓋を閉めるように奪い取る形は、再三トライしてきたプレッシングがようやく成功したといえる場面だった。溝渕の裏を取る山岸に対して佐藤がそのままついていくのではなく、DFにマークを受け渡すことで中央を空けずに封鎖できたのはこの場面くらいだっただろうか。DF-MFライン間をコンパクトに保てたのも後方からのロングボールの選択肢を阻むことができた理由の一つかもしれない。
韓勇太や森を投入してからは何度か攻撃で前を向くシーンを作ることはできたが、フィニッシュまで至った回数は数える程度。再三のロングボールやクロスは高い壁の前に弾かれ、山形の4倍以上となる13本のCKも生かすことはできなかった。エリア内で唯一とも言える森の仕掛けは、中央で2トップも準備していただけに是非ともシュートまで繋げてほしかった。
終盤は栃木のエアバトルを跳ね返しつつ、マイボール時は時計の針を進めるパス回しでセーフティーに逃げ切った山形。ともに今季初勝利を懸けた再開初戦は、ホームチームに軍配が上がった。
最後に
栃木にとっては志向するスタイルをしっかり研究されてしまった感が拭えない試合となってしまった。プレッシングによって生じる歪みを的確に突いてくる山形はさすがであったが、それに対してリカバリーを十分に提示できなかった点は不安の残るところである。再開初戦ということで、現時点ではそれほどトレーニングしていない部分だと思うが、攻守においてはっきりとした特徴のある戦術をとる以上、突き詰めつつもオプションは欲しいところである。
次節は東京ヴェルディとのホームゲーム。現時点で得点はPKの一点のみと決して調子が良いとは言えない相手である。ボールを長く持たれる展開が予想されるだけに、攻撃陣には少ないチャンスを得点に繋げるだけの決定力が求められるだろう。昨季に続き、リーグ戦初得点、初勝利を上げられることに期待したい。
試合結果
得点 18’渡邊(山形)
主審 荒木 友輔
観客 0人(リモートマッチ)
会場 NDソフトスタジアム