栃木SCのことをより考えるブログ

主に栃木SCの試合分析(レビュー)をします。

【強気の姿勢がもたらしたもの】J2 第15節 栃木SC vs 松本山雅FC

スターティングメンバー

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栃木SC [4-4-2] 17位

 ホームの栃木はここ8試合勝ちなし、降格圏が勝ち点3差に迫るなど厳しい状況が続いている。特にここ6試合で13失点の守備面が大きく尾を引いており、ホームに戻った今節は立て直しを図る一戦となる。金曜日の加入後即先発となった三國には起爆剤としての期待がかかる。

 

松本山雅FC [3-4-2-1] 12位

 一時は最下位まで沈んだものの、3連勝を含む5試合負けなしで中位まで浮上した松本。首位新潟戦でも示したとおり守備面の安定が光っており、それが浮上のきっかけになっている。スタメンの変更は1トップの横山→阪野のみとなった。

 

 

攻撃の芽を摘んだハイプレス

 ほとんどの時間で相手の攻撃を耐え凌ぐ展開となった水戸戦や琉球戦のことを踏まえれば、常に主導権をもって進められたこの試合は会心の出来と言える。内容もそうだし、3得点無失点の結果もついてきた。攻守両面で充実した背景の一つには、相手に息をつかせる暇を与えない前からのプレッシングが奏効したことが大きい。

 

 松本のシステムは[3-4-2-1]。栃木とはミスマッチになるためWBの立ち位置次第で栃木のSBの縦スライドする距離が変わってくる。松本は左WB外山に比べて右WB浜崎が引いた位置からゲームメイクを担当することが多く、菊池を前に釣り出すことで空いたスペースに鈴木を走らせようという狙いがあったと思う。マッチアップするのが体格的に勝算の見込みのある西谷、加入直後の三國であればなおさらである。

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 もしくは前節金沢戦でも何度もチャンスメイクした左WBの外山のオーバーラップからだろう。外山が仕掛けてのクロスに逆サイドから鈴木が飛び込んでくる形は松本のストロングである。鈴木を阪野と横並びにせずに1.5列目で起用しているのも相手のマークをぼかすためのように思う。栃木のウィークポイントも踏まえ、松本はサイド攻略に重きを置いているように見えた。

 

 結論から言うと、この狙いはそれほど上手くハマらなかった。栃木がウィークを把握したうえで上手く対応したと言える。

 この日の栃木はSBの菊池と大島の寄せのタイミングとスピード、そして縦のコース切りがとりわけ冴えていた。7分、有馬、森に連動して菊池がプレスをかけると、縦を切られたボールホルダーの浜崎は真横のボランチ前へのパスを選択。そこへ厳しく寄せるのはトップ下のジュニーニョ。前はコントロールできずにボールがタッチラインを割り、栃木ボールのスローインへと変わったというシーンがあった。

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 栃木のSBのここの連動の質はプレッシングを成功させるのに最重要と言ってもいい。縦を切られた相手WBはすでに罠を張られている内側か、後ろに下げてやり直すしか選択肢がない。栃木はサイドを変えるDFラインでのボール回しに対しても素早く横スライドすることで、WBのところで繰り返し攻撃をストップさせることができていた。左右のCBから逆WBへ対角のロングパスが増えると栃木としては苦しいところだったが、それがほとんどなかったのも松本のDFラインにプレッシャーを与え続けられていた表れだろう。

 

 最終ラインからのシンプルなロングボールには身体能力に優れる2CBが対応。ショートカウンターから有馬が惜しいシュートを放った22分のシーンも、ロングボールを大きく弾き返した三國の期待通りのプレーからだった。ボランチ勢もいつも通りのインテンシティの高さで相手の攻撃の芽を摘むことができていた。

 

 前半の中盤以降は危険なプレーから試合が止まる場面が頻発。見ているこちらがゾッとするプレーの連続にピッチレベルで戦う選手たちの恐怖は大きかっただろう。後半は一転クリーンに進んでいったものの、激しさとはを改めて見つめ直す機会になっただろうか。

 

 

凌いで流れを取り戻す

 後半の松本はWBの位置取りをより明確に左肩上がりにしてきた印象である。その分右シャドーの鈴木がサイドに張り出す機会が増え、全体として左右非対称な陣形になっていた。

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 狙いは武器である左サイドをできるだけ敵陣に配置しようというところだろう。初期位置を高めにすることで前方に蓋をされるのを未然に防いだ格好である。

 48分に河合のクロスがゴール前を横切ったシーンや、60分に外山のクロスに鈴木が頭で合わせたシーンは明らかに後半になってから増えた攻撃パターン。後半立ち上がりの時間帯はタッチライン際で精力的に上下動する外山をはじめ、中盤から最前線まで走り出してボールを引き出す河合のプレーには相当手を焼くこととなった。

 

 高い左サイドのアタッカーを生かすパスを入れていたのはボランチの佐藤。低い位置かつ左寄りにポジションを取ることで栃木の寄せを受けない絶妙な立ち位置から攻撃を組み立てていた。栃木としては失点の増えているこの時間帯を何とか凌ぎきれたことが大きかった。

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 選手交代による松本のシステムチェンジにも上手く対応できていたと言える。攻撃色の強い2シャドーと1アンカーの周辺でセカンドボールを掌握し縦に速い攻撃に繋げていく。松本としてはロングボールの比重が高まったことで最終ラインからボールを引き出す選手がアンカー佐藤のみになり、受け手不足によりプレスに捕まるシーンが増えてしまった。

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 前への勢いを保ったまま追加点、ダメ押し点を奪った栃木。矢野のプレッシングで蹴り出させたボールを大島が弾き返し、最後は森が難しいボレーを決めきった2得点目、CKからの菊池→柳のホットラインによる3得点目のいずれも栃木らしさの見えるゴールだった。

 

 内容面の充実が結果にも表れ、リーグ戦9試合ぶり、対松本戦でも2012年以来9試合ぶりの勝利となった。

 

 

最後に

 この日の栃木には先制後に構えてしまうこれまでの課題を強気に振り払ろうという気概が感じられた。構えても凌ぎ切れていない現状を踏まえ、前からの姿勢を貫いたことで今季最多の3得点目まで奪うことができた。ここで得た成功体験は単なる一勝以上に価値があるだろう。

 少し前までは先制点を取れていないことが勝ち星から遠ざかる要因だったところから、先制しても逃げきれないここ3試合を経て、 この試合では勝ち切るところまで持っていけた。そうするとまた次の壁にぶつかるというのがリーグ戦の難しさであり醍醐味なのだが、ここまで一歩ずつ前進できているという意味でも今後の栃木の成長曲線を楽しみに見守っていきたいところである。

 

 

試合結果・ハイライト

栃木SC 3-0 松本山雅FC

得点   4分 柳育崇(栃木)

   71分 森俊貴(栃木)

   84分 柳育崇(栃木)

主審 大坪博和

観客 7,461人

会場 カンセキスタジアムとちぎ