栃木SCのことをより考えるブログ

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【新たな栃木らしさも見えた惜敗】J2 第11節 栃木SC vs ジュビロ磐田

スターティングメンバー

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栃木SC [4-4-2] 10位

 前節は好調金沢を相手に追い付いての引き分けに持ち込んだ栃木。4試合連続でドローが続いているが、先制されても追い付く渋とさを見せることはできている。前節からのスタメンの変更はなし。松本と古巣対戦の上田のボランチセットは2試合連続となった。

 

ジュビロ磐田 [3-4-2-1] 4位

 前節は監督交代直後の山形に敗れ、連勝が4でストップ。ホームで仕切り直しを図る一戦となる。スタメンの変更は4人。高さのある伊藤、山本義、森岡に加え、鹿沼は初先発となった。2試合目の先発となる森岡は相模原戦でもピンポイント起用されており、タフゲーム要員として計算されているのかもしれない。

 

 

キーマンへのルートを塞ぐ

 磐田はここまで19得点16失点と大味な試合を演じることが多いが、ここまで4位につけていることからも分かるとおり、得点力で相手をねじ伏せることでしっかり勝ち切り上位をキープしている。その原動力となっているのがゴールを量産するルキアンと、同じくアシストを量産する松本。クロスからの得点が傾向として多いことも考えれば、栃木としてはまず彼ら2人を抑えることで主導権を握らせたくないところである。

 

 雷による30分間の中断を経て試合が再開されてからは、磐田がボールを持ち、そこに栃木がプレスをかけていくという構図に。

 栃木の非保持で特徴的だったのが、磐田の最終ラインからボランチへのパスコースを前線4人で徹底的に塞いでいたことだ。2トップは縦関係になり、両SHはコンパクトに相手ボランチの脇に立つ。磐田の左右CBに横パスが出たタイミングでプレスのスイッチを入れ、それに合わせてSBも前進、ボランチカバーリングするという決まりになっていた。

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 栃木としては磐田のボランチや左右CBを抑えることで逆サイドへの大きな展開はできるだけ塞ぎたいという狙いだろう。特にキーマンの松本が構える栃木の左サイドへの展開には注意しなければならない。そのうえでサイドに追い込み同サイドで奪い切れればなお良しである。

 それを踏まえれば、右サイドに入った松岡や吉田はしっかりプレスをかけることで相手に時間を与えない守備ができていたし、吉田の後ろをカバーする上田の働きもアラートだった。栃木の右サイドに流れることの多いルキアンや逆サイドから出張してくる山田など、入れ代わり立ち代わりでサイドを攻略してくる磐田に手を焼く場面もあったが、全体的には素早い寄せでボールサイドに余裕を与えなかった。

 

 

弱みは突けていた栃木

 [4-4-2]に対する[3-4-2-1]はポジションのミスマッチから優位性を得られることが多い。磐田の2点目はまさにライン間のギャップで受けた大森が起点となりルキアンの得点を生んでいる。その一方で、栃木もそのミスマッチを利用するようにボールを動かしていた。

 磐田は守備時に両WBが最終ラインと並んで5バックになるのに対して、山田と大森の両シャドーは戻りが遅く前残り気味であったため[5-2-3]のような形になることが多い。このとき自ずと空いてくるボランチ脇のエリアを栃木は上手く使うことができていた。

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 例えば攻撃に転じたとき(ポジティブトランジション)。シャドーが前残りしたことで空いたボランチ脇のポジションでボールを受けるのは森、松岡のSH。前半13分のシーンのようにブロックの手前から上田が森に斜めに入れたパスはまさに状況を俯瞰できている上田ならではであった。

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 これに関連して、田坂監督は左利きの上田を右ボランチ、右利きの松本を左ボランチで起用している。個人的な肌感覚としてボランチは利き足側のサイドに配置するのがベターなのかなと何となく思っていたが、これを逆にしたことで内向きに視野を確保した状態で斜めに差していくという選択肢ができたのは良かったと思う。前節金沢戦も松本から右サイドを駆け上がる吉田に預けた斜めのパスがあったように、攻撃センスのあるボランチが少しずつ期待に応えてくれている印象である。

 

 栃木の1得点目に繋がったフリーキックの獲得もこのエリアの攻防で優位に立てたためである。ロングボールを矢野が磐田ボランチ脇のエリアに落とすと、ボールに反応した山田に対して松本と面矢が囲い込み。マイボールにした松本が前を向いたところで山田のファールを受けて獲得したものだった。今思えば矢野へのロングボールもこのエリアにボールが落ちるようサイド寄りのものが多かったように思う。

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 後半立ち上がり49分に細かいパスワークから最後は森がゴール前に侵入したシーンも上田からボランチ脇の松岡へのパスから始まっている。このシーンでは流れのなかで2トップが左サイドに流れていたが、その分松本と森が中央に入り込んで磐田ボランチの背中を取れたことが攻撃に厚みを生んだ。相手にブロックされフィニッシュまでは行けなかったが、精度のある地上戦からゴール前に侵入できた場面であった。

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中央を割られたことが発端に

 ほとんどの時間でボールを支配し左右に揺さぶりをかける磐田に対して、ハイプレス連動と帰陣の速さでやらせない栃木という構図は後半も継続。プレスに出たSB裏を狙うロングボールに対してはボランチカバーリングを中心に、曖昧なポジションを取るシャドーにはマークを受け渡しながら十分対応できていた。ジュニーニョのファインゴールはチームの士気向上に一役買っただろう。

 

 守備への一定の手応えがあったことを考えれば、特に決定機を作らせていなかった時間帯に3失点目を献上してしまったのは痛恨だった。コーナーキックの守備もそうだし、そこに至るまでの過程も。ここでも起点になっていたのは大森。左サイドで伊藤から大森に入った時に前に出た大島が止め切れず、さらにボランチの山本康から右WB松本へのパスもノープレッシャーだった。ボランチからのサイドを変える大きな展開は、まさに最も栃木が避けたい攻撃ルートだった。

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 三度ビハインドとなった栃木は攻撃的なカードを次々と切っていくものの、磐田も落ち着いて対応。パワープレー要員で前線に上がった柳も含めて焦りからファールをしてしまう場面が多く、畳み掛けたい時間帯にプレーが途切れてしまうのはもったいなかったし、それを誘う磐田の強かさも伺えた。

 

 試合は3-2の撃ち合いで磐田が勝利。栃木は8試合ぶりの敗戦となると同時に、5試合勝ちなしとなった。

 

 

最後に

 前節金沢戦もそうだったが、上田と松本がボランチでセット起用されるとやはり地上戦での攻撃がワンランクアップする。特に上田は状況を俯瞰して的確にスペースを突くパスを出せるし、ボールを奪ってからの最初のパスも乱れない。2人とも栃木式の守備スタイルにも順応してきたことで、ボランチの層は一気に厚みを増したと言えるだろう。

 新潟、金沢、磐田と上位陣との連戦が終わり、琉球を除いて5月は中位~下位勢との対戦が多くなってくる。一つの勝敗が趨勢を大きく左右するだけに、ここからは引き分けに持ち込むだけでなく勝ち切らなくてはならない。そのためには今季何度も喫している先制点を献上しないこと、ロースコアでも渋とく無失点の時間を伸ばしていくことにいま一度注力する必要があるだろう。

 

 

試合結果・ハイライト

栃木SC 2-3 ジュビロ磐田

得点 28分 ルキアン(磐田)

   30分 矢野貴章(栃木)

   37分 ルキアン(磐田)

   56分 ジュニーニョ(栃木)

   76分 伊藤洋輝(磐田)

主審 上田益也

観客 5396人

会場 ヤマハスタジアム