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【悔しさと期待の入り交じったファイナル】J2 第42節 栃木SC vs ジュビロ磐田(●1-2)

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はじめに

 前節千葉戦はカンセキスタジアムとちぎでの初陣を勝利で飾った栃木。順位は9位に浮上し、最終節を前に過去最高の8位以上を射程圏内に捉えた。今節ホームに迎えるのはジュビロ磐田。個の能力で上回る相手に組織力で対抗できるか。そして闘将菅和範の引退に花を添えることができるか。寒空のスタンドには1万人超の観客が集結した。

 

 

スターティングメンバー

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栃木SC [4-4-2] 9位

 ホームの栃木は前節から2人変更。左SBには前節契約上出場できなかった溝渕、ボランチには出場停止明けの佐藤がそれぞれ復帰。契約満了が発表されている榊は7試合ぶりのベンチ入りとなった。

 

ジュビロ磐田 [3-4-2-1] 6位

 アウェイの磐田は前節から3人変更。前節を体調不良で回避した遠藤は今節もメンバー外。栃木県出身で今季限りでの現役引退を発表している藤田もメンバー外となった。左CBの中川は今季2試合目の先発。

 

 

前半

抑え込まれたプレッシング

 試合は予想されたとおりボールを握る磐田に対して、栃木がハイプレスとカウンターを狙うという構図で進んでいく。

 

 立ち上がりから試合を優位に進めたのはアウェイチーム。栃木はツートップが磐田のボランチを消しながら3CBに寄せていくものの、上手くズラしながらボールを引き出すボランチをなかなか捕まえることができなかった。これは縦パスを塞いでサイドに追いやった時も同じ。縦関係になった後ろのFWがボールサイドのボランチをケアし切れず、4分には空洞化した中盤をそのまま上原に前進される場面があった。

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 磐田のビルドアップは3CBと2人のボランチ、そこに右WB小川が低い位置で関与することでどちらかといえば右から組み立てることが多かった。よって繋ぎ始めは左肩上がりな形に。左WBの松本は一列前を本職とすることから、スタートポジションはサイドの選手の特性が表れていたと思う。

 

 磐田が左肩上がりになるならば、前から嵌めにいきたい栃木は左SB溝渕が積極的に前に出ていくことになる。芋づる式にその背後を山田が使おうとすれば栃木はボランチが斜めにスライドして対応するのだが、山田の動き出しやパスのタイミング、その後のサポートの距離感が絶妙で、攻撃を遅らせることができてもボール奪取に至るまでにはなかなか苦労していた。

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 前線からのプレッシングやサイドでの攻防が上手くハマらない栃木は、10分を過ぎるとミドルゾーンでブロックを敷いて構えるように。ツートップが磐田ボランチへのケアを強化することで序盤のように中央を割られることはなくなったが、今度は3CBに制限がかからない状態に。最低限バックパスに狙いを定めてプレスをかけていっても、磐田はGKや間で受けるシャドーを経由してプレスを回避。フリーで持てるCBから幅を取るWBにスムーズにボールが渡るようになり、今度はサイドからのブロック崩しに取り組むようになる。

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 前から行きたい栃木にとってミドルブロックは応急処置的な要素が強く、そこからどう攻守をデザインしていくかに乏しかったのは悩ましいところだった。サイドでの攻防ではハーフスペースを握られ、低い位置で回収してからのロングボールに矢野が競り勝ってもセカンドボールを拾えず。何とかボックス内では集中を維持していたが、サイドの関係性に後手を踏んだ時間帯に先制点を献上することとなった。

 

 シャドーを捕まえられない問題は前半終了まで継続。顕著だったのが43分のシーン。ボランチの脇に顔を出すシャドーにスパスパとくさびのパスが入ると、右大外の小川へ。小川のクロスは逆サイドに流れていったものの、そこまでの過程で制限をかけることができなかったのは磐田の立ち位置を意識した繋ぎにブロック守備が機能していなかった証拠だろう。間と幅を巧みに使う磐田の攻撃は典型的な[4-4-2]攻略法であった。

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 前半は0-1で終了。アウェイの磐田リードでハーフタイムを迎える。

 

 

後半

修正し切れたように見えたが

 ハーフタイムに選手を2人入れ替えた栃木は再び前からプレッシングをかける姿勢を強めていく。

 

 プレスが空回りになった試合序盤との違いは、とにかく前へ前へ連動して枚数を合わせにいくことだった。ツートップの後ろでフリーになっていた磐田のボランチに対しては栃木はボランチがまず縦を切ることでワンテンポ遅らせて、FWがプレスバックする時間を稼ぐ。シャドーがSBの裏を取ろうとすれば、CBがサイドにスライドすることでボールホルダーを自由にさせないことを第一にしていた。

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 もちろん、CBが外に出ていくことで中央が薄くなるというデメリットはある。それが顕在化した57分には上原にフリーでシュートを打たれているが、ビハインドを背負った状態では多少のリスクは仕方ないところ。トレードオフ的に前への意識も高くなり、ロングボールやカウンターから攻撃回数を確保できていたという意味では収支はプラスといえる。

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 それでもペースを掴むには至らず。前へ前への栃木に対して途中出場の小川航基が積極的な背後への抜け出しを試みる。上原からのロブパスを胸トラップしてからボールを落とさずにハーフボレーまで至る一連のプレーはさすがだった。

 

 ボランチの上原に制限がかからなかったという意味では2失点目も同じ。カウンターから上原が中央でボールを運ぶと、右に流れる小川航基へ。田代がペナルティエリアから引き出されたうえで、クロスを上げる山田をフリーにしてしまえばゴール前でのリスクは高まってしまう。修正し切れたかのように見えたボランチフリー問題に合わせて、手薄なゴール前に巧みな動き出しも加わったことで、2失点目を避けることはできなかった。

 

 榊・有馬の投入、明本をボランチに一列下げて最前線に柳、と出来る限りの攻撃的采配に舵を切る栃木。ブレずにゴール向かっていく栃木の姿勢に対して磐田も決してセーフティーに守れているわけではなかった。榊のシュートのこぼれ球に反応した矢野のヘディング、明本のFKに田代のダイビングヘッド、同じく明本のFKがバーを直撃。ラストプレーで倒れ込みながら押し込んだ矢野のゴールは猛攻が実った執念の一発だった。

 

 試合は1-2で終了。栃木は7試合ぶりの敗戦。磐田は2連勝でシーズンを締めくくった。

 

 

最後に

 最後に一矢報いる得点をあげたものの試合全体を見れば力の差を大きく見せつけられた印象である。磐田のボランチを消すためのブロック形成は根本的な問題を解決できたわけではなかったし、失点を喫したことからもやはり応急処置の範疇は出なかった。

 一転後半は後ろが薄くなるリスクを抱えつつも前への強いベクトルを維持できたのはポジディブな要素である。やり切ってやられたなら仕方ない。最後の執念のゴールは来季以降も栃木らしい強気のスタイルを突き詰めていくべきという道標を示していたようにも感じる。

 

 この試合をもって田坂体制2年目が終了した栃木。廣瀬浩二菅和範が引退し、アカデミー育ちの若手が台頭。順位では過去最高に迫る10位まで返り咲き、自分たちのスタイルの土台が浸透してきた今はまさにクラブ史のターニングポイントといえる。これからの栃木がどんな軌跡を描いていくのか、期待が大いに膨らんだ2020シーズンだった。

 

 

試合結果

栃木SC 1-2 ジュビロ磐田

得点 29分 松本昌也(磐田)

   75分 藤川虎太朗(磐田)

   95分 矢野貴章(栃木)

主審 山岡良介

観客 10,676人

会場 カンセキスタジアムとちぎ

 

 

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